憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第237話 寸止めという名の、お約束

「えっと、その……」

 

 プロディを慰めるつもりだった研一は、突然生まれたお互いの立場が逆転するような流れに巻き込まれ、急には頭を切り替えられない。

 

 意味のある言葉を告げることも出来ず、ただ無意味に口を開く。

 

「だから研一様。私を遠ざけるような事は、どうか、お止め下さい」

 

 戸惑い何も言えない研一を真っ直ぐに、プロディは見詰める。

 

 そして誓うように言葉を紡いでいく。

 

「私に貴方の心と身体を癒す手伝いをさせて下さい。貴方が少しでも安らげるように」

 

 研一の痛みを僅かながら理解してしまったプロディは、研一に女として意識してもらいたいだなんて思って、アピールするような事をしてしまった自分を恥じる。

 

 研一の重荷になってしまうくらいなら、異性として好かれなくたって構わない。

 

 こんな苦しみをずっと抱え続けて、それでも優しくしてくれた研一が、少しでも笑顔になる手助けがしたい。

 

 そんな気持ちが溢れ出して止められなくなっていた。

 

「いや、いくら理由があるからって傷付けている俺が辛いと思うなんて傲慢にも程があるし、プロディさんまで巻き込んでおいて――」

 

 だが、研一にプロディの気持ちを受け取る事なんて出来ない。

 

 人を傷付けておいて、自分だけ幸せになろうとか、ふてぶてしいにも程があるとばかりに、プロディを振り解こうとするが――

 

 それを許すプロディではなかった。

 

「そんな風に、一人で痛みを抱え込まないで下さい」

 

 プロディは研一にそれ以上、一人で背負い込ませないとばかりに抱き締める。

 

 大きな胸に顔を押し付けられ、物理的に何も言えなくなってしまった研一に、プロディは少しだけ穏やかな目を向けたかと思うと――

 

 次はベッドの端の方で座っていたセンに顔を向け、視線だけで傍に来るように伝えた。

 

 ――もうセンと争おうという気持ちは、プロディにはなかった。

 

「私も、セン様だって居ます。どうか私達に、貴方を支えさせて下さい。一人では潰れるまで耐え忍ぶしかない苦しみだって、支え合えば、思っているよりもずっと楽になりますから」

 

「えっと……」

 

 突然の事態に戸惑って、一旦プロディから離れようとする研一であったが、逃げる事なんて出来る訳がない。

 

 既に背後まで迫っていたセンが研一に、抱き着いてきていたのだから。

 

「そうです。私だって、もう子どもじゃないんです。研一さんを支えられます」

 

 力尽くで二人を振り解く訳にも、いかず。

 

 だが、これ以上、二人に密着されているのは、研一としては非常に困る。

 

「なるほど。これが身体は正直というヤツですか。勉強になります」

 

 ただでさえセレスに変態男だと見せ付ける時に、プロディに官能的に指を舐められ、危ない気分になっていたのに。

 

 二人の柔らかさや甘い匂いを感じた上に、こうも優しく温かい気持ちを向けられては、我慢なんて出来る訳がない。

 

 ズボンを履いていても解かるくらいに、研一の身体の一部分が反応し始めていた。

 

「恥ずかしがる事は、何もありません。こういう事でもお役に立てるのなら、私達には、とても喜ばしい事ですから」

 

 咄嗟に隠そうとした研一の手を、そっと手を伸ばしてプロディが止める。

 

 その柔らかい動きに見合う穏やかで、慈愛に満ちた表情を浮かべつつ、プロディは言葉を紡いでいく。

 

「男性経験のない私だって知っていますよ。健康な男の人は、溜め込むと身体に毒なのでしょう? 心だけでなく、身体まで我慢していては、壊れてしまいます」

 

 ただただ優しく、プロディの声が響く。

 

 情事とは掛け離れた子守歌でも想像させるような穏やかな声色に、振り払う事も出来ない研一を置き去りに。

 

 プロディは、淀みなくセンに指示を飛ばした。

 

「どんな形であれ、貴方様を癒してあげられるなら、それ以上の喜びは、ありません。 セン様は上を脱がして差し上げて下さい。私は下を」

 

「う、うん。ごめんなさい、研一さん……」

 

 プロディが優しそうな態度とは裏腹に、躊躇いなく研一のズボンの端に手を掛ける。

 

 センも口では殊勝に謝りつつ、どこか期待の色を含んだ表情で研一の上着の裾を掴んだ。

 

 まさにその瞬間であった。

 

『待って、セレスさんが来ます!』

 

 センの念話が研一の脳内に響き渡る。

 

 慌てて密着しているセン達から離れようとする研一であったが、服もズボンも掴まれた状態で、上手くいく筈がない。

 

「うおっと……」

 

 そのまま二人を巻き込むようにして、ベッドに倒れ込んでしまう。

 

「プロディ、助けに来ました! すみません、結界を壊すのに時間が掛かってしま――」

 

 そのタイミングでセレスが扉を開け放つ。

 

 だが、あまりに想定外の光景が広がっていたらしく、セレスは最後まで言い切る事も出来ずに、目を見開く事しか出来なかった。

 

「な、な……」

 

 研一がプロディの顔に股間を押し付けるように倒れ込んでいるだけでなく、センが背中から身体を押し付けるように研一に密着しているのだ。

 

 どこをどう見ても、破廉恥でふしだらな事をしているようにしか見えないだろう。

 

「おいおい、人が楽しんでいる所に堂々と入ってくるとか、そこまでして俺達の情事を見学したかったのか、テメェは?」

 

 本当なら研一こそ、悲鳴を上げて逃げ出したい気分であったが、そうも言ってられない。

 

 幸い、センが事前に予告してくれたお陰で、気構えだけは出来ていた。

 

 何とか無理やり悪党演技を絞り出し、これは事故でも何でもなく、研一が二人に命じて無理やり奉仕させているようにセレスに見せ付ける。

 

 だが――

 

「え、いや、だって、二人同時になんて、そんな……」

 

 そこまで無理して、研一が好色漢ぶる必要なんてなかったのかもしれない。

 

 セレスは訳が解からないとばかりに呟いたかと思うと、理解の限界を超えてしまったのだろう。

 

「きゅう……」

 

 湯気でも出そうなくらいに顔を赤くして、そのまま倒れてしまう。

 

 気絶しているらしく、ピクリとも動く気配がない。

 

(いくら何でも純粋過ぎないか!?)

 

 あまりに予想外の事態に、心の中だけで叫び声を上げる研一であったが、このまま倒れているセレスを放っておく訳にもいかない。

 

 とりあえず密着したままのセン達を引き離して、入り口で倒れるセレスの元へ向かおうとする。

 

 その瞬間だった。

 

「……凄く、固かった」

 

 プロディの口から、普段の丁寧な口調も忘れたような、呆然とした呟きが放たれる。

 

 まるで先程まで顔に当たっていた物体の感触を思い出すように、自身の顔を触って満更でもなさそうに微笑むプロディの姿に――

 

 研一は変な気分になりそうになるが、首を振って湧き出た感情を振り払うと、改めてセレスの介抱に向かうのであった。

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