憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第4話 サーラ姫は襲われたい

(正直、暫く一人になりたかったけど、そうも言ってられないよなあ……)

 

 ベッカとの戦いが終わったからと言って研一に休息は訪れない。

 

 それどころか、ある意味では今からが本番と言っても過言ではなかった。

 

「救世主様! 身勝手なお願いなのは解っています。ですが、どうかご検討頂けないでしょうか!」

 

 というのも、自業自得と言ってしまえばそれまでなのだが。

 

 サーラ直々にベッドの用意された個室に案内されたかと思うや否や――

 

「経験はないですが飽きさせないように頑張ります! どんな破廉恥で特殊な事を言ってくれても構いません! だから私一人の身体で満足しては頂けませんか!!」

 

 物凄い勢いで迫られていたからだ。

 

 はっきり言って研一に、サーラやベッカをどうこうしようという気は一切ない。

 

 あれは憎まれる為に必死で並べた戯言でしかなく、むしろ本心を言っていいのならば土下座して謝って、自分の三下演技なんて全て忘れてくれとお願いしたいくらいなのである。

 

(というか何でこの人、未だ俺に対する悪意がないんだよ……)

 

 あの場に居た人間はベッカを含め、ほぼ全ての人間が憎悪やら敵意やらを抱いてくれていた。

 

 より正確に言うなら――

 

 この世界で自分を見た人間はサーラ以外全て自分に何かしらの悪感情を向けてくれたからこそ、ベッカを圧倒する程の力が身に付いているものだと思っている。

 

「寄って来んじゃねえ。何日も眠らず儀式してる薄汚れた臭い女なんて願い下げなんだよ。せめて身体を綺麗にしてからきやがれ」

 

 とりあえず少しでも時間稼ぎをしようと、サーラを風呂に向かわせようと画策した研一であったが――

 

 次にサーラが起こした行動は、あまりに衝撃的なものであった。

 

「申し訳ありません。配慮が足りませんでした」

 

 短くそれだけ告げたかと思うと、サーラは両手から自身の身長と変わらないくらいの炎を生み出し。

 

 間髪入れず、その炎に飛び込んだ。

 

「馬鹿な事するな!」

 

 どう見ても焼身自殺。

 

 あまりに自然な動きに何が起きたか解らず、ぼんやり眺めてしまったがそれも数秒。

 

 慌てて炎の中に手を伸ばし、サーラを炎の中から引っ張り出す。

 

「痛みはないか! 水や氷、薬はどこにある!」

 

 勢い余って、そのままベッドに押し倒すように倒れ込んでしまうが――

 

 そんな事に気付く余裕なんて研一には欠片もない。

 

「死ぬ覚悟が出来るなら、その覚悟で相手を殺せよ! なんでこんなふざけた事、を?」

 

 傷の度合いを確認しようと身体に視線を移した研一は、そこで初めてサーラの身体を眺め見て戸惑いを覚える。

 

(あれ、火傷してない?)

 

 身体には火傷の跡どころか、傷一つ見当たらない。

 

 透き通るような白い肌があるだけで、よく見れば胸に巻いている布でさえ燃えるどころか汚れ一つ見付けられなかった。

 

「きゅ、救世主様。その、えっと、ですね。私の身体を気に入って下さるのは光栄なのですが、あの、その……」

 

 そこで今にも泣き出しそうな声が、すぐ傍から響いてくるのを研一は耳にする。

 

 導かれるように声のした方向に顔を向ければ――

 

「…………」

 

 涙目で顔を真っ赤にしているサーラの顔が、驚く程に近くにあった。

 

 それは作り物を思わせる程に整い過ぎた顔立ちをしている上に、悪態をどれだけ吐いても本音が見えなかった時の表情に比べると随分と感情豊かで人間らしくて。

 

 初めてサーラが年相応の女の子に見えた。

 

「ご、ごめん」

 

「い、いえ。お気になさらず」

 

 驚き過ぎて思わず憎まれ役の演技をするのも忘れて、素で謝ってしまう。

 

 けれど、それは一瞬の事。

 

「いいか? 俺はそっちの要望に応えて力を示してやったんだ。その対価にてめぇは俺が好き放題にしていいって話だったろうが。死んで逃げるなんて契約を破るような事しやがるなら、こんな国滅茶苦茶にしてやるからな?」

