憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第四章 誤解と善意と悲劇への道しるべ
第21話 踊り子シャロンは演技派


「……へー、これだけの女を三日と経たずに集めてくるとはな」

 

 あれから数日も経過しない内に、すぐに女達が城に集まっていた。

 

 数としては国中で募集したと考えればあまり多いと言えず、二十人に近い人数しか集まっていなかった。

 

 だが、全員が一目見るだけで目も覚めるような見目麗しい美女であった。

 

 集められた背景さえ知らなければ、国一番の美女を決める為に集まってきたとしか思えない事だろう。

 

「見直したぜ、お姫様。ったく、やれるんなら最初から文句言わずにやっとけよな」

 

「……お褒めに預かり光栄です、救世主様」

 

 言葉とは裏腹に不満を隠し切れない表情で告げたサーラであったが、サーラ自身もこの結果には驚いていた。

 

 声明こそ出したものの、研一に伝わって面倒な事になっては困ると後で逃がす予定だという部分だけは伏せた状態で、それ以外の部分は包み隠さず全て伝えているのだ。

 

 それこそ研一が来た瞬間にサーラの身体を要求した事から、己の性欲処理の道具にする為、魔人の落とし子達を奴隷商人のような事をしていたフェットから力尽くで奪い取った事。

 

 そこで見付けたお気に入りの少女を手元に置いている事まで全て。

 

 ――無論、そんな男の力を借りなければ、この国が滅びるだろう事まで含めてだ。

 

(それなのに、ここまで集まるとは。私が思う以上に生き残りたいという欲求は強いのかもしれませんね……)

 

 素直にそんな発想に至るサーラだが、無論それだけではない。

 

 確かに魔族との戦いが絶望的としか言えない状況であり、救世主の機嫌を損ねれば国ごと滅ぼされて皆殺しになりそうだともなれば――

 

 身体を弄ばれる事になっても生きたい、あるいはそれで自分の大切な人が生きていけるならばと覚悟を決める者だって出るだろう。

 

 逆に、そんな肉欲塗れで扱いやすそうな救世主に媚びを売り、権力を手に入れようとする強かな女傑などは喜んで参加してたりもする。

 

 けれど、本人が望まざるとも来るしかなかった者だって居るのだ。

 

(あんっの糞親父め! 何が救世主に媚びなり身体なり売れば生きていけるよ! ふざけるんじゃないわよ!)

 

 例えば旅芸人の踊り子見習いであり、養父である団長に売られた形でこの場に居るピンク色の髪が特徴的な女、シャロン辺りもその一人である。

 

 逃げようと思えば逃げ出せたのかもしれない。

 

 だが、元々捨て子だったシャロンは一人で生きていく事の難しさをよく知っている。

 

 屋根もなく食べ物の調達もままならず、明日には死ぬかもしれない生活に逆戻りするくらいならば、まだ救世主とかいう男に媚びでも売ってた方がマシだと思ったのだ。

 

(大体、中古の商売女はお断りだとかさあ。頭悪いにも程があるでしょ。こんだけ集めなきゃ満足出来ないケダモノの癖に拗らせてんじゃねえっつーの)

 

 当然と言うべきか、研一の印象なんて最悪だ。

 

 はっきり言って自分を金で売り飛ばした養父よりも、研一の方が遥かに憎いまである。

 

 ――これは金目当てに売り飛ばされこそしたが、それでも今までは普通に生活の面倒を見てもらっており、研一さえ居なければ変わらず旅芸人としての生活が続いていたと、心の底で思っていたからだろう。

 

(ていうかさあ、何でこんな恨み買うような方法で女集めてんのよ。別に見るに堪えない不細工のデブハゲって訳でもないというか、むしろ見た目だけなら結構マシな方じゃん。普通に救世主やってたら、女になんて困んないでしょうが……)

 

 最初から救世主憎しの心で見ているのもあり、心の中を駆け巡るのは罵倒の嵐。

 

 本来なら長所であろう多少は整った容姿でさえ、気分を逆撫でする情報にしかならない。

 

(もう死ね! 今すぐ魔族軍に突っ込んで共倒れにでもなれ! それが誰もが喜ぶ結末ってヤツよ!!)

