憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第74話 テレレの気持ち

「痩せ我慢でもしてたの?」

 

 ジーンを倒してから一時間後。

 

 救世主の為に用意されたテントの中。

 

 研一はうつ伏せに寝かされ、テレレの治療を受けていた。

 

「骨、折れてるわよ」

 

 どうやらジーンが自身の腕が折れて消滅してしまう程の勢いで放った攻撃は、その反動に見合うだけのダメージを、研一に与えていたらしい。

 

 研一の背骨は、折れるというか完全に砕け散っていた。

 

 ――と言っても、四肢欠損でさえすぐに治療出来れば治せない事もないらしく、このくらいの怪我なら一晩もすればドリュアスの治癒師が居れば、割とどうとでもなるのだが。

 

「いや、何かサーラからの敵意が薄れた途端、急に身体が痛くなったというか――」

 

 研一としても痩せ我慢をしていたつもりなんて、一切ない。

 

 ただ、落ち着いてきたら激痛が身体中を駆け巡り、意識を失ってしまったのだ。

 

(アレか? 最大HPが千ある時の五十のダメージは大したダメージに感じないけど、最大HPが百の時の五十ダメージだと大きくなるみたいな……)

 

 大体、研一の推測通りであった。

 

 強化されたままなら掠り傷どころか、単に皮膚が赤くなった程度で済んでいたダメージだったのだろうが、攻撃を受けてすぐに強化が解除されてしまった為に、本来に近いダメージに換算されてしまったのである。

 

 ――もうちょっと強化が続いていれば、特に問題もなかっただろう。

 

「今からサーラにでも恨まれてみる?」

 

 薬が持つ鎮痛効果で、痛みこそ消せているものの。

 

 マトモに動ける程度まで回復させるとなると、いくらドリュアス国の薬が異世界でも特別な治癒効果を持っているとはいえ、一晩以上は掛かりそうだった。

 

「外で見張りをしてくれているサーラに聞こえるように、淫らな声の十や二十くらい上げてみせるけど?」

 

「……やめてくれ。ただでさえ御礼も言えなくて申し訳ないのに、これ以上怒らせるような事して、疲れさせたくない」

 

「それで痛みも無くなって怪我が治るかもしれないのに?」

 

「今は敵も居ないみたいだからな。お姫様を傷付けてまで急ぐ必要なんてないだろ」

 

「優しいんだ」

 

「……単に申し訳なさ過ぎるだけだよ」

 

 シャロンの足が動かなくなった件で、サーラからはアナタを好きだと思ったのは気の迷いだったと言われ、見下げ果てたとすら言われている。

 

 それでもサラマンドラ国の復興やら公務やらで忙しいだろうに、必死で駆け付けてくれて仲間を守ってくれたのに。

 

(御礼の一つも禄に言えてないからな……)

 

 今回の件で研一は自分に敵意を向けてくれるのは、現状ではサーラが一番だと実感していた。

 

 それならば、今後の為にもサーラの前では嫌われる自分を演じ続けようと心に決めている。

 

「そういえば気になってたんだけどさ」

 

「何?」

 

「お姫様が来てたって気付いてたのか?」

 

 ジーンとの戦いを思い返せば、テレレの行動には違和感が多かった。

 

 あの場面では自己嫌悪でも何でも使ってジーンを倒す事こそ、最優先すべき事態であり、あそこで研一を止める理由なんてない筈だ。

 

「……ええ。気付いていたわ」

 

「まあ、そうだよな。そうじゃなきゃ、どっちも殺されてたしな」

 

「そうね」

 

 研一の言葉にテレレは、嘘は言わなかった。

 

 けれど――

 

(サーラが来ている事を知っているからって、サーラが私達を見てどう思うかなんて、私にだって解からないわよ)

 

 研一が本当に知りたかった事に気付いていながら、それも伝えない。

 

 アレは二人とも助かる見込みがあった上での策略だったのかなんて疑問に、真実を答える訳には、いかないのだから。

 

(あんな自分で自分の魂を壊そうとするような事を眼の前でされて、放っておける訳ないじゃない……)

 

 研一は自己嫌悪なんて軽い言葉を使っていたが、魂の見えるテレレに見えた光景は、そんな生易しいものではなかった。

 

