東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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冬の国体が始まった。

第76回国民体育大会。

冬と夏に全国もちまわりで開催される、スポーツの祭典だ。

 

2016年は岩手県が会場だった。花巻のスケートリンクでもホッケーの試合が行われて、けっこう盛り上がっていたはずだと記憶する。

俺は盛岡の農学校へ通っていて、日程も合わなかったから、テレビでハイライトしか見なかったんだが。

 

2021年冬季はまず愛知県と岐阜県でスケートとアイスホッケーを5日間。来月、秋田県でスキーを4日間。

昨年夏の鹿児島大会は、オリパラの日程と調整して10月に開催する予定だったらしいが、コヴィッドのせいで中止となった。

それから3ヶ月。

もっとはるかに深刻な状況となっている現在、なぜ、強行するのか。

 

もちろんこの夏、政府の威信を賭けて何があろうとやりぬかねばならない、東京オリンピック・パラリンピックへ向けての予行演習となるからである。

最悪を想定して無観客でやってみる。

これまでも野球やサッカーなど、スタジアムにお客を入れず実施された試合はいくつもあった。

ま、リーグ戦はやらなきゃならんわな。

しかしどうやら無観客イベントというものは、関わる人すべてにとって想像以上にきついらしい。

 

あとで分析を交えて詳述するが、ともかく政府は新たな課題を抱えているのである。

無観客でも成功だった、やってよかったとレガシーを遺せるスポーツ大会を、どうやったら創りあげることができるだろうか。

それは錬金術にも等しい挑戦であると説く人もいる。

もちろんそんな真理を衝く発言は封殺せねばならない。非国民には死あるのみだ。それを、あぶり出すための行事でもある。

7月までに言論界も、覇気と笑顔で埋め尽くす。

それが政治の使命だと、言いたいんだろ秋ノ宮。

 

「オリンピック開催国である日本には、ワクチンが優先的に配分されるべきだ」

この言説、最初はどこで見たのだったかな。

いつしか末尾が「されるはずだ」になり、更に「配分してほしい」と嘆願に変化した。

 

WHOは苦言を呈す。

「ワクチンは最も必要とされる人々のもとにさえ届いていない。健康で、かつ国や企業に守られている選手やトレーナーたちを優先させる根拠はない」と。

 

これにIOCが楯突く。

「世界に夢と感動を与える選手たちが軽視されてよいわけがない。日本はよくやっており、感染者も死者も低水準に抑えこんでいるが、それでもワクチンの配分は可能な限り優先されるべきだ」と。

 

もちろん日本政府とマスコミは総出でIOCへ感謝し、WHOを叩く。

中国にずるずるべったりのくせに、世界中から巻き上げているワクチンを自分たちこそ適切に管理できているのか、と。

その舌鋒は鋭利にして邪険である。

実際問題としてWHO主導による「全世界へワクチンを公平に分配する」という計画は、破綻するにしても限度があるだろと言っていい状況のようだ。

先週末までに日本はアメリカ合衆国のフィッツナー社ほかからワクチン購入の契約をとりつけた。これは当然WHOの存在を無視した暴挙であり、行列のできる旨い店へ裏口からあがりこんで配膳中の料理を厨房で平らげはじめたに等しい犯罪行為だ。

WHO加盟国の中でも優等生で通っているはずの日本が政府の特命で堂々とこんなことをやった。製薬会社も、売った。

WHOは、わめきはするが日本を名指しもしない。

日本だけじゃないのだろうとも思う。

予定数量のワクチンが納品されず、WHOは約束した国に届けられない。接種会場や人員を確保して準備を進めていた国々では、借金と徒労感がますます積み上がり、WHOを提訴するぞといった脅迫やデモにまで発展しているという。

 

国際承認されていない、ロシアや中国産のワクチンも世界中で売られている。むしろWHOが承認しないがゆえに面倒な手続きを経ることなく、誰でも買える。

ブローカーたちは元手を掻き集めてマーケットに列をなし、自国の町医者に売ってはまた買いに戻ってくる。往復すればするだけ財産と信用が増えてゆく。

まさに地獄と天国。

WHOこそが疫病神ではないのかと、信用失墜は加速するばかり。

コヴィッドは怖いが遺伝子操作ワクチンはもっと恐ろしいと拒絶する人も世界中にいて、猛烈な反対運動を展開している。

義務化すべきではないんだろうなと単純に思うが、現実世界ではここも難問化する。

メカニカルなワクチンは大量生産できる反面、超冷凍で保管する必要があって消費期限も短い。

緊急事態だからどこの国も一括購入して全国民へ一気に接種させることを計画する。

一日でも早く接種会場を解散させて、経済活動を再開させる。これが政府の使命であり、国民にいちいち選択の余地を与えていたら貴重なワクチンが溶けていくのだ。

せめて今だけは民主主義を忘れてくれ。そう言いたくなるのもわかるのだが、民はこれを認めないしゆるさない。

ただただ恐怖に脅え、暴れる。

それもわかる。

にらみ合っているうちに、カネも時間もワクチンも、あとかたもなく消えるだろう。

ああ難問だ。人類に解けるのか、このクイズ。

 

