東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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TokyoMassacre2021-02-004.hmos

テクマクマヤコン、テクマクマヤコン。暴力装置とは?

 

「軍隊および警察を意味します。

JP特有の表現。かつては国家権力または公権力と呼称しました。

それらと敵対する側からの侮蔑感情が込められていますが、近年では当人たちも含め一般的に使用されています」

 

軽蔑語なんだ。

言われてみればそうか。装置なんて失礼だよな。

でも最近は大らかに使われてるって?

さすがニッポン。小さなことにこだわらない。その意気や良し。

 

それはさておき、国家権力という禍々しい響きの方が俺は苦手だ。民衆を抑えつけるために容赦しないぞという強烈な意思を感じる。

一方、暴力装置だったら「リモコンを操縦する者次第」みたいな公平さがあるじゃないか。

思想持ちは扱いづらい。その匂いをさせないことは、良い発明だ。

 

治安維持に暴力は必要不可欠じゃないかと思う。

どんな凶悪犯とも話し合いで解決しようと丸腰で立ちはだかるおまわりさんがいたら、そいつに守ってもらおうなんて期待はしない。とりあえず武器で脅しながら騒乱を止めさせること。それを担当する装置がいてくれることは、中立的な安心につながる。

重ねて言うが、ここに思想はいらない。

持たず、持たせず、持ち込ませず。

同じ装置がイデオロギーまで担当しようとすると、ロクなことになるわけがない。

裁判官と弁護士はそもそも役割が違うのだ。両方ともできますと言いながら実はどっちもできないただの愉快犯がしゃしゃり出てくるから状況は悪化の一途をたどる。

そんなニギヤカシを問答無用で排除するためにも、純粋なる暴力装置に守ってもらいたいよなと思う。

 

ところで、これらと性格も実態も異なる、別種の暴力装置が存在する。

暴力装置としか表現しようがないもので、国家権力ではない。

法律による制御がきかず、むしろ自分たちの決めたことこそが法律、あるいはそれ以上の正当性を持つと勝手に解釈する。

その論理で勝手にどこまでも増長し、肥大化し、つっぱしる。

殺傷力の高い武器を大量に使用しながら日々研鑽も絶やさず、ありとあらゆる手管で敵対勢力群の間に不和の種を撒き散らし、対立を煽って仲違いさせ続け、疲弊させしきる戦術が得意だ。

まったく最悪だぜ。マスコミっていうんだけどね。

 

ちょうど、ひとつ前のシリーズが終了したタイミングだった。

次のネタが必要だった。

いくつか候補を並べていたはずだ。マスコミは用意周到だからな。不測の事態を何より嫌う。

ただしジャックポットは歓迎だ。

今回は大当たりした。

さあ燃やせ燃やせ焚きつけろ。燃料になるものなら何だって掻き集めろ。

暴力の連鎖が止まらない。誰もこの嵐を止められない。

渦中にいなくてよかった。

 

標的は、能美ヨシロウ。

ぼけ老人だ。何が起こっているか理解できないようである。

幸福な王子さま。だから選ばれたのか。

こりゃ長引くし、たんまり稼ぐことができる。

マスコミ全社が思いをひとつにした。

容赦せず、やっちまえ。

ああスペクタクル。

大衆は狂喜して買い求める。

集団リンチは最高のショウタイム。

日頃の憂さを吹きとばせ。最大多数の最大幸福。これも社会貢献か。

治安維持に暴力は必要不可欠なのだろうか、やはり。

 

紫党の大物である能美は、83歳。ブーマーたちの先輩格である。

もっと下の世代へも長年にわたり恩を売ってきたようで、「能美師匠の名を汚させるな」とマスコミの前に躍り出て、体を張って弁護につとめる若手党員は結構多い。

しかし防衛戦術がなってなさすぎる。

口裏も合わせず場当たり的に砲火の前へ飛び出してくるから、新しいネタを提供して玉砕するやつらばかりだ。

屍はすべてマスコミの栄養分となり、ますます勢いづかせる。

国家権力側の暴力装置は指示待ち状態で動き出さない。

なんたる非対称戦か。

ああスペクタクル。

 

冷静に読むかぎり、発端は些細な失言である。失言ですらないか。

「男だけの会議ならすぐに話がまとまるんだが、昨今は時間がかかってしまうよね」

そんなことをつぶやいたのだ。

ひどい女性蔑視だぜと、どこかの新聞が指摘した。

たちまち反響が反響を呼び、能美は時代遅れの男性上位主義者だとのレッテルを貼られる。

ポスターで踏み絵をされたりダーツの的に使われたりといった動画が急速に拡散。

このコンテンツは伸びる、と誰もが色めき立ったのだろう。

またたく間に森は大炎上し、禿山と化した。

 

5日も経つ頃には、山脈全体が真紅に染まる。

もはや止めようもない。否、止めてなるものか。

暴力装置は焼け跡も次の商売に使うつもりなのだろう。

なんたるバイタリティ。

俺は渦中にいなくてよかった。

 

過去の発言も根こそぎ掘り返されている。

能美は20年前、一年ばかり首相を経験した。

その頃からマスコミあしらいが超絶に下手クソだったようだ。

懲りたのか、退陣後は党の奥座敷へ籠もる。衆議院議員は2012年まで続けた。

2016年、東京オリンピック大会組織委員会の代表に選出される。

担ぎ出したのは優秀な後輩で、能美を大先輩と慕う三代目岸信介首相。

実質的なボスはミスター観音なので、彼の指示に従い原稿を棒読みするだけでいい。マスコミ対策は完璧にやっておくから心配するな。そこまで言われて、引き受けたようだ。

 

