そういえば、アメリカはどうなっているんですか?
「USのこと?
ああ、ものすごいことになっているよ。
そうか、ヤポでは記事にしていないよね。
できないか。英語のわかる誰かさんに一から十まで解説してもらってからじゃないと、どこからどう書いていいものやら見当もつかないか」
クリスマスに全米各地で大規模な停電が発生して、なかなか復旧が進まないでいる。治安も悪くなっており、大勢の凍死者や餓死者が発生している模様。
という小さな囲み記事なら載ってますが。
たしか原発に爆弾を仕掛けて回ってたんですよね?
どのくらいの成功率だったんですか。
「まるで僕たちが首謀者であるかのように言うね。それだったらどれほど誇らしいか。
残念ながら、カモッラよりずっと優秀な人材たちの仕業だ。
カモッラのUS支部は、潰される前にかれらの傘下へ入ろうと際どい交渉を試みている。
うまく条件が折り合ってくれるといいいんだけどねえ」
日本ではカモッラがコジモや山梨カルテルよりも格上な関係みたいですけど、それの逆パターンのような感じですか。
「まったく違うよ。
ヤポで活動している地下組織なんてせいぜい2桁だが、USでは4桁から5桁の勢力がひしめき合って日夜シノギを削っている。
そんな土壌で華々しいデビューを飾った新人が、たとえば100のプロモーターから招待を受けたとしよう。
君ならどうする」
所属事務所契約ですか。
一番条件のいい団体を選ばなくちゃ。
年俸の高さ、あるいは自分のやりたいことを汲みとってくれる理解あるマネージャーのいるところを候補にするかな。
「チョロいなあ。
そんな夢見る仔豚は半年も生きていられれば上等だが、僕たちの注目しているPAというグループはまずこの100団体の弱みを握ることによって、それらすべてを支配下に置いた。
現在その統廃合を猛烈な勢いで行っている最中だが、スピードと手際の良さが尋常ではない。
停電に乗じて暴徒が各地の物資集積所を襲撃しているんだが、自然発生した集団ならどこに何が備蓄されていて必要な武器は何がいくつだといった情報を適確に知っていることが不可解だ。
ただ、発電所同時爆破攻撃からつながっている一連の作戦だと考えればシナリオライターはPAだろうなという推測が成り立つので、カモッラUSが慌ててるわけさ。
対策していなければ、間違いなく標的にされる側に立つからね」
PAって何かの略ですか。
「パトリオット・アノニマス。名無しの愛国者。
20代の東洋人が中心だと思われていたんだが、実態はかなり世界各地から集まってきていて、USで合流したらしい。
組織構造さえわかればルーツが推定可能なんだが、防諜スキルが高すぎて今じゃ近寄ることすら困難だってよ」
愛国者か。
アメリカの、では無さげですね。
祖国の原発を狙うなんて、愛があったらとてもできない。
「そうだろうか。理解力ある同胞にはそれなりの教育効果をもたらしたと思うよ。
愛国精神を問うなら、民主党支持者を抹殺する共和党支持者も、共和党員を粛清する民主党員も、どちらだって国を愛するがゆえに非愛国者を憎むんだ。
大統領暗殺なんて計画するのはたいてい純情すぎる愛国者だと相場が決まっているものさ」
カモッラは岸首相を殺す気まんまんでしたけど、別に日本のことどうだっていいと思ってるでしょ。
「なぜ過去形なのかな。
計画は止めてないよ。順調にいきすぎたから、もっと苦しむ時間を長く与えたいよねと修正したまでのことさ。
でも確かに僕たちは、いかなる国家へも愛憎を抱かない。
こりゃ一本とられたかな。あっはは」
いかなる国家へも、なんだ。へえ。
ちょっと意外だったが堂々とそう言われると、腑に落ちる。
カモッラは特定の国にバックグラウンドを持たない。無国籍主義といってよい犯罪組織だ。
反国家ではないし、政府打倒なんて目的に掲げない。怨みなど抱いちゃおらず、愚かだなとバカにはするけど干渉する気はさらさらない。
ただ監視を怠らず情報だけは蒐めておいて、なにか計画を起こす際には徹底的に利用する。
アメリカのカモッラもそんな感じなんですか?
「カモッラはナポリ発祥ではあるんだが、そこから世界各地へ漂流して、まあ絶滅は免れてるよね。
互いのコロニーを支部とか支局とか呼んではいるけど、中央政府は持っていない。
そんな体制をとっていたら生き残れない時代だからさ、とっくに。
現地のことは現地で決めて行動する。これが基本だ。ただ同郷のよしみで連絡はとりあって、面白い話題は共有しておく。そんな程度のことしかしていない、小規模で無害な外来種だよ。
放置していてくれればいい。僕たちは臆病なのでね」
随分か弱い虫ケラであるかのように自分たちを着飾っているけれど、一年間この目で見てきた犯罪の数々を思い起こせばこいつらが史上最悪の侵略者であることは自明なので、なんとか駆逐せねばなあと思う。小規模なうちに。
手遅れか?
