約500個配って回ったプレゼントの8割ほどは、銃だった。
サイズと重さから、そんな気はしていた。
一人ひとりの体格や利き腕に合わせたきめ細かなリサーチがなされており、上級生向けにはライフルやショットガンを贈ったケースもあるらしい。
銃以外では、クロスボウ・アーチェリー・毒薬やグレネードの詰め合わせなど。
やはり使用者に合わせた適確なチョイスを原則としており、使用法や諸注意など前日までに懇切丁寧なレクチャーを施しておいたので開封後はすぐに装填し、ためらうことなくイージーゴーイングできたはずだそうだ。
実際、夜明けとともに都内各所で銃声や悲鳴が轟いた。
クリスマスはミステリーや惨劇の舞台に選ばれやすいシチュエーションではあるけれど、さすがにここまで大規模かつ謎だらけのリアル事件は世界史上でも稀なのではなかろうか。
100年後でも若き探偵たちが変わり果てた跡地を渉猟しては奇譚・珍説・新解釈に花を咲かせつづけていたらどうしよう。俺が読みたい。
誰か教えてくれ。いったい何が起きたんだ。
「共通項のひとつが、学校でも塾でも成績上位に属していた小学生たちで家柄も立派なところが多く、これまで親に反抗したことなんてなかったがゆえに問題児とは見做されていなかったという点だ。
警視庁は過去の犯罪者データベースを朝から何十回も検索しなおして途方に暮れている。そこより他に調べ方を知らないからな。
このあと文科省と責任のなすりつけ合いに発展していくと思うんだが、とっととその先に進んでくれないものかね。
事件は現場で起きているんだ。まずはそこへリソースを集中するべきだろうってのにねえ」
証拠なんてのこしてないよと自信を見せるエヴァンズ。
パトカーは首都圏の県警マークばっかりだが、慣れぬ土地で襲撃にも怯えながらの現場検証では、大した手懸りも集められまい。
同時多発件数だって空前絶後。しかも犯人は年端もいかぬ少年少女ばかり。
いったい誰に責任とれるっていうんだ。
ところで……子供たちは、自分の親を襲撃したわけですか?
どうして?
催眠術でもかけたんですか。
「おいおい。考えてなかったのか。
子供たちは憎むべき相手を口にすることを怖れているってずいぶん前からヒントを出しておいたはずなんだけどな」
いや、それにしてもまさかなって思うんですよ。
勉強でストレスにまみれているといったって、悪いのは社会であり、政府や紫党、それらの中核たるブーマー世代が元凶であるわけでしょう。
親だって犠牲者です。
一緒に戦うべきだと考えるのが筋じゃないのかな。
いくら子供でも、家庭崩壊を惹き起こすのが悪手だってことくらい計算できると思うんですけどね。
「なるほど去勢された家畜はそんな考え方をするものなのか。
ひとつ訊こう。
罠で捕らえられた狼が、鎖で繋がれ、毎日人間に棍棒で殴られながら餌付けされている最中だ。
もしその狼に状況打開のチャンスが与えられたら、憎むべき相手は見たこともない政治家や官僚か?毎日殴ってくるその家の人間か?」
考えるまでもなく、後者ですね。
「盗っ人は言うんだよ。俺よりもっと悪いやつがいる、そっちを先に捕まえに行けと。
そんな説得をされて現行犯を逃がしてやる警官はただのマヌケだ。
これを理屈で補強し、言い訳し続けるのがヤポだ。
永遠に家畜の分際でいやがれ。
殴られても感じないほどぶくぶく脂肪にまみれて悦んでいやがれ」
それでも、それでも短絡的じゃないのかなって思います。
親を殺して捕まって、その後の将来まっ暗ですよ。
500家族ぶんの人生踏みにじったこの事件に何の成果があったのやら。
カモッラだって莫大な費用をかけたわけでしょう?
