憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第30話 糞スキル

「凄まじい。これが救世主の力か……」

 

 魔族軍の長であるジュウザの声が戦場に響いたかと思うと、戦いの音に紛れて消えていく。

 

 見上げる程の巨体に牙の生えているという、如何にも屈強そうな容貌。

 

 おまけに手に持っている武器もその印象を裏付けるような破壊力がありそうな得物で――

 

 分類上は大剣と呼ばれるものなのだが、あまりに大きい上に刃も分厚いものだから、剣というよりも巨大な鈍器に見えるだろう。

 

 明らかに魔法よりも肉弾戦を得意しているという雰囲気が全身から迸っており、事実、近接戦闘においては負けなしの歴戦の強者。

 

 それが今回、魔族軍を率いているジュウザという男であったのだが――

 

「とはいえ。いくら救世主と言えど、無限の魔力を持っている訳ではないらしいな……」

 

 どこか安堵するような言葉とは裏腹に。

 

 研一を見る目には、死線を潜り抜けてきた者には似合わない、恐怖と驚きが色濃く浮かんでいる。

 

 だが、ジュウザを責められる者など居はしないだろう。

 

 それ程までに研一の戦いぶりは凄まじ過ぎるものであった。

 

(あれ程居た筈の我が軍も、もう半分以上倒されてしまった……)

 

 千近くいた筈の魔族軍は既に三百を切っている上に、消えた兵の内訳は全員が討死。

 

 誰一人逃げる事もせず勇猛果敢に救世主である研一に挑み、散っていったにも拘わらず――

 

 未だ研一には傷一つ、付けられていないのだから。

 

「はっ。そりゃあ俺だって人間だからな。ずっと動き続ければ散歩してたって疲れるに決まってんだろ」

 

 お前等との戦いなんて散歩と大して変わらないだなんて皮肉りながら、拳を振るい魔族を吹き飛ばす研一であったが――

 

 内心では大分焦り始めていた。

 

(何なんだ、さっきからドンドン力が抜けていってるような……)

 

 最初は拳を振るうだけで光や衝撃波が発生し、一度の攻撃で数体にも及ぶ魔族を消滅させる事が出来ていたのだ。

 

 今だって攻撃をする度に光や衝撃波自体は、出てる事は出ている。

 

 だが、吹き飛ばしてダメージを与えているだけ。

 

 拳が直接当たった相手だけは一撃で粉砕出来るくらいの力は残っているものの、明らかに威力が激減していた。

 

(敵の言うように魔力切れなのか? まだこんなにも敵が残っているってのに!)

 

 七百近い敵を倒したとはいえ、それは夢中で戦い続けた結果、気が付いたら倒していただけに過ぎない。

 

 おまけに研一が倒した魔族は消滅して死体一つ残っていないのもあって、自分がどれだけの魔族を倒してきたのか把握出来ておらず――

 

 まるで無限に湧き続ける敵と戦っているような気分に、冷や汗が流れ始める。

 

「雑魚共が! この救世主様を舐めるなよ!」

 

 それでも諦めてやる訳には、いかない。

 

 自分は女神から力を貰い、スキルを成長させる為とはいえ多くの人間を傷付けてきた。

 

 願いだって、まだ叶えてもらっていない。

 

 叫ぶ事で自らを無理やり鼓舞し、研一は怯む事無く攻勢に出ていく。

 

(大丈夫、まだやれる!)

 

 ただ腕を振り回して手から発生する衝撃波だけで敵を吹き飛ばすという、戦いとも言えない稚拙な攻撃を止め、超人的な身体能力に任せて敵に急接近。

 

 そのまま拳を叩き付けて、魔族の腹に大穴を開けて消滅させる。

 

「死ねぇ! この化け物め!」

 

 その隙を突くように背後に控えていた魔族が持っていた剣を振り降ろしてくるが――

 

(見えてるんだよ!)

 

 理屈はよく解からないが、研一は戦いになるとゲームの俯瞰視点のように周囲全体を把握出来る。

 

 振り向きもせず僅かに身を屈めて攻撃を避けると、攻撃を避けられて態勢を崩した魔族の顔面にカウンターの要領で己の拳をぶつけた。

 

「ぐぎゃあ!」

 

 情けない叫び声を上げ、魔族が吹き飛び別の魔族に衝突する。

 

 その光景が意味する事に気付いた研一を含む多くの者が、一瞬だけ動きを止めた。

 

(おいおい、嘘だろ!)

