1月16日時点で、政府による緊急事態宣言は11都府県に拡大している。
しつこくゴネれば対応する、という最悪のクレーマー養成所状態だ。とはいえさすがに今頃から陳情始めたとこには門前払いを食わせるらしい。
岐阜県・宮崎県・熊本県などは独自で宣言を発令した。
飲食店・風俗業・娯楽施設などへ営業時間短縮を求め、従わなければ罰金を科す。この原則は同じであるが、要請に従った業者へ支払われる補償金を出す責務は発令者にあるため、賢い自治体は国にやらせたがるのだ。
住民を人質にした政治的交渉とも言えると思う。
制限をかけられる対象は一括りにサービス業と呼んでよい気もするが、かれらもまた一枚岩ではない。
休業すれば無収入になり、スタッフの人件費は払い損。食材だって腐ってゆく。
補償金は前年収益の何割といった基準で決められるので、はっきりいって雀の涙。申請してから振り込まれるまで何ヶ月待てばよいかも曖昧だ。
座席数を減らし、パーティションを設置し、アルコールでこまめな除菌を徹底し、すべてのお客様へ黙食など不便をお願いしながらでも、営業したい経営者しかいないはずである。
罰金払うだけなら深夜までガンガン営業するよ、と反抗を宣言する風雲児たちも出てくる。
皆、必死だ。
誰もがコヴィッドと戦っているんだ。むざむざ朽ち果ててたまるかと。
医療の現場はとっくに破綻しているが、次にパンクしそうなのが勾留施設。
全国で収容力の限界を超え、しかも鮨詰めの留置場内で感染が爆発的に拡大。
起訴後に移送される拘置所でも同様のパニックが起きており、警察と検察の官僚たちは今週、この問題の対応にも追われた。
社会不安を増大させないため発表は差し控えられているが、まず服役中受刑者のうち模範囚約1000名の仮釈放を前倒しするという措置がとられた。
恩赦である。
人道的配慮による特別措置である。
郷里で親孝行するんだぞ。
こうして三密は緩和された。
このほか警視庁では逮捕者全員にPCR検査を実施するという案が出た。
正確にいうと、そうすべきだと意気込む官僚が友人の報道会社員に自説を披露して、ほぼ決定事項であるかのように翌日の新聞に載った。
現実問題、それだけの検査キットを準備する余裕も予算も無いし、検査後診断結果が出るまでやはり鮨詰めの留置場に押しこまれるので、意味があるとは思えない。しかし世論はこのニュースを好意的に受け止めているようであるし、あとから否定して評判を落とすなんて避けたいところだ。
だから承認されそうだという。
ちょうど厚労省は、入院勧告に応じない重症者への刑事罰を検討していたようなので、これに協力するついでに検査キットの確保を約束させられれば手間が省ける。そういった調整が進められている。
これら省庁の密集する霞が関では今週、数えきれないほどのインシデントが発生したみたいだけど、アクシデントは起きていない。
ひとつのアクシデントの背後には100から1000のインシデントが潜んでいる。それらはアクシデント未満であり、アウトかセーフかでいったらセーフである。
ちなみにこれは日本独自の分類だそうで、カモッラは決してそんな概念を使わないそうだ。ただエリートたちの会話を盗聴していると毎分必ず出てくるほど頻発する用語なので、覚えておけと言われた。
ともかくインシデントだから報告もされないし、ましてや外部に漏らす理由などない。
それですんでいるから自分たちは優秀なのだと、管理職全員が神仏に祈りつつ、出されたお茶に手もつけず、鬼の形相で定時まで机にしがみついている。
具体的には何が起きているんですか?とエヴァンズに尋ねる。
他愛もないイタズラが流行っているのだそうだ。
いかがわしい画像や動画をためこんだフォルダがなぜか知らぬ間に公開ドキュメントへと移動していたり、机の上や中や下に脅迫状みたいなものが置かれていたり、重要な書類がなぜかトイレに落ちてましたよと届けられたり。
勘が鈍くてこれらのインシデントに脅えないエリート相手には、ロッカーの中に血まみれのナイフを転がしておくとか少し派手めな行為がとられるという。
火曜日の初登庁直後からそんな不可思議事案がひっきりなしに起こるものだから、生まれて初めてノイローゼらしき症状を味わっている公僕が少しずつ増えている。
だがまだまだインシデントのうちだ。
ここまで築き上げてきたキャリアに傷をつけてたまるかと、国家公務員たるもの気丈に構えていなければならない。
立派なものだ。さすが大人だ。
警察に届けを出して捜査させたりはしないんですか?とエヴァンズに尋ねる。
警視庁や警察庁の官僚ですら、自分自身が事件の関係者として取り調べを受けたり供述を求められたりする立場に身を置くことは屈辱だと考える。
パソコンにためこんである秘蔵データだって、大半は部下や派遣とのおつきあい日記だったり、上司やライバルの弱みにつけこむ材料として集めてきた証拠類だ。被害届を出すことさえまかりならぬし、もし流出していたら知らぬ存ぜぬを貫き通さねばならない。
今できる善後策は室内のあらゆる兆候をもとに真犯人をこの手で見つけ出し、インシデントのまま乗りきってみせることだ。
さいわい狙われているのは自分ばかりでなく、室長以上のキャリアはほぼ全員同じ目に遭っており、他の省庁でも同様の事態が発生していると噂されている。
浮き足立つな。どこかで誰かがやらかせば、手懸りも増えるしライバルが減ってゆくことも期待できる。
それにしても、どこのどいつがこんな真似を……
とまあこれが霞が関2021の静かなる幕開けであるということだ。
じっくりコトコト煮込んでますなあ。
そのうちドッカーンもやる気でしょ?
