早来セイコ。
1984年冬以降、7回ものオリンピック出場経験を持つ。種目はスピードスケートと自転車競技。
1996年夏のアトランタ大会では現役国会議員との兼務で出場し、3000m個人パシュートと24000mポイントレースを走り抜いた。
本人はまだまだやれると意気込んでいたが、周囲が止めたらしい。
政治家になったのは能美ヨシロウによるスカウトがきっかけで、1995年、紫党公認で参議院議員に当選。
今よりずっと喫煙臭・おっさん臭まみれだった前世紀の政界において貴重な女性戦闘員として重用され、華々しい役職名のついたポストを歴任する。
各種スポーツ団体から請われて引き受けた代表者の肩書も仰山お持ちであるが、意外にもオリンピック・パラリンピック担当大臣に就任するのは2019年9月からと遅め。
ちなみに2013年9月に初めてこの大臣がつくられてから7人目。数え方によっては10代目にあたる。
秋ノ宮政権発足時、そのまま留任し、11代目となった。
2021年2月18日、TOCこと東京オリンピック組織委員会の2代目会長に就任するため、閣僚を辞める。
さあ彼女にはこれから、前任者が遺した汚物臭をクリーンにロンダリングするという使命が待ち構えています。新たなる戦場のはじまりだ。みんなで応援しよう!
「そのプロフィールを読んだだけでわかると思うが、早来セイコほどの適任者はいない。
ヤポの、ヤポによる、ヤポのための伝統的社会を存続させるため徹底して個を殺し、男たちに道をゆずって文句ひとつ言わない。どんな命令にも即座に従い、愛嬌をふりまいて良き妻を演じる。体力と美貌、身嗜みには手を抜かず、いつも静かに笑っている。
能美はこんな信奉者を育て上げておきながら一顧だにせず、真逆の人材を名指ししたわけだよ。
結果的に彼女の登場は、よりセンセーショナルになった。もしかしてあのじいさん、舞台演出の経験でもあるのかな」
ミスター観音の手腕じゃないですか。
それにしてもたしかに現在の状況で早来ほどの救世主はいないと思います。フェミニストが彼女を攻撃することはないし、これから炎上するはずだった案件も彼女へなら知らされやすいから、ボヤの前に揉み消せるかもしれない。
TOCは火だるまにならなくてすむでしょう。
「ヤポのフェミニズムなんて幼児のふきだまりだからなあ。そんなこと心配していないで、芦屋ユリコとの対立がどうなっていくか、リッパーオフやジョン・ダウリングがどんな追加注文を出してくるか等を考えたらどうだ。
あと5ヶ月で開幕するんだぞ、地獄の舞台が」
早来セイコが良妻賢母の具現化だとすると、芦屋ユリコはけっこう男にも楯突きますよね。
このふたりの相性ってどうなんだろう。敵対します……かね?
「楯突く、ねえ。
芦屋ユリコのポリシーは、白痴が思いつきを垂れ流したらその場で指摘してあげることだよ。男がそのあと自尊心を傷つけられたと愚痴るかどうかなんて計算には加えない。
早来セイコは、どんな失礼な態度で触られても黙って耐えろと教えこまれて、忠実に従ってきた。その違いだ。
僕なら教えてもらえるだけありがたいと考えるんだが、君はずいぶんとネガティヴな感情を込めるのだな」
なるほど。エヴァンズと芦屋ユリコなら相性ばっちりでしょう。
あれ?じゃあ、芦屋に何を言われても早来はやっぱり黙って耐える?
「早来セイコがどれほどの器かによるね。
彼女はこの1年半、閣議でもほとんど発言していないから、紫党員の標準レベルより賢いのか愚かなのか僕たちには判定できないんだ。
芦屋ユリコの方が実戦慣れしていることは間違いないが、数日程度は様子見が必要だろうねえ」
発言してないって……ほんと、誰でもいいんだな。閣僚なんて。
あれ、オリパラ大臣は誰が継ぐんですか?
その人も、場合によってはこのバトルに絡んできますよね。
「ハハ。いいところに気がついたな。このネタはとっておきだから敢えて黙っていたんだが、どうせ名前も知らないだろうから教えてやろう。朝日タマヨだ。何者かわかるか?」
全部みすかされてやがる。ちくしょう。わかんねえよ。
また女性か。なんだか急に春めいてきたみたいだ。
「元テレビアナウンサー。こちらは岸にスカウトされて、2007年より政界入りした。紫党の広報本部長、すなわち大衆操作の前線大隊長だな。
とにかく喋り好きなところが、早来セイコとは真逆といえる。知識は薄っぺらく、思考は回転力だけを頼みに突っ走る。
君よりずっと純真に、岸を慕い、その道具にされることを悦びと感じるバーサーカーだ。
ちなみに早来セイコの推薦ではない。秋ノ宮が岸に相談し、提案されて即決した。本人の了解はあとからでいい、まずは観音に知らせておけと言っていたのが、おかしかったね」
そんな人ならば断ったりしないでしょう。
しかし……むしろ朝日タマヨが一番中心人物になりそうな気がします。周囲の全員を引っ掻き回すんじゃありませんか?
