憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第25話 シャロンからの誘い

(二人だけで話したい事があるから夜に部屋に来い、か。うん、これはアレだな。隙を見て物理的に襲ってくるパターンだな)

 

 シャロンの部屋に向かう研一だったが、甘い展開など微塵も期待していなかった。

 

 というのもスキルの影響で強い敵意や嫌悪に対しては、離れていても大体どの辺りから向けられているのか解るのだが、どう考えてもシャロンの部屋からなのである。

 

 これで愛の告白かなんて考える程、寝ぼけてはいない。

 

 ――ちなみにサーラを屈辱的に犯して嘔吐させたと思われた次の日、ベッカが襲ってきたのがこの呼び出しからの襲撃パターンである。

 

(いきなり襲ってくる可能性が一番高い気がする。その時は絶対に怪我させないようにしないとな……)

 

 考えているのは如何にシャロンの安全に気を遣いつつ、恨まれたまま立ち去れるかだけ。

 

 部屋の前に来ると同時に、癖でノックしてしまいそうになったが寸前で思い留まる。

 

 それは今までのキャラ的に合っていない。

 

「来たぜぇ、シャロンちゃん!」

 

 待ちきれなかったとばかりに乱暴に扉を開け放ち、部屋の中へと侵入する。

 

 いっそ服でも脱ぎながら入った方がそれっぽいかとは思ったものの、さすがにそこまでは今の研一には、どうしても出来なかった。

 

「遅かったわね。すぐに来るもんだと思ってたから随分と待ったわ」

 

 研一の予想に反して、シャロンは突然襲い掛かってくる事はなかった。

 

 静かに壁にもたれ掛かり、大きめの包丁くらいのサイズの短刀を隠しもせずに手で弄んでいる。

 

(……このパターンは全く予想してなかったな)

 

 いきなり襲い掛かってこないのならば、ブリっ子演技で油断させてから隠し持っていた武器で攻撃してくるという可能性を想定しており――

 

 こうも堂々と凶器を見せびらかしながら、敵意を隠しもせず睨み付けてくるなんてのは完全に想像すらしていなかった。

 

「姫様からアンタの趣味は聞いてるわよ。生意気な女を無理やり犯すのが好きなんでしょ? それじゃあお望みどおり生意気なところを見せてあげるわ」

 

 さて、どうしたものかと考える研一を尻目に。

 

 シャロンは短刀を弄びながら、言葉を続けていく。

 

「ああ、安心していいわよ。別にアンタを悦ばせる為の演技じゃない。こっちが素の私。今まで見せてた頭の悪そうな方を期待してたら悪いわね」

 

「そいつはサービス精神旺盛で有り難え話だな。で、何がお望みだ?」

 

 今まで痛々しいブリっ子演技をしてでも抱かれないようにしていたのに、それを止めてでも話し掛けてくるという事は、危険を冒してでも話したい事があるという事に違いない。

 

 半ば当てずっぽうにで訊ねる研一であったが、どうやらそれで正解だったようだ。

 

「話が早くて助かるわ。ちょっとアンタにお願いがあってね」

 

 シャロンは短刀を弄ぶ手を止め、壁にもたれ掛かるのを止める。

 

 敵意丸出しな態度を一転し真剣な表情になると、真っ直ぐに研一を見詰めながら願いを口にした。

 

「センちゃん。あの子の事を解放してあげて。そうしたらアンタの相手をしてもいいわ」

 

 それは夜の誘いというには、あまりに色気がない声色だった。

 

 どちらかと言えば決闘前の誓いを思わせる信念だけが、そこには込められている。

 

「ああ、でも奉仕の技術とかは期待しないでね。中古は嫌だとか喚いて、経験豊富な女を弾いたのはアンタなんだからさ」

 

 事実、シャロンは本気だった。

 

 センを救い出せるのならば、どうせいつかは失う事になる貞操なんだから、ここで使ってしまうのも悪くない程度にしか思ってない。

 

 ――出来れば最初くらいはという想いもある事はあるが、それ程優先順位は高くなかった。

 

「返事くらいしたらどう? それとも救世主様は下賤な旅芸人の提案なんて、聞く耳すら持ってないって事かしら?」

 

「呆れてただけだよ。その気にさえなれば、今すぐでもお前なんて犯れるんだぜ。取引にもならねえのが解からねえくれえに頭悪いのか?」

 

 まだ出会って一日も経ってないセンの為に、ここまで身体を張ってくれる人が居る。

 

 その事に感動して言葉も返せていなかった研一だが、それを悟られてしまえば、ここまで恨まれてしまったのが無駄になるだけ。

 

 すかさず普段の悪人面を顔に貼り付けて、出来るだけ憎たらしく聞こえるように言葉を返す。

 

「でしょうね。期待はしてなかったわ」

 

 シャロンからしてみれば予想どおりの返答でしかなかったのだろう。

 

 怒るでもなく静かに呟いて、まるで諦めたように再び壁にもたれ掛かった。

 

「どうしたの? いつでも犯せるんでしょ? すぐにでも襲って来るかと思ってたんだけど、結構臆病なのね」

 

 逃げる事もせず、まるで襲いたければ襲えばと言いたげに挑発の言葉がシャロンの口から放たれていく。

 

 実際、襲われようとしているのだ。

 

(犯ってる最中でもないと、刺さりすらしないだろうしね)

 

 この世界において個人間の戦闘能力は、身体性能の段階で隔絶しているとしか言いようがない程の差がある。

 

 仮に一般人であり大して戦闘能力を持たないシャロンが、半ば戦術兵器並の力を持つサーラやベッカの首筋に全力で短刀を突き立てたとしよう。

 

 ただシャロンの手が痺れて終わり、サーラ達には精々皮膚が少し赤くなる程度の痛みを与えるのが関の山だろう。

 

(けど、目とか耳。アンタの粗末なモノにだったら殺せなくても怪我の一つくらい――)

 

 けれど、情事の最中の気が緩んでいる時なら。

 

 その上でピンポイントで狙えば、掠り傷の一つくらいは付けられるんじゃないかという淡い期待を抱いていた。

 

「……解からねえな。あのガキとは今日会ったばかりだろ。どうしててめぇが、そこまでする理由がある?」

 

 悪巧みでもしているんじゃないかと言いたげに訊ねる研一だが、本心は全く違う。

 

(センちゃんみたいな良い子が悪い男に好き放題されてるって思えば、助けたくなる気持ちは解かるんだけど、これ、どうやって丸く収めればいいんだ?)

 

 ここまで覚悟を決められて、下手に逃げ出せば今までの印象との差異から疑われてしまい、ベッカみたいにバレてしまうかもしれない。

 

 それなら妙案が浮かぶまでの時間稼ぎがしたいだけ。

 

 けれど――

 

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