東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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ワクチン大臣・平塚タロウは任命された週の終わりまでに、国外3社と、総計3.14億回分の供給契約を締結した。

全新聞がこの快挙を讃えており、将来の首相にふさわしい人物ナンバーワンだと囃し立てている。

ふざけすぎだぞ、おまえら。

 

秋ノ宮政権を叩きたい。日頃の鬱憤をすべて首相のせいにして威勢よく踏みつけて叫びたい。その材料としての一過性トリビュートであることがあからさますぎて、もう少し考えて書けよと言いたくなる。俺ですら。

それに、叩かれるべきは前任者の松阪厚労大臣だろう。なぜかマスコミはここで彼の名を出さない。

たぶん松阪は秋ノ宮や平塚と違って、記者たちに上から目線で要求を申し渡したりしないのだ。質疑応答でもとりあえず対話は成立しているみたいだし、そんな貴重な話し相手をおもちゃにしようとはマスコミも考えないのである。

でも官邸ではこれと真逆の人物評価がされているのだろうなあ。

ちなみに庶民の目からは、おまえらすべてが大バカ者だ。全員ぶっ殺してやってかまわん。区別するほどの差異もない。

 

今日は、庶民のニュースに注目しよう。

まず、とうとう日本から居酒屋が絶滅した。

 

発令主はバラバラだが、ほぼ日本中の都市で戒厳令が敷かれている。

飲食店の営業時間はおおむね夜8時までだ。

夕方から開店する居酒屋なんて砲撃の最前線に立たされてる人垣に等しい。一夜明けるたび、まだ生きていると気付くことは幸運なのか不幸なのか。

唾を飛ばし合いながら酩酊させ合う飲みュニケーション文化も潰えた。

昨年春に新社会人となった世代は、コヴィッドのおかげで過酷な入団式を免除されている。あるいはそもそも自宅から一歩も離れず就業しているので、こんな旧体質に接する機会を持たない。

割礼・煙草・体罰や生贄儀式と並ぶ、蛮族の因習。その舞台装置たる居酒屋が駆逐される流れは必然であった。

 

居酒屋経営者たちの悲哀は想像を絶した。

サラリーマンが暖簾をくぐるのは7時前後から。ラストオーダーまで30分あればいいほうである。

食材の備蓄を抑えているのでメニューは黒塗りばかり。

黙々と平らげ、お勘定。

ある客はつい大声で笑って周囲を凍りつかせ、店員から出入禁止を言い渡される。そんな屈辱を客にも身内にも強いねばならぬ。

日々積もる借金。

自分たちだって疫病を持ちこまれる恐怖にさらされ続けている。

仲間がどんどんいなくなる。

そんな一年だった。

誰をうらめばいい。何を信じたらいい。あの世なら、もう少し暮らしやすいだろうか。勇気を出して、とびだしてみようか。少しでも可能性のあるほうへ。

そんなことばかり考えながら最後の一瞬まで気を張り詰めていたのだ、みんな。

楽になれたなら、それを幸福と呼ばずして何と呼ぶ。

 

片や、スーパーマーケットや弁当屋は増収増益を記録している。

カップ麺やスナック菓子の新製品が続々と発売され、広告代理店やメーカーは笑いが止まらないようだ。

少なくとも宣伝するタレントたちは全身全霊で喜びを表現しており、まるでステイホームこそが絶対正義であるかの如き印象を与えることに一所懸命である。

 

ふと思ったのだが、記事なんて載せずに広告だけで構成したら新聞はもっと売れるんじゃないか。

そこにはポジティブな言論だけが存在するのだから。宗教を求めている人の心に刺さり、癒やしの効果を期待できるだろう。

居酒屋さんたちにも、冥土以外の選択肢を提示してあげられていたら、もっと違う脱出ルートだってあったかもしれないんだよ。なんてな。

 

庶民のニュースで経済的な要素を感じられる記事は多くない。

貯金があとこれだけなんですと数字が示されることはあるが、俺の基準ではこんなの経済に含まない。

圧倒的にまぶされているのが道徳と感動。

これが素材の味を完全に殺してしまう。

なにも説明しないし、だから解決にも至らないので、記者はいつまでもルーティーンワークしつづけていられて楽なんだろうなと分析する。

ちなみにエヴァンズはそもそも日本発の報道をチェックすらしないので、俺が話しても興味無さげだ。

 

だから気の向くままに俺なりの雑感として述べる。

軽症あるいは無症状であったとしても、コヴィッドに罹患して休みをとれば、復帰後いじめにあう。

学校ならばバイキン呼ばわりされてモップを振り回され追い立てられるし、トイレから戻ると机やカバンを窓から放り投げられていたなんてのも軽く想像できる光景だな。

大人になるともっと陰湿になる。

当人だけを仲間外れにしたグループチャットで盛り上がり、仕事は一人でできるものしか与えず、定時になればいの一番に追い払い、そのあと下っ端に命じてそいつの机を徹底消毒させるとか。