いったい何のためにですか。
「精一杯考えてそこまでが限界なら、君の知能はたしかに短絡的だ。電卓の方がずっとマシかな。
親を殺してその後どうやって生きていこう。そんなの当の本人が真っ先に考えて悩むことだよ。
それが解決できなくて実行に踏み切れず悩み抜いて10歳前後まで生きてきたんだ。
子供たちが考えずに行動したと思うこと自体が不思議だし、侮辱が過ぎるね。
かれらの前で堂々と説得する機会でも与えてやろうか。
ワンフレーズ言い終えないうちに君は蜂の巣にされるだろう」
……言われてみれば、もっともか。
じゃあ、小学生たちはずっと以前から、親こそが憎くて憎くてたまらなかった。
カモッラは、イェーガーを使って、家族を殺したあとでどう生きていけばいいかというライフプランを具体的に提案した。
……わかった、コジモだ。
選ばれた500人の小学生を、コジモへ迎え入れて再教育させるつもりなんだ。
これが最終目的なんじゃないですか。
「やっとそこまで辿りついたか。1ヶ月もかかりやがって。
言っておくが、ぜんぜん最終なんかじゃない。
かれらのうち何パーセントが10年後カモリスタとして羽ばたいていけるかな。
コジモで鍛えられれば誰でも勇者になれるなんて思うなよ。いつまでもヤポ臭が抜けきらない劣等生は意外と多いんだ」
だから子供のうちから、なのか。
日本人としての愛国心なんて根こそぎ削り取ってしまうんだろうな。
100年後の探偵たちは、これを暴いてくれるだろうか。
だめかもしれない。初動捜査ができているとは思えない。日本側の1次史料よりも、成長した少年たちが綴る回想録と革命歌の方が正史として定着するだろう。
俺でさえそちらを期待してしまう。
だめだだめだだめだ、おまわりさん戦ってくれ。
このままじゃあ本気で日本は乗っ取られてしまう。
「ただ、男児だけだとしても全員をコジモへ収容はできない。
もう何段階か選抜をくぐらせる。
抑圧者の排除と檻からの脱出に成功した第1次予選通過者は、都内いくつかのチェックポイントを訪れ次の課題を解かなければならない。もちろん警察や教育関係者はじめ怪しい大人たちから身を守りながらだ。
イェーガーはこれから、そんな挑戦者たちのサバイバルを監視し、誘導する役割を担う。
この試練をくぐり抜けた少年少女は、今よりもっとたくましくなってから新居を手に入れることになるんだ。
ジョバンニ。春先までは、夜間出動を不意打ちで命じる場合も出てくると思うから油断しないでおくこと。
いいな?」
よくねえよ。冗談じゃない。
サンタの次はレスキュー隊か。
脱出ゲームのつもりならもっとマイルドにやってくれ。
ガチすぎなんだよ、あんたら。
「なに興奮してるんだ。
昼でも夜でも襲撃に怯え、全財産は着ているものだけ。肉親を目の前で殺された記憶を背負い、友人も毎日入れ替わっていく。そんな境遇を生きている子供だったらすでに何百万といるんだぞ。
君たちのようなヤポがぬくぬくと家畜のまま生き続けたいと願うのは勝手だが、だったらその小舎へ居続けられる努力をすべきだったな。
おかげで、僕たちが育てたいパートナーに狩りを学ばせる絶好の放牧場が目の前に拡がっているわけだから、ありがたく使わせてもらうことにするが。
これは君たちにもいい経験というか教訓をもたらすことにもつながるんじゃないだろうか?
完璧な調和を目指して共存することを考えたいものじゃないか。
ひとまず、ひとつの山は越えた。なかなかいい滑り出しだ。しかしまだまだプロローグに過ぎない。
早く心の準備を仕上げてくれ」
糖分を過剰摂取してきたせいか、今日のエヴァンズは普段より狂気じみている。
寝てないのかもしれないな。
俺は反論を控えた。
自分を神様だと思っているような奴に触って祟りなんか招いちゃいられねえ。
「今回のオペレーションを通じて、ヤポが国民にどのような教育を施しているのか具体的に知ることができたんだが。びっくりもしたし、面白かったね。
国語・算数・理科・社会・体育などを小間切れに1時間ずつ区切って散らし、時間割というスケジュールを組み、学級単位で全員に同じ課題を履修させるんだ。
こんな授業を毎日毎日、何年も続けていく作業をヤポでは勉強と呼んで尊んでいるらしい。
動物として必要な、最低限度の学習能力すらヤポが身につけられない理由をようやく納得した。これじゃあ、バカしかつくれない」
ほおおお。聞き捨てなりませんが、それ以外の勉強の仕方があるんですか?
カモリスタならどんな授業をしてみせてくれるものでありますか?
「動物が野生で狩りを覚えるとき、こんな教育法なんか使わないよ。
君たちのは、ペットに礼儀正しい餌の食べ方を教えこむやり方だ。時間がくるまで飼い主を苛立たせない。それだけを守るルールを学ばされた動物なんて、ひとりきりになったらすぐ餓死する。
ヤポの目的は、子供を従順に躾けておくことだ。
何十年も伝統化してきたせいで劣化コピーをつくり続ける無限ルーティーンになっているみたいだし、思考能力が退化しすぎて、もはや戻らないんだろう。
かわいそうだが、それがおまえたちにはしあわせなのか」
は、は、は。おもしろいね、エヴァンズ。
そういえば昨日、サンタクロースを捕まえようとしたって話をしてたかな、おまえさん。
もしかしてそれが狩りの正しい覚え方だって言いたかったわけかね。
「大人でも同じだが、子供なんて特に、なにかに夢中のときはそればかりひたすらやって寝食も忘れ没頭するものさ。
本でも絵でも楽器でも、泳ぎやダンスでも、なんでもいいんだ。そのとき一番やりたくて捗るものを取り上げ、やりたくないものから押しつけるなんて行為が愚かでなくて何なんだ。
その結果、あらゆるものに対し興味を失っていく。
飼い慣らすため以外の動機を見出すことが不可能だね。
しかも、妨害だけをする支配者への憎悪をいちいち脳裏に刻ませてしまうんだぞ。
相手が子供だからこそ、飽きるまでやらせてやったらいい。
危険に見えたら忠告だけしておくといい。
本人が自分の目で見て考えるようになるし、大人にも一緒に考えてほしいことができてくればそれを言語化するために知恵とコミュニケーション能力を伸ばしていくんだ。
おまえたちのやっていることはこの原理と真逆なんだよ。
マッサンの子供たちはしっかり自律して生きていたはずじゃなかったか?まさかもう忘れたか」