憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第22話 自分の事ほど解からない

(はー、もう本当に最悪なんですけど……)

 

 シャロンは心の中で悪態を吐く。

 

 気分は今まで生きてきた中でも最悪と言っても過言でないくらい悲惨なモノであった。

 

(マジで救世主って普段からあんな奴なのね……)

 

 シャロンの気分が悪い理由は先程の研一の態度が悪過ぎたからだけではない。

 

 研一の部屋に訪れる前に、サーラからどのような人間かという説明を改めて受け、さっきのふざけているとしか思えない態度が、常日頃の態度と何も変わらないと聞かされた事の方が衝撃としては大きかった。

 

(あんな奴に救世主の力与えるとか、やっぱ神って性格捻じ曲がったイカレた屑だわ。今に始まった事じゃないんだけどさあ……)

 

 八つ当たりのように神へと罵倒を浴びせるが、そもそもシャロンという人間は、神に一切期待なんてしていない。

 

 別に悪い事をした訳でもないのに、自分を捨て子なんて運命を与えた上に、子どもなんて技を覚えれば将来稼いでくれるか、覚えないなら売り飛ばせいいなんていう禄でもない男に拾わせたのだ。

 

 それで神様に期待するような人間に育つ訳がないのだから。

 

 ――神様自体はこの世界においては普通に存在して奇跡だって起こすので、居ないとか言う人間が居れば、それは相当な捻くれ者だろう。

 

(まあ、未使用の方が売値が上がるからって手を出さないし団員にも手を出させないって点だけは、マシな拾い主ではあったのかもだけどさ……)

 

 それでも本当に神ってのがマトモな奴なら、もっと世界は良くなっているだろうとしかシャロンには思えない。

 

 少なくとも泥棒も人殺しもしてない自分が、性根の腐り切った救世主の元なんかに売り飛ばされるような事には、なってないだろう。

 

(お姫様が少しは話せる奴だったのだけが、まだ救いよねえ……)

 

 そこでシャロンは、サーラから聞かされた話を思い返す。

 

(にしても救世主が魔族との戦に出掛けてる隙に集めた女は全員逃がすつもり、ねえ。私からすれば有難い話ではあるんだけどさあ)

 

 別にシャロンは、それを姑息だとか何とか言う気はない。

 

 今を凌がなければどうにもならないのは事実なのだろうし、後の事は後で考えるしかない事態というのは往々にして存在する。

 

 そして、こっちは普段から収めるモノは国に収めてるんだから、後の事はサーラなり国の偉い方がどうにかすればいいとしか思ってない。

 

(あんな脅しで無理に女集めるような男のトコに送り込まれたって時点でさ。もう手を出されたとか関係なく、女としちゃある意味じゃお仕舞いなのが解ってないところがねー……)

 

 問題は、救世主である男に手を出される前に返すのが女達にとって一番幸せなのだと思い込んでいる、甘過ぎるにも程がある見立ての方だ。

 

(まずさあ。手なんて出されてないって言われて誰が信じるのかって話だし、逆に信じられたとしたらさあ。あそこまでして女を集めるような色狂いの男にすら手を付けようって気にならなかった女って話になるのよ?)

 

 要するにそんな変態男の元に集められた時点で、もう女としてマトモに生きていく道なんて閉ざされたも同然なのだ。

 

 そんな中シャロンが幸いだと思っているのは、サーラには踊り子として成り上がり自分の力で生きていくという目標があり――

 

 別に女としての一般的な幸せなど、望んでいないからというだけでしかない。

 

 ――この世界では基本的には、結婚して家庭を持つのが女性としての幸せの一つの形とされている。

 

(まあ別に嫌いって訳じゃないんだけどね。お姫様のそういう甘さは別にさ)

 

 むしろシャロン的には、かなりサーラに好印象を抱いていた。

 

 そもそも国の危機なんだから黙って従うのが当然という態度を取るでもなく、後で救世主と揉める事になるのは確実だなんて解っているのに。

 

 それでも集められた女達の事を気にして、出来得る限りの事をしようとしてくれている。

 

(しゃーない。青臭いとはいえ姫様も姫様なりに頑張ってくれてるし、私も私なりに頑張るとしますか)

 

 サーラと違い、話すらしてもない女達の考えも行く末なんて、シャロンには興味がない。

 

 ただ少し話して気に入ってしまったサーラが、救世主が誰にも手を出さずに終わる事を望んでいるから、それに協力すると決め――

 

 研一の自室となっている部屋の前に立った。

 

「救世主様ぁ、ピンク髪の踊り子のシャロンですぅ。お誘いの言葉に従って、ま・い・り・まし・たぁ。お部屋に居られますかぁ?」

 

(自分でやっててアレだけど、ないわあ……)

 

 別にシャロンの頭がおかしくなった訳ではない。

 

