憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

33 / 186
第33話 互角の攻防

(え、いや、え!?)

 

 ベッカに鈍い男呼ばわりされた研一ではあるが、さすがに今のサーラの言葉を聞いて解からない程には鈍くない。

 

 サーラが自分に好意を寄せてくれており、それに気付かず無視し続けたような形になったから怒っているくらいは理解出来る。

 

(アレか? よくある世間知らずなお嬢様にありがちな悪い男が好きなタイプだったのか? だとしたら、さすがに趣味が悪過ぎるだろ!)

 

 だが言っている言葉の意味が理解出来る事と、納得出来るかは別の話。

 

 今までのサーラの態度から考えるに、ベッカと違って悪人の演技はバレていない筈。

 

 それなのに、どこに好きになる要素があるのかとしか思えないが――

 

「あんな扱いされてるのに俺が好きとか、ムッツリスケベな変態に加えて、ぞんざいに扱われて喜ぶドMだったのかよ。相変わらず気持ち悪い女だぜ」

 

(……ごめん。いつも傷付ける事しか言えなくて)

 

 自分だけでも逃がす為に後ろに控えてくれていただけでなく、様子がおかしい事に気付いてわざわざ様子を見に来てくれたのだろう。

 

 それなのに感謝の一つも伝えられない事に内心だけで謝りつつ、この場を切り抜けるにはサーラに憎まれるしかないとばかりに全力で罵倒していく。

 

「……言いたい事は色々ありますが、ふざけている暇がありません。気持ち悪い私になんて助けられたくないでしょうが、今だけは我慢して下さい」

 

 能面でも貼り付けたような無表情で研一の言葉を受け流して、サーラは迷う事無く研一の隣に立つ。

 

 表情からは解からないが多少は苛ついてくれたらしく、自分の力が僅かに増すのを研一は感じる。

 

「はっ! 嫌《や》なこった!」

 

 内心では感謝しかないが、ここで態度に出せば折角の憎しみが霧散するかもしれない。

 

 お前と協力し合うくらいならば死んだ方がマシだとばかりに、連携なんて何も考えてないような特攻染みた飛び蹴りを脈絡もなくジュウザへと放つ。

 

「くっ、小癪な!」

 

 さすがに仲間と連携しないという事は考えていなかったらしい。

 

 いきなり顔面目掛けて飛び込んできた研一に対応し切れず、もはや鈍器のような大剣で攻撃を必死に受け止める。

 

「デカイ図体の割に良い反応してるじゃねえか」

 

「貴様が舐め過ぎなのだ!」

 

 軽口を叩きながら即座に距離を取ろうとする研一だが、それを見逃してやる程にはジュウザだって甘くない。

 

 研一が着地するタイミングを見計らったように、素早く大剣を振り降ろす。

 

 避けられる態勢でもなければ、今の研一の力では防げない程の威力が秘められた一撃。

 

「させるか!」

 

「やらせません!」

 

 直撃すれば終わりだった攻撃を、ベッカの槍とサーラの魔法が弾く。

 

 二人が守ってくれる事自体は想定していたが、守り切れるだけの力があるかは半分以上賭けだった。

 

「魔法って詠唱とか要るんじゃなかったのか?」

 

 内心の冷や汗を必死で押し殺し、まるで自分の命になんて興味がないように努めて冷静に振る舞っていく。

 

 ただの乱暴者を装うよりも、こうして自分の命をないがしろにする方が、二人は憎んでくれるんじゃないかと信じて。

 

「詠唱や儀式が必要なのは本当に大規模な魔法くらいです。魔力を溜める時間さえあれば、大体の攻撃魔法は撃てます。それよりも無茶しないで下さい!」

 

「戦闘中だぞ。聞かれた事だけ答えて無駄口叩くなよ。自分で言ったんだろ?」

 

「こんな時くらいは、もっと協力する意志を見せてくれませんか!?」

 

「知るか、変態女」

 

(……これだけ好き勝手やってるのに、全く力が上がらない。多分怒ってる事は怒ってるんだろうけど、心配から来てる怒りは憎しみとか負の感情には分類されないのか?)

