東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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TokyoMassacre2021-02-003.hmos

632号室へ戻ったのは5時過ぎだった。軽く走って就寝する。

 

今日は丸いちにち休みかな?と思っていたが、正午まえに起こされた。

ワイシャツ姿でアウトランダーに乗る。

江戸川区方面へ。

 

ショッピングモールで男たちを乗せる。

エヴァンズとのやりとりから判断して、昨夜葛西臨海公園で暴れたグループであること、確定だ。戦闘終了後は隠れ家へ逃げこみ、ぐっすり寝たらしい。

現在は仕事にあぶれてぶらぶらしているガテン系のおっさん風に擬態している。見事に腑抜けているが、車内にいると微かに硝煙の匂いがする。

俺でさえ気付くのだから、警察犬ならすぐに隠れ家を見つけてしまうだろう。

対策、してるのかな。

していないわけがないか。

俺だったらどうする。警察犬の飼育所をつきとめて檻の中で全頭殺しておくか。一晩で片がつく仕事だ。

……とっくに、やってるよな。

 

こまめに元麻布へ戻る。

降ろして、また出発。

インターバルがちょくちょく開くので、途中新聞を買った。駐車場で静かに読む。

エヴァンズは疲れていて今日は無口だ。

決して俺の前では眠らないところが忌々しい。

 

一面トップは、またまた秋ノ宮の謝罪会見。

紫党の衆議院議員が3名、銀座のクラブで深夜飲食。性的にいかがわしい行為まで働いたらしい。野党から告発され、最初のうちはシラをきっていたが次々証拠を出されて、遊び半分だったとはいえ不適切だったことを認める。

マスコミさえ押さえつけておけばここまで騒がれなかったと思うが野党のほうが抜かりなかったようで、日に日に記事量は増えていった。

そしてとうとう一斉に離党届を提出。無所属議員として再出発するという誓いを立てたのだ。

内閣総理大臣すなわち紫党総裁であるところの秋ノ宮ヨシヒデも3人の決意表明会見へ同伴し、深々と頭を垂れる。

マスコミはこの写真を撮りたくて粘着していたのだから、ここが退き際だ。記事の締めくくり方で最終回だなと感じさせる。

さ、明日からは誰を主人公にして新シリーズを始めるのかな。

 

じっくり準備して仕上げてあったこのトップ記事を、夜中とつぜん始まった武装テロの話題に挿し替えることは難しかったことだろう。

事件の方向性すら見えない段階では文章化さえできなくてもやむを得まい。現場は規制が敷かれているし、警視庁に詰めている記者たちは黙って発表を待つ以外にすることもなかったはずだ。

官僚だってオロオロしながら部下や派遣を叱り飛ばすのがせいぜいだったのではないか。

飛ばせば飛ばすほど指をさされるだけだってことに、まだまだ気付いてもいないエリートが多いという話だ。

それでも地球は回る。経済も回る。

世界は安定した軌道にとどまりつづける。

そこまでぶちこわすことはカモッラだって狙っちゃいない。悩むこたぁないんだよ。全人類が死に尽くすなんて到底無理だし、誰かの不幸は誰かの幸福につながるんだ。

めんどくさいから俺はもう、そう考えることにした。

今日も安全運転に徹しよう。路上は平和だ。

いまこの瞬間は、とりあえず。

 

秋田のスキー大会が中止になったらしい。

愛知と岐阜で31日まで行われた国体のスケートやホッケーが、案の定無観客でさっぱり盛り上がらず、準備不足や機材のトラブルで中止になる種目もあったり、中継配信だってアクセス集中によりサーバが落ちまくってほとんど見た人がいないという有様。

やらない方がマシだと、また実績が追加されてしまった。

反省点が浮かび上がったので7月のオリンピックへ向けて集中的な改善を施す、と文科大臣はコメントしている。

やる気なんだよな。

そこだけは、ぶれないなあ。

 

俺だったらどうする。

冴えたやりかたがあるよ。

観客入れて、グッズも売って、大声張り上げて、普通に大会を最後までやりとげるんだ。

コヴィッドに関しては報道も検査も、期間中は禁止させる。新規感染者数も死者数もゼロにする。

海外勢が来日するかしないかは出場国の判断にまかせ、自己責任だと念を押す。

日本だけがメダルラッシュに湧くだろう。これでいいのだ。

パラリンピック閉会式は9月5日だったはず。翌6日から、検査と報告を再開させる。そこからは、疫病退治に全力を尽くそう。

二兎を追ってはどちらも逃がす。火力は集中して運用させなきゃだめなのさ。けじめをしっかりつけ、全力で挑むターゲットを常に一方向だけに据える。

よくなくない?

 

新聞を毎日円滑に発行し続けるにはどうすればいいかって考えたことがヒントだ。

重大なニュースをあれもこれも並べちゃいけない。何も事件の起きない一日があってはいけない。計画的に、バランスをとりながら、いかなるアクシデントもインシデントも起こさせずに紙面をぴっちりと埋める。

それが会社員の仕事を維持し、余裕をもって経営を安定させていられてる秘訣だと思うんです。

やはり新聞はためになる。多くを学べる。

俺の数少ない、貴重な娯楽だ。

 