 これはサーラから、研一は生意気な女を言いなりにするのが好みで、逆に自分から誘ってくるような女には萎える傾向があると事前に聞かされていたので。

 

 それならば徹底的に従順で股の緩そうなブリっ子女というのを演じているだけである。

 

「救世主様ぁ? 居られないのですかぁ? ア・ナ・タのお気に入りのピンク髪の子ですよ~」

 

 旅芸人であり、人前で幾度となく耽美な踊りをこなしてきたシャロンは知っている。

 

 この手の演技は下手に恥ずかしがると、見苦しいだけで何の意味もなくなってしまうのだと。

 

 だから、やると決めた以上は全力でやるだけ。

 

(あの変態男の好み知ってて、実は嫌われようとしているなんてバレたら洒落にならない事になりそうだしね)

 

 不幸中の幸いとも言うべきか。

 

 金に興味しかない男に拾われたお陰で、まだ未経験なのだ。

 

 この年齢まで綺麗なままで来れたのだから、せめて初めてくらいは望んだ相手が良いという願いが力になり、シャロンのブリっ子演技に熱が入ってきたところで――

 

「…………」

 

 トイレで吐くだけ吐いた研一が戻ってきた。

 

 救世主という最大級の賓客である研一の自室には、当然のようにトイレは備え付けられているのだが――

 

 本当に限界で自室まで戻っている余裕はなく、別のトイレを使っていたのだ。

 

(えーと、これはどう反応すればいいんだ?)

 

 そして帰ってきた途端、自室の前でくねくねとしながら扉越しに話し掛けている女を発見。

 

 あまりにも予想していなかった事態に、どう動くべきか迷う。

 

「あぁん、救世主様ぁ、焦らさないでく・だ・さ・い。あなた様の女、あなた様の所有物であるピンク髪の踊り子さんですよ~」

 

 隣で研一が途方に暮れている事にも気付かず、シャロンは全力で演技を続けている。

 

 これは演技に夢中になっているのではなく、中から物音がした上に人の気配も感じた為、帰れという言葉も掛けられてないのに動く事も出来ず、引けなくなっているだけだ。

 

 ――ちなみに物音とシャロンが感じている人の気配の正体は、謎の女の猫撫で声に怯えて、センが物陰に隠れただけである。

 

「……おい。そこのクネクネ女」

 

 暫し呆然としていた研一だったが、中にセンが居る事を思い出し、勇気を振り絞り声を掛ける。

 

 このまま放っておくのは、色んな意味でセンに良くない。

 

「え? あれ?」

 

 するとシャロンが心底驚いたような目で研一を見たかと思うと――

 

「もー、救世主様ったらぁ。そんなところに居たんですねえ。自分で呼び付けておいた癖にぃ、お部屋で待っててくれないなんて酷いんだあ。シャロン、傷付いちゃうぞ?」

 

 即座に扉から狙いを変えて、猫撫で声で話し掛けてきた。

 

 一瞬、驚いていた表情が素のようなものだっただけに、ただでさえ色々アレなのにギャップが加わった事で倍増化された衝撃は凄まじいモノがあり――

 

(うわっ。きっつ……)

 

 演技をしてない時は比較的温厚で礼儀正しいタイプである研一も、物凄く失礼な感想を抱かずには居られない。

 

「あー、何か今日は萎えた。もう帰っていいぞ……」

 

 悪党っぽい口調にしているだけで、半ば本音に近い言葉で追い払う。

 

 見ていて痛々しいにも程があるのに、研一にはスキルの効果でシャロンの嫌悪がヒシヒシと伝わってきているのだ。

 

 これ以上、感情とは裏腹の演技させるのは、あまりに心苦しかった。

 

「えぇー、シャロン残念。救世主様と仲良く出来ると思ったのにぃ。でもぉ、無理言って嫌われたくないしぃ、今日は帰るね」

 

 また呼んでくれないと拗ねちゃうぞ、なんて付け加えてシャロンは立ち去っていく。

 

 ちょっと残念そうにしながら、それでも迷惑は掛けたくないなんて雰囲気で離れていく姿は痛々しい口調に反して、本当に名残惜しそうではあったのだが――

 

(しゃあっ! ざまあみろ、この変態下種男が! この調子で魔族との戦いまで乗り切ってやるわ!)

 

 内心では手を触れられる事も無く乗り切れた事にガッツポーズしたい程であり、シャロンとしては笑い出すのを堪えるのに必死なくらいであった。

 

(アレがプロってヤツかあ。やっぱり俺もあれくらい大袈裟に演技した方がいいのかもしれないなあ……)

 

 そんな心の内を完全に押し隠し、トボトボとした様子で去っていくシャロンの背中を眺めて、研一はそんな事を考えるが――

 

 もしセンがその心の内を聞く事が出来ていたなら、あまりの驚きに戸惑い言葉を失い。

 

 ベッカが知れば呆れたような表情で呟いていた事だろう。

 

 お前も結構大概だよ、と。

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