憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第32話 不器用な男

「この世界に来たばかりの貴様は勘違いしていそうだから伝えておこう。本来、この国の人間とこの付近に住んでいる魔族との間に、これ程の戦力差はない。救世主であるお前を倒す為だけに、我等は別の場所から遠征してきたのだ」

 

(俺がセンちゃん達を助けたせいで、あの兵士達は死ぬ事になったっていうのか……)

 

 足が鉛のように重く、口の中が急速に渇いていく。

 

 ベッカに任せて逃げるか、それとも残って戦うべきか。

 

 そんな判断をする余裕なんてある訳もなく、ただ呆然と立ち尽くす事しか研一には出来ない。

 

「我々の目的は貴様を討ち取る事だけ。貴様さえ倒せたのならば、そうだな。我が同胞の遺した第一子さえ渡してくれるのならば、向こう一年程度は、そちらの国には手を出さないと誓おう」

 

 そこでセンの話題が出てきて、研一は一つだけどうしても気になった事を聞かずには居られなかった。

 

「……なあ。俺が殺した、あの魔族の女は俺の事を恨んでいたのか?」

 

 それは魔族の女がどうして、自分の事を魔族達に伝えたのか。

 

 あれ以上に自分が彼女に出来た事が、あるとは思えない。

 

 それにセンを託してくれたのは、何だったのかと思わずには居られなくて。

 

「いいや、心底感謝していたさ。ただ、それ以上に人間を恨み、人間の味方をする者が許せなかっただけだ」

 

 第一子を預けたのも、お前なら我々が保護するまでの間、必ず人間から守ってくれると信じていたからだろうと付け加え――

 

 ここで話は終わりだとばかりに、ジュウザがわざとらしく武器を構える。

 

「選べ、救世主! 俺達はお前を倒すか、こちらが全滅するまで地の果てまで追い続ける。お前が隠れている可能性を考え、目に付いた街を叩き潰しながらな!」

 

 それでも逃げるのかと言いたげな様子で、ジュウザは腰を落として、迎え撃つような姿勢を取り動かない。

 

 おそらく逃げるのなら、今だけは研一の事を見逃すのだろう。

 

 代わりにここでベッカを殺し、その後で国を滅ぼして研一を追い続けるだけ。

 

(ああ、くそ。何でだよ……)

 

 ここで話を全て聞いていたベッカが、研一こそが今回の騒動の元凶だったのかと出会った頃と同じくらいに憎んでくれたのなら、こんなのは窮地でもなかった。

 

 けれど――

 

「どうせ今の我が国の兵力じゃ、お前が居なくても滅ぼされてたさ。だから気にするな」

 

 ベッカは研一に憎しみを向けるどころか、ジュウザから庇うように前に立ち塞がる。

 

 それはベッカの最も大事な相手であるサーラが、研一だけは生き残ってほしいと本心から願っている事を知っているからであり――

 

 ベッカ自身、研一に生き残ってほしかったから。

 

「……悪い、ベッカ」

 

 研一は短い謝罪の言葉を告げると覚悟を決めた。

 

 その選択がベッカの気持ちを踏み躙る事にしかならないと解っていながら。

 

 自分を庇うように立っていたベッカの隣に並び、拳を構える。

 

「そう来てくれると思ったぞ、優しい優しい救世主様。初めて会ったばかりの魔族の女にさえ最大限の情けを掛ける男だ。そこの女を見捨てられる訳がないからな」

 

 ベッカを見捨てて逃げる事も。

 

 憎まれるなら子どもを助けたいだなんて甘い考えのせいで、自分が呼び寄せてしまった敵を放置する事も、どうしたって研一には出来なかった。

 

 ――今の自分の力じゃベッカと二人掛かりでも、ジュウザに殺されるだけだと解かり切っていたとしても、だ。

 

(……自業自得ってヤツだな)

 

 だって全て半端な事をしてきた自分の落ち度。

 

 本気で願いだけ叶えば何でもいいのなら、誰を傷付け恨まれようとも徹頭徹尾、本物の悪党に成り切ればよかっただけ。

 

 それなのに傷付けるのが嫌で、自己満足で善人ぶった結果が今の状態なのだ。

 

 自分の不始末には自分で落とし前を付けるか。

 

 それすら出来ないなら殺されたって文句なんて言えないとしか、思えない。

 

(ああ、くそ! 知ってたさ!)

 

 馬鹿な選択をしている自覚はあった。

 

 これじゃ自分もベッカも死ぬだけで何も残りやしない。

 

 そんなのは誰だって解かる話。

 

(ここで割り切れるくらい器用なら、もっと上手く悪人やれてるんだよ!)

 

 けれど頭で考えた事だけで効率良く生きられるなら、誰も苦労なんてしていない。

 

 そういうスキルなんだから仕方ないと割り切れず、出来るだけ人を傷付けない道を選ぼうとしてしまうのが研一という人間なのだ。

 

(だからって諦めてなんてやらないけどな!)

 

 もう一番強かった圧倒的な時期に比べれば、救世主なんて言葉の似合わない非力な存在でしかないだろう。

 

 けれど、非力であって無力ではない。

 

 それならば見っともなくても、最後の最後まで足掻いてやると気合を入れる。

 

 その瞬間――

 

(この感覚は……)

 

 異世界に転移してからというもの何度も覚えた、敵意を向けられている感覚が身体中を駆け巡り、力が増すのを感じた。

 

 一番強かった状態の時は程遠いが、それでも中々の力の高まり。

 

 突然の事態に驚くも、原因を探ろうとする研一であったが――

 

「……貴方という人は、いつもそうです。身体を捧げようとしても無下にされるし、大人しくしてほしい時にはフェットの館に襲撃を仕掛ける。私になんて触れようともしてくれないのに、他の女に手を出して」

 

 まるで研一の疑問に答えるように、感情を押し殺しているような静かだが重たい声が後ろから響いてきた。

 

 次々と畳み掛けるように放たれる言葉に導かれるように振り返る。

 

「それでも呼び出して無理を言ってしまったのは私だからと待っていたのに、結局私の所にだけは来てくれない。本当に貴方という方は――」

 

 布を巻いただけの胸に太腿丸出しの腰布。

 

 胸と股間以外は全て丸出しと言っても過言でない露出狂も驚きの恰好をしたお姫様、サーラが憮然とした表情で佇んでいた。

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