6日と7日は平日だ。
カレンダー通りなら。
まず4月29日は祝日だけど翌金曜日は出勤または登校して、5月1日から5日までが連休となる。
木金働いて、土日休んで、平常感覚の月曜日をお迎えして、週末の休みを心の支えにしてまた粛々と労働する。
これがデフォルトなんじゃないかと思うが、新聞を読むかぎりでは29から11までの13連休というのがスタンダードらしく、俺は戸惑っている。
実際、緊急事態宣言の期限は5月11日火曜日なのだ。なんでこんな中途半端な日に?
気付かなかった俺も俺だが、記者が疑問を感じている素振りはみられない。
どうせコヴィッドがなくたって俺は土日すら休めたかどうか怪しいのだが、新聞社の正社員ともなると別世界の住人だということなんだろう。
それはいいから説明くらいしてくれ。
日本ではGWだった期間中、イギリスでは先進国外相会議なるイベントが開催されていた。
昨年はコヴィッドのせいで中止されたが、現在イギリスではワクチン接種が進んで開放感が漲っているらしくスポーツ大会や音楽祭も有観客で盛大に行われていると明るい論調で報じられている。
なお外相会議は予行演習で、6月には首相が訪英する。G7首脳会談だ。
15分で写真撮ったらあとは紅茶でも飲みながらネクタイでも褒め合うのかな。
次はアラブのどこが目障りです、とか雑談で伝えておいて、営業が搗ち合うことのないよう根回ししておくことも大切かな。
ロビネットはウクライナを戦場にするためのスケジュールを共有しておきたいだろうね。
ちなみにG7の中で、日本だけは納豆衆に加わっていない。
どうせ軍隊は出せないし、秋ノ宮じゃ英語もわからないから、6人クスクス笑う向かいでひとりぽつねん、という光景をくっきり思い浮かべることができる。
たぶん最後に、これだけ用意しててくれと金額だけ通告されて解散だろう。
そして新聞には、有意義な会合だったとテンプレ美文が載るわけだ。
別世界の住人たちは、それで満足なのかな。
無事に終わったら、それ以上のことは考えないか。なんたって、お客様として旅行してくるだけだもんな。そりゃ幸福だろうて。
息苦しい日本へ戻るのだけが憂鬱だろうて。
日本でのワクチン接種は、順調だろうか。
政府は高齢者接種を7月末までに完了させると意気込んでいるが、かなり余裕の無いスケジュールだ。
イギリスのようにマスクを外してお出かけしよう!と言えるのは秋以降になるだろう。オリパラは終わっている。
大会期間中は厳戒態勢を続けなくてはいけないわけだ。千客万来で迎えましょうなんて幻想を抱いている商人や役人がいたら、早めに黙らせておかないと。直前だと面倒だよなんて思うんだけど、そこまで考えているかなあ。
大規模接種会場の準備は東京と大阪で、自衛隊によって進められている。5月中にスタートするそうだ。
4月末に突然届いたパイソンズ・ワクチンはこちらで使うという。
町の診療所でも大規模会場でも、1回目と2回目を同じ会場で接種させるようにすれば間隔や量を取り違える危険はなくなる。
これはうまい対策を思いついたもんだと一瞬だけ感心した。
しかし日本政府は期待を裏切らないのである。
平塚が突貫でつくらせたという国民のワクチン接種状況把握システムが4月から運用されているが、仕様や規模の異なるパラメータを追加させる余地を持っておらず、無理矢理なんとかしようとしてたらデータが壊れた。
自衛隊は、既存のシステムはどうでもいいから自分たちの管轄では自分たちの技術班に任せてほしいと要望するのだが、厚労省や都道府県市町村の住民データを自衛隊に利用させるという点で紫党議員からも慎重論が出て、こじれる。韓国へ売り渡すときはあれだけ素早かったのに、なぜ?と不思議にも思うのだが。
ともかく「一方だけが銃器を持っている場合は内戦に発展しない」みたいなのである。勉強になった。
冷静に考えて、俺が自衛隊員だったらこんな国民、守る気も無くなるけどな。
もっと話のわかる愛国者がクーデターを起こしてくれないものか。
秋ノ宮が、大規模会場を自衛隊につくらせると公示した4月25日から、全国でワクチン接種予約の混乱と、問い合わせ急増によるパニックが多発している。
自治体によっては電話対応係やスマホ予約お手伝い要員を臨時で雇って対応するが、そもそも国が決めていないことには答えようがないし、そのうちシステムが壊れて同じ日の予約が何重にも入ってしまうといったバグが発生する。
サーバ落ちも、数えきれないほど起こった。
雇われたアルバイトは定時までひたすら老人たちの愚痴を聞かされる。
人によっては契約上求められていなかったスキルを発動して疲労困憊するし、雇った側も進捗がさっぱり上がらないわけなのでひたすら政府を怨む。
年末年始もそうだったが、公務員や政治家はカレンダー通り休むことも仕事のうちなので、有給と合わせてしっかり遊ぶ計画をつくり、実行する。
マウスたちの研修と適性試験が目的の一部だった霞が関への潜入工作は最近やってないため、官僚たちは大いに羽を伸ばしているようだ。
