東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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フランス金融検察局が日本での捜査を終了し、撤収した。

その後、自国のマスコミにこう語る。

「日本の警察・検察機関は閉鎖的で、あまりに非協力的であった。犯罪を立証する手懸りはおろか、無罪だと推定しうる会計記録さえ入手できなかった。

これでは立件することすら困難である。

強く批判する」

 

2013年9月、夏季オリンピック2020の開催地が東京に決まった。この招致運動で多額の裏金が飛び交い、その一部がフランスで資金洗浄されたんだとか。

適切な手数料と税金を納めさせるべく国際調査チームが丸3年間駆け回ったが、事件性無しと結論されたようだ。

それではカッコつかないし、捜査にかかった莫大な費用を支払うのはフランスの納税者なのであるから、日本が悪いんだよと釈明をする必要に迫られ、見苦しいコメントを発した。

あたりまえだが、日本はこんな記事黙殺する。

これにて一件落着。

 

「仮にスカーレット・ピンパーネルが潜伏していたとしても、ヤポの官憲が捜査協力することは不可能だろう。犯罪者が身元をロンダリングするには絶好の条件が揃っている島だからねここは。

まあ、いいんじゃないか。

君の言うとおり確かに双方丸く収まり格好がついた幕切れだ。

長期出張で羽を伸ばせた検察官も、逃げおおせた竹田宮も、今日は祝杯をあげているだろうよ」

 

タケダノミヤ?

なんだ、カモッラはこの件に絡んでいたのか。

じゃあおまえらが悪いんだ。

双方からいったいどれだけピンハネしたんだよ。

 

「12月にTOCが更新したオリンピック開催経費の総額は1.64兆円で、昨年同期より3000億円程度超過との報告だ。

こんなデタラメな計算しかできず、政府・メディア・民衆すべてがハイそうですかと聞き流す。

なんとおおらかな国なんだろう。

魂まで洗われてゆくようだよ」

 

そうか。キレイになって出ていけ。

ところで、せっかくだから訊きます。

金融検察局とは何ですか。

経済のどのあたりを担当する部門ですか。

 

「経済のどのあたりを担当?

まあ、白血球みたいなものじゃないか。バイキンをやっつけるんだ。

ヤポには、これに相当する機関は無いよ」

 

おお?それでは病魔におかされるがままになってしまいますね。

フランスにしか存在しない部局なんですか?

 

「GBには重大詐欺局。USには金融犯罪取締ネットワーク。

SGの汚職行為調査局も手厳しいことで知られているが、FRみたいに金融の専門家集団へ絶大な捜査権限を与えているところは稀なんじゃないかな。

いずれにしても、ヤポが同等の機関をつくることはありえない。

証券取引等監視委員会という部局が存在はするが、かれらの役割は証拠の消し方を教えて回ることだからな。これがまったく、できちゃいないんだが」

 

それでもその委員会が、フランスからはるばるやってきた専門家集団を撃退してみせたわけでしょう。国益を守ったんだ。

褒めてあげたいと思いますよ。

 

「FRの捜査チームは、アラビア文字で書かれた収支報告書を査読する技術にかけては超人級なんだが、ヤポの縦書き文書には慣れていなくて、時間と労力をこれに相当奪われたと聞いている。

桁区切りのルールもかなり違うし、年度始まりが4月という物流の激しい時期のどまんなかに設定されているため、ここでいくらでも誤魔化しが可能となり、チェック体制がそもそも存在しない。

あらゆる法律が特権階級を守るために整備され、外国人に対しては門戸がより厳しいというヤポイズムはすべての国の大使館員が直面して1年目に苦労するところだけれど、FR検察官へヤポが向けた敵意はこれの最大級だった。

そこまで知ってから、帰国後の報告を読んでごらんよ。

自制がききすぎていると感心せずにはおれない。

まあ、メディア向けには抑えて語るか。かれらは誇り高きフランス人だからね」

 

ふうん。

あれ、フランス大使館てどこでしたっけ。あんまり行ったことありませんよね。

 

「ああ。直接行くことはないね。

FR大使館は南麻布にあるが、急ぎのときでもすぐ近くのヨーロッパハウスを合流場所にしている。

あそこも、居心地はよくないんだけどねえ」

 

あの辺ならしょっちゅう行ってるが、毎回パキスタン大使館が目的地なのかと思っていた。そうか。居心地悪いんだ。

俺も、好んでお近づきになりたくはないなあ。

 

「ここから少し徐行してくれ。

今夜君にも走ってもらうつもりだから、目印と距離感もつかんでおいてくれよ」

 

は?毎度のことながら、唐突にヤバそうなこと言うよなあ。

ここは練馬区氷川台。

陸上競技場と併設する大きめの公園があり、それを包みこむように住宅街が広がる。小路がグネグネ入り組んでいて、ナビ有りでも方向感覚が狂いそうだ。

またプレゼントでも配って回るのか……と思っていたら、ふと脇の壁の上に、鉄条網が見えた。

ほどなく標識で、その正体を知る。

東京少年鑑別所。

つまり……マウスになりそこねた少年たちが、ここに、収容されている?

