東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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TokyoMassacre2021-02-002.hmos

防弾チョッキかあ。久しぶりだな。

 

夜中。駐車場へ降りると、熱気でムンムンしていた。

50人……いや、もっといるな。

黒っぽいミリタリーウェアに身を包んだ青少年たちが、暗がりにいくつもの群れをつくって、ひそひそおしゃべりをしている。

 

俺はエヴァンズに手招きされ、ヘルメットを渡された。

はいサイズはぴったりです。通信感度も、良好。

今日の車はアウトランダーだ。いつもより念入りに点検をする。

その間にも、準備の整った車輌から順次発進していく。プリウスや、バイクも見た。

これまでにない混成部隊によるミッションか。

鑑別所から、100名以上の子供たちを脱走させるんだよな。それ以外にも何ヶ所か襲撃するんでしょうか。

 

夜半を廻って、2月2日火曜日。

歴史に刻まれる日付となるのかしらん。

フォネティックコードはQ4を割り当てられた。ケベック・フォー。

もはや26文字では足りないらしい。当然か。

イェーガー4人と武装兵1人を乗せ、助手席のエヴァンズから指示を受けて、出発。

いくつかのチェックポイントで数分ずつ待機しながら板橋までやって来た。

住宅街は灯火も間引きされていて、暗くひっそりしている。

 

小雨が降っているので視界がとても悪く、手に汗にぎる。

エヴァンズは、タブレットでパトカーが走行中のルートを確認しながら、それを避けるように道順を決めているようだ。

やがて中央公園まで辿りつく。鑑別所は300メートルほど先かな。

ここで、イェーガーたちを降ろす。

車の中は3人となった。

 

モーターの回転、暖房のファン、そして雨音。

俺には自分の息遣いと心臓の鼓動も鳴り響いて聞こえているんだが、あと2人のそれは聞こえないから、きっと気のせいなんだろう。

これは実音ではなく幻聴だ。リアルだけど。

 

指示がとんだ。

車を発進させる。鑑別所の脇へ。

停車。

うしろの武装兵がドアを開けると、パジャマ姿の子供たちが乗りこんできた。

詰めこんで、走り出す。

サイレンやその他警報装置の発動はしていないようだ。セキュリティまで完全に無効化してるよってか。

あとはパトカーの追跡が怖いな。そのときのために武装兵を乗せているんだろうけど。

 

春日町の住宅街で停止。

アパートの階段脇から人影がふたつ飛び出す。

子供たち、ゾロゾロと降り、ついていく。

武装兵、ドア閉める。

鑑別所へまた戻る。

アイ・サー。

 

往復するたび、乗車地点と降車地点は変わっていった。

どちらも、だんだん鑑別所より遠ざかっていく。

鑑別所正門のすぐ南角に交番があり、この前を二度ほど通過したのだが、窓越しに人影は見えなかった。少なくとも騒ぎにはなっていないようだ。

ここも制圧済み?

してないわけ、なさそうだが。

 

ミッションの最中は無駄口も叩けないし、エヴァンズはタブレットから目を離さない。

ちらと横目でうかがう限り、地図上の動点は最大5~6個揺れていたように思うが、だんだん減ってきた。

作戦エリアが拡がっていくにつれ、アウトランダーと他チームとの距離があいていったということかもしれない。

最後の集団は、高円寺で降ろした。

ここでエヴァンズより休憩を告げられる。

休憩、なんですね。まだ終わっちゃいないんですね。

時刻は2時半。

雨はまだ降っているが、強くはならなさそう。

15分後、出発。

 

氷川台のはずれでイェーガーを回収した。

人数は4だが、来る時乗せたのとは違う子が混じってた。

俺たちと同じ役回りのチームが複数いたってことかもな。

そして、元麻布へと帰投。イェーガーを降ろし、なんとここでナンバープレートを付け替えて、また3人で出動。

行先は江戸川区。

 

左近通りから先は規制線が張られているらしいので、俺たちは葛西橋を渡って西葛西まで来て、ここで4人の武装兵を乗せた。

そしてまた元麻布へ帰る。

車輌の再点検と清掃をしながら、3人でまた次の指令を待つ。

待つ……

 

何も起こらない。

4時を過ぎた。

武装兵くんは寝息を立てている。エヴァンズはあいかわらずタブレットと首っぴきだが、緊張していないのはわかる。

ミッションは、実質終了だな。

たぶん最後のチームが撤収完了したら、我々も解放されるんだろう。

 

窓の外に人影が現れ、ドキリとした。しかも、スターンだった。

窓を開ける。

つい、あけましておめでとうございますと挨拶した。

 

「おつかれさま。もう、いいんじゃないか。

よかったら一杯飲んでいくか?

