東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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TokyoMassacre2020-12-011.hmos

グレーメタリックのプリウスが都内を深く静かに潜行する。

 

車内には4人のサンタ。

運転、俺。助手席のエヴァンズはナビ。うしろで2名のイェーガーがプレゼントを手に待機。

目的地へ着くと一瞬後には飛び出していて、ターゲットの家へ潜入。20秒から50秒の作戦タイムをほぼ誤差無しでクリアし、戻ってくる。

ただちにトランクルームから次のプレゼントを取り出し、エヴァンズと3人で番号の復唱。

10回に1回程度、俺もサンタ役をつとめる。

明らかに難度の低いミッションを回されていることを認める。

次はおまえだ、とエヴァンズが向けてくるタブレットの図面を脳内にイメージ保存しておき、指定ポイントに停車後、暗視ゴーグルをかぶって出撃。

音を立てずに鍵を開け、目標の部屋へ一目散。

ベッドの脇にプレゼントを置いたら、すぐ離脱。

こんなゲームを3時間ばかりやっていた。

 

夜明け前、最後のプレゼントを配り終え、元麻布へ帰投。

はあ。予告に偽りなし。くたびれたぜ。

車輌点検をすませて632号室へ戻る。

9時まで休んでそれからケーキデートだと告げられ、心にもなく口笛を吹いた。

10分ほどトレッドミルで全力疾走してから、横になる。

 

起床後、シャワールームを抜け、爽やかげなカジュアルを着て駐車場へ。

白いプリウスにいつもと変わり映えのしないエヴァンズを乗せ、まずは本郷の床屋へ。

いつもより念入りに整髪とコンディショニングをしてもらい、誇らしげな気分になる。俺ってこんなにイケメンだったのか。

ご褒美だよな?

裏なんてないよな?

これからサチカとデートさせてもらえるからなんだよな?と舞い上がる気分を抑えきれない。

それから、巣鴨まで運転。

「本日休業」の札がかかった高級ケーキ店へ上がりこみ、2階のイートインフロアへ。

カーテンで遮蔽された7つほどのテーブルに、2組の先客がいた。一般客ではないよな。

エヴァンズは3人掛けの卓へ進む。俺も、向かいに着座した。

ちらりとメニューを見る。

お高すぎやしませんか、この店。

 

「これから、昨夜の売れ残りケーキが少しずつ運ばれてくる。なるべくたくさん食べてくれた方が店主もたすかるそうだ。

サチカもまもなく来るようだから、僕は1時間ほど席を外す。有益なひとときを過ごしたまえ。

なにか質問は?」

 

……サチカさんて、フリーなんですか?そもそも独身?

今日のことどこまで説明されてます?

お互いサクラかなあとか思ってたんじゃ、会話が弾む余地も無かろうなんですが。

 

「なるほど。心配性だな。

安心しろ、サチカが君に恋をすることは絶対にない。

彼女は百戦錬磨だから、君がどんな男かは僕よりも鋭く見抜いているはずだ。

今日は、9月と同じ坊やを連れて食べに行くよとしか伝えてない。

前回君が彼女から得たヒーリング効果はずいぶん高かったから、今回は更に濃い時間を過ごせるんじゃないかなと思ったまでのこと。

それとも、ケーキにも女性にも興味が無いというなら居眠りしててもらっても構わないぜ?」

 

なるほど。安心しました。せいぜい愉しませていただきます。

かえって気が楽になったぜ。

ところでこのモンブラン、うますぎて涙が溢れてくる。どうしてくれんだ。

 

ほどなく、サチカが上がってきた。

え、子供を連れている。

ひとり、ふたり、さんにん。小学生、低学年。

イェーガーかな。キョロキョロしている。

彼女はエヴァンズと俺に愛らしい微笑みを向け、4人掛けのテーブルへと着座した。

おいおい、エヴァンズ。

連れがいるとは聞いてなかったぜ。

 

「さすがだな。手が早い。

ああジョバンニ、少しだけ待ってろ。あの子たちがケーキを食べ始めたら彼女はこっちへ来ると思う。

その後で僕は野暮用を片付けてくるから」

 

なんのこっちゃと思いつつ、ショコラタルトを頬張りながら聴き耳を立てる。

3人の小学生は、ざわめきながらメニューを見せ合って飲みものを選んでいるようだ。コーヒーはまだ早すぎるだろうし、慣れない雰囲気のお店だから目移りしすぎてしまうのだろう。

貧乏ゆすりの音も聞こえる。イェーガーじゃないな。同じ年頃でも、イェーガーならもっと規律正しい挙措動作が身についているはずだ。

いやしかし、大仕事を終えたあとだと、こうなっても当然か?

