憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第209話 言葉の力

「ま、待て。テメェ等! クソ雑魚共が俺を無視するんじゃねえ!」

 

「おっと。貴様の相手は私ですよ!」

 

 ファブリスに向かおうとする魔族を止めようとする研一であったが、そうはさせないとばかりにアロガンスが立ち塞がる。

 

 そして残った魔族が、研一とミリティを取り囲んだ。

 

「先程見せた隙は、何か切り札を使おうとしたのに、発動しなかった動揺から来たモノに見えました。力は落ち、奥の手も使えない。これでチェックメイトと見て、よろしいでしょうか?」

 

 今の力の落ちた研一では、強引に囲みを突破しようとしても返り討ちに遭うだけ。

 

 切り札とも言うべき自己嫌悪による強化も使えない以上、アロガンスの言うように絶体絶命の状況なのかもしれない。

 

(この世界、チェスがあるのか。それとも、女神の加護が俺に解かり易いように翻訳してくれているだけなのか、どっちなんだろうな……)

 

 だが、そんな窮地に、研一の頭はどこかズレた事を冷静に考える。

 

 それは決して全てを諦め、現実逃避に走った訳でもなければ、混乱し過ぎて何をしていいのか解からない訳でもない。

 

 何故なら――

 

「ちっ。だせぇな。大体計画通りの展開とはいえ、予定では、もうちょい数を減らしておく筈だったんだがな」

 

 予想外の事態こそ複数あったものの、ここまでは概ね研一達の狙い通り。

 

 そもそも魔族軍を全員倒してしまう気なんて、最初から研一には、なかったのだから。

 

「ふ、負け惜しみですか? この状況でそこまで強がれる面の皮の厚さだけは、褒めてやらない事もないですが――」

 

 不敵に笑う研一の姿を、ただの自信過剰の愚か者の姿と判断したのだろう。

 

 アロガンスは焦る事もなく、余裕の表情を見せるが――

 

「おい、ミリティ。一応これで仕事は果たしたって事でいいんだよな?」

 

 研一はアロガンスなんて眼中にないとばかりに、先程泣いていたミリティに視線を向ける。

 

 まるで、取り囲まれている事なんて大した事でもないとばかりに。

 

 ――実際は、ここでミリティの反応次第で、俺達は死ぬだろうなと思っていた。

 

「……まあ、微妙な感じではござるが、果たしたと言ってもいいんじゃないでござるか?」

 

 先程のミリティの涙は、決して演技ではない。

 

 だが、これが研一からの援護を求める言葉だと気付いたミリティは、必死で平静を装って答えると、ペットの振りなんて飽きたとばかりに立ち上がり――

 

 自らの手で、自身に付いていた首輪を外して研一の隣に歩み寄る。

 

「は?」

 

「え、どういう事だ?」

 

 極悪非道の鬼畜男に無理やり囚われているのだと信じ込んでいたアロガンスは驚きに間抜けな声を漏らし。

 

 取り囲んでいた魔族軍達の間にも、動揺が走っていく。

 

「おやおやおやぁ? 人を頭の悪い蛮族扱いしていた癖に、説明してやらないと解からないんですかねえ、エレガントなアロガンスさ~ん?」

 

 ここで冷静になったアロガンスに、ハッタリだと言われて襲われてしまうと、研一とミリティに対抗する手段はない。

 

 あえて研一は煽るような言葉で注目させ、勢いのままに話し始める。

 

「俺様の役目は主力部隊を、こっちに引き付ける事だったんだよ! そうじゃなきゃ獣人共に活躍の場がねえからな!」

 

「な、何ですって?」

 

「あのファブリスのクソボケ共は、魔族に襲われてなきゃ、街を守ってる奴等の有難味ってモンを感じられねえゴミだからな。解かるかなあ? 賢い賢いアロガンスさん。最初から、お前等は俺の掌の上で踊ってただけなんだよ!」

 

 ここで研一が語った計画自体は、大体事実と言ってもいいだろう。

 

 当初の目的では強敵を研一が引き付けている間に、戦いの隙を突いてミリティが研一から逃げる振りをして、魔族を獣人達の場所まで誘い出す予定だった。

 

(アロガンスが思ったより手強かった上に、強硬派が既に殺されているせいで、色々と段取りが狂ってしまったんだよな……)

 

 それのに研一がアロガンス一人に手こずってしまった事で、計画が大きく狂った。

 

 このままミリティが逃げ出せば、アロガンスがここは自分に任せて、全軍でミリティを追えと言ってもおかしくない状況だったので動くに動けず。

 

 そのまま事態が悪化していき、絶体絶命の窮地にまで追い込まれてしまったのだ。

 

 だが――

 

「あんな大人数で獣人達を狩りに行ったのは失敗だったな。今頃はファブリスの間抜け共も、魔族がファブリスに攻め込んできたなんて、自分達が獣人達にした仕打ちも都合良く忘れて、大慌てで情けなく縋っている頃だろうよ」

 

 センを通して獣人達には、計画を伝えてある。

 

 きっと街では救世主が魔族にミリティを引き渡さず、そのまま逃げ出したせいで、激怒した魔族が攻め込んでくるなんて噂が流れている筈だ。

 

 おそらく折角魔族と穏便に話が纏まっていたのに、余計な事しやがって、と研一への呪詛が街中に溢れている事だろう。

 

(お、来た来た。失った筈の力が戻ってきてる……)

 

 その証拠とばかりに、研一に悪意が急速に流れ込んできた。

 

 魔力が戻り始めるどころか、アロガンスと戦い始めた以上に漲り、傷付いた身体も急速に回復していく。

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