憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第53話 皆で混浴

「暗い雰囲気。何考えてるの?」

 

 その日の夕方。

 

 見るからに沈んだ雰囲気を見せる研一に、テレレが後ろから話し掛ける。

 

「……本当に、ここまでする必要があるのかと思って」

 

 しかし、研一はテレレが折角話し掛けてきてくれているというのに、テレレの方を決して見ようとはしない。

 

 それは別に研一が礼儀知らずだからという訳でなく――

 

「わざわざ一緒に入らなくても、外で待ってるんじゃ駄目ですか?」

 

「しつこい。そういう小さな隙から疑われるから、徹底的にやろうって皆で決めた」

 

 ここは研一とテレレの出会う事になった水浴び場であり。

 

 二人は一糸纏わぬ姿であった。

 

 これは別に、二人が混浴する程に仲を深めたからではない。

 

 単にあそこまで見せ付けておいて、水浴びが別というのは無理があるだろうというテレレ達の判断に拠るものだった。

 

「その、ずっと気になってたんですけど、テレレさんは嫌じゃないんですか? 好きでもない男に裸を見られるのって……」

 

「邪な目で見られるのは嫌い。ただ私を欲望の捌け口にしか見てない、同じ心を持った人間とさえ思ってない目で見られるのは吐き気がする」

 

「だったら――」

 

「君は出会った時から、私にそんな目を向けてない。いつだって私を傷付けてないか、心配してばかり」

 

「そんなの出会った時に解かる訳――」

 

「解る。私の力は本当は嘘を見破る力じゃなくて魂とか心とか、そう言われている何かを見る力。嘘が解かるのは力の一部でしかないの」

 

 テレレは前置きのように告げると、自らの能力について説明していく。

 

「どれだけ表面を取り繕っても自分の魂だけは、どうしたって自分自身を騙せない。嘘を吐いたり後ろめたい事があれば魂が揺らぐ。それで私は相手が嘘を吐いているか解かるだけ」

 

「なるほど」

 

「だから見れば嘘だけじゃなくて、悪人かどうかだって解かる。他人を傷付ける事を何とも思ってない身勝手な魂は、濁ってて汚いもの」

 

「はは、じゃあ俺の魂もさぞや濁って汚かったでしょうね」

 

「……そうだね。君の魂は、確かにお世辞にも綺麗なんて言えるモノじゃなかった。ヒビだらけで歪んでいて、今にも壊れてしまいそうな程にボロボロ。見ていて痛々しく感じる程に」

 

(そこまで酷くはないと思うけれど……)

 

 確かに異世界に来てから気の休まる事なんてほとんどなく、疲れているのは事実だが、反論したって意味なんてないだろう。

 

 そう見えている、とテレレ本人が口にしている以上、見える景色を否定したって、どうにもならないのだから。

 

「それなのに綺麗であろうと頑張っている。そのヒビに触れて誰かが傷付かないように、その歪みが棘になって誰かを傷付けないように、君はずっと頑張ってる」

 

「……買い被りですよ」

 

 元カノを救いたいなんて、自分以外からすればどうでもいい理由で、どれだけの人間を傷付けてきたか解からないし。

 

 特にサーラやベッカみたいな良い人を騙して傷付け続けている自分に、そんな賛辞を受け取る権利なんてないとばかりに、研一はテレレの言葉を否定する。

 

「そういうの良くない。私と話しているんだから他の人の事考えちゃ、嫌」

 

 けれど、テレレはその態度の裏に隠されたモノを敏感に察知し、研一の頭を掴むと自分の方を向けさせると――

 

 研一の視界に、真っ白いテレレの肌が飛び込んでくる。

 

「ちょっ、止めて下さいって!」

 

 慌てて振り解いて、背を向けた。

 

 国を救う為にこんな事までしてくれているテレレの裸を見るなんて、あまりにも申し訳なさ過ぎる。

 

「それも不満。どうして君は女の子の裸を見ているのに、申し訳ないとしか思わないの? 私の身体って、そんなに魅力ない?」

 

「いや、とても魅力的だと思いますよ」

 

「嘘は吐いてないけど、興奮の一つもしてない人に言われても虚しい」

 

 本当に悲しそうなテレレの声が響いてくるが、これに関しては研一には、どうしようもない。

 

 元カノが自殺してしまった日から、その手の感覚が壊れてしまったようにピクリとも反応しなくなっているのだ。

 

(今の状況では逆に有難いけどね……)

 

 もし、その手の感覚が残っていたならサーラに出会った日に迫られて我慢出来なかっただろうし。

 

 今だって、きっと邪な目でテレレを見てしまい、マトモに話なんて出来なかっただろう。

 