カムパネルラも、まだいるよ」

 

そうですねえ、とエヴァンズは俺の顔をちらりと見て、この誘いに従った。

武装兵くんを起こし、4人でエレベーターの前まで来て、ここでスターンは離れていく。別ルートがあるらしい。

俺たちはルーティーンなので、シャワーをくぐる。

用意されていた着替えは、病院で入院患者が着るような作務衣だった。

楽でいいが、この格好でアヴァンティへ入るのは抵抗があるぞ。

しかし俺のせいじゃない。堂々と裏口から入り、カムパネルラにも挨拶した。

 

ほどなく武装兵くんも同じ姿で入ってくる。

彼の名はミレパ。そう自己紹介された。

 

エヴァンズはプロテクターを外しただけのワイシャツ姿で、正面ドアから入ってきた。

3人でボックス席へ落ち着き、おつかれさまと乾杯する。

スターンはカウンター内に腰かけ、俺たちからは目をそらして、くつろいでいる。

カムパネルラがピザをつくって持ってきてくれ、ボックス席の一角に腰をおろす。

この中でおしゃべりが好きそうなのはエヴァンズだけだな、とか考えていたら、ミレパとカムパネルラがぼそぼそ会話を始めた。

 

カ「匂わないね」

ミ「撃ってないから」

カ「ずっと待機?」

ミ「うん。ドアの開け閉め係」

カ「西だっけ」

ミ「東へも行ったよ。迎えに。あっちも暇そうだった」

 

拝聴しながら頭に地図を描く。

作戦の主たる狙いは練馬の鑑別所から子供たちを逃がすことだが、陽動部隊が葛西臨海公園でひと暴れして、都内の警官隊・機動隊を引きつけておいたらしい。

公権力側は二重三重の包囲網を敷き、その一番外周が新左近川だった。カモッラはこの更に外側にも武装チームを配備しており、臨海公園の班が窮地に陥った場合は背後から穴を開けて救出に向かう。そんなフォーメーションだったようだ。

 

俺たちが西葛西で武装兵4名を回収したときには、公園のチームは独力で機動隊に壊滅的な打撃を与え、脱出路を確保していた。

エヴァンズは全員が複数の集合拠点へ無事たどりついたことを確認したが、万が一のアクシデントに備えて俺たちを解散させないでおいた、というわけだ。

公園内外には地雷や時限発火装置などトラップを20個ほど仕掛けてあるので、警視庁はもう数日間規制を解除できないはず。加えて警察の機動力が激減したという噂が広まれば都内全域で軽犯罪と通報が増加するから、捜査はますます遅れ、混乱することとなる。

我々は弱い者の味方だから、せいぜいおまわりさんへエールを送ろう。

そんないつものエヴァンズ節も、快調だ。

 

ミ「ぜんぜん喋らない人ですね」

カ「気をつけろ。こんなムッツリが一番こわい。それに聴き耳の達人だ。ここでおれたちが話したことをすべて記憶し分析している最中だと思う。そうだよな、ジョバンニ?」

 

カムパネルラがこんなに喋る男だと知って俺は驚いている。

気を許した相手には心を開くらしい。典型的なオタクだな。

おめーのほーがネクラだし、こえーよ。俺なんかよりずっと。

 

かまわれても結局会話に入っていけないので、俺はほぼ聴くだけにつとめた。頭にメモを書く。

ふたりはコジモの出身で、カムパネルラはアントーニオの先輩。ミレパはヴィンツェンツィオの先輩だ。

アントーニオとヴィンツェンツィオが最強のタッグを結成したことで、先輩同士も交流を深める。そんな経緯があったんだとさ。

カムパネルラは負傷してリタイア。

アヴァンティにはそんな脱落者をリハビリさせる場という側面もあるらしい。

俺がなぜそこに落とされたのかは不愉快だから聞くまい。

ミレパは成人するにつれチームよりも単騎で動く方を好むようになり、名前をヴィンツェンツィオに譲って、コジモから卒業した。現在はカモッラの工作員としていろんな仕事を手掛けている。

今回のように武装して要所ごとに配置されるケースも非常に多いらしいが、実務が発生せず待機後しずかに撤収することもよくあるらしい。

重要な駒だが、隠れていることに意義がある。

指示がきて初めて姿を現し敵の背後または側面より急襲するのだが、この場合でも殲滅を命じられるのはレアケース。半端に驚かせることで相手は負傷者の収容を優先しなくてはならなくなる上、次の襲撃に脅え続ける。

むごたらしすぎる心理戦。

たしかに、出番がないに越したことはないな。相手が可哀想すぎらあ。

 

ミ「おれにとっては、ずっとカマス報復戦の延長なんですよ。

ノンマルトは誇り高い民族だった。カモッラの全面支援を頑なに拒み、自分たちの力で解決することにこだわり抜いた。

あれは戦略じゃない。物量で敗れたんです。あんなやつらに。

その復讐を、やりとげます。

愚かなヤポを、皆殺しにしてやる。じわりじわりと、たっぷり苦しめながらね。

まだまだ先は長い。

これからもいい関係を築きましょう、ジョバンニ。

さ、乾杯」

 

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