とはいえ旅行はまだ憚られるので、自宅か実家の周辺で盛り上がろうという選択になる。
広い庭でバーベキューというのが定番のようだが、この写真を手に入れるのも記者たちのルーティーンになっているらしい。
全国の居酒屋や焼肉店が大量死し、利用客も今なお自粛を強いられている酒池肉林の宴。庶民たちの怒りをかきたて、アクセス数もコメント数も絶頂を記録する格好の話題となる。
飽きられるまでは、だろうけど。
標的にされたエリートの中には、完全に対策して親族だけ集めてやった、と抗弁する者もいるが、無駄なあがきだ。それができるというだけで特権階級の証なのだから、炎上への燃料投下にしかならない。
ちなみに、報道前に交渉してうまいこと合意に至るケースも相当に隠れていると思われる。
有能な記者ほど、世間ほど信用ならない相手はいないと知っておろう。そして、誰かに怨まれる機会は極力避ける。一定の見せしめは必要だけれどもね。
それにしても、飽きないものだよねえ。
ところで宅飲みの習慣化は家庭内暴力を増加させるなんていう指摘がある。
DVの撲滅をめざす非営利法人の報告によると、相談件数はコヴィッド前後で3倍も撥ね上がっているらしい。
なんだそんなものかと思わなくもない。
家族の前では嘘がばれるから外でクダをまくんだろうが。禊は外で祓うんだよ。家の中まで持ちこむな。
そういえば独身者が外で遊べなくなった淋しさをまぎらわせるためにペットを飼うようになったというブームも去年やたらと特集されていた気がするが、同じ理由で虐待もはびこっているだろう。
人間への暴力に比べて動物相手ならばれにくいし、罪も軽いからな。
かれらを救う団体も必要だと思うが、ペットショップは売上に響くから妨害するかな。
「アヴァンティでも酒を出すけど、あれって浄化なのかね。
仕事でストレスを溢れさせて、せっかく稼いだカネを帰宅前に使わせて、家に着く頃には子供はもう寝ている、なんて価値の序列がおかしすぎやしないか」
エヴァンズ、あなたはどこの星からやってきた人ですか。おっしゃる通りですけれども、心底驚いているようにつぶやかれると、まるで異形みたいですよ。
「僕にはヤポの方が異形だよ。ヤポへ赴任した外交官の多くが酒を呪う。ムスリムはアルコールが厳禁だから、格別迷惑しているよ。
君たちの魂は地上のどんなものより穢れている。せめて自覚くらいしたまえ」
ムスリムは酒も飲まずにどうやってストレスを祓うんですか。
「そもそもそこまでストレスになるような仕事を選ぶのも、させるのも異常だ。相手を同胞だと思うなら尚更だよ。
ムスリムは酒を軽蔑し、煙草と珈琲を嗜むが、嗜むというからには依存しすぎないことが重要だ。その程度のわきまえは持ちたまえ」
理屈ではそうかもしれませんけどね……日本じゃ、ストレス無しの仕事なんて100万件にひとつだって、ありゃしないですよ。その程度の理解はしてほしいものですね。
「ところでジョバンニ。アヴァンティへ復帰しろと命じたら、できるか?」
はい?一体それは……どんな意図ででしょう。
「アモスがたまに来ているらしい。
あいつは口が軽いから、話し相手次第で今なにをたくらんでいるか、つい漏らしてしまうだろう。君が僕に飼われていることは全員知っているから、たとえば君がアモスに絡んで機嫌を損ねさせて先に出ていけば、奴はつい、その場の客にいろんな悪口を吐き出してしまうんじゃないかな。
……みたいなことをたくらんでいる。どうだ?」
俺自身が探ってこなくていいんですね?俺は、アモスを挑発する役回りですね?
それなら、できそうです。
スターンは承知してるんですか?
「察してるとは思うけど、中立を保ってくれるだろう。トキオが異動になるので、シフトに少し穴があくんだ。その埋め草でよければ君を使ってやると言ってくれてる」
トキオか……あいつとも半年、会ってないな。
どこへ行くか聞いてますか?
「ひとまずKRへ戻るそうだ。ミセス・ヘヨンがやり手なので、彼女を補佐する専業主夫になるようだね。
息子のへジョクくんをしっかり鍛えると言っていた。
まったく、君と同じ学校にいたとは思えないほどしっかりした人材だな」
いちいちひとこと多いんだよてめえ。
ともかく、承知しました。いつからアヴァンティへ入れそうですか?
「明日以降、スターンからお呼びがかかればだ。毎日、心の準備だけはしておけ」
わかりました。ところで前から疑問だったんですけど、エヴァンズがアヴァンティへ普通に客として行くことってあるんですか?
「今は、ないね。
ヤポを見ているうちに酒が苦手になったんだけど、ムスリムとつきあうようになってからは酒の臭いをまといつかせることがいかに破廉恥かと心底思うようになった。
ムスリムの嗅覚はとても鋭敏だからね。どの大使館職員も、任務とはいえこんな腐海の中で暮らし続けることは大変な苦痛だよ。
だからより敬虔にならざるを得なくもなるわけだ」