 

 衝撃波だけでは倒せなくなっていたからこそ、拳で確実に一体ずつでも仕留めていこうとしていたのに、拳でも倒せていない。

 

 魔力切れなんかではない、別の問題が起きているのは明らかだった。

 

「今だ! その化け物を討ち取れ!」

 

 あまりに動揺し過ぎたとはいえ、顔に全て出てしまったのは致命的な失敗だろう。

 

 罠でも何でもなく、完全に魔力切れか何かになったのだと確信したジュウザが今が好機だと部下達に号令を降す。

 

(くそ、まだ何も出来てないってのに――)

 

 さすがに研一も諦めるしかなかった。

 

 一体ずつでも確実に倒せるのなら、諦めなければ全員倒し切れる可能性もあると思ったが、この数相手にマトモに消耗戦なんて続けたら勝機なんてある訳がない。

 

「やらせるか!」

 

 心が折れそうになった瞬間、ベッカ率いる王国軍が突撃してきた。

 

 研一だけに集中した隙を突いた上に、もう三百に満たない魔族軍に対して二千を超える圧倒的な兵数。

 

 勝負は一瞬で付くかと思われたが――

 

「くっ、ベッカ様、早く!」

 

「そう長くは持ちません!」

 

 数人掛かりで魔族一人の動きを止めるだけで精一杯。

 

 むしろ魔族を足止めする為に人間側に犠牲者が出るだけで、魔族側は一人たりとも倒せていない。

 

「今の内だ! 退くぞ、救世主!」

 

 こんなにも人と魔族の強さに差があるのかと驚き戸惑い、動きを止めてしまった研一をベッカが大声で叱咤するや否や――

 

 即座に研一の手を引いて走り出す。

 

「え、待っ――」

 

 これでは王国軍が壊滅するのも時間の問題。

 

 それならば自分も残って共に戦った方が遥かにマシな気がするが――

 

「いつも好き勝手してるくせに、こんな時だけ気を遣ってんじゃねえぞ!」

 

「お前さえ生き残って調子を取り戻してくれねえと、俺達の家族は守れねえんだよ!」

 

 王国兵達がどれだけ居たところで、足止め以上の活躍は望めない。

 

 そこに今の弱った研一が加わったところで勝利という結果が訪れる事はないだろう。

 

 それならば研一が回復する事に賭け己の命を捧げる事に、兵士達は何の躊躇いもなかった。

 

 何故なら――

 

(そういう事か!)

 

 そこには研一の強さに対する絶対的な信頼があった。

 

 憧れや希望を携えた目に憎しみの色なんて欠片もなく、ここに来て初めて研一は自分が大きな失敗をしてしまった事に気付かされる。

 

(くそっ! あんなに自分が強いって知ってたなら、一人で勝手に全部片付けておけば――)

 

 これだけ人間と魔族との間に絶対的な差があるのだ。

 

 そんな中、誰が見ても解かる程の強さで魔族を圧倒していた研一の姿は、兵士達には文字どおり自分達の国を守ってくれる救世主以外の何者にも映る訳がなく――

 

 それは今までの我儘全てを吹き飛ばして余りある程の、希望を兵士達に芽生えさせてしまっていたのである。

 

(どうすればいい?)

 

 敵意や憎しみが薄れただけでなく、逆に期待を強く抱かれてしまったからこそ起きた急激な弱体化。

 

 それならば今からでも兵達に恨まれる事さえ出来れば、理屈的には力を取り戻す事が出来る筈なのだが――

 

(この状態で何をすれば恨まれるってんだよ!)

 

 仮に今の兵士に「雑魚共め。少しでも俺の役に立って死ね」なんて声を掛けたところで、むしろ笑って受け入れられるだけだろうし。

 

 かといって、残って共に戦えば今の研一じゃ兵士諸共倒されて終わり。

 

「止まるな、救世主! あいつ等の全てが無駄になる!」

 

 迷い動けなくなっている研一を無理やり引っ張り、戦場を離脱すべくベッカが手に持った槍を振るい、活路を切り開いていく。

 

 ――さすがに親衛隊長という事だろう。

 

 ベッカだけ他の王国兵とは格の違う強さであった。

 

(何でだよ! こっちの事情なんて何も知らないんだろ! 何であんな好き放題喚いてた奴を、そんな縋るような目で見れるんだ……)

 

 もっと兵士達が身勝手で情の薄い人間だったなら、こんな事にはならなかったのに。

 

 そんな八つ当たりでしかない事を、研一は思わずには居られない。

 

 だって、あまりにも皮肉な話だ。

 

 王国兵達は、今までの研一の我儘を許せてしまうくらいには善人だったからこそ、死ななければならないのだから。

 

「逃がすか!」

 

 戦場から逃げ出そうとする研一達を追おうと、魔族軍の長であるシュウザがその巨体を揺らして追い縋ろうとするが――

 

「我々の希望を摘ませて奪わせるものか!」

 

 数に物を言わせて、兵士達が必死で押し留めた。

 

 さすがに力に差があるとはいえ、それでも王国軍きっての精鋭部隊。

 

 無理に突破を試みれば、いくら魔族部隊が力で上回っているとはいえ損害は避けられず、何とか足止めに成功する。

 

(くそ! もっと普通のスキルだったらこんな面倒な事には……)

 

 遠くなっていく争いの音と兵士達の悲鳴に、言いようのない無力感を覚えながら。

 

 研一はベッカと共に戦場を離脱したのであった。

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