TOC代表・能美ヨシロウのつぶやきに端を発するフェミニズム闘争の勢いが止まらない。
2月12日の午後、日本へ初めてのワクチンが届いた。
日程も事前にわかっていたのに、この大ニュースが一面を飾れなかったのだ。
すさまじい圧を感じる。
既成の秩序を根元から揺るがすほどの大激震だ。
連日、与党・野党・無所属、現役・退役を問わず、あらゆる議員が槍玉に挙げられ、過去のあるいは現在進行形の性的不適切行為を暴き立てられ、吊し上げをくらっている。
罪状は掃いて掃いて捨てても捨ててもキリがないほど出てくるし、新聞社の電話は何時間もつながらないからできればメールでお願いしますと悲痛な叫びが載るほどだ。
記者たちも取材に行かなくたってコタツでメモとってりゃいいんだから楽だよなあと思う反面、情報提供者の女性たちから
「あの記事はまだ載らないのか」
「男の暴言をオブラートに包むんじゃない」
といった苦情が24時間ダイレクトにかかってくるとか、大変そう。
紙面は有限だから、手際よく凝縮した記事にしてライバルより目立たせるには文章力も共感性も必要だよね。
これまで通りだらだら書いてたんじゃ落ちこぼれて、議員より発言権が無くなるよ。
実際、記者たちの世代交代が加速しているように感じる。
平成世代の若手にやっとチャンスが回ってきているのかと考えれば末期戦にも効能ありと考えることだってできよう。
歴戦のベテラン勢が、前線で朽ち果ててるのか、司令部の奥で縮こまってるだけなのかまでは、窺いしれないけれど。
「セクシャル・ハラスメントといえば、ロビネットは女性と握手したあと抱きしめて接吻を迫るという癖があって、何件も被害届を出されている。むしろその程度ですんでいるというべきだが。
新政権では全員マスク着用が原則だから、この手の騒動はぐっと減るだろうね」
ああ、ドナルドはマスクなんて付けないことを男らしさだと強調してたんでしたっけ。
ドナルドにはセクハラ疑惑ってなかったんですか?
「セクハラ……疑惑?
それはヤポ用語か。ああ、答えなくていい。
ハラスメントに疑惑もへったくれもない。被害者が沈黙すれば成立しない事象だ。議論のしようがない」
はあ……つまり、ドナルドはセクハラを、しても訴えさせなかった。だからセクハラは無かった?
「ドナルドに抱かれたい女性は山のようにいて、近寄りたくない女性も山のようにいた。彼女たちは4年間、完全に住み分けできていたんだ。
ここに性的トラブルは発生しない。
人種差別も同じだ。この4年間でホワイトハウスに足を踏み入れた黒人は10人もおらず、皆、用事がすめばすぐ退散した。
問題が起きるのは民主党政権のときだけなんだ。
だから安定と調和を求めるUS人ほど、民主党を憎む理屈だ」
そんな回避法があったとは。思いつきませんでした。
「ロビネットがどれだけ困難な立場から出発しているか、理解しておきたまえよ。
参考までにエックス・デイは2023年11月22日だ。
僕は、それより早まる方に賭けてるんだが」
2023年?それは、何が起きる日ですか。
「ロビネットはカトリック信者だが、US大統領としては史上2人目なのさ。
第1号は就任2年11ヶ月目で暗殺された。
今回はもっと早まるだろうという予測だよ」
困難な立場にも限度がなくないですか。
ロビネットは、すべて承知の上で、大統領になった……?
「就任時の年齢でも最高記録を更新したしね。殉教者となる気まんまんで臨んでいることは明白だ。
むしろ若手にこんな役、引き受けさせられない。
さてロビネットがいずれ共和党派の愛国者によって殺されることは確実として、新しい要素がひとつある。
わかるか?」
大統領が死んだ場合って、副大統領がすぐ後を継ぐんですよね。
ロビネットがいつでも死ぬ覚悟を決めているということは、副大統領もそのつもりで準備している?
「副大統領の名前、言えるかな?」
すみません。そこまで考えていませんでした。
「カマラ・デヴィ。
肌は美白しているが登録上は黒人だ。ジャマイカとインドの血統を有する。
ロビネットが死んだ瞬間、彼女はUS史上初の女性黒人大統領の座に就くこととなる。自動的にね。
君が共和党員なら、何を考える」
絶対阻止せねばですね。
むしろロビネットより先にカマラ・デヴィを殺しておかねば。
「ロビネットとカマラは同一地点に揃うことがないよう周到にスケジュールを組んでおり、かつ、カマラの方が警護を厚くしている。
とくにロビネットが公衆の前に現れるとき、カマラは複数のシェルターのどこかに必ず隠れておくんだが、共和党のブレーンは暗殺指令を出せないばかりでなく、はぐれ者が勝手な行動に及ぶことへも対応せねばならないというジレンマに立たされるわけだ。
民主党員には、こんな頭脳戦を得意とする連中が揃っているからね。
さて今世紀のエックス・デイはいつになるやら。僕たちの関心は、そっちの方を向いているよ」
ホワイトハウスの中で殺す方が簡単なんじゃないですか?
