憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第71話 驚異の塵になる力

「嘘、だって……」

 

 研一に抱きかかえられた姿勢のまま、テレレが戸惑いを隠せない様子でジーンの方を見る。

 

 無理もないだろう。

 

 魂の揺らぎを見る事で、テレレは相手の嘘を見抜く事が出来る。

 

 騙される事なんてないと思っていたのに、完全にジーンに裏をかかれてしまったのだから。

 

「もし本当に心が全て読めるのならば、あのゲスタブという男が馬鹿な事をする前に処分するなり何なり出来たでしょう。だから、完全には心が読めないのか、何かしらの条件があるのだろうとは思っていました」

 

 戸惑い、混乱するテレレを置き去りに。

 

 ジーンはそれだけ呟いたかと思うと、塵のようになって消えていく。

 

 どうやら刺し貫かれて消滅したのではなく、そうやって姿を消す事がジーンの能力のようだった。

 

「くっ。その状態で攻撃出来んのかよ!」

 

「アナタ達には嫌がらせ程度の効果しかないみたいですけどね。とはいえ、だからこそ私を逃がせないでしょう?」

 

 そして、ただ姿を消すだけではない。

 

 その状態でも多少ならば攻撃能力を持っているらしく、研一の身体に掠り傷とも言い難い赤く細い線が走っていく。

 

(ああ、お前をセンちゃん達の元に行かせられねえ!)

 

 研一は救世主であり、スキルの効果で一般人とは比べ物にならない程の防御力を持っている。

 

 その研一の皮膚をほんの僅かとはいえ、傷付けられるのだ。

 

 普通の人間。

 

 例えばセンくらいの強さしか持たない者なら、細切れにする事くらい訳ないだろう。

 

 ――ちなみにテレレも現在の研一程度の防御力はあるのだが、研一に抱え込むようにして守られているので、怪我一つしていない。

 

「テレレ! 敵がどこに居るか解かるか!」

 

 この手の敵は姿を消しているだけか。

 

 あるいは、核みたいな物を撃ち抜けば倒せるだろうと思い、テレレの魂を見る能力ならばジーンの居場所が解かるんじゃないかと思い、尋ねる研一であったが――

 

(う、嘘。どこに居るの?)

 

 テレレの魂を見る能力は、一定以上の大きさのある者にしか通用しない。

 

 空気中に漂う微生物の魂までは見えないように。

 

 そして、運が悪い事にジーンの能力は自らを塵のように細かくした状態で自由自在に動ける効果であり――

 

 そこまで細切れの状態では、テレレの能力の対象外になってしまうからだ。

 

「おや、完全に姿や気配を消せる魔族すら容易く葬ってきたドリュアス国の党首様も、私の場所は解からないのですか。これは嬉しい誤算です」

 

 ジーンが不意討ちで真っ先にテレレを狙った理由。

 

 それは、テレレならば自分の位置を把握出来ると思っての事だったのだが、それが出来ないと知り、嬉しそうな声を上げる。

 

「そういえば私がドリュアス国の魔法を手に入れていないという嘘は見破られたのに、先程の不意討ちは解かっていなかったようでしたね。どのような能力なのでしょうか。とても興味深いところですね」

 

 攻撃を続けながら、ジーンは語り掛けるでもなく独り言のように言葉を紡いでいく。

 

 どうやらジーン自身、どうやってテレレを騙せたのか全く解かっていないらしい。

 

 というのも今回の件は偶然が多く重なっていたからだ。

 

(私の方が聞きたい! 何で! 何が起きてるの!)

 

 実はテレレの不意討ちは完璧に決まっており、ジーン自身、本気で驚いていたのだ。

 

 ただジーンは、その能力の影響か。

 

 身体の何割かを消し飛ばさない限りは死なないという特性を持っており、どれだけ斬ろうが貫かれようが痛いだけなのだ。

 

 本気で痛がり苦しんだ上で、能力を使って細切れになった事でテレレの能力の対象から外れ、視界から消えた。

 

 だからこそ、テレレもジーンは死んだものだと思い込んでしまったのだ。

 

「痛っ」

 

 テレレが悩んでいる間も、ジーンの攻撃は続いていた。

 

 打開策も見当たらず、ただテレレを抱えて逃げ回っていた研一であったが、偶々、皮膚の薄い場所にでも当たったのだろう。

 

 額が切れたらしく、抱え込んでいるテレレの顔に血が掛かる。

 

(どうしようどうしようどうしよう!?)

 

 研一の傷付く姿を見て、テレレの混乱は更に激しさを増していく。

 

 騙される形で不意討ちを受けたのはテレレからすれば、初めての事であり――

 

 ましてや初めて出来た友達の前で、ちょっと恰好良いところを見せようとした上での失態。

 

 おまけに頼ってもらっているにも関わらず、自分の能力が全く役に立たないのだ。

 

 落ち着ける理由が全くない。

 

(いつもいつも見たくもない物ばっかり見せる癖に、何でこんな時に使えないのよ!)

 

 自分が抱えられている事すら忘れて、挽回しようと必死で頭を回転させようとするが、何とかしないという想いばかりだけが募っていく。

 

「なんだ。結構、テレレも普通のところあるんだな」

 

 そんなテレレの姿に、研一は戦いの最中だというのに微笑んだ。

 

 まるで食事時での会話でも想像させるような自然な笑み。

 

 けれど――

 

(君は、本当に優し過ぎるよ……)

 

 どれだけ表情を取り繕うと、魂が見えるテレレの目は誤魔化せない。

 

 本当は仲間達がどうなっているか心配で、今すぐにでも助けに行きたいのだ。

 

(そんな気持ちも全部押し殺して、私を守ろうとしてくれてる)

 

 凄い人だと、本気でテレレは思った。

 

 その瞬間、一気に混乱していた頭が落ち着きを取り戻していく。

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