 

 予想に反して力が上がる感覚は、微塵も湧いてこない。

 

 どうやら怒っているように見えるサーラだが、そこに侮蔑や嫌悪の感情はないらしい。

 

(くそう、二人とも良い人過ぎる!)

 

 サーラは心から心配しているだけであり。

 

 ベッカは研一が何かしらの事情で悪党ぶっているだけだと知っているから、邪魔しないように口を噤んでいるらしかった。

 

「おい、露出女! 服を脱いで強くなったり出来ないのか!」

 

「これは戦闘用の特別な服なので、脱いでも意味なんてありません! というか人を変態の露出狂みたいに言わないで下さい!」

 

「ちっ、役立たずめ!」

 

 どうしても力が上がらない事に焦りを覚えつつ、戦いを続けていく。

 

 それは最初の攻防の繰り返しとも言える地味な攻防であった。

 

 一人突撃する研一をジュウザが追い払い、サーラ達がサポートする。

 

 研一の攻撃を防ぎ切れるか、それともジュウザの剣戟が相手を先に捉えるかという互いの体力と神経を削り合い、天秤を死へと傾けていく命のシーソーゲーム。

 

(このままなら勝てる気はする、けど――)

 

 三人掛かりならば、戦力的にはシュウザと互角どころか僅かではあるが上だろう。

 

 ジュウザは防戦一方でマトモに反撃も出来ておらず、近い内に押し切れそうではあった。

 

(それじゃあ駄目なんだ……)

 

 お互いを削り合うような戦いの果てにジュウザ一人を倒したところで、残っている魔族達を倒せる余力がない。

 

 どうにか一気に憎まれて強くなれないかと焦る研一の耳に、想定外の言葉が響いてくる。

 

「ジュウザ様! 我々も加勢します!」

 

 王国軍の兵士達を全員、倒し切ったのだろう。

 

 魔族側に援軍が向かってきていた。

 

(最悪だ!)

 

 まだ遠い位置ではあるものの、百は下らない中々の数。

 

 もし加勢されれば、間違いなく終わりであった。

 

「馬鹿め! 動揺したな!」

 

 敵の援軍を来るのを待つまでもなく、決着の時は急速に近付いていた。

 

 絶望の訪れに乱れた隙を的確に突いて、ジュウザの剛剣が研一に襲い掛かる。

 

(ヤバイ、ミスった!?)

 

 僅かしかない差など、ふとした事で簡単に引っ繰り返るモノ。

 

 最初の時と同じく避けられるタイミングではないが、最初の時とは決定的に違う事があった。

 

「救世主!」

 

「救世主様!」

 

 ベッカはジュウザの背後という研一を庇える位置に居なかったし、サーラは真横にこそ居るものの魔法を撃ったばかりで即座に次弾を撃てる状態ではない。

 

 完全な手詰まりであり、今度ばかりは凌ぎ切れるような手段がなかった。

 

(ああ、くそ。終わりか……)

 

 スキルの影響で研一には世界がゆっくりと見えているが、今は普段より殊更に世界が遅く感じている。

 

 ゆっくりと迫りくる刃に、それ以上に緩慢にしか動かない自分の身体。

 

 もはやどうにもならないと諦めた瞬間――

 

 肩口に衝撃が走った。

 

「え?」

 

 それは想像していたよりも、ずっと小さな痛みであった。

 

 当然と言えば当然だ。

 

 その衝撃の正体はジュウザの剣が研一の身体に当たって起きたモノ等ではなく――

 

 サーラが全力で体当たりして研一を吹き飛ばした結果、発生したモノだったのだから。

 

(なん、で――)

 

 庇われた事に驚きはない。

 

 突然過ぎて、自分に何が起きたか上手く把握出来ていなかったから。

 

 研一が驚かされたのは、もっと別の事。

 

(なんでそんな、ほっとしたような顔してるんだよ!)

 

 心底安心したような顔で自分を見詰めている、サーラの顔しか目に映っていなかった。

 

 自分に迫る斬撃になんて一切目もくれず、研一の無事だけを願う表情だけが焼き付いて。

 

 鈍い音が響いた。

 

 ジュウザの大剣が横薙ぎに払われ、赤い物が飛び散る。

 

 放り投げられた人形のようにサーラの身体が地面を数回転(すうかいころ)がり、力なく静止した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。