 

「殺しきれなかったり、逃げきれなかったりした子たちだね。自首した子も含まれる。

ノーミスクリアした優等生よりも、一度挫折を味わってるから粘り強さが身につくんだ。いずれ貴重な人材となる。

それをヤポでは厄介者扱いするんだから、いやはや、嗤うね」

 

言い返せない。日本では、軽犯罪でも一度おかせば将来まっくらだ。

生涯を通じてクリーンであることが求められる。そんな人がいっぱいいすぎて、敗者にチャンスなんて回ってこないのだ。

粘り強さ云々もわかるのだけど、ずっと順番を待っているピュアな人材をさしおいてバツイチを登用することなんて世間は許容しない。

実際、一度やらかした奴は二度三度と同じことやらかすしなあ。

 

「ヤポもヤポなりに考えてそうしてるんだぞって言いたいのかな?

好きにしたまえ。君たちがピュアの塊でいてくれるからこそ、僕たちは労せずして奪い尽くすことができる。

少しは耐えてくれたっていいんだぜ」

 

言われずとも脆弱点は明らかだ。

素人の俺でさえこの鑑別所を一周しただけで、どこから侵入すればよいかがひと目でわかった。

外部からの手引きがあれば脱走ルートは無限に存在する。ありえないほど隙だらけ。正気か?と思うのだが、まさか襲撃されるなんて露ほども想定していないのか。

ひと晩で500軒に武器を配って回った精鋭テロリスト集団が背後にいるんだぞ。

なぜわからない。これが官僚主義の実態か。知らねえよ。俺は奪う側でよかった。

 

その後、奥多摩まで行ってきた。

道中、最近の国内犯罪についてエヴァンズがとりとめなく語るのを穏やかに聞き流す。

 

「中小企業が、covid-19のせいで業績がゆき詰まったと証明できる書類を準備して申請すれば、最大100万円をすぐ振り込むという政府の施策があるんだよ。

去年の4月に経産省が下案を出し、岸が紫党議員に号令をかけてすぐ可決された。

罰則規定が不明瞭だし審査基準も担当者次第という、ヤポでは珍しくもない制度がまたひとつ追加されたわけなんだが、申請する側も受理する側も焦っているからメチャクチャなミスも多発していてね。

役所はそのたびに相手側を不正受給だと告発して送検させるというアレルギー反応をこじらせた。

判断するのは検察官だが、これも書類だけを見て不備だらけだったら起訴だ。

起訴すれば犯罪と認定され裁判所へ送られる。それ以上戦おうとする中小企業なんて皆無だから、給付金を全額返還して泣き寝入りするのが普通だ。

80%以上がその後ほどなく倒産するね。

この制度を最も利口に活用しているのは、さて、誰だろうか」

 

誰かが計画的な悪意を持っていたとは考えにくいんですが、そんな話を聞くと、100万円もらえるからって申請に行くこと自体が恐ろしくなってきます。

 

「そうだろうね。

ところで23歳無職の男性Aが、困っている経営者たちを助けようと立ち上がって、この申請を不備なく行う手伝いを始めた。最初は親や親戚・友人たちの会社を救うところから始めて、評判になって全国を行脚する。

昨年末までで300社以上の申請に携わるが、不正受給を一件も出さなかった」

 

へえ。すごい。

強いコネもできたでしょうし、起業すれば大成功まちがいなしじゃありませんか。

 

「100万円かける300社なら、政府が振りこんだ額だけで3億円規模だ。

Aは事業化もせず、貧乏旅行の気分で楽しんでいたみたいだったが、実家に送り届けられた全国からの謝礼・金品が1000万円に届くほどの額に達し、これを国税庁が問題視して経産省にチクった。

その結果、10日ほど前なんだがAは告発され、彼の手掛けた申請がすべて不正受給扱いにされようとしている。

さてさて、どうなることやら」

 

な……え?どうしてそうなる……?

 

「僕にきくなよ。ヤポの思考回路なんて理解できない。

法律は曖昧に。いわゆる責任逃れ構文だけでつくられているから、強い側の解釈次第で後からどんな脅迫にだって使えるんだよ。

その状態を守り抜く方が既得権層には都合がよくて、つまりは秩序を維持することにつながる。

そんなメカニズムなんだろうねと思いはするが、畢竟ヤポ同士の諍いだからな。せいぜい殴り合えばいいんじゃないか」

 

むごい。

ねえ、霞が関の経産省や国税庁にもマウスたち潜んでますよね。もっと省庁内を引っ掻き回させて、暴走を足踏みさせることはできないものですか。

 

「それをさせたきゃ君が勝手に駒を集めて指令するんだな。どの程度のシナリオをつくれるものか、お手並み拝見しよう。

だがせいぜい、僕たちの邪魔はしないようにな」

 

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