 深い傷の痛みに泣いて苦しみながら。

 

 その上で更に自分の手で傷口に手を突っ込み、抉り掻き回していくような自傷行為。

 

(あの時の私は、ドリュアスの党首の私じゃなかった……)

 

 ただ自分を傷付けようとする研一を見ていられなくて。

 

 思わず頬に手が伸びていた。

 

 その傷付いた魂を癒したいと、気付いたら頬を舐めていて。

 

 そこにはあの場を切り抜ける為の策略も見通しも一切なかった。

 

(本当に、驚いたんだから)

 

 だからジーンがあんなに至近距離に居たのは、テレレにだって想定外だったのだ。

 

 そして、咄嗟に研一がテレレを背中で庇ったが――

 

 研一が動くのが少しでも遅ければ、テレレは魔力で自らの身体を無理やり動かして、ジーンの攻撃に飛び込んでいただろう。

 

 それ以外にどちらか片方だけでも確実に助かる道なんて、他になかったのだから。

 

(本気で、大馬鹿だって思ったんだから)

 

 サーラからの敵意が強過ぎた上に、一瞬だったから気付けなかったテレレの心の底から放たれた研一への怒り。

 

 これがなければ、あるいは研一は助かってなかったかもしれない。

 

「痛っ! 何か急に痛みが! ちょっ、なんか薬の効果落ちてきてるみたいなんだけど!」

 

 色々と思い出して少し意地悪したくなったテレレは、薬の鎮痛効果だけを弱める。

 

 ドリュアス最高の魔法使いであるテレレだからこそ出来る、無駄に洗練された無駄過ぎる魔法技術であった。

 

「そう? けど、あの子達が池の水を汲んできてくれるまで待ってくれる? あの水がないと、このレベルの怪我の治療薬は、すぐには作れないの」

 

「もっと常備とかしといて――」

 

「そんな高い効能をもった薬、保存なんて出来る訳ないじゃない。薬の材料をドリュアスの魔法で精製して、その場で使い切りよ」

 

 だからこそ、テレレが付きっ切りで研一の治療を行っているのだ。

 

 そして、材料も新鮮でなければ効果が薄れてしまう為、セン達が材料となる水を汲みに行ってくれている最中であった。

 

 ――一国の党首であるサーラを使いっ走りにするのは、さすがに躊躇われた。

 

「さすがに異世界産でも、そこまで便利な薬はないかあ……」

 

「へえ。薬は私達の世界の方が高性能なんだ。何か見た事も無い凄い服着てるし、そっちの世界の方が凄い物あると思ってたわ」

 

 魔族の奇襲を退け、その大将であるジーンも倒し。

 

 全て終わったと思っていたからこそ、二人は気を抜いていた。

 

 けれど――

 

「テレレ! 何かおかしい!」

 

 急に研一の身体に力が漲ってくる。

 

 あまりに強大な敵意が流れ込んできたのだろう。

 

 魔力や身体能力に加えて、治癒能力まで大きく向上したのか。

 

 ドリュアスの薬を用いても、一晩は掛かる筈だった怪我が急激に回復していく。

 

「あっちだ! あっちの方から、何か物凄い敵意が流れ込んできてる!」

 

 スキルの効果で方角だけは解かる研一に理解出来るのは、誰から敵意が向けられているかではなく、どの方角から敵意が来ているかだけ。

 

 そして、それはテントの入り口で見張りをしてくれているサーラの居る場所ではなかった。

 

「そっちにあるのなんて――」

 

 そこで言葉を止めたテレレは、治療の手を止めると慌てた様子で動き始める。

 

 とてもマズい事に気付いてしまったとばかりに。

 

 果たして――

 

「あの子達が水を汲みに行っている池! ジーンとかいう魔族と戦った場所!」

 

 テレレの口から告げられたのは、最悪の予想であった。

第六章でこの中で言いたい事があれば

  • テレレ可愛いかった
  • サーラ不憫過ぎない?
  • ジーンの倒され方が滑稽だった
  • これから何が起きるんです?
  • テレレの知略に驚いた
  • 研一頑張ってた
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