実際そういう事例が昨年全国で数限りなく発生していたようだ。

投書や人生相談のコーナーで読みたきゃいくらでも読めるのだが、回答はテンプレ。あなたは悪くありません、くじけず前を向いて進みましょう、そのうちきっといいこともあります。

もちろん、ここに経済は無い。神託なら文明社会じゃなくたって下せるのだ。

 

弱者が自力で状況を好転させると、新聞は感動を書き立てる。

「こちらで以前相談させていただいた者です」などの文言は割愛せず、なんなら日付まで補註して、さも紙面で助言してあげたおかげだぞという印象をしっかりと読者に与える演出はあざやかだ。

すべてが完全創作という可能性もないではないが、たまに解決手段として暴力を活用する相談者もいて、この場合新聞は必死で関与を否定するので、あながち嘘ばかり書くわけでもないようだ。

 

道徳と感動が、コヴィッドのもたらした社会的ダメージに何らかの対抗手段たりえているのかと考えてみる。

一年もかけて、そんなもん糞の原料にもならないと充分証明できたんじゃないだろうか。否定できまい。

じゃあ経済や暴力なら解決できるのか。

そんな実験、誰もしてないから判定不能だろ。

もしくはそれらすべてが必要で、ここではこれ、そこにはそれと適切に使い分けてやっと脱出できるゲームなのかもしれない。

ともかくダメな組み合わせはひとつわかったんだ。次を試せばどうかなと思うんだ。

できれば秩序立てて、な。

 

新聞は飽きた。エヴァンズのプリントアウトを読もう。

ロビネット新大統領は就任後ただちに、コヴィッド対策を再優先課題とする政府方針を発表した。

国内死者は40万人を超え、これ以上の拡大を食い止めるにはワクチン接種を速やかに確実に実施していくことが重要だ。

あたりまえのことが簡潔に力強く書かれている。

そして、決して容易ではない困難な状況に対し真摯な姿勢で取り組むために目をそらしてはならないことがあると、全合衆国民へ向けてこう語る。

 

「皆さん。

本日は、民主主義が新たな出発点に立つ日です。

建国以来ずっと、合衆国は試練を与えられてきました。また私たちは試されるのです。合衆国は、挑戦します。

私たちは勝利を祝います。候補者の勝利ではありません。民主主義の勝利です。

国民の意思が尊重され、正当なる手続きを経て、これからの4年間代表を務める者が選出された。その大義が成し遂げられたこと。すなわち、民主主義の勝利です。

民主主義は守られねばなりません。民主主義は非常に脆く、こわれやすい。ほんの小さな暴力でも傷がつきます。だからこそ、私たちは一丸となって、民主主義を守らねばならない。そのために結束しなければならない。

本日、共和党からも、民主党からも、大勢が参加されています。私たちはお互いを敵ではなく隣人として見ることができます。お互いを、尊厳と敬意をもって扱うことができます。力を合わせることができます。

冷静になりましょう。結束なくして平和もありません。敵意と憤慨だけが残り、進歩もありません。怒りに消耗し、無秩序が生まれます。

私たちは合衆国国民として結束する必要があります。そうすれば、絶対に失敗しません。

合衆国の物語は、全国民が支え合って築いていくべきものです。合衆国国民には、不断の、大胆な楽観主義という強い文化があります。私たちはこの伝統に支えられながら、私たちにとって実現可能な、偉大な国を目指します。

私たちを引き裂く闇は深い。しかし殊更に新しい状況ではありません。

合衆国の歴史は、理想と現実の絶え間無い闘争でした。

機会・安全・自由・尊厳・敬意・名誉および真実を、私たちは守ります。

そして、怒り・怨み・嫌悪・過激主義・無法・暴力・病・失業・絶望を斥けます。

私の使命は、合衆国国民を結束させることにあります。結束によって私たちは不正を排除し、人々を仕事へ戻し、安全な学校で教育します。死のウイルスを克服することだって可能です。合衆国にもう一度、世界の正義を指導する力を与えることができます。

南北戦争・大恐慌・世界大戦・911を通して、私たちは数々の困難と立ち向かい、常に勝利してきました。私たちは、いまだかつて一度も失敗したことはないのです。必ず最後には勝利します。だから互いに耳を傾け、さらにもう一度耳を傾け、互いを見つめ、敬意を表しましょう。一緒に行動しましょう。

神と、皆さん全員の前で、私は誓います。

私は全国民のための大統領です。私を支持しなかった人のためにも尽くします。愚かな内戦を終わらせることが、私の使命です。

聖書にはこうあります。一晩中泣いて悲しんでも、朝と共に喜びが訪れると。

合衆国に、神の御加護を!」

 

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