連日10万人超の新規感染者を出し続けながら、選挙の対立候補を罵ることしかしない大統領って。
さすがに、ダメじゃなかろうか。
それでも血気盛んな信者はついてくる。
国内外の有色人種に何もかもくれてやるつもりの肚黒いリベラルどもへ、自分たちの故郷を明け渡してはならないと。そりゃもう必死だ。
敵の方が知能の高いことは認めていて、対話を始めたら丸めこまれると用心している。だからセイレーンと戦うのごとく耳を塞いで立ち向かい、寄らば撃つ。撃ちてし止まむ。
わかりあえるはずなどない。
そもそも民主党が何を遺した。人類みな兄弟と甘い念仏唱えるばかりで却ってテロリストを増やし、際限なくつけあがらせた。
誰だって幸福に生きる権利はある。
白人の命だって尊重するべきだ。それを踏みにじるテロリストどもをゆるすわけにはいかず、かれらにかしづく売国奴にも鉄槌を下さねばならぬ。
呑みこまれる前に勝利せよ。ドナルド大統領よ、導いてください。私たちに命令してください。
悪魔を、薙ぎ払えと。
偉大なるアメリカを取り戻せと。
共和党員および支持者が完全に一丸となっているわけではない。共和党員であってもドナルドを敬遠する諸派は、さすがにもう少し冷静なコメントを出している。
しかし今度の選挙では世情とかけ離れた結果があまりにも頻出し、民主党がこの陰謀に関与していることは疑いえないので、正しく調査され糾されるべき点は糾すべきだと、強く結束するわけである。
民主党員および支持者には血腥い暴力を蛇蝎のごとく忌み嫌う信者が多い。したがって生まれてから一度も物理的な暴力と接した経験がないので、どの程度の苦痛を伴うものか想像もつかない。
純真無垢で善良な自分たちに危害を加える暴徒が存在するらしいですわ。私たちで法律を整備して正当性を明らかにしておきませんと。人間は間違いやすいものなので、あとは機械にまかせましょう。
静寂がおとずれました。
ああ、よかった。やっぱり平和がなによりですね。
1週間かかって全州の開票作業が終了したらしい。そこで一部のメディアが、あらためて民主党ジョセフ・ロビネット候補の勝利確定を報じた。
おいおい、まちたまえ。再集計してる最中の自治体がまだいくつあるか知っているのか。輸送中の散逸や、保管中のすり替えだって、続々と発表されているんだぜ。
民主主義の手本を示すべきアメリカで、こんな投票を有効にしていいはずがない。やりなおせ。もう一度、政府がしっかり監視している中で、大統領選挙をやりなおすんだ。
来年1月20日の就任式まで時間がないぞ。
多少手荒な手段をとってでも、我々は民主主義を完遂せねばならないのだ。
偏向の甚だしい媒体は激しいバッシングにさらされ、悔い改める態度が示せなければ襲撃された。
廃墟と化した現場には、無数のドローンと尊いアメリカ人の遺体が散らばっていることが多い。
テロリストたちめ、なんてことをしやがる。
捜査員たちは苦悶をにじませる。
まだ大統領であるドナルドよ、ロビネット叩きはもういいから、国をまとめろ。悪と戦いたい同胞たちに共通の敵を指し示すんだ。
それが大統領の仕事だろう。
「銃と、それ以上に防弾チョッキや装甲車、シェルター設備の特需が始まって、株価が空前絶後の上昇を毎日更新しているところだよ。
ドナルドも、これこそ自分の功績だと胸を張ればいいのにね」
内戦、までは達してない感じですか?
「ディヴィジョンとは言っているが、シビルウォーとは呼ばないだろうな。
それを認めちゃったら地獄の窯がひらく。
CIAはアフリカやアジアで政変を起こさせてからの民主主義政権樹立というノウハウを豊富に持っているんだが、自国内でやるとなると失敗がゆるされないから、ずいぶん慎重なようだ」
準備期間も関係しているのでは?
よその国で傀儡政権をつくるときは、アメリカに逆らわない大統領と側近をしっかり育ててから始めるものでしょう。
今回の国内暴動は計画的だったとは思いにくいし、ドナルドもロビネットもCIAがつくりこんだ人材という印象を受けないんですけど。
「たしかにそれもあるな。
ジョバンニどうした、今日はやけに冴えてるじゃないか」
秋のはじめに朝鮮史を読んでたんですけど、韓国の初代大統領ってそんなだったなあと思って。
「ああ、あの本か。
僕も読ませてもらったが、翻訳版はヤポでも売れるようにと、ずいぶん遠慮しながら語っているように感じた。
ハングルを学べば、もっと刺激的な本をいっぱい読めるようになるぞ」
あれよりもっと過激な本が、半島ではさぞかしたくさん出版されているんでしょうねえ。
ところでアメリカですけど、次期大統領はロビネットで決まりですか?
それとも本統に選挙のやりなおしをしちゃいそうですか?
