経済のことは、よくわからないのだが。
たとえば国務大臣の中に、財務大臣・金融大臣・経済産業大臣というのがいる。それぞれ財務省・金融庁・経済産業省を統括し、官僚からの報告を受け指示を出す役割だ。
3つとも経済だと思うのだが、俺には区別すらついてない。
それは俺が無学で頭も悪く、興味も抱いてこなかったせいで、俺がダメなんだろうなと納得はする。
しかしだ。
この他にも特命大臣というグループがあることを知ると、少し疑問が湧いてくる。
経済財政政策担当大臣。
知的財産戦略担当大臣。
経済再生担当大臣。
産業競争力担当大臣。
デフレ脱却担当大臣。
微妙なところでは、一億総活躍担当大臣、まち・ひと・しごと創生担当大臣とかいうのまである。
閣僚の総数は総理大臣を含めて20人以内という法規定が存在するため大臣職は掛け持ちが当たり前で、5つ程度兼任しているくらいではもはや驚かない。
クレジットカードやポイントアプリだって、おトクだからとどんどん増やしていったら非効率すぎて時間をひたすら失うことになるのは経験則なのだけれども、トキハカネナリなんて俺の常識が古いのだろうか。
経済の世界では、無駄を増やせば増やすほど多くの人が仕事をもらえるという原理が存在するのかもしれない。
やはりもっと勉強すべきなのだろうなあ。
しかし疑問を抱くことこそ学問の出発点だと誰かから聞いたことがあるので、ここから始めたっていいよねと思う。
なにやってんだ、こいつら?
それらのいくつかを兼任中の、明石ヤストシという大臣がこのところよくコメントを発している。
秋ノ宮によく仕え、かわいがられているのだろうなと文字から伝わってくる。ノリが軽いのだ。
緊急事態宣言がらみの記者対応全般を任されているようだが、ちゃんと質疑の時間を設けてまったく頓珍漢な回答で煙に巻くという、秋ノ宮よりも高度なテクニックを持つ。
「政府は緊急事態宣言の全国一斉発令も視野に入れて検討を重ねていましたが独自に動く自治体も現れてたいへん当惑しているところです。国民の皆様に不公平感を与えない政策を実現するのが政府としての使命でありますから、これからも議論を続けていきたい」
「今、まさに、医療崩壊が始まっていると聞き及んでおりますが、新型コロナウイルス感染症対策の現場に政府は一切、制限をかけません。出産・育児などで長期休業中の有資格者、定年退職されまだまだお元気なのに自宅へ引きこもっておられる医師免許を持つ方々、会社の倒産で仕事にあぶれている介護事業の経験豊かなスタッフさんたち等々、貴重な人材はたくさん埋もれているんです。また、全国の看護系大学や専門学校にも学生や教官たちが大勢います。かれらにも実地の経験を積んでいただけるよい機会だと考え、厚生労働大臣とも協議しながら財政的な負担を軽減させられるよう調整中です」
「日本は、先進国の中で圧倒的に感染者も死者も少ない。検疫はたいへん高水準で行われています。昨年春の緊急事態宣言を思い出してください、みなさん。同じ対策を徹底してもらえばいいんです。そうすればまたすぐに落ち着いて、夏にはオリンピックを迎えられるのですよ!」
力強いノーテンキ。政治家に求められるスキルかもしれないな。
それにしたって現場も現状も知らなさすぎて非現実的な夢しか語れていない。
所詮は賑やかしの芸人。秋ノ宮の寿命をわずかに伸ばしているだけだ。意味あるんかい。
貴重な時間が、今日もまた、役立てられもせず流れ去ってゆく。
厚労大臣・松阪ノリヒサもよく紙面に登場する。
昨年、コヴィッドのおかげで大量の派遣社員を雇い入れることになった厚労省。その数に比例して子供たちの潜入数も多い。室長・課長・部長・局長でイタズラを被っていない者は限りなくゼロに近いそうだ。
したがってまったく仕事が進まない。
秋ノ宮にせっつかれ報告を上げるべき厚労大臣は手元に資料がこないため生返事しかできない。
官房長官にも文句を言われる。発表は自分の口からしてくれよと。
そりゃ、そうなるわな。
厚労省官僚は相談も無しに勝手な発言ばかりする大臣に烈しい殺意をたぎらせるが、そんなことより目先の脅威への対処が優先だ。
今度の内閣は長くない。言わせておけ。マスコミも国民もどうせすぐ忘れる。それよりもパソコンのデータ消去が大変だよ。
誰も信用できないから自分でチマチマ消してるんだが、これでほんとに大丈夫なんだろうか。昨日メールに添付した資料?見当たらないねえ。もう一度送ってくれ。え、そっちでも消しちゃったのか。おいおい、どうしよう。
こんなタメイキが毎日、霞が関のいたるところで漏れてるんだってさ。
平和だねえ。
特に嫌われてる官僚だったら、タメイキどころか絶叫轟かせてるからね。