もちろんこの辺はエヴァンズから聞いた情報に基づく。

マスコミは、ミスター観音の機嫌を損ねる記事は書かない。

今回能美がここまで叩かれているからには、ミスター観音がそろそろ愛想を尽かし始めたんじゃないか。そうエヴァンズは分析する。

そこで俺も、思い当たる件を述べた。

 

正月明けに霞が関の省庁はどこも大パニックで、新聞社の訪問を拒んだ。

それで新宿区のTOC新年会へ例年より多くの記者が詰めかけたのだ。能美の写真がやたら並んでたので、印象にのこっている。

記事の文面までいちいち覚えちゃいないが、能美はもともと人づきあいが得意で面倒見もいい性格なので、式典の挨拶ともなると大いに張り切る。

キャパオーバーのオーディエンスに拍手されて舞い上がり、リップサービスも弾んだのだろう。

世間が疫病とテロでさんざんな目にあっている最中にもかかわらず「オリンピックの準備を淡々と進めている。多くの人に喜びや希望を与えよう。夜明けは必ず訪れる」などと脳天気な所信を披露した。

これが1ヶ月後の今、あまりにも浮き世離れした貴族の思考だと再燃料加工されているわけである。

 

「なるほど、じゃあその日がきっかけだったのかもしれない。

ミスター観音、能美を見限る。

メディアにおだてられてつい口を滑らせるお調子者なんて身内に抱えていたくないだろうからね。

下っ端経由で、あいつ殺っていいぞ、と伝えれば勘のいい者は察する。

おおかた、そんな流れだろう」

 

こわいなあ。暴力装置をそんな外部から適確に操れる人間がいるなんて驚きです。

ミスター観音て、何者なんですか。

 

「能美よりも齢上だが、日々精神と肉体の鍛錬に勤しんでるおかげか一向にぼける気配もないねえ。

外宇宙から飛んできた妖怪じゃないのかな。

僕も直接会ったことはない。会いたくもないが」

 

決して表舞台には出てこない人ですか。

 

「そこに何かのメリットがあれば出てくるんじゃないか。

岩戸の前で踊り明かすくらいでは見向きもされないから、よほどの罠をしかけないとな。

北風や太陽ごときに、彼のコートを脱がせることは不可能だろう。もっと別次元の発想が必要だと思う。

もし君がその方法を思いつけたら、カモリスタへ迎え入れられるかもね。それほどの難度だ」

 

今ので挑戦意欲を喪失しました。

そうか、じゃあ能美ヨシロウはこのままどつき回されて退場ですね。

次のTOC会長を決めなきゃですけど、誰でもいいのか。観音様に忠実なロボットであれば。

 

「TOC会長はIOCとの交渉に参加し、その場で決断も下さなくてはならないからね。あまり無能ではつとまらないぞ。

能美はその点でも力不足だったが、歴代都知事とのバトルを制するため岸と口裏を合わせやすい人物だったというのがあのポジションに置かれていた理由だと思う。

都知事に対し能美と岸とで挟撃をかけるというコンビネーションありきだったわけだ。だから岸が引っ込んでからは、能美がいる理由もなくなった。

とはいえ……それ以上の興味も湧かないね。

誰がなろうと、いまさら大きな変化は起きようがない。

観音は次の駒もとっくに用意してるさ。今週か来週までには、入れ替えちゃうんじゃないだろうか」

 

都知事とのバトルも今となっては懐かしい。

首相が交代して終熄したんだっけ。

芦屋ユリコ、よく耐え抜いたなあ。あれだけマスコミから袋叩きにされて。

いまの能美バッシングより過激だった気がするな。

 

「本気でそんなこと言っているのなら驚くぞ。

あの頃君も芦屋に石をぶつけていた側だった。ずいぶんと容赦なかった。

9月に秋ノ宮が首相になり、芦屋の方から歩み寄りの姿勢を示すが、当初の秋ノ宮がどこまでも居丈高にふんぞり返っていたのを忘れられないよ。今の卑屈な低姿勢を見るたび、心からザマァと思わずにいられないね。

そんなこともすっかり忘れてしまったのか。たった半年かそこらで」

 

うーん。そう言われるとそうだったかもしれません。

でも今は俺、芦屋さんのこと見直してますよ。大した女傑だなあって思います。尊敬です。

秋ノ宮首相は、まあ、昔は威張ってたんですかね。でもまあ、先も長く無さそうだし、やることやって勇退してもらえればいいのかな。評価は後世にまかせましょう。

 

そのあと、もう一歩踏みこんで考えてみた。

 

政治家って、やってていいことあるのかな。

ひたすら大変だぞって気しかしないんだが。

特に、マスコミに嫌われたらおしまいだ。末子の代まで祟られる。なんたってプロパガンダを武器に持つ集団だから、イデオロギーと切り離せないんだ。

あれ、じゃあマスコミが最強だって理屈になっちゃうかな。

暴力装置は一般市民を守るというのがお題目だろうけど、リモコンを持つ者に逆らわない限りでって条件がつくものな。

 

一般市民だけは論外だ。なんの力も無い。

どんな暴力装置にも逆らうことができない。

最強はちょっとわからないが、最弱は市民だ。

それだけはわかる。

 

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