憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第218話 道化を演じて

「くそ、放しなさい! 私を誰だと思っているのよ!」

 

 全身鎧に捕縛されたリティアが、城の中から民衆達の前に引きずり出されていく。

 

 必死で暴れて逃げようとしているように見せているが、全てリティアの演技であり、捕まえている全身鎧はリティアが動かしている物で、鎧の中には誰も入っていない。

 

(こうでもしないと、コイツ等じゃ私を自然に捕まえるのなんて無理でしょうしね……)

 

 多くの人間は、リティアを戦力にもならない全身鎧を大量に動かす事しか出来ない雑魚魔法使いと勘違いしているが――

 

 実は、リティアは本気で戦えば相当な強さだ。

 

 百にも及ぶ全身鎧を自由自在に動かし、自分の動かしている物体と視界を共有し、音を拾う事が出来る程の魔力を持つ人間が弱い訳もなく。

 

 獣人の戦士でも正規兵でもない民間人相手なら、捕まらないように軽く暴れるだけで、割と簡単に皆殺しに出来てしまうだろう。

 

「このファブリス国を治める偉大な党首、アヴァリティア様よ! アンタ等達が触れていいような相手じゃないの!」

 

 だが、リティアはそんな側面を、今更見せる気はない。

 

 民間人に怪我をさせないように注意しつつ、それでも必死で逃げ出そうとしているように必死に、そして何よりも惨めに見えるように暴れて喚く。

 

「コイツがあの引き籠もりの無能党首か」

 

「何だよ。表に顔も出せない不細工かと思ってたけどツラと身体は、いいじゃねえか」

 

 積極的に正規兵を襲っていた男の下卑た視線に、リティアは不快感に顔が歪むのを我慢出来なかった。

 

 何故なら、その醜い表情を見れば嫌でも解かる。

 

 コイツが獣人を魔族に売り飛ばすなんて言い出したせいでとばっちり食ったんだから、腹いせに何をしたって文句言われる筋合いはなんて適当な建前を並べて正当化し――

 

 リティアを好き放題汚そうとでも、企んでいるのだろう。

 

(……本当、碌な奴が居ないわ)

 

 そんな男達の姿をニヤニヤした顔で眺めている女達にも、リティアは反吐が出そうであった。

 

 ムカつく女が自分より綺麗なのが気に喰わない。

 

 だからこそ、徹底的に壊して汚れるのを期待して、唇を喜悦に歪めている姿は、同じ女と思いたくなくて。

 

(……こういう連中くらいは、今の内に殺しておいた方が後で獣人達が統治した時の治安もマシになるのかしら?)

 

 僅かに迷うリティアだが、止めておく。

 

 それは別に仏心や人を殺す事に躊躇いがあるのではない。

 

(下手に時間なんて掛けて、ミリティが来たら全部台無しだもの……)

 

 獣人は皆、街や人間達をを守ってくれる力ある強者で。

 

 反獣人派は全て、無能で役立たずの悪党だったという、馬鹿でも解かるような形で終わるのが望ましい。

 

 もしこの現場を見たミリティが激怒して、人間に攻撃なんてしようものなら、全て水の泡になってしまう。

 

 仮にそれで生き残れたとしたって、それじゃあ今まで何の為に一人で頑張ってきたのか解からない。

 

「おい、急げ! 獣人達が帰ってくる前にコイツの死体でも晒しておかないと、俺達まで獣人達に殺されちまうぞ!」

 

「あんなあっさり魔族を撃退しちまったんだ。次もすぐ撃退して戻ってくる。さっさと処刑場に連れてくんだ! あそこなら帰ってきた獣人達にも見え易い筈だ!」

 

 リティアは風魔法を操り、民衆の方から男のような声を作り出して流す。

 

 これでも下らない欲望を優先して、無駄に時間を使おうとするなら、その時は全身鎧を使って始末すればいいなんて、心に決めて。

 

「ちっ。おい、急ぐぞ! コイツに巻き込まれて死ぬなんて御免だ!」

 

「衛兵連中も生きてる奴も死んでる奴も出来るだけ連れてけ! 見せしめは一人でも多い方がいい!」

 

 幸いと言っていいのか。

 

 自分達の身に危険が及べば、獣人追放派にも、獣人受け入れ派にも回るファブリス民。

 

 あっさりと欲望なんて引っ込めて、全速力でリティア達、反獣人派の人間を処刑場へと運び込み始める。

 

「巻き添え? 笑わせないでよ。獣人達を差し出せば、戦う事もなく、魔族の下で平和に過ごしていけるって告知した時、反対した奴なんて、ここに居ないじゃない!」

 

 後はこのまま流れに任せて処刑されるだけ。

 

 だが、それでは無能党首の最期としては、味気なさ過ぎるとばかりにリティアは声を張り上げる。

 

「むしろアンタ達は諸手を挙げて賛成してたんじゃないの? 知ってるわよ。汚い家畜共も、ようやく役に立つ時が来たか、なんて言ってた連中が居た事くらいね!」

 

 事実、仕方ないから獣人達には犠牲になってもらおうなんて消極的な事を考えていた者は、ほとんどこの暴動には参加していない。

 

 暴動に参加しているのは、汚い獣人がこれまで国に住ませてやってたんだから、さっさと魔族に喰われて来いよなんて、喚いていた連中ばかりだ。

 

「上が命令したんじゃ、下の俺達に従う以外の選択肢なんて、ある訳ねえだろうが!」

 

「そうよ。第一その発言の責任を取るのが上の仕事でしょ!」

 

 だが、そんな事なんて忘れてしまったのか。

 

 民衆は口々に、リティアが全て悪いと叫び始める。

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