子供たちも無差別攻撃じゃなくて、おねえさんたちが指さすヤツからターゲットにしていくらしい。
ここには秩序がある。いちばんストレートな民主主義だとさえ言えるのじゃないだろうか。
俺に手を出せる余地はないのだが、しばらく見守っていきたい。
そんな厚労省の監督責任を命じられている松阪大臣なのだけど、秋ノ宮が一発逆転を賭けているワクチンの獲得交渉も担当させられていた。
外務大臣・足利トシミツがこれを補佐することにはなっているけど、泥舟にカナヅチが2人も乗れば沈むのが早まるだけだ。
週2回、機密費のオカワリをねだるくせに成果を報告できない松阪にとうとう秋ノ宮がキレた。
新たにワクチン接種推進担当特命大臣というポストをつくり、英語が話せて器用さも取り柄の平塚タロウを指名する。
平塚にとっては5つ目の大臣兼任となるが、最優先でやれという。
どんな仕事でも引き受けますと日頃から豪語する平塚、札束握りしめて飛び出していった。それが、月曜日のこと。
なんと、たった2日でフィッツナー社との契約を締結してきたと勝ち誇った笑顔で凱旋し、秋ノ宮首相の英断あったればこそですぞと記者団にしつこくしつこくしつこくうざがられてもひるまず圧をかけたおす。
なるほど全紙一面トップを飾るわけだよ、秋ノ宮の笑顔が。
隅々まで目を通したが、ロビネットの大統領就任式がぶじ行われたかどうかは書いていない。
日本時間で深夜2時からだったし、議事堂襲撃の記事もあれだけ遅れたのだから予想通りではあった。
俺はもちろん朝まっさきにエヴァンズから聞いておいた。
圧巻の厳戒態勢下で完全に時間通り挙行され、名実ともに合衆国第46代大統領ジョセフ・ロビネットが誕生したぞと。
「ドナルドは予告どおり式典に参列しなかったんだが、セレモニーが始まると同時に最後の大統領令を発し、143名の凶悪犯に恩赦を与え各地の刑務所から合法的に出獄させた。あっぱれ。
ちゃんと前回の反省を踏まえて、抜け目なくやったもんだ。
今日からは国を憂える一市民として、自由を行使しても以前ほどの責任は問われなくなるからね。民主党にとってはより厄介な敵になる。
議員たちは弾劾なんかやってないで、刑事告訴する証拠集めに全力を注ぐべきだったんだ。まったくあまちゃん揃いだよ、かれらは」
アフガニスタンやリビアから、ドナルドにとどめをさせって依頼を受けてませんでしたっけ?
これもシナリオのうちですか。
いったいどうなっているんでしょう。
「ハハアン、旧時代のセオリーにとらわれてるね君は。
たとえばだが、誰かが今日ドナルドを銃撃し、殺害したとしよう。その後どうなる」
あ。ドナルドは英雄になっちゃいますね。
即死だったら苦しみさえしない。
それはダメだわ。
「ほら。一瞬で気付けることじゃないか。そんな暗殺、利敵行為だよ。
いいかね、僕たちはドナルドに屈辱を与えてやる仕事を請け負った。
むしろドナルドの生命を徹底的に守らなくちゃならないわけだ。
実務はUSのチームが担当するけどね」
そっか。迂闊でした。
ということは、これからもドナルドを生かし続けて、じっくりコトコト苦しませ続けるつもりなんですか。
「あたりまえじゃないか。
暗殺したら契約はその1回で完結してしまう。僕たちはパートナーとずっと長いおつきあいをしていきたいのだから、より長期的なプランニングを提言して締結に至り、料金も定額制自動更新でいただくのだよ。それが基本さ」
なるほど……その考え方に立てば、ブーマーと子供たちだったら子供たちと契約して、子供たちのためにいいことをしてあげるべきだって発想になりますかねえ。
当たっていますか?
「どうした。今日は冴えすぎだぞ。
どうして毎日目の前で見ていてそんなことにも気付かないのかと僕は呆れ果てていたんだが、急に賢くなったみたいだな。
通りを歩いてる、かわいいクークンでも見かけたか」
いえ。安全運転に徹してますから、見かけても気をとられたりはしません。
今日もいい天気だから、ですかね?
もう、春めいてますからね。
「それなら今日は読書も捗るんじゃないか?経済学でも深めるといいぞ。
縦書きでもヤポメディア出版物でも気にするな。経済はあらゆる分野と癒着・膠着・粘着するから基本が身につけば何でもトリガーにできるんだ。とりあえず量をこなしておけ。
経済学の理論をどれかひとつでも極めれば、突然それらがすべてつながる。
その瞬間、きっと君は僕に感謝をすることだろう」
まちがってもそれだけはない。
しかしともかく、勉強したい欲が湧き上がっていた。
コンビニで新聞を買い、いつもより経済を意識しながら読んでみた。
しかし、さっぱりわからないのだ。
なにやってんだ、こいつら?