憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第23話 研一すら知らない真実

「センちゃんって魔人の第一子なんだよね?」

 

 翌日。

 

 研一に部屋に呼び出され部屋に赴いたシャロンであったが、呼び出した当の本人ではなく、同居人であるセンと話していた。

 

 これは別に研一への嫌がらせとかが理由ではなく。

 

 単に呼び出した筈の研一が魔族との対策会議に呼ばれて席を外している上に、居なくなる時に「俺が居ない間はガキの相手でもしていろ」と言われたので、言葉に従っているだけである。

 

「それじゃあさ。実は物凄い魔法とか使えちゃったりするの? 第一子って親の力全部受け継いでるから滅茶苦茶強いって噂聞いたけど……」

 

 とはいえ、別にシャロンも嫌々センと話をしている訳ではない。

 

 むしろ元々子ども好きな方であった上に、センの事情を多少なりともサーラから聞いてしまってしまったせいで放っておけなくなっていたのだ。

 

(地下に監禁されてた挙句、あんなゴミ男のおもちゃにされ続けてるってさあ。そんなの、あんまりにも程があるでしょ……)

 

 サーラから聞いた話によると、センが研一と同じ部屋で過ごしているのは研一の横暴だけが理由ではないらしい。

 

 セン自身が研一からどうしても離れたがらないから引き離せない部分が多く、まずはセン自身が助けを求めてくれないとどうしようもないそうだ。

 

「あー、それとも親って魔法系じゃなくて肉体派だった?」

 

 だからセンが助けを求めるようになる切欠を求めて、シャロンは話し続ける。

 

 割と普通の人が触れ難いであろう魔人の落とし子や親に関わる話題を続けているのもデリカシーがないからではなく、あえて触れ難い話題に触れる事で反応を見る為だ。

 

(どうせ魔族との戦いが終わったら居なくなっちゃうしね。傷に触れないように地道に仲良くなんか考えてたら、それだけで時間なんてなくなる……)

 

 地道に少しずつ心を開かせていく方向はサーラに任せ、自分は強行突破。

 

 性格的にもその方が向いているだろうと思い、怯む事なくシャロンは突き進んでいく。

 

「もー、お姉さんばっか話してるじゃん。ほら、あなたのご主人様だって私と話すように言ってたんだしさ。黙ってないで話そうよ」

 

 これで何の反応もなければ、話の切り口を変えていかなければならないと思っていたシャロンであったが――

 

 どうやら当たりを引けたらしい。

 

「ええと、その、お母さんは凄く肉体も魔力も強い、魔族の中でも珍しい魔族だったらしくて、その力を受け継いでいる私は物凄く強くなるんだって言ってました」

 

 研一の事を話に絡めた途端、今まで無言だったセンが急に勢いよく話し始める。

 

 ――そもそもセンが無言だったのは、研一と話している時は猫撫で声の変な口調だったのに、急に砕けた口調で話し掛けられて戸惑っていただけである。

 

(あれ? 実は結構おしゃべり好きな子?)

 

 その姿に驚きを覚えつつ、努めて平静にシャロンは話を続けていく。

 

「へー、凄いじゃん。というかそんな凄いお母さんの子どもならさ、将来強くなるじゃなくて、もう既に結構強かったりとかしちゃうの?」

 

「全然です。もっと強かったらなって、よく思います……」

 

「そうだよねえ。強かったらこんな所さっさと出て、一人で生きていけるもんねー」

 

 自分が踊りという力で一人で生きていくと決めているからだろう。

 

 センも自分と同じような目的で力を求めていると無意識に思い、当たり前のように相槌を打つシャロンであったが――

 

「えっと、どうして出ていくです?」

 

 センは別に出ていく為に強くなりたい訳ではない。

 

 本気でシャロンが何を言っているのか解からないとばかりに、首を傾げた。

 

「あ、ごめんごめん。私って元々旅芸人の一員でさ。早く自分一人で稼げるようになって、こんな所から出てやるーって思ってたから、おんなじように考えちゃった」

 

 ここですぐに謝れるのがシャロンという人間であった。

 

 もし頑なに自分がこうなのだから、相手もこうであるべきだという考えを曲げられない頭の固い人間であったのなら――

 

