憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第84話 研一、本気で切れる

「テレレ様にそれ以上近付くな!」

 

 怒りの声と共に、石ころが研一の顔面に飛んできた。

 

 手加減どころか最大級の殺意が込められた投石であったが、スキルで強化されている研一には、掠り傷の一つも付けられない。

 

 当たった石が、粉々に砕け散っただけであった。

 

「はは、いいじゃねえか、ガキ! 生意気な女はガキであっても大好物だぜ!」

 

 石を研一に投げ付けたのは、センと同じくらいの年頃の少女であった。

 

 全くダメージを与えられなかった事なんて気にも留めず、テレレを庇うように立ち塞がると、更に追撃でも仕掛けようとしているのか、次弾を構えていた。

 

(あの子は――)

 

 その少女に、テレレは心当たりがあった。

 

 かつて、ゲスタブに犯されそうになっているところを、テレレが助けた少女であった。

 

「気に入った、テレレだけじゃねえ。お前も連れて帰ってやるかな」

 

「ひっ!」

 

 悪人面で近寄ってくる研一の姿に、ゲスタブに襲われ掛けた時の事を思い出してしまったのだろう。

 

 少女は投げようとした石を落として、恐怖に身を震わせる。

 

 ――それでも、少女はテレレを庇うように立ったまま、決して動かない。

 

「い、一体何を考えてるんですか!」

 

 呆気に取られていたサーラであったが、さすがにこの蛮行を黙って見過ごせない。

 

 きっと何か考えがあるだろうとは今でも信じていたが、それでも小さい子相手に大してやり過ぎにしか思えなくて。

 

 慌てて研一を止めようと動き出す。

 

 けれど――

 

「うるせえ、邪魔してんじゃねえよ!」

 

 研一が腕を振ると、衝撃波が発生してサーラを吹き飛ばす。

 

 見た目こそ派手で大ダメージを与えたように見えるが、死に掛けだったゲスタブが喰らっても生きていたところから解かる通り、大した威力はなかったのだが――

 

(え? 研一が私を殴った)

 

 暴言を吐く事はあっても、手を上げる事はしてこなかった研一が初めて手を上げた。

 

 その事への驚きと戸惑いに、サーラは吹き飛ばされた姿勢のまま、動かない。

 

「ちょっと! サーラ様に手を出さないでよ!」

 

「……ああ、悪い悪い。あまりに鬱陶しいもんだから、つい、手が出ちまった」

 

 悪党みたいな会話を交わすロザリーと研一であったが――

 

 その陰で研一がロザリーに、目線だけで合図を送る。

 

 それは事前に取り決めていた作戦、この隙にサーラを薬で眠らせてくれという指示を実行に移す事であった。

 

「……サーラ様、一生のお願いです。気絶した振りをして黙っていてください」

 

 研一の指示に従い、サーラの元に向かったロザリーは、研一に聞こえないように、そんな事を小声でサーラにお願いする。

 

 研一のこれからの計画からすれば、ここでサーラが倒れてくれないと少々困った事になるからだ。

 

「……」

 

 サーラは何も訊かずに頷くと、気絶している振りをする事にした。

 

 こんな蛮行を見せられても、研一とロザリーの事を信じていたからだ。

 

「小うるせえ、お姫様も黙らせたところで続きと行こうじゃねえか」

 

 ロザリーからサーラが意識を失ったという合図を受けた研一は、計画を次の段階に進めようと動き出していく。

 

「別に俺もさ、テレレだけを連れて行こうって話をしたいんじゃねえんだ。さっきのガキみたいに泣かせたら面白そうな連中は、皆連れて行ってやろうって思ってる。俺は慈悲深いからな」

 

「じ、慈悲?」

 

 そこであまりにも突然の事態の連続に、本当に何が起きているのか把握し切れずに動けなかったドリュアス国の人間が、ようやく我を取り戻したように反応する。

 

 というのも、今の今まで目の前の出来事全てが夢か何かとしか思えず、実感が出来ていなかったのだ。

 

 それ程までにドリュアスで生きてきた者に取って、テレレは絶対的な強者として君臨しており、救世主に好き放題に弄ばれたなんて、悪い冗談以外に感じなかったのだ。

 

 ――それこそ研一との出会いの時でさえ、手玉に取っていた印象が強いだけに余計に。

 

「頭の鈍い連中しか居ねえのか。罠も結界も全部破壊された挙句に、魔族に国の場所までバレてんだぜ? もうこんな国、滅ぶまで秒読みじゃねえか」

 

 ドリュアスが大した軍事力を持たずに、それでも魔族に蹂躙される事無く存続出来たのは、影の国とまで呼ばれる事がある秘匿性の高さこそが最大の理由だ。

 

 だが、その優位性は失われた。

 

 そんな事も解かっていないのかと嘲るように笑って、更に研一は話を続けていく。

 

「さすがにそれで皆殺しなんて目に遭ったら可哀想だからな。慈悲深い俺様は、希望する女は全員、肉奴隷として飼ってやってもいいって言ってんだよ」

 

「あら、じゃあ男は見捨てるのね」

 

 そこまで話したところで、ロザリーが研一の元に戻ってくる。

 

 勿論、研一のこの茶番の補助をする為に。

 

「男も希望者は奴隷の世話をする為に連れて行ってやってもいいぜ? 俺が使い終わった後に綺麗に処理してくれる奴は要るからな」

 

「本当、救世主様は優しいわね。無価値の役立たずに、わざわざ仕事を作ってまで引き取ってあげようとするなんて」

 

「これで自分達の状況は理解出来ただろ? さっさと俺に女を差し出せよ。それとも能天気に魔族に滅ぼされるのを待ってる馬鹿しか居ねえのか?」

 

 そこまで言うと、研一は反応を窺うように周囲を見渡す。

 

 それは一見すると冷静に民の反応を待っているように見えたが――

 

(何で! 何を研一は、そんなに怒ってるの!?)

 

 魂が見えるテレレだけは、気付いていた。

 

 子どもに石を投げ付けられた辺りからだろうか。

 

 研一の魂は激しい怒りに荒れ狂っていた。

 

 マニュアルちゃんを失って、ゲスタブを痛め付けようとしていた時と同じくらいの苛烈さであり――

 

 それこそ、今すぐにでもこの場の全員を叩きのめしてもおかしくないくらいに。

 

(そもそも何で、こんな方法で私を連れ出そうとしてるの! もっといくらでも穏便な方法だってあったじゃない!)

 

 一番解からない事は、テレレを連れて行きたいだけなら、この茶番は何なのかという事だ。

 

 確かにテレレはドリュアスなんて捨てて、生きていこうとは思っていたのは事実だろう。

 

 だからって、国そのものが滅びていいなんて思っていない。

 

 むしろ自分が居なくなった後も、出来れば元気に過ごして欲しいと思っていたからこそ、サーラを連れて研一が現れた時は後任の事も考えてくれたのかと喜んだだけに――

 

 この展開は、どういう気持ちで見ていればいいのか解からない。

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