 

 心の中だけで罵倒を繰り返すが、これでも物心付いた時から旅芸人として客商売を続けてきた身の上。

 

 もっと直接的な嫌がらせやセクハラも笑顔で受け流してシャロンが表に出す訳もなく――

 

 表面上は救世主様のお役に立てるなんて光栄だとばかりに、尊敬と恍惚の入り交じった表情で研一の事を見詰めている。

 

(……何かあそこに居る踊り子みたいな恰好した子、凄いね。出会った頃のベッカ並みの敵意だか嫌悪だか飛んできてるのに、見た目じゃ全く解からないんだけど)

 

 そして、スキルの効果で強い敵意や嫌悪が向けられれば把握出来る研一には、そんなシャロンの姿は誰よりも目立って見えた。

 

 敵意や嫌悪だけならばシャロン以上の者だって居る。

 

 半ば脅迫に近い形で無理やりに集められた女性達なのだから、むしろ当然と言えば当然なのだが――

 

 ここまで表情と感情がチグハグなのは、シャロンだけ。

 

(うん。あの子なら神経逆撫でするような事しても、適当に流しつつ、裏では滅茶苦茶ブチ切れてくれそうだな)

 

 そこで研一は、計画を次の段階へと進める事にした。

 

 今回の計画は集めるだけ集めて終わりなんて単純なものではない。

 

 確かに集めた内容が内容だけに相当な敵意と嫌悪を持たれたらしく、今ならベッカに憎まれていた時以上の力を出せそうな感覚はあるのだが――

 

 それで終わりにしてしまっては、今までと変わらない。

 

(憎まれなくなった時点で力が弱くなるのは、ベッカの件で解かっちゃったしね)

 

 どうせ、やるのならば徹底的に。

 

 それこそ修復不能なレベルに憎まれるなり恨まれるなりしておくべきだろう、というのが研一の考えであった。

 

「おい、そこの踊り子みたいな服着たピンク髪」

 

「…………」

 

 自分が呼ばれているなんて全く思っていなかったのだろう。

 

 早速目を付けられるとか可哀相なんて思いながら、それとなく周囲を見渡していたシャロンであったが、ピンク髪や踊り子みたいな服装をしている人間自体は他にも居ない事もなかったが、両方兼ね備えている者なんて見付からない。

 

「は、はいぃ!? わ、私ですか!?」

 

 数秒遅れで目を付けられてしまった哀れな被害者が自分自身だと気付いたらしく、思わず大きな叫び声を上げてしまう。

 

 ――それでも外面を維持している辺り、さすがと言うべきなのかもしれないが。

 

「そうそう、お前だよ。何だ、声もいいじゃねえか」

 

 細かい内情自体は研一には解からないものの、それでも憎悪や敵意は変わってない事はスキルで解っている。

 

 これならば今ここで伝えるのが一番効果が高いだろうと判断し、最大限嫌われるべく、寝る間も惜しんで考えていた言葉をシャロンへと告げる事にした。

 

「この世界には穴だけはあるし我慢しとくかみたいな性処理にしか使えないゴミみたいな女しか居ねえと思ってたが、一目見ただけでここまでムラムラそそられる女が居るとはな。気に入った、今日から俺の女にしてやるよ」

 

 惜しむらくはベッカに感想を聞けなかった事だろう。

 

 研一的には、これ以上ないくらいに酷いと思う内容であるが、女性目線で見れば思っているより効果がない可能性はある。

 

「こ、光栄です! 街を救って頂ける救世主様に見初めて頂けるなんて感謝感激です!」

 

(きっも! 何この変態勘違い野郎! マジで無理なんだけど!)

 

 だが、研一が想像しているよりもずっと効果的だったらしい。

 

 これ以上は無理だろうと思っていたシャロンからは、更に嫌悪感のようなものが出ているし。

 

 これを聞いた他の女性からも、一気に嫌悪のようなものが噴き出した。

 

 その瞬間――

 

(な、なんだ!?)