 きっと違う未来になっていただろう。

 

「あ、そうなんですね」

 

「それでセンちゃんは強くなってどうしたいの?」

 

 何気ないように問い掛けるシャロンであったが、変な緊張を覚えて身体が汗ばんでいた。

 

 長年旅芸人という客商売を続け、捨てられた劣等感から他人を観察し続けた独特の勘のようなもので何となく気付いていたからだ。

 

 この質問はセンの核心に触れられるモノであるという事を。

 

 そして――

 

「お母さんにいっぱい褒めてもらうんです」

 

 放たれた言葉は、別に取り立てるような目立ったモノではなかった。

 

 センくらいの年齢の子どもが抱くモノとしては、特段おかしな願いではないだろう。

 

「へー、お母さんに……」

 

 褒められる理由が強さというのは少しおかしく感じるが、魔族なのだ。

 

 人間と同じように考えても仕方ないなんて考えたところで――

 

(え、いや、待って待って待って…………)

 

 シャロンの背中を嫌な汗が流れていく。

 

 サーラから多少の事情を聞いているシャロンだが、聞いている情報の中にセンの母親を保護しているなんて話は一切ない。

 

(国が魔族を匿っているなんて体面が悪いから私には話さなかっただけ?)

 

 そんな都合の良い妄想を考えるが、理性は否定していた。

 

 救世主が魔族との戦いに赴いている最中に自分達を逃がすという話は、集められた女性は全員サーラの口から聞かされている。

 

 もし救世主を誑かし、こんな救世主に頼らないと滅びそうな国なんて捨てて、救世主と共に別の国へ逃げようと考えている女が居るかもしれないと推測出来るような狡猾さを持っているのなら――

 

 集めた女にそんな情報なんて絶対聞かせない筈。

 

(あの心配になるくらい馬鹿正直な姫様が、センちゃんのお母さんを匿っているなんて大事な情報を伏せるなんてする?)

 

 流れる冷や汗がドンドン増していく。

 

 はにかむように笑うセンの顔から目を背けないように意識しなければならない。

 

 顔に貼り付けた笑顔が引き攣ってない自信は、シャロンにはなかった。

 

「あ、お母さんはね。捕まっちゃった時に凄い大怪我しちゃって。腕と脚を切られちゃって動けなくなってたんだけど、それを救世主様が助けてくれたらしくて、今は多分休める場所で回復してるんだと――」

 

「そうなんだ。それじゃあいっぱい強くなれるといいね」

 

 どこか嬉しそうに語り始めるセンの姿があまりに痛々し過ぎて、見ていられなくて。

 

 母親の話を無理やり終わらせて、別の話に持っていく。

 

 そこから交わした筈の会話をシャロンは、イマイチ覚えていない。

 

 気付いたらセンと別れ、いつの間にか自分の部屋に戻っていたからだ。

 

(本気であんな糞男の事を、お母さんを助けてくれた恩人なんだって思ってた)

 

 ただ、それでもこびり付くように頭に残っている事がある。

 

 気が緩むと研一さん呼びが出る事とか、頑張ったら凄く優しく褒めてくれるだとか、魔人の落とし子とか気にせず触ってくれるのが嬉しいだとか。

 

 どれだけ研一の事を信じ、感謝しているのかが伝わってくるセンの姿だけは、まるで抜け落ちてしまったような記憶とは裏腹に、はっきりと印象に残っている。

 

(……それはさあ。いくら何でも、やっちゃいけない事でしょうが)

 

 話を聞いてシャロンは確信していた。

 

 センの母親は、もう生きてなんていない。

 

 おそらく始末したのも研一であり――

 

 母親を助けただなんて嘯《うそぶ》いて、センを騙して弄んでいるのだ。

 

 ――実際はセンが母親が生きていると勘違いしているどころか、自分が助けて匿ってるだなんて思われている事すら研一は知らないのだが。

 

 結果として今の状況は、シャロンの想像とそこまで外れていなかった。

 

(油断してたら刺さるかな?)

 

 どこか冷たく固い怒りがシャロンの身体を満たしていた。

 

 怒りに導かれるままに、護身用に持っていた短刀を見詰めている。

 

 その刃を研一に突き立てる事を想像して。

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