コヴィッド感染により絶望して自殺した人の記事は、定期的に載る。

緊急性が無いから、空きスペースを埋めるのに都合がいいのだろう。ストックも厖大にありそうだ。

病死に含むのか否かが曖昧だが、現場判断というよりは都道府県単位での政治的都合が反映されるようだ。

旅行支援キャンペーン中など安全をアピールしたいときは、自殺として処理。

最近では国に緊急事態宣言を出させたいがため、極力、疫病死にカウントする。

新聞社もその意を汲んで特集を組むが、紙面で珍重する決め手は遺書があるかどうかに尽きる。

徐々にゾンビ化してゆく噛まれた半死者の手記はゲームでも大人気だが、あのリアル版が読めるのだ。わざとらしく感じられるものも多いけれど、記者の贋作ばかりとも思えない。

遺書には結局、生前の教養が反映されてしまうので、うすっぺらい人生しか送ってこなかった者には退屈でひとりよがりでネチネチした作文しかつくれない。死んだあとまでバカにされたくなかったら、生きてるうちに修練しておけ。

これもまた新聞から教えられた、ありがたい戒め。

 

もちろん知識があればコヴィッドごときで人生断つなんて割に合わないとわかるだろうし、日本社会という檻の中でがんばって生きようなんてするからすぐ詰んでしまうんだろうとも悟れるのだが。

そこから脱け出す穴がいま、いたるところに開きまくっているんだぜとも教えてあげたいところかな。

まあ命懸けではあるけどね。どうせ死ぬならその前に、走れるとこまで走ってみる手もあったよねと言いたい。

 

ワクチンが日本へ届き次第、全国で接種が開始される予定だが。

平塚大臣が契約をとってきただけで大喜びしていた秋ノ宮首相。そこから先のプロセスを何も考えていなかったことが災いす。

連日、質問攻めに悶える。

 

もともと接種の具体的計画案については厚労省が準備を進めていた。

まず国民皆保険制度のシステムと連携させて、対象者の現住所へ接種券を発送する。国民は指定された会場で文句を言わずにワクチンを注射され、翌日は自宅で休養するべし。といった手順で。

しかしWHOからの公平な分配を礼儀正しく待っていたところへ、平塚大臣のミラクルプレイが炸裂。

厚労省はメンツを潰され、無能呼ばわりされて頭にきた。

大臣も官僚もすっかりヘソを曲げて非協力態勢へとスライディング。

秋ノ宮が厚労省に詫びをいれることもできたと思うのだが、愚痴を聞いた平塚はまたすぐさま飛び出し、全国都道府県知事と会見して独自に接種会場づくりを指示しはじめる。

その頃には霞が関パニックも手がつけられなくなっていて、厚労省が主導権を取り戻すことは絶望的になった。

ワクチンの国内配分は平塚大臣の一存で迅速に決められる。こんな激務を抱えまくる平塚をマスコミは捕まえることができず、いったいどうなっているのですかと首相に質問をぶつけるしかなく、首相は言葉を濁しながらひたすら謝ってばかりいるという状況である。

 

俺がゾクッとしたのはその先。

 

接種券を手に入れた国民は指定された期間内に会場へ行くが、曜日や時間帯によって当然ばらつきが出る。

密を避ける必要もあり、予約制にしたいが、これを電話で受け付けるとなると更に厖大な人手と予算がかかる。

厚労省もそこまで考えていなかったようだ。

全国の現場が政府に対策を求めるわけだが、平塚大臣の携帯にいくらかけてもつながらないので、あっちこっちに電話が回される。

すでにこの段階でなにかがおかしいのだが、誰もがそれを誰に相談したらよいかわからない。

その間も首相はすべて自分の責任ですとただひたすら目の前の人物に向かって陳謝を繰り返している有様だ。

 

ここで、韓国のサイバー企業が名乗りをあげた。

 

すでに全国民へワクチン接種を完了させるまでのロードマップができている韓国では、スマホアプリを利用した個人単位の予約システムも完成させていた。

現在はインストールだけさせて受付開始を待っている段階だが、すでに大きな話題となりインターフェイスの改良だとか細かなアップデートが重ねられている。実動開始後もスムーズな運用が期待できるだろう。

このアプリを制作したグリーンイエティ社は、表示を日本語化してデータベースを組み替えればそのまま使えるはずですと提案した。

韓国では大した技術ではありません。緊急時ですから、2年前の経済制裁を解いてもらえるなら、すぐ提供したしましょう。

平塚大臣は即決した。

逆らえない秋ノ宮はただちに厚労大臣へ泣きついて、国民皆保険データベースのアクセスキーを提出させた。

全国市町村の住民票登録も同様に解放させる必要があったが、こちらは平塚のひと声ですぐに集まる。

法案を通すなんて時間もかかるし、これが機密漏洩だと批判される危険性には誰もがうすうす気付いていたから、情報の不正利用は絶対にしませんという韓国側の宣誓を信用することにして閣議での全会一致のみによって裁決した。

 

ものすごく慎重な文章で記事にされている。

むしろ、よく書いたと思う。いつも通り揉み消してりゃよかったのに。

でも全国民のスマホにアプリを入れさせる必要があるから、

安心です!

安心ですよ!!

安心ですからね!!!

とアナウンスしておかねばならぬ事情にも拠ったのかな。下手にリークされるよりは公式が先に刷り込んでおけと。

政府は次に、「なんてことをやりやがって」と声を上げた人から任意同行させていくんだろうな。

 

そんなことより、敵はコヴィッドだ。

こいつを抑えこまない限り、韓国との有事勃発がどうとか言ってられない。

日本はこんなスマホアプリをつくる技術も、そのプログラムを検証したり制限を加えたりする手段も持っていない。いまや誰もがそれを認めざるをえない。

俺も、口を噤もう。

でも遺書は書かない。

最後は走って逃げてやる。

 

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