憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第四章 少女達の想い
第55話 小さくても女の争い


「うう、二人とも、凄く良い雰囲気……」

 

 研一とテレレが周囲に見せ付ける為に腕を絡め身を寄せ合う姿に、センは焦りを覚えていた。

 

 お互い演技だと割り切り、節度を保っている事くらい、センにも解っている。

 

 けれど――

 

(テレレさん、何かもう結構アレだもん! 後一押しすれば、絶対こう、本気になるもん!)

 

 かなり危ういところまで来ているというか。

 

 陥落寸前、秒読み間近というのがセンの見立てであった。

 

「ふふ、テレレはご主人様に対する態度というのを解っているですね。あのサーラとかいう無礼者に見習わせてやりたいのです」

 

 更にセンの精神を掻き乱す存在が、このマニュアルちゃんだ。

 

 言葉どおり、マニュアルちゃんはテレレと違って、女として研一を意識しているような感じではなく、そういう意味ではセンとしては安心しているのだが――

 

「こら、魔人。御主人様は久しぶりに人間との対話をお楽しみ中なのです。我等人外が邪魔するのは、よくないのです」

 

(何で私が研一さんにアプローチしようとすると邪魔ばかりしてくるのに、テレレさんやロザリーさん相手だと、嬉しそうなの!?)

 

 研一とテレレとの間に流れる良い雰囲気を何とか乱せないかと挟まりに行こうとすると、それを察して邪魔してくるのである。

 

 どうして自分だけ妨害されないといけないのか、訳が解らなかった。

 

「というか本当に何で!? 私、マニュアルちゃんに何か酷い事した!?」

 

 こういう事は指摘すると却って問題を大きくなる事が多く、だからこそあえて口に出す事はしてこなかったが――

 

 今回に限らず、出会ってからずっとマニュアルちゃんはセンへの敵意や対抗心を隠そうともしていない。

 

 さすがのセンも我慢の限界だった。

 

「何で? お前、何でと言ったのですか……」

 

 そんなセンの態度に、今度はマニュアルちゃんが怒りを露わにした。

 

 初めて見せる表情と声色に、センはビクリと身体を震わせる。

 

(こんな風に怒るんだ……)

 

 今までの敵意や対抗心なんてお遊びでしかなかったとばかりに、マニュアルちゃんは激しい憎悪を込めて、センを睨み付けていた。

 

 それは普段作り物みたいに表情が変わらないマニュアルちゃんからは想像出来ない、人目見るだけで怒りが伝わる表情であった。

 

「御主人様は自分を理解して話し相手になってくれる人間をずっとずっと、ずっと求めていたのです! だからこそ私を武器や防具でなく、人型で顕現させたのです!」

 

「え、と……」

 

 いきなりこんな事を言われたところで、センからすれば何の事だとしか思えないだろう。

 

 事実、センも戸惑うばかりで、どう反応すればいいか解らなかった。

 

「それなのに、どうしてその場所にお前が居るのです! 御主人様を理解して、御主人様の話し相手になって、御主人様に撫でてもらって、御主人様に抱き締めてもらえる人外は、私だけで十分だった筈なのです!」

 

(ああ、マニュアルちゃんも私と同じだったんだ……)

 

 けれど、そこでセンは理解する。

 

 マニュアルちゃんが研一を意識してないなんて思っていたのは、自分の勘違いでしかなかったのだと。

 

「それじゃあ私の価値は何なのですか! 何の為に私は人型として世界に生まれたのです! お前が居るのに、私が居る意味なんてあるのですか!」

 

 それこそ己の存在全てを賭してでも、マニュアルちゃんは研一に恋焦がれ、求めている。

 

 ただ、その気持ちを覆い隠してしまう程に、研一の役に立ちたいという想いが強過ぎただけ。

 

 ――それが男女としてのそれなのか、まではセンにも判断出来なかったのだけれど。

 

「……研一さんはマニュアルちゃんの事だって、私と同じくらい大事に思ってるよ」

 

(だって研一さんの目は、昔の彼女さんの事しか見えてないもの……)

 

 研一の彼女への想いを一度、読み取ってしまったセンだから知っている。

 

 確かに研一は優しいが、それは特別な相手に向けるモノとは違う。

 

 心の底から相手に何にも求めていないからこその、むしろ自分自身の心に誰も近付けさせない為の、応えてくれる事のない優しさなのだと。

 

「じゃあどうして、お前の方が可愛がって貰えるのです! 私だってもっともっと可愛がってほしいのです! もっともっと私を必要としてほしいのです!」

 

 けれど、センの言葉はマニュアルちゃんには納得出来ない。

 

 実際、センは気楽に頭を撫でられているし、過剰なくらいに心配だってされる。

 

 そんなセンの扱いに比べれば、マニュアルちゃんが自分は放っておかれていると思うのも仕方ないのかもしれない。

 

「それは――」

 

 単に自分が子ども扱いされているだけだ、と言うのは二重の意味でセンには憚られた。

 

 というのも、突然の修羅場に注目が集まり初めており、迂闊な事を言ってしまえば研一が自分達に手を出していない事がバレてしまうし。

 

 マニュアルちゃんの方が、自分よりも大人扱いされているだなんて言葉を、口に出して認める事は気分的に嫌である。

 

 ――ちなみに研一は、こんな幼い子達をここまで誑かした変態クズ男として、この修羅場を目撃した女性達からゴミのような目で現在進行形で見られている。

 

「誰も彼も私を邪魔物扱いしたのに、私なんて要らないなんて言われ続けたのに。御主人様だけが私を認めてくれたのです! 御主人様だけが、私を必要としてくれたのです!」

 

「…………」

 

 研一の、たった一人の特別になりたい。

 

 そんな気持ちが痛い程に解るセンとしては、何も言えず。

 

 マニュアルちゃんも言いたい事を叫び尽くしてしまったのか。

 

 二人の間に静寂が訪れる。

 

 一秒、二秒、三秒。

 

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