「愚か者が目の前を横切ると追い回して、いたぶらずにはおれない。これがカモリスタに染みついた性癖であり長所でも短所でもあることは自覚しているんだが、だいたい愚か者を何かに役立てることができるって発想自体が思いもよらなかったのだよね。
PAはこの点で僕たちを驚愕させた。
かれらは愚か者を、愚かなままで組織化し一定方向へ集中して動かす技術を持っているみたいなんだ。
まだUSでも分析中なので僕にはうまく説明できないんだが、クリスマスの同時多発テロがその演習のひとつだったらしい。
PAは着実にノウハウを磨いた。
次は何を仕掛けるだろうか。
とまあ、いま盛り上がってるのはそんな話題だね」
冷静に聞いていた。
カモッラの一貫した考え方として、精鋭をつくってミッションごとベストチームを組織し、無駄なことを一切しないで作戦を完遂させる、という原則がある。
毎度、見事なものだと呆れる。不適格者は呼ばれない。
PAは愚か者を愚かなまま使う?
暴動を起こさせコントロールするという意味か。それならカモッラとは全然違う戦略を立てるよな。
モブを積極的に運用する集団戦か。想像が追いつかないが、ともかく物騒だ。
年末の出動はかなり変則的になった。
基本はプリウス、たまにハイエース。
イェーガーを数人乗せたまま当てど無く走り、ずっとタブレットを操作しているエヴァンズが急に目的地を指示すればそこへ向かい、イェーガーをひとりずつ降ろしたり回収したり。
たまに大使館めぐりもする。イェーガーを乗せていないときに限られる。
俺はあいかわらず駐車場で待機。30分以上かかる場合は新聞か週刊誌を買ってきて読む。
夜中出動は今のところ無い。岩手ほどではないが寒いからな。暴れたい奴もそうそういないだろう。
エヴァンズからは、正月休みなど無いと予告されている。
大使館員は出国せず都内で過ごす人がほとんどで、省庁が軒並み休んでいるから仕事も進まず、エヴァンズをお茶に誘うケースは平時より増えるのだそうだ。
エヴァンズも情報交換の必要度に応じてなるべく挨拶に出向く。
そんな忙しない日々がずっと続く見込みだ。
走行中、あるいは待機中の車窓から見る通行人の数。
昨年の今頃と比べれば、1/5から1/10。
のんびり歩く人は皆無。夏よりも襲撃されるリスクは低かろうとはいえ、汚らしいホームレスですら無防備な姿はさらさない。
タクシー需要は増えているのだろうと思う。
バイクや自転車で飲食店からの出前を代行していると思われる宅配業者が急増していることも実感する。女性や中高年では襲撃される危険があるからだろう、体格良さげな若い男が戦闘服のようなジャケットを支給されているのが特徴だ。
住宅街の多くが、鉄条網などで自衛している。
監視カメラをこれみよがしに並べて置くのも風物詩になった。
また盗聴器を仕掛けてくる任務を振られたら、難度の上がった分だけ制限時間も加算しておいてもらおう。
それにしても住宅を見るたび、侵入経路と所要時間を目測する癖がついてしまい困っている。
精神衛生上、たいへんよろしくない。
大晦日の新聞は傑作だった。
芦屋都知事が、現在の第3波はかつてない大きさの規模で被害を拡大させるだろうと烈しい口調で警告する。
「忘年会に初詣で・新年会と、今まで溜めこんできたストレスをちょっとだけ緩めてもいいじゃないかと思わせる誘惑が、これから次々襲ってくる。
商売も大切だ。それはわかる。
しかし耐えてくれ。我慢してくれ。
ほんのひとときのあやまちが、あなたと家族・友人たちを病魔へ、死へと追いやる。
救急車は走らない。病室は空いてない。
誰も助けてあげられない。
ここが分水嶺だ。自重してほしい。
一日も早くこの災厄を終わらせるためにこそ、いま、ここが踏ん張りどきなのだ」と。
面白いのは閣僚たちの発言とのギャップだ。
「このままでは2度目の緊急事態宣言も視野に入れざるを得ないかもしれない」
「アメリカ製のワクチンが変異株に効かないという科学的根拠があるなら見せてくれたまえ」
おまえたち。黙って檻に入って休め。