 

 すぐに気付いて悪態を吐き、そのままベッドに座り直す。

 

 無論、ベッドに倒れたままのサーラに手を貸して助け起こすなんて事は、しない。

 

「死んで逃げる、ですか?」

 

 寝転んだまま話をするのは失礼に当たると思ったのか。

 

 サーラも起き上がると研一の隣に座りつつ、何を言われているのか解からないといった様子で訊き返してきた。

 

「あん? 今さっき焼身自殺しようとしたじゃねえか?」

 

「あの、清めの炎という魔法なのですが救世主様の世界にはないのでしょうか?」

 

「清めの炎?」

 

「はい。穢れや不浄を払う力がある炎で主に汚れを落とす事に使用されます。それ以外には付与されている魔法を打ち消す力もありますが、こちらの意図で使われる事は少ないですね」

 

 言われてみて改めて研一は実感する。

 

 ここは異世界。

 

 日本での常識どころか、地球の常識や法則がそのまま適用されるかどうかさえ怪しい場所だったのだと。

 

「そういえば身体にあった模様が消えてるな……」

 

 そして冷静になり初めて気付いたが、サーラの全身に描かれてた刺青を連想させるような模様が全てなくなっていた。

 

 炎に入る前までは確かにあった筈なのに。

 

「身体にあった模様? ああ、召喚等の大規模な魔法を使う時は、身体に魔法の術式を直接書き込んだりして魔力や効果を高める必要があってですね――」

 

 その疑問に答えるようにサーラが説明を始める。

 

 本当に魔法の威力や成功率だけを考えるならば、刺青として直接身体に刻み込んだ方が色々と効率はいいのだが、失敗した時は大惨事になるし、他の効果に書き換えられなくなるから、必要な時だけ特殊な薬液で書くのが今の主流であるだとか。

 

 魔法の使用には大気に触れている皮膚が多ければ多い程、効果が高くなるから露出度が高い人間を見れば男でも女でも魔法使いだと思って間違いないだとか。

 

 他にも魔物との戦いよりも、生活面での方が魔法は重宝されているのだとか楽しそうに語り続けていく。

 

「ああ、そうなのか」

 

 少し早口で話すサーラの姿が、ようやく王族としての仮面を脱ぎ捨てた年相応の人間らしく見えて。

 

 その上で聞かせてくれる魔法の話が新鮮で面白くて。

 

 穏やかなものを感じながら、それでも親近感を持たれないように意図して少し乱暴な相槌を打ち続ける。

 

 それは研一が異世界に転移してきて初めて、肩の力を抜いて過ごせた時間であり。

 

 このまま何事もなく話し疲れたサーラと別れて終わりになる事こそが、きっと誰にとっても一番良い結末だっただろう。

 

「と、申し訳ありません。無駄な話を続けてしまって」

 

 けれど、サーラはそれを良しとする人間ではないらしい。

 

 自分がどうして今この場に居るのかを思い出すと、即座に覚悟を決めたようだった。

 

「救世主様、ご指摘どおり身体も清め終わりました。どうかお好きなように私の身体をお使い下さい」

 

 研一が何かを言う暇もなくサーラは胸を隠す為に巻いていた布を解き、腰に付けていた金具を脱ぎ捨てる。

 

 それだけで一糸纏わぬ裸体が研一の前に晒された。

 

「はっ。随分と潔いじゃねえか」

 

 本当に下着とか着けてなかったのか、なんて思えるような空気ではない。

 

 そんな余計な事を考えてしまえば、自分が手なんて出さなくても覚悟に身を任せたサーラに逆に押し倒され兼ねない。

 

(どうすれば……)

 

 かといって、ここから欲塗れの人間だと思われたまま上手くサーラを部屋を追い出せる妙案なんて簡単に浮かぶ訳もなく――

 

 迂闊に動く事も出来ず、ただサーラの顔を見る事しか出来ない。

 

「救世主様? その、何か無理をしてらっしゃいますか?」

 

 もしこれで研一が舐め回すように肢体に視線を向けていたなら、サーラだって何も疑問に思わなかったに違いない。

 

 けれど、まるでサーラの身体を必死で見ないように顔だけを見詰める様子は、今までの態度から考えるとあまりに不自然過ぎた。

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