 ――そのくらい今まで出会ってきた女性は、研一の目には魅力的な人ばかりだった。

 

「……ごめん。少し、はしゃいだ」

 

「別に気にしなくていいですよ。特に嫌な事とか言われてないので」

 

「ううん、君は気付いてないだけ。ヒビから血のような物が滲んでた。君にとって一番触れられたくない傷に関わる話だったのね」

 

「そんな事は、ないんですけれど……」

 

 どうしてそこまで謝られているのか解からず、研一には戸惑いしかない。

 

 だって別に少しも怒ってもないし、悲しさだって微塵もないのだ。

 

 テレレの能力も完璧ではなく、的外れな事を感じる時もあるんだなとしか思えなかったから。

 

「あの――」

 

「ごめん、頭冷やしてくる」

 

 勘違いだと思うから気にしないでほしいと告げる前に。

 

 テレレは一度、申し訳なさそうに頭を下げたかと思うと研一の傍を離れた。

 

「ったく、やるなら徹底的にって話だったでしょ。端っこで小さくなってんじゃないわよ」

 

 テレレが居なくなっても、研一に静寂は訪れない。

 

 入れ替わるタイミングを狙っていたんじゃないかと思う程に間髪入れず、ロザリーがやってきた。

 

 ――無論、ロザリーも衣類一つ纏っていない全裸であった。

 

「むしろ、なんでそっちはそんなに堂々としてられるんだよ……」

 

 テレレの水浴びを覗いてしまった時に捕まったところから考えるに。

 

 どうやら異世界でも貞操観念は現代日本とそこまで大きい差はなさげで、異性に裸を見られるのは物凄く恥ずかしい事らしい。

 

 それなのに、テレレに続いてロザリーまで全く気にせず、裸を見せ付けてくるのだ。

 

 はっきり言って、研一には全く理解出来ない。

 

「……別に。青臭いガキじゃないんだし、男に裸の一つや二つ見られたって気にしないわよ」

 

 極力、何でもない事のように返すロザリーであったが、それが嘘なのは一目瞭然。

 

 羞恥の激しさを表すように顔は照れで赤みが差しているし、表情だって結構いっぱいいっぱいではあった。

 

 ――研一は目を逸らしていて、ロザリーの顔を見ていないので気付かなかったが。

 

「というかね、アンタこそ私に何か言いたい事ない訳?」

 

 それでもロザリーが羞恥を堪えてでも、ここまで捨て身で頑張っている理由の一つが研一への負い目だ。

 

「アンタがどれだけ陰で苦しんで頑張ってくれたかにも気付かず、毒を盛って殺そうとした女なのよ? それなのに、どうしてアンタは怒らず私の心配なんてしてんのよ」

 

 事情さえ解ってしまえば、どれだけ研一が自分達に気を遣ってくれていたか解るし。

 

 知らなかったとはいえ、失礼なんて言葉では片付けられないトンデモナイ事をしてしまったのかだって理解している。

 

 それこそ仕返しに殺されたって、仕方ないと感じてしまう程に。

 

「事情を話した時に言ったじゃないですか。恨まれるように振る舞っていたのは俺だし、自分の大事な人が傷付けられたって思って我慢出来なかったんですよね? そういう強さや迷いのなさに尊敬する事はあっても、恨む理由なんてないですよ」

 

 それなのに。

 

 こうやって怒りもせず、研一はロザリーを許したのだ。

 

「……本当、変なヤツよね」

 

 そうなると、ロザリーとしては何だか自分が細かい事ばかり気にしている小さな人間に見えて負けたような気がしたというか。

 

 けど、そのまま負けっ放しというのも何だか気に喰わなくて。

 

 それなら役に立って、借りを返さなければ気が済まなくなっていたのだ。

 

 ――勿論、半ばサーラ狂信者のロザリーである。

 

 サーラの真の願いが研一の役に立つ事だろうと推測出来ている事も、研一に協力する大きな理由ではあった。

 

「ほら、アンタは女狂いの変態救世主様なんでしょ? こうして綺麗どころ集まってる場所なんて、男が覗きに来るかもしれないんだからさ、せめて端っこでらしくない事するのは止めなさいよ」

 

 恥ずかしがったら負けだとばかりに、ロザリーは開き直って自らの裸を押し付けるように研一にしがみ付き――

 

 中央で水浴びをしているセンやマニュアルちゃんの所へ、無理やり連れて行こうとする。

 

「解かった! ちゃんと自分で歩くから! だから離してくれ!」

 

 いくらその手の感覚が壊れ気味とはいえ、それでも目の覚めるような美人に裸で抱き着かれるのは色々と恥ずかしい。

 

 研一はロザリーの手を振り払い、セン達の元へ自ら向かうのであった。

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