 

 一瞬、ほんの一瞬だけだが物凄くスキルが強くなるような感覚が研一の全身を駆け抜けた。

 

 その事にスキルが強くなっただなんて無邪気に喜ぶ事も出来ず――

 

 本能的に死の恐怖のようなものを感じて、その憎悪や嫌悪なんて言葉では足りない何かが放たれた方向へと視線を向ける。

 

「……それでは救世主様。他の者達は返してしまって問題ないですね?」

 

 そこにはサーラが佇んでいただけで、特に変わったモノはない。

 

 態度だって悪人演技をする研一に僅かに怒りのようなものを隠せず不機嫌そうにしているものの、その程度は普段の事でしかなく――

 

 いつもどおりにスキルが強くなっていく感覚があるだけだ。

 

(気のせい、か?)

 

 今回のスキルの成長具合は、この世界に来た中で一番大きいものだった。

 

 おそらく、予想以上の感覚に何か誤解でもしたのだろうと気にしない事にする。

 

「何馬鹿げた事言ってんだ。そりゃあ穴以外に価値がないゴミみたいな女共だし居るだけ邪魔だろうから捨てた方が手っ取り早いって気持ちは解らんでないが勿体ないだろ。穴なんていくらあっても困らねえんだからさあ」

 

「どこまで他人の尊厳を踏み躙れば――」

 

 あまりにも酷過ぎる研一の態度に、サーラも怒りを抑えきれなくなったらしい。

 

 自らを犠牲にしてまで集まってくれた人達の想いを無駄にしない為にと堪えていた感情が溢れ出しそうになるが――

 

「あ、何だ、その不満そうな目はよぉ? 別に俺としちゃ、こんな国なんていつ見捨てて出て行ってもいいんだぜ? それでも姫さんが頼み込むから命懸けで戦ってやろうってのによぉ、それが恩人様に向ける目か? ん?」

 

 ここでサーラが癇癪を起こしてしまえば、折角覚悟して集まってくれた人間の想いが全て台無しになる。

 

 その事を意識させつつ――

 

 話を聞いている他の女性達が台無しにしようとしたサーラではなく、自分に敵意や嫌悪を向けられるように、いつも以上に悪人演技に力を入れていく。

 

「……いいえ、不満なんてありません。生意気な事を言ってしまい、申し訳ありませんでした」

 

 狙い通り、自分一人の怒りで全てを台無しにする訳には、いかないと思ったのだろう。

 

 サーラは必死で不満を押し殺して研一に頭を下げた。

 

「解かりゃいいんだよ。あー。それじゃあ細かい話は面倒臭いから、姫様の方からしといてくれ。ピンク髪には俺の部屋の場所と礼儀ってヤツを教えとけよ」

 

 そんなサーラの姿に集められた女性達が心底、同情するような目を向けた事を確認した研一は、もう用事は済んだとばかりに、この場を後にする。

 

 そして周囲に誰も居ない事を確認すると、全速力で走り出す。

 

(ヤバイ、吐きそう……)

 

 もう胃が限界で表情を保つ事すら出来そうになかった。

 

 異世界に来てずっと続けている事もあって、悪人の演技自体には慣れてきている。

 

 それこそ半ば無意識に出来るし、切り替えだって困らない。

 

(何人か、物凄く絶望したみたいな顔してたな。そりゃそうか。生き残る為に仕方ないからって、あんな男に媚び売らないといけないなんて嫌だよな……)

 

 それでも自分が傷付けてしまった相手の顔を見る事だけは、どうしても心が耐えられなかった。

 

 怒りや嫌悪の目で見られる事なら、むしろそれだけの事をしてるんだから当たり前だろうと辛くても多少は耐える事が出来るのに。

 

 傷付き泣きそうな女性の顔を見ると、どうしても心が軋み擦り減っていく。

 

 ――そして、口から嘔吐物という名のキラキラを吐き出す事になるのだ。

 

(くそう。何でもっと使いやすい流行りのチートスキルとかじゃなかったんだよ……。そこまで理不尽に強いスキルじゃなくても、せめてもっと使いやすい普通のスキルだったなら――)

 

 そしたらサーラを傷付ける事もせず、どうやってベッカを裏切ろうなんて考えなくて済んだだろうし――

 

 今回みたいな形で女性達を集める必要なんて、そもそもなかったのに。

 

(ごめん、女神様。願いを叶えてもらおうって身で言う事じゃないのかもしれないけどさ、このスキルの事だけは許せそうにないです……)

 

 研一は一人、トイレに籠りながら。

 

 女神に恨みの念を募らせるのであった。

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