憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第66話 優しさには優しさを

「……ごめん。余計なお世話でしかない事だってのは解ってる」

 

 ゲスタブとの会話を終えた研一とテレレの二人は、研一のテントに戻っていた。

 

 圧倒的な力で魔物を倒し結果を出している研一は、現在では実質的にテレレに次ぐ立場の人間として扱われており、研一だけで専用のテントを用意されている。

 

 更に、仲間達用のテントが一つ特別にあるのだが、センとマニュアルちゃんは眠る時さえ研一と一緒に居たがるので、実質ロザリー専用のテントになっているのだが――

 

 雰囲気的に、これから大事な話をテレレとすると察したのだろう。

 

 テント内で研一の帰りを待っていたセン達は、すぐに場を譲るように移動し、テント内には、研一とテレレしか居なかった。

 

「一応、これでもある程度までは、先の事を考えたつもりではあったんだけど――」

 

(これ、絶対に怒っているよなあ……)

 

 ゲスタブのテントを出てからというもの、テレレは研一と一言も口を利いていない。

 

 さすがに演技がバレたら、元も子もないからか。

 

 研一専用のテントに入るまではテレレ自ら腕を組んで、仲良さそうに問題なく振る舞ってくれたものの、テントに入ってすぐに腕を振り解かれてしまっている。

 

 しかも、それから三分くらい経過しているが、ずっと無言で俯いているのだ。

 

 これで助けてやったんだから感謝されているなんて自惚れられる程、研一は楽観的な性格をしていない。

 

「先の事も考えた、ね。解ってるわよね? アナタのした事なんて、ただ問題を先延ばしにしただけなのよ?」

 

 ようやく無言だったテレレが声を発したが、顔を上げる事もせずに俯いたまま。

 

 押し殺したような色のない声からは、どのような感情を抱いているのかは研一には推し量れなかった。

 

「暫くはゲスタブどころか、誰も私には手を出せないでしょうね。でも、その後は? 君と私は子作りなんてしてない。当然、私のお腹は膨らんで来る事もないし、妊娠してない事なんてすぐにバレるわ」

 

「そうですね」

 

「その後の事も考えてるのよね? それとも可哀想な私を救ってやったんだ、なんて自己満足だけで終わりなの?」

 

「えーと、それはですね……」

 

 研一は僅かに言葉に迷う。

 

 というのも、確実な内容とは言い切れないからだ。

 

「魔族の脅威さえなければ、実はそこまで無理して、そこまで強い子どもを作る必要って、実この国にはないですよね?」

 

 その不安からだろう。

 

 一息に結末を告げられず、答えを誤魔化すように質問を質問で返してしまう。

 

「ええ。知能のない魔物なら、よっぽど群れで来ない限りは私が居なくても他の人達でも対処出来るし、いざとなったらテントなんて捨てて移動すればいいからね」

 

 テレレは声を荒げる事も無く、静かに研一の言葉に答える。

 

 相も変わらず顔も上げず、感情の読めない抑揚の薄い声色は何を考えているか解からない。

 

「だったら、時間さえ稼げれば、それで十分だと思ったんですよ」

 

「……どういう事?」

 

「その稼げた時間で、俺が魔王を倒してしまえば、それで解決ですから」

 

 魔族の脅威に対抗する為に、強い力を持った次代の党首が必要だというのならば――

 

 そもそも魔族の脅威がなくなればいい。

 

「考えたんですけどね、党首一人の戦力に寄り掛かっている今の状況が歪だと思うんですよね。テレレさんみたいな人が党首なら国としてはいいかもしれませんが、テレレさんみたいな優しい人だったら国の為の犠牲になっちゃいますし――」

 

「……」

 

「党首がゲスタブみたいなどうしようもない人間だったら、もうそれで国が滅茶苦茶になっちゃうじゃないですか」

 

「それで?」

 

「だから、とりあえず魔族との戦争を終わらせて、戦力を減らしても大丈夫な状態にしてですね。党首一人だけに頼り切りなドリュアス国の体制を変えていくべきだと思いまして――」

 

「そんな思い付きだけで、邪魔しに来たの?」

 

「いや、ほら、実際今のままじゃ党首に何かあったら、それだけで国が終わる訳じゃないですか。だから、その、ですね……」

 

 未だテレレは顔を上げようとせず。

 

 圧に負けたように、研一の声が言い訳でもしているように、しどろもどろになっていく。

 

「……ねえ。別に私がどうなったって、君には関係ないじゃない。それどころか、邪魔するのは無責任とまで言ったのよ? それでも、どうして来たの?」

 

 そこで初めてテレレが言葉以外に行動を起こす。

 

 研一の服の裾を摘まみ、何かを訴えかけるように返答を待つ。

 

「それこそ、お互い様の話じゃないですか」

 

 この問い掛けには、研一には迷う事なく答える事が出来た。

 

 研一があれだけはっきりと拒絶されたにも拘らず、テレレを助けたかった理由。

 

 そんな理由、たった一つしかないのだから。

 

「テレレさんからすれば、俺がどんな憎まれ方したってドリュアス国さえ守ってくれるなら何でもいい筈じゃないですか。それならまだるっこしい事せずに、俺に襲われたって言い触らして泣き真似でもしてれば一番手っ取り早い」

 

 解かり易く多くの人に極悪人だと認知してもらえるだろうし。

 

 何より嫉妬させる為に四六時中、イチャイチャを見せ付けるなんてやるよりは何倍も面倒が少なくて済む。

 

「それにゲスタブへの牽制みたいな事も言ってましたけど、本当にそれが一番の理由だったら、俺を拒絶してまでゲスタブの所に自分から行くのは筋が通らない」

 

 挙句の果てに、そこまで苦労してゲスタブを遠ざけたのに。

 

 ゲスタブが研一の仲間に手を出そうとすると言い出した途端、あっさりと研一達から離れて、ゲスタブの所に行こうとした。

 

「出会ったばかりの俺達を、ずっと守ろうとしてくれた。そんな優しい人が犠牲になろうとしてるのに、放っておける訳ないじゃないですか」

 

 終始、テレレの行動指針は研一達を守る為のモノだ。

 

 それに気付いていながら、無視して見殺しにするなんて研一に出来る訳がなかったのだ。

 

「余計な事をしてって、本気で私に恨まれるかもしれなかったのに?」

 

「はい。正直言うとですね――」

 

「うん」

 

「テレレさんが犠牲にならなきゃどうにもならない国なら、滅んでしまえばいいってのが本音です。というか、俺やゲスタブがどうしようもない奴だなんて解かり切っているのに、テレレさんを守ろうとしもしない奴等の未来なんて、俺からしたら知ったこっちゃないんですよ」

 

 そもそも研一からすれば、ドリュアス国の未来自体がどうでもいいのだ。

 

 そこまでしてテレレが守らなくちゃいけないものか、としか思えない。

 

「まあ、だから、アレです。それでもテレレさんが国の為に犠牲になろうって言うなら、気絶でもさせてサラマンドラ国にでも攫って行ってもいいかな、なんて思ってました」

 

 それでテレレに恨まれるというなら、それはもう仕方ない。

 

 少なくとも知らない百人や千人の為に、テレレが使い潰されていくのを見るくらいなら、その方が研一としてはマシ。

 

 そんな身勝手な独善に身を任せられるような人間だからこそ――

 

 研一は恋人の為に、この世界に来たのだから。

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