未曾有の国難に直面している諸国家にくらべたら、日本には国体を開催する余裕すらある。たいしたものだと思う。

昨年いくつものイベントが無観客で実施された。

これがとても評判悪かったという話から始めよう。

 

まず入場料収入がゼロである。

事前にチケットが販売されていた場合は告知とお詫びの追加費用、払い戻しの手間も発生する。

グッズの売上は大幅減となるが、つくらないわけにもいかない。

場内飲食店が蒙るダメージは更に深刻だ。

そして試合当日。中継用カメラはいつもどおり配備されるが、オーディエンスがいない。

練習試合と変わらない雰囲気。サポーターたちの熱気と声援を想像だけで補って全力出しきれる選手がいたら、かなりあぶない精神状態と診断するべきだろう。名勝負など生まれようもない。

モニタ越しでも空気は伝わる。

ただでさえ巣ごもり需要による映像配信コンテンツの充実は目をみはるほどなのだ。勝たなきゃ見てももらえない。

結局、無観客ならやらない方がマシという経験則ができてしまった。

スポーツ界は早々と冬眠状態に入る。

ある日とつぜん起こされる。

無観客試合を行うぞ。

慣れておけ。オリンピックに備えてな。

 

今回は冬季大会なので、選手たちのほとんどは夏の競技に出場しない。

慣らすのは報道や交通機関、そして会場設営や進行に携わる、いわゆる裏方スタッフである。

まだ辞退から防ぎ止めているボランティア登録者へ連絡をつけたり駆り出したりといった確認作業も含まれる。

 

国内の歓迎ムードも段階的に盛り上げていく必要がある。

東京オリンピックは7月23日開幕。

二度の延期はありえない。中止など論外。たとえ核戦争が始まったとしてもオリンピックは止めさせない。

それがリッパーオフ委員長の断固たる決意であり、年が明けてから日本政府への圧力もますます強まっているそうだ。

だからWHOのクレームにも、すかさずカウンターを繰り出すのである。

 

今更ながら、日本には口を挿し挟む意思すら無いようだ。

開催させていただける立場をわきまえた国、ということか。

それでワクチンを1本でも多く分けてもらえるのなら喜んで尻尾を振りましょう、ってか。

だから平和でいられるのだと、そこを誇りに思うべきか。

 

現実的に、7月時点でコヴィッドが収束していなければ、海外からの渡航は選手団以外を制限あるいは禁止したままとなる。

冬の国内旅行支援キャンペーンは結局再開されなかったが、夏にはきっと、やるだろう。

日本チームへの声援だけが響く競技場では、卑怯かもしれないがメダルを獲りやすくなるから、そんなに悪くもない話だ。

最悪なのは完全無観客のまま全日程を満了すること。

巨額の赤字を叩き出すだろう。

負のレガシーがこの先何十年も日本の歴史に刻みこまれ、後世の嘲笑を浴びるだろう。

嘲笑ですめばいいが、憎悪の種を播くことになったらブーマーばかりでなく俺たちの世代まで血祭りにあげられる。

それは避けたい。

だからこその予行演習だ。

最悪を想定した、無観客による国民体育大会。

それが昨日はじまった。ひっそりと。

 

「最悪かねえ、その程度で。

まったく想像力が貧困すぎるね。

君も君だ。何を塞いでるんだ。わけがわからないよ。

知能が退行現象でも起こしているのかい。ずいぶん幼稚じゃないか。ただただ不安に呑みこまれてるだけっていうのはさ」

 

幼稚で結構です。これ以上怖いことなんて考えたくありません。

カモッラならなんだってやっちゃうでしょうけど、やらないでください。俺は、せめてオリパラが無事に終わってほしいと願ってるだけなんです。

傷痕はのこるだろうけど、それでもその先に未来があってほしい。

それくらいの希望は持っていたいんです。

 

「IOCと血の契約を交わした以上、来るべきものは来るんだよ。君たちが招致したんじゃないか。白々しいな。

まだ半年以上ある。準備する時間としては長過ぎだ。

リソースが余っているなら新しいアイデアを試すことだってできるよ。

オリンピックについて君はまだまだ何も知らないに等しい。だから何をすればいいかも思いつけないんだろう。

ヤポメディアを読んでそこまで考えられるようになってきているのなら、オリンピックでも世界情勢でも同じように読んで突きどころを検討してみればいい。

脆弱点だらけだよ、どれもこれも。

最小の投資で最大の効果をもたらすアイデアが浮かんだら、話してみろ。僕がチェックしてやる。

余裕があるときには、つきあってやるから」

 

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