憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第24話 その想いは本人も解からず

(センちゃんが相当に上手くやってくれたのかな?)

 

 研一は鼻歌でも歌いたい程に機嫌がよかった。

 

 というのも会議中に突然、スキルが大幅に強化される気配を感じたからだ。

 

 何事かと思いながら会議を終わって部屋に戻ってみれば、シャロンが自分の帰りも待たずに部屋から居なくなっていたのである。

 

 ここから推測出来る事なんて、センから自分の悪行の数々を聞かされて、怖くなったか、怒りを覚えて部屋に戻ったくらいだ。

 

 ――ベッカにバレた件でセンには下手に押し黙って隠そうとするより、ある事ない事語らせた方がバレ難いと判断して方針を変えていたので、その成果だと思ったのだ。

 

「よくやった、センちゃん! 頑張ったぞ!」

 

 とりあえずタイミング等から考えて、シャロンからのヘイトを集めてくれた事だけは間違いないだろうと確信し。

 

 感謝を最大限伝えるべく、研一は頭に手を置いて少し乱暴に思える程に強く撫でてやる。

 

「えっと……」

 

 センは一瞬戸惑うように視線を揺らしたかと思うと、どこか遠慮しがちな目で窺うように研一に視線を向ける。

 

 どうやらもっと撫でてほしいらしいが、口にすれば我儘を言っていると思われ嫌われるのではないかと、怖がっているようだった。

 

「えらいえらい。本当にセンちゃんは良い子だなあ」

 

「えへへ……」

 

 もっと力強く撫でてやると、本当に嬉しそうに笑う。

 

 その姿に微笑ましさを感じつつ、同時に寂しさも覚える。

 

(もっと我儘とか言ってくれてもいいのにな)

 

 センは言われた事や頼んだ事は一生懸命しようとする反面、自分から何かしてほしいとか何がほしいと言う事は滅多にない。

 

 それこそ研一が何かしてほしい事や物はないかと尋ねてもだ。

 

 偶々癖で頭を撫でてしまった事があり、それを思いの外に喜んでくれたから今も何かあれば撫でるようにはしているが――

 

(何かこう形ある物とかプレゼントしたいよね)

 

 どうもお手軽に済ませてしまっている感があって、物足りない。

 

 出来ればもっともっとセンが喜ぶ姿を見たかった。

 

 ――それが仕方なかったとはいえ母親を殺した負い目から来ているものである事には、薄々気付いていたが見ないようにしていた。

 

「あっ――」

 

 余計な事を考えたからだろう。

 

 無意識に撫でるのを止めて手を離した瞬間、センの口から切なげな声が漏れる。

 

「ご、ごめんなさい。何でもないです」

 

 自分の口から出た声に怯えるようにセンは表情を曇らせると、慌てた様子で研一から視線を逸らして距離を取る。

 

(あー、失敗したなあ)

 

 こうなってしまうと、今から撫で直しても申し訳なさそうな顔をして辛そうになるだけ。

 

 さて、どうしたものかと研一が考えようとした瞬間――

 

「あ、忘れてました。あのピンク髪の人から伝えてほしいって言われた事があって――」

 

「伝えてほしい事?」

 

「二人だけでお話《はなし》したい事があるから、夜にお部屋に来てほしいそうです」

 

「そうかそうか。思い出せて偉かったぞ。今度ベッカに頼んでお菓子を貰ってくるよ。何か食べたい物とかある?」

 

「その食べたい物とかじゃないんですけど……」

 

「うん、何だい?」

 

「次は一緒に食べたいです……」

 

 前にベッカが持ってきたお菓子という名の豆を食べた時の事だ。

 

 確かに美味しくはあったのだが、こんな美味しい物を自分一人で食べているのがなんだか申し訳なかったり寂しくて。

 

 でも先に食べていろと言われたのに、それを無視する事は出来なくて。

 

 結局、涙ぐみながら一人で食べたという思い出がセンにはある。

 

 ――その事はセン以外誰も知らない。

 

(褒めてくれたし、これくらいは言っても怒られないよね?)

 

 恐る恐る研一の顔を覗き見る。

 

 もし少しでも嫌そうな顔をしていたら、即座に謝ろうと身構えていたセンであったが――

 

「そうだね。一緒に食べた方が美味しいものな」

 

 見上げた先に嬉しそうに笑っている研一の顔があった。

 

 自分と一緒に食事をするのを本当に喜んでくれている事が解る、屈託のない笑顔。

 

(えっと……)

 

 その顔を見た瞬間、急に顔が熱くなってきて。

 

 ありがとうとか嬉しいという言葉を言おうとしているのに、口が動くだけで声が全く出てきてくれない。

 

 それでも研一の顔を見るのを止められなくて、ぼんやりと眺め続ける。

 

 居心地が悪くて逃げ出したいような、それなのにこの時間が続いてほしいような不思議な感覚がセンを包んで――

 

(凄く温かい……)

 

 その気持ちがセンの秘められていた能力を、少しだけ解放する。

 

 どうやら母親がテレパシーのような魔法を得意としていたからか、センにも思考に関係する能力があるらしく――

 

 研一がセンに向ける優しさや労わりが、直接心に流れ込んできていた。

 

(私も研一さんに――)

 

 この温かさを自分も返してあげたい。

 

 同じ気持ちになってほしい。

 

 そんな想いに駆られるも、どうすればそんな事が出来るのか解らなくて、結局、何も出来ないまま研一の顔を眺める事しか出来ない。

 

「それじゃあ、そろそろシャロンの所に行ってくるよ。折角センちゃんが伝えてくれたのに、俺が行かなかったらセンちゃんが伝言し忘れたとか思われちゃうからね」

 

 見慣れないセンの姿を、慣れない話を多くさせてしまったせいで疲れてきているのだと研一は判断した。

 

 それならば変に気を遣わせないように用事を前面に押し出して、この場を離れる事にする。

 

「それじゃあ今日は帰らないかもしれないから、先に寝てて大丈夫だからね」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

 最後にお互い挨拶を交わして研一は部屋を後にする。

 

 バタン、という扉を閉める音を室内に響かせて。

 

(もし私がピンク髪のお姉さんからの言葉を思い出してなかったら、もっともっと一緒に居てくれたのかな?)

 

 妙に渇いて聞こえた扉の音に物寂しさを感じながら。

 

 撫でられていた時の感触を思い出すように、センは自分の頭を自らの手で撫でてみたりするのであった。

 

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