憎まれた世界の果てに   作:お米うまい

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第二章 お嬢様の恋
第93話 擦れ違いは恋の始まり


「おーほっほっほ! 救援の要請に応えて頂き、感謝の言葉もございませんわ!」

 

 準備を済ませて転送陣を用いてマキーナ国に辿り着いた研一を待っていたのは、国の党首であるマキ・マキーナの高笑いであった。

 

 典型的なお嬢様口調に加えて、口元に手を当てて笑う姿は、もう狙ってキャラを作っているようにしか見えない。

 

(けど、口調の割には、お嬢様っぽい恰好じゃないんだ……)

 

 ちょっとウェーブの掛かった金髪が目を惹く、国の党首という割には随分と若く見える女であった。

 

 見た目だけなら年齢は二十にすら達していないように見えるが、それ以上に研一が気になったのは服装である。

 

 レオタードでも思い浮かばせるようなピッチリした素材で全身を覆っており、ほとんど露出こそないものの身体の線が強調されて――

 

 それが肌を見せるのとは違う、独特の艶やかさを生んでいた。

 

(……サーラやテレレは魔法使いだから露出多かったけど、マキは違うのかな?)

 

 だが、研一はピチピチに強調されたマキの肌よりも、その服装の意味の方が気に掛かった。

 

 最低限の布で要所を隠していただけのサーラや、植物で出来た服を着ていたテレレに比べると、随分と装いが違うように見える。

 

「ああ、この恰好ですの? 私は魔法は不得手なものでして。それでしたら最初から魔法を使う選択は捨てて、魔力を弾く素材を身に纏っていた方が効率的だと思いません事?」

 

 研一の訝しむ視線の意図を正確に把握したのだろう。

 

 邪な目で見られているという誤解をする事も無く、マキは自らの姿の合理性を説く。

 

「それとも異世界の救世主様も、頭の固い時代遅れの御老体の方みたいに、国の党首を名乗るなら魔法使いらしい恰好をしろとでも、お言いになりますか?」

 

「そういう小難しい事なんてどうでもいいんだよ。それよりもエロイ恰好してるって事の方が、男としては大事だからな」

 

「……えっと?」

 

 マキが何を言われたのか解からないとばかりに、目を瞬かせる。

 

 これは研一からの突然のセクハラ発言に、不快感を覚えたからではない。

 

(これはもしかして私、アプローチされてますの!?)

 

 幼少時代から親から死ぬ事を願われていたマキは他者との交流がほとんどなかった上に、その人生を今の地位に就く為に費やしてきている。

 

 マトモに話した年齢の近い異性なんて、研一が初めてだと言っていい状況だった。

 

(え、だって、私。マトモに魔法の一つも使えないんですのよ!?)

 

 おまけに王の娘であったにも関わらずぞんざいな扱いをされていたところから解かるように、マキーナ国では魔力の大きさで人の価値を決める傾向が強い。

 

 言ってしまえばマキーナ国でのマキは、異性にモテる要素がない女扱いを受けており、本人もその価値観に慣れ切っていて自分が男性に迫られる事なんてないと思っており――

 

(私みたいな女にそんな見え透いたお世辞を言うなんて、何が狙いなんですの!?)

 

 研一の言葉には絶対に何か裏がある筈。

 

 国を担う党首として、おべっかを真に受けて浮かれる訳には、いかないとばかりにマキは自身に喝を入れる。

 

(やっぱり国の未来に関わる話で呼び出したのに、こんな軽薄な事言い出すヤツなんて嫌になるよな)

 

 だが、その辺の事情を知らない研一からしてみると、戸惑って何も話せなくなっているマキの姿は、突然のセクハラ発言に呆れて物も言えなくなっているようにしか見えない。

 

 ――マキが疑心暗鬼に陥り、その悪感情で研一の力が増しているのも、研一の誤解に拍車を掛けていた。

 

「おいおい、わざわざ俺を呼んだって事は噂くらいは聞いてんだろ? 俺に助けてほしいなら魅力的な女を差し出せってな」

 

 ここで更にマキに嫌われるべく、研一は畳み掛けていく。

 

 適切な距離感なんて知るかとばかりにマキに近付くと、威圧するように顔を近付けた。

 

「もも、勿論ですわ」

 

(ち、近い! 近過ぎますの!)

 

「サラマンドラ国を襲った魔族の軍を一人で打ち倒し、ドリュアス国では敵の大将を討ち取ったと聞いています。噂に名高い救世主様のお相手して頂けるなら、と多くの希望者が既に集まって――」

 

 マキーナ国で魔力が高い者が評価されるのは、女だけの話ではない。

 

 むしろ女に比べると魔力が高い者が生まれ難い男の方が評価される傾向が強く――

 

 救世主の名に相応しい絶大な力を持つ研一が女癖が悪いという噂は、逆に魅力を引き立てるステータスにしかなっていなかった。

 

「おいおい。解かってて、はぐらかしてんのかよ」

 

「は、はい?」

 

「国の一大事を救ってやろうってのに、女を好きにするだけで済ませてやろうってんだぜ? それに見合った女に相手してもらうのが当然だろ?」

 

「ですから国一番と名高い魔力を持つ――」

 

「そんな有象無象なんて興味ねえんだよ。てめぇを抱かせろ。それだけでこの国に迫ってきてる魔族なんて、全員ぶちのめしてやろうじゃねえか」

 

 つまり研一の行動は、マキーナ国の価値観で言えば――

 

 押しも押されぬ大スターが、誰からも見向きもされてなかった女に国の未来を盾にしてでも、お前が欲しいと迫っている場面であった。

 

「ほ、ほわぁーー!!」

 

(これが異世界の殿方ですの! 情熱的にも程がありますわ!)

 

 そして、マキは割と夢見がちな部分があるというか。

 

 いわゆる白馬の王子様に乱暴に攫っていってほしいみたいな願望を抱いているタイプの女であり、この状況はむしろ夢見た理想そのものの状況と言っても過言ではない。

 

(いけませんわ、マキ! 今は国の未来を担う大事な時! 一時の気持ちに流されてしまう訳には、いきませんの!)

 

 それでも党首として話し合いをしなければならないという想い。

 

 そして、とある事情から研一の誘惑を跳ね除けようとするマキであったが――

 

「何がほわぁだ。ぶりっ子ぶってんじゃねえぞ」

 

 マキの反応を一気に嫌われる好機だと誤解した研一が、ここが攻め時だとばかりに更に迫っていく。

 

「そんな男を誘っているとしか思えねえ卑猥な恰好見せられて、こっちはもう我慢なんて出来ねえんだよ。その綺麗な顔がぐちゃぐちゃになるくらい犯してやらねえと気が済まねえ。全部、そんな恰好で俺を誘惑するてめぇが悪いんだぜ」

 

「はわわ……」

 

「今すぐ選べ。国を見捨てるか。俺に身体を差し出すか」

 

 研一はそれだけ告げると、真っ赤な顔で涙目になっているマキの顎に手を当てると――

 

 逃がさないとばかりに顎をクイっと軽く持ち上げて、真っ直ぐにマキの目を睨んだ。




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