「完全武装しなきゃ出歩けない今のUSで再投票するとしたら、郵便かネットにますます頼らざるをえないから、やらないんじゃないかな。
選挙人の獲得数は、ロビネット306対ドナルド232だ。
共和党がよほど頑張れば覆るかもしれないが、民主党の私設攻殻機動隊だってなかなか手強いぞ。これ以上有権者数を減らして国力を損なわせようとは、どっちも思わないはずだ。
なのでこのまま、1月20日にロビネットが就任すると僕は見ている」
その言い方だと、カモリスタによっては違う意見もありそうだな……
ともあれ、政権が交代すればWHOへ再加盟となって、ワクチン技術は広く世界に開放されるという展開へ進みますよね。
「そこはまだ揉めてるし、時期も含めて読みきれないねえ。
ちなみにワクチン配分が完全にWHO主導となった場合、ヤポへの割当ては最低でも1年以上先になる。喜べ」
え、なんでですか。
日本はWHOに加盟してるでしょう。
「感染者数・死者数とも極めて少ないと、検査しないことによって数字を稼いで自慢してるじゃないか。
最大の死者を出しているUSや、スラム街を多く抱えてクラスターを防ぐ手段を持っていない小国などが優先されるべきであり、ヤポはWHOへカネを貢ぐ係だけを担当すればいいんだよ今迄通り。
ま、オリンピックをあくまでやる気なら、その必要分くらいは回してもらえるかもだがね」
面白くないなあ。
もしドナルドが普通に勝ってたら、日本はアメリカからワクチンを分けてもらえるわけですよね?
「代金さえ払えば、USがヤポへ売らない理由は無いだろうね。
足もとは見るだろうが、WHOへのあてつけを誇示する意味でも、ヤポみたいな国をこそ厚遇してやることだろう」
ああ。それも面白くない。
日本が自前でワクチンをつくれないからこんなことになるのか。
「言っておくが、レシピをもらったところでメッセンジャーRNAを合成できるナノテク精密工場なんてヤポは持っていないからな。
INやZAならすぐに手順書どおり造ることができる。だから特許権の縛りだけ外させるんだ。
ここまでの流れすら理解できてなかったんなら、もうワクチンの話題に首をつっこんでくるな」
INはインドで、ZAは南アフリカ共和国だそうだ。
あれ?
日本は技術立国ではなかったか。
なにかがおかしい。
ありえないギャップを前に、俺の思考は停止する。
「分断でも内戦でもいいが、USはいま未曾有のカオス状態にある。
4年に一度の政権交代期だから国防に隙ができることはわかっていたが、covid-19という大災厄、そして4年間のドナルド政権がもたらしてくれた破壊衝動の肯定感。これほどの好条件が重なるからには、じっとしていられるわけもないよなあ。
それにしても大規模すぎる。エージェント同士の衝突も起きているよ。
誰かに交通整理をしてもらいたいところだね」
さっきから何をブツブツ。
アメリカに世界中からテロリストが集まっていて、渋滞でも起こしてるって話ですか?
「まさしくその通り。
カモッラはUSでもコーディネーター業をやっているから割合に全体情況を把握しやすいんだが、ライヴァルも多くてね。
とくにヴェンチャーは逸って無茶をしがちなものだよ。
都会は参入障壁が高いからっていきなりハンフォードへ飛びこんでゴミ漁りしてるやつらまでいる」
はあ。ゴミ漁りというなら、東京は浮浪者が多くなってから却ってゴミが減りましたね。
以前は汚いマスクがあちこち散乱していたけど、ホームレスはどんなものでも拾っていくから、すっかり綺麗だ。
「ずいぶん庶民的な話題で混ぜ返してくれるじゃないか。
……ほう。
こいつらの戦略はユニークだ。ヤポでもILでもこの手は使えるな。しかも安全性が高い」
日本で安全?
気になるな。
そっとしておこう。
放っておけば、エヴァンズは勝手につぶやき始めるから。
「対象国への武器搬入で皆苦労してるし失敗談も多いんだが、この連中は現地調達を基本にしている。むしろ、大量破壊兵器を持たない地域はターゲットに選ばないそうだ。
手ぶらで潜入し、専門分野である原子力施設を徹底的に調査する。
鍵や暗号はすべて職員から手に入れる。
施設内の備品だけを使って、その施設の脆弱点、ここの場合は原子炉に致命的な損傷を与えて立ち去る。
ミスリードを誘うためにわざわざ手懸りをのこす場合はあるが、そこはケースバイケースだ。大抵は事故で片付けられるし、公表もされない。
ユニークなのは、憎むべきUSへの攻撃を、US自身の兵器だけに頼ってUS国内で完結させるという美しい報復論で貫いてるところだな。
これに対抗するには、脆弱点を完全に排除するか、さもなければ武器とサラバするしかない。
強国ほど不利だ。因果応報となじられてオシマイだ。
主犯格は東洋人らしい。
なるほどそんな匂いがするな。
すばらしいねえ。なんとか連帯を組めないものかな」
物騒な連中がウヨウヨいるものだなあ。
日本でも同じ手が使えるとか言ったか?
やめてくれ、日本には原発がいっぱいあるし、安全神話がとっくに崩壊してるくせに予算も削られまくってるんだ。
お願いだから、こっちまで来ないでくれ。