憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第191話 全裸美女は湯煙と共に

「はぁー、生き返る……」

 

 研一の独り言が湯気に紛れて消えていく。

 

 リティアとの会談から二時間ほどの時が流れ、暫くファブリス城内に決まった研一達であったが、現在はファブリス城の近くにある温泉に一人で浸かっていた。

 

 ――ちなみにセンとミリティは一緒に入ろうとしたが、のんびり浸かりたいと二人に告げ、二人は隣の温泉に居る。

 

(正直、今のセンちゃんと一緒に風呂に入るのはなあ……)

 

 心を読む能力のせいなのか。

 

 それとも研一が態度を表に出し過ぎてしまっているのか。

 

 センのアプローチに対して研一が満更でもない事にセンは確実に気付いており、もしセンと一緒に風呂に入ったりした日には、何が起きるか冗談抜きで解からないし。

 

(ミリティさんの方もなあ……)

 

 ミリティはミリティで、今こそ成功報酬を先払いで押し付ける最大の好機、という態度を隠していなかった。

 

 これでぐへへへ、ハーレムだなんて喜んで二人と一緒に風呂に入れるような性格だったなら、研一は苦労なんてしてないだろう。

 

 それは置いといて。

 

「やっぱ熱い風呂は、いいなあ……」

 

 魔法を使って一瞬で汚れが取れるのは便利だったし、自然の中での水浴びだって、アレはアレで趣があったし悪いとは言えない。

 

 だが、日本に居た頃は毎日風呂に入っていた身としては、やはり熱い湯の中に浸かってこそという想いがある。

 

 しかも異世界に来てから初めてとなる風呂が、天然の温泉なのだ。

 

 待ち望んでいた以上の快楽に、身も心も蕩けてしまっても不思議ではないだろう。

 

「邪魔するわよ」

 

 だから、油断していたのだろう。

 

 温泉の入り口の扉が開く音を聞き漏らした上、湯気で見え難かったとはいえ、すぐ傍に来て話し掛けられるまで、人が入ってきた事に全く気付いていなかった。

 

「は?」

 

 声のした方向に思わず目を向けた研一の口から、間抜けな声が飛び出る。

 

 それも無理からぬ事だろう。

 

 見覚えのない女が裸で佇んでいたのだ。

 

 しかも研一に見られている事に気付いているだろうに、まるで身体を隠そうともしない。

 

 まるで見せ付けるかのように堂々と背筋を伸ばし、傷一つない美しい裸体を曝け出しているのだ。

 

 久しぶりの風呂を満喫して油断し切っていた所に、突然、こんな光景を見せられて、思考停止するなという方が難しい話。

 

「随分間抜けな顔ね。女の裸なんて見慣れてるでしょうに」

 

 裸の女は話し掛けるというよりも、独り言のように呟いて、温泉の中に入ってくる。

 

 そのまま研一の真隣、少しでも動けば肩がぶつかりそうな場所に浸かった。

 

 ――この温泉は濁り湯でなく、驚く程に透き通っているので、湯の中に入っても見ようと思えば裸は丸見えの状態であった。

 

「それとも数多の女の身体を見慣れている救世主様でも、見惚れてしまうくらい私の身体が美しかったかしら?」

 

「…………」

 

 あまりにも突然の事態に、研一は目を見開き、呆然と固まる事しか出来ていない。

 

 しかし、それでも何とか気を取り直して、身体を見ないようにしつつ顔だけ確認してみる。

 

 湯船に浸からないように纏められた灰色の長い髪、どこか不機嫌そうに見える釣り上がった切れ長の目。

 

 そして、その目に宿る髪と同じ灰色の瞳。

 

(えっと、誰だ?)

 

 どこかキツイ雰囲気を与える可愛いというよりは美人という印象を与える女性で、一度見れば忘れそうにないが、研一には、まるで見覚えがない。

 

 だが、逆に言えば見覚えがない以上、研一が取るべき行動は決まっている。

 

「ああん、てめぇ。誰に断って俺の風呂を邪魔してやがる? 潰すぞ」

 

 とりあえず悪党の演技だ。

 

 これがいわゆる商売女の押し売りである可能性が否定出来ない以上、とにかく威圧して追い出すしかない。

 

「誰の許可って、おかしな事言うわね。私が自分の温泉に入るのに誰の許可が必要だって言うのかしら?」

 

「自分の温泉、だあ? って事は、てめぇは――」

 

「ああ、アンタ気付いてなかったの? 鎧無しでは初めまして、救世主様」

 

 そこで口だけで挨拶しつつも、頭を下げる事もせず、温泉を堪能しているふてぶてしい態度に先程の名乗りも合わさり。

 

 ようやく研一の中で、あの全身鎧の傲慢な女党首と、目の前に居る全裸女との印象が一致していく。

 

「何だ。てっきり俺の前じゃあ鎧は脱げねえのかと思ってたぜ」

 

 だが、混乱が収まる事はない。

 

 何故なら研一はミリティの口から、リティアの鎧の秘密を聞いている。

 

(あの鎧は防具であると同時に、武器でもあるらしい……)

 

 本来、ファブリスの鍛冶魔法とは触れている鉱物を自由自在に操る魔法の事らしい。

 

 だから普通は、魔法で操作する為の武器を持ち歩く。

 

 だから操れる鉱物の量が多ければ多いほど、有利であり、その為ウルススは巨大な斧を、リティアやファブリス国の兵は、全身鎧に身を包んでいるのだそうだ。

 

 ――例外は、ファブリス国最強の魔法使いであるリティアであり、彼女は身体の中から武器を生み出せるので、ただ防具として鎖帷子を着ているだけである。

 

(今のリティアは本当の意味で丸裸って事になるけれど――)

 

 魔法を使う為の鉱物を身に付けてない今のリティアでは、仮に研一が不埒な真似をしようとした場合、防ぐ手立てがない。

 

 おまけに、周囲に人の目もなければ、この温泉はリティアの所持しているプライベート空間というべき場所なので、叫んだところで助けなんて来ないだろう。

 

 研一が女好きで特に党首達を手籠めにしているという噂の事は知っていた筈。

 

 それなのに、あえて無防備で現れた理由が解からなかった。

 

「アンタの力は遠くからでも見えてたわ。もし、その気なら鎧なんて着てたところで無駄じゃない。意味もないのに、わざわざあんな重たくて暑苦しくて可愛げのない物体、着てたくないわよ」

 

 だが、どうやらリティアは研一を警戒して武装していた訳ではないらしい。

 

 本当に嘘や誤魔化しで語っている雰囲気は一切なく。

 

 自意識過剰だとでも言いたげな様子で、当然のように吐き捨てる。

 

「あん? それじゃあ何でわざわざ俺と会う時に鎧なんて着てたんだよ」

 

「アンタがあのケダモノ暗殺者なんかを、連れてきたからに決まってるじゃないの」

 

 そして、リティアの口から本当に警戒していた相手の名前が告げられた。

 

 隠しもしない敵意と嫌悪を滲ませて。

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