初アクシデントは、どこの庁舎でおっぱじまるのやら。
「そちらは軌道に乗っているから、潜入している子供たちにまかせよう。
ところで水曜日に下院で2度目のインピーチメントが可決された件の進捗が届いているよ。やっぱりただのパフォーマンスで終わりそうだ。
ドナルドにはかすり傷さえ負わせられないね」
アメリカでは大統領の権限を奪う安全装置がいくつか実装されていて、連邦議事堂襲撃失敗後、掌返しのドナルド叩きが散発的に盛り上がっている。
民主党議員は直接生命の危険に曝されたので鼻息荒く、議会の権限を行使してドナルドを任期満了前に引きずり下ろすべく行動を開始した。
まず下院で、国家反逆罪に処すべき人物を提議し、票決にかける。過半数とれば前半戦クリア。
次いで上院で審議し、最後に票決。ここでは2/3が処罰に賛成する必要がある。
実は昨年2月にも同じことをやっていて、上院で否決されドナルドは逃げきったのだ。
上下院とも民主党員と共和党員の構成比はほぼイーブンなので、事前に結果は予測できてしまう。
当然民主党は共和党議員から19名以上の裏切者を出させようと猛烈に工作しまくっているけれども、記名投票だからよほどの覚悟と将来設計がなくては実現しない。
そんなこと俺にだってわかる。
もっと勝ち目のある戦いをすべきなのでは?
「まさしく、そういうことだよ。
すべてが公開された世界では戦う前から勝敗はついているので、戦う意味がなくなる。働く意味も、生きる意味さえ無くなるんだ。
それをありがたがるのが民主主義であり、既得権益層でもあると言えるよね。
負け組のくせして、その檻の中だけで本気を出している動物を見ていると憐れだなあと思う。
ただそれでも考える力さえ持っているなら悔しかろうし、何をすべきかに気付くこともできるんじゃないのかな。
せっかく僕たちコーディネーターがいるんだ。頼ってもらえればいつでも武器と戦術を御用立てする。
でも残念ながら民主党も共和党も、僕たちが組みたい取引先ではないんだよねえ。
どちらも飼料として役立てるのがせいぜいかな」
わからない。こいつらが何を考えているのか。なにをたくらんでいやがるのか。
この程度の軽口つぶやいても俺にはヒントを与えたことにはならんだろうと余裕かまして挑発してんだろうなってことまではわかる。くやしいなあ。
何をすればこいつにギャフンと言わせられるのだろう。
「ジョバンニ。前をよく見てみろ。
こいつら大学入試が終わって家へ帰り始めているところだろう。
ずいぶん貧相なツラをしている。
本人たちは無表情なだけですと答えるんだろうが、陰気で鬱陶しくて気持ち悪い以外の形容が思いつかない。
ここからヤポのエリートが選抜され、将来霞が関で働くことになるんだろうが、君たちの美意識ではやっぱりかれらこそがスターだったりファッションリーダーであるのかい?
ヤポは肥料にすらならないし、しなびてくる前に掻き集めてヤポニカにでもしておければいいんだが、ま、今年はそれどころじゃないからな」
受験生よ、気にするな。こんな毛唐のへらず口なんかどうでもいい。
試験は土日なんだよな。早く帰ってゆっくり休んで、明日も全力を尽くせ。
今はそれだけを考えな。