 

子供たちは、サチカをサチカと呼んでいる。

ママではない。姉でもないな。

甥っ子たちの面倒をみている、あるいは学校の先生がお気に入りの生徒を3人連れてきたというシチュエーションだと想像できるか。

そんなことを考えていたら、ケーキが運ばれてきた。

子供たち、夢中でバクバク食べ始める。

ひと息ついたサチカ、コーヒーカップを手にこちらのテーブルへ。

「おつかれさま」と成人3名は口々に夜中の労苦をいたわりあう。

 

新しいケーキが運ばれてきた。

サチカはミルフィーユを上品に崩しながら味わう。

この店、彼女のお気に入りだそうだが、普段からこんな高級店に通っているのか。セレブか。

年収1000万でもつきあってくださいなんて怖くて言えねえ。

現実は、かくも苦い。

 

サ「いま、どのくらい火の手上がってるかしら?」

 

エ「100件を超えた。逮捕者も20名以上出ている。

珍しくメディアが独自取材を始めてるよ。

せいぜい面白おかしく記事にしてもらいたいものだね」

 

サ「出動要請は?」

 

エ「きていない。平和なものだ。

ああ、ちょっとコールが入った。

行ってくる。こいつ見ててやってくれ」

 

サ「ごゆっくり」

 

ひらりとエヴァンズ退場。サチカと俺、ふたりきりになる。

どうしよう。

気にすんな。何も起きようがない。起きたら俺が大変だ。

 

サ「おつかれ!ジョバンニ。

仕事楽しめてる?

エヴァンズのお守りって辛くない?

トキオが心配してたよ。昔はもっと明るい男だったのにって」

 

え?えぇ?

サチカさんってそんなキャラ?

少し、気圧された。さすが百戦錬磨。グイグイくるんだな。

いやしかし、罠かもしれない。

トキオと仲いいんですか。あいつ、俺のこと気にかけてくれてましたか。と無難なところから探りをいれてみる。

 

サ「トキオが身を固めちゃって、悲しんでいる娘は大勢いるの。そのトキオの旧友で、トキオが俺よりずっといい男だなんていつも言うものだからジョバンニはけっこう噂になっているんだよ。成績もいいしね。

でも……そう期待されているがゆえに、会うとがっかりさせると思う。

確実に君は女の子を傷つける。それはねえ、罪つくりだよ。

なにがダメなんだろうね、やっぱりエヴァンズ?」

 

え。おい。なんだそりゃ。呆然とした。

俺は何もしてないのに、どうして見も知らん女たちから勝手に失望されてなきゃならんのだ。ひどすぎないか。

あの、サチカ?

俺は混乱している。ひとつずつ訊いていいか。

まず、エヴァンズって俺の上司みたいなものだから逆らえないんだけど、カモッラの中では、実はポンコツなの?

 

サ「どうかな。仕事はできるんじゃない?世渡りうまいし。

でも、軽いよね。あたしはちょっと信用おけないかな。

彼は山猫博士の弟子だったんだけど、悪いところだけしっかり学びとった劣化コピーだと思ってる。

君とエヴァンズ、相性がいいようには思えないんだけど、もし彼をお手本にと考えているんだったら、やめたほうがいいんじゃないかな」

 

ありがとうサチカ。

勇気をもらった。

あいつは、ひどい男なんだ。俺をいじめて喜んでるふうに感じていた。

正しかったんだな。気を強く持つよ。

次の質問いいかな。

サチカって、何者なの?

 

サ「はて。何者なんだろうね。自分のことを話すのは得意じゃないので、他の質問にしてくれるかな」

 

わかった。ごめんよ。じゃあ、トキオのこと教えてくれ。

2年ぶりにあいつと会って、昔と全然変わっていてびっくりしたんだけど、カモッラの中では彼ってどういう存在なんだい?

 

サ「朝鮮半島の南と北を行ったり来たりしていた印象あるけど、前線で負傷してリタイア。

とにかくモテるし、女の転がし方をよくわきまえてる。

アヴァンティで人生相談師として名を上げたね。

相当めんどくさかったんだろうて。とうとう結婚した。おしまい。それ以上は知らん」

 

サチカはアヴァンティへ来たことあったかな。俺はどう見えてた?

 

サ「暗い奴がいるなあ、って思ったことはあった。それ以上の興味は持たなかったかな。

でもスターンはそういうのが好みだよね。

カムパネルラとかも、超暗いじゃん」

 

ああ、カムパネルラも知ってるのか。彼はいったい何者?

 

サ「ダミ声なんだけど歌唱力は相当なもんだよ。むしろ、その印象しか無いかな。

料理の評判はたまに聞くけど、あたしは食べたことない」

 

サチカってサバサバしすぎだな。

いい。すごくいい。

こんな癒やされ方もあるんだって俺はうっとりしてきた。

 

ちなみに今日のプチデートはエヴァンズが姑息にセッティングしてきたのが発端だけれども、直前にスターンから、俺の様子を見てきて悩んでいるようだったら叱ってやってくれとの特命も受けてきたらしい。

スターンよ。

ありがたいっちゃありがたいんだが、それより俺を呼び戻してくれないか。

地味で根暗なウェイターを、これからも喜んで演じてやるから。

 

きっかり1時間でエヴァンズが戻ってきた。

サチカは満腹した子供たちを連れて先に帰っていき、俺たち男2人はもうひとつずつケーキを賞味して、ゆっくりと店を出た。

その後、都内をドライブ。

どえらいことになっていた。

夜、プレゼントを置いてきた家の付近が軒並み封鎖されていて、パトカーや救急車が走り回っていたのだ。

 

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