「その心配はない。朝日は岸が黙れといえば黙る。制御可能な狂犬なんだ。
第一、オリンピック大臣に与えられる権限は極端に小さい。TOCと文科省の間を行ったり来たりして、その進捗を首相に報告する。業務的にはそれだけだから」
なんのために必要なんですか?そんなポストが。
「僕に聞くなよ。大きな国際イベントだから専任大臣がいた方がいいんじゃないかと当時の岸は考えたんだろう。
さもないと首相自身がいちいち動かなくちゃならなくなるし、適切に緩衝材を置いておけば有事の際に中枢へのダメージを軽減することができる。
もっと単純には、一人でも多くの子分に閣僚を経験させておくチャンスだから逃すまい、かな。もういいか。こんな空論はウンザリだ」
誰にだってできる簡単なおしごとを大量につくりだせば雇用が創出できるという発想なんだろうかこれも。
民間企業ではありえないほどのムダを生んでいる気がするんだが、政治家的思考ならこれがベストアンサーなのか?
単純に生産性の悪さを指摘することもできるし、セキュリティも、物理的な防御力もグダグダになる一方じゃないか。
いくらでも抜ける。そう、カモッラほどの組織じゃなくても、ちょっとの悪意と武器さえあれば、こんな隙だらけの政権いつでも射抜くことができる。
それでいいのかニッポン。
いいわけねえだろ。どうすりゃいいんだ。いつまでこんなブーマーどもを生かしておく気だ。殺して、独立して、強いマウスに自らを鍛えあげるべきなのか。それも飛躍しすぎだな。もういいか、俺もこんな空想、ウンザリだ。
「それにしても、なんのために必要なのかと問い始めたら、オリンピックそのものが不要不急のイベントなんだから皮肉だよな。
自分の家が燃えている最中に競技を見に行くかい。祖国が蹂躙されている最中に大会が始まったら戦争をやめて駆けつけるのかい。
行くというなら止めないが、君の取り分なぞ残しておかないよ。それが自然な発想だと思うんだがねえ」
そう言われたら身も蓋もありませんが、現実的に今更オリンピック中止は難しいのでは。
やめたら厖大な赤字だけがのこりますし、7月までにコヴィッドが収束する可能性だって、まだ、ないとはいえません。
やると決まっている以上はそれに向けて全力を尽くす。そのこと自体をふらつかせる時期はもう過ぎてると思ってるんですけどね。
「ふうん。ま、好きにしたらいいさ。そんな愚か者が踊り続けてくれればそれだけ、僕たちも潤うことができる。
結果、みんなが幸せだ。いいことじゃないか」
こんなやりとり何度もやってますけど、同じこと尋ねます。
愚か者が真剣に戦っている姿を背後からせせら嗤って楽しいですか?
どうしてそこまで利己的になれるんでしょうか。知恵も力も計画性も、何もかもがかなわないのは承知しています。
それでも、仮に俺たちが同じような低いレベルにある相手に対するとき、そこまで残酷な態度で接することなんてできません。
この差は、いったいどこからくるんでしょうかね。
「へええ。
君たちヤポは、自分より劣った文明を持つ異国の住民に対しては博愛精神を忘れず、敬意をもって相対し、持てる限りの技術と財力を提供し、かれらを助け文明化へ導いてあげるのに、なぜカモッラはそんな風にしてくれないのだろう。……というようなことを言いたいのかな?」
概ね、そうです。
実際そこまで綺麗事っぽいことはできませんし、リターンだって求めますけど、相手の弱点を衝いて、ただいじめて、奪っていって、それをケラケラ嗤うだけっていうのは、さすがに人道的ではありません。
犯罪行為で、批難されるべきことだと、生理的に嫌悪します。
これでも抑えているんですけど、いつもムカムカして、耐えられないんですが、配慮していただけませんでしょうか。
「そうか。ずいぶんと思い詰めているように聞こえた。盗っ人猛々しいというか、どの口がほざくかと、僕にも言いたいことは尽きないんだが。
君とのつきあいも長くなったが、僕の力ではどうしても矯正は無理のようだ。もう、あきらめるか。
ここまで投資したのになあ」
あ。
まずい。
過去最大級にまずい雰囲気になってきた。
ゴステロか?ヤポニカか?
俺は、これっきり、太陽を拝めなくなるのか?
ごめんなさい、撤回します。
今日の失言はしっかり反省しますので、ワンモアチャンス、プリーズ。