食事に毒を混ぜるとか、方法はいくらでもありそうですが。
「それだと官僚側の失点になるからね。FBIとCIAがしっかり協力して、公邸内では不祥事を絶対に起こさせない。
公務員たちの恒常性維持機能の前には、共和党も民主党も、敵じゃないよ。現地コーディネーターの支援を仰がない限り、そこは突破できないね」
日本では易々と突破されちゃってるんだけどな。しかもほぼ自滅同然の形で。くそう。
「ところでヤポメディアはセクハラ一色なのかい?
国外の話題なんて載せる余裕もないか。
USはクリスマス以来大規模な電力不足と放射性物質汚染で危殆に瀕しているんだが、今週末から来週にかけて特に南部へ記録的な寒波が到来する見込みで、大量死が予想されている。
一行でも触れられているかな。どっちだっていいんだが」
ええと。国際面には、みあたりませんね。
オーストラリアでテニスの大会を無観客で実施した参考例とか、ミャンマーでは民衆のクーデターに軍事政権がネット遮断で対抗したとか、そんな記事が載ってます。
「あいかわらず読まれても読まれなくても影響のないコラムばかりで埋めるよねえ。
ま、それも現状維持優先主義のもたらしたヤポなりの安定化戦略なんだろうから、どうでもいいや。僕たちの関心にはかすりもしない」
そこは否定できませんが。いえ、俺も読んでて不満に思っているところです。
もっと実のある報道が欲しい。
エヴァンズは最近プリントアウト持ってきてくれませんけど、あれ、またお願いできませんかね。
「面倒くさいんだよ、僕のほうが。
わざわざ君のために労を費やすメリットを感じなくなった。ただ欲しがるだけのペットに構う時間がもったいない。
少しは僕のモチベーションを高めるような貢献をしてみせろよ。
元のレベルが低すぎるから成長の伸びしろは無限大だと思うんだがな。それをわかれ」
またしても、言い返せぬ。
しばらくモヤモヤ考えながら走っていると、エヴァンズが勝手につぶやきはじめた。
こいつはこいつで話し相手に飢えているのだろうな。
すまねえな、俺じゃ相手になれなくて。
「IL首相が昨年のうちにフィッツナー社の最高責任者と直接話をつけて、ILの全国民に接種する回数分のワクチンを確保するとともに、対象となる成年650万人分の臨床結果を報告すると申し出た。
国民皆保険制度の無いUS本国では研究不可能なマクロデータが得られるとあってフィッツナーはこのプロジェクトを強力に推進した。
ILでは今月はじめ頃には140万人ほどが2回目の接種まで完了していて、副反応のパーセンテージや既往症との相性など詳細なデータをフィッツナーへ送り、改良に役立ててもらっている。
ヤポの人口はILの13倍を超えるんだが、その規模で国民皆保険制度を運用していることを誇っている割には、やるべきことがからっきしできていないよねえ。
KRがそのデータを一晩で手に入れちゃったけど、まちがいなくかれらの方がヤポの飼養衛生管理基準をシステム化することにかけては適任だ。もちろんヤポが契約上の守秘義務を強く求めてきたから君たちに対してだけは提案してあげることすらできないんだけれども、研究素材としては驚くべき項目量だから欲しがる数学者は世界中にいる。
KRはこれを販売し、外貨獲得の手段とすることができる。
姓名だけユニークな文字列に変換しておけば、それだけでヤポには同定すらもできまい。
購入した数学者たちだってヤポにチクってKRとの友好に傷をつける愚を犯すような真似は、わざわざしない。考えてみれば誰ひとり不幸になっていないのだから、これは完全解といえるのではないだろうか。
よかったな、ヤポは世界に愛されている。これからも健やかに生きていってくれたまえよ」
それも、経済学ですか。経済学を修めれば、そんな高みの立場から、なんでもわかったような態度でケラケラ嗤っていられるんですか。すばらしい学問ですね。
「そうだよ。少なくとも相手にはそれができて、自分には同じことができないという危機感くらいは正しく把握しておいた方がいいと思うんだよね。
しかし、まあ、家畜に自力でその檻から出てこいと言ったって無理な話だ。あきらめて、たらふく食って死を待つ生き方に落ち着くということも、あながち間違いじゃない。むしろ真理だ。
ちなみに、もし逃げるつもりなら一番簡単なのは人間に鍵を開けさせることだね。
そのためにどうすればよいかを考えるべきなんだ。檻から出たあとどちらへ逃げればよいか。外世界まで辿りついたらどう生きていけばよいのか。課題は限りなく押しよせるんだ。
そこまでして生きていたくないというなら、たのしく食っちゃ寝していたまえ。それがヤポだろ。ごくろうさん」