東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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TokyoMassacre2021-06-003.hmos

イスラエル大使館内の会話って、傍受できないんですか?

 

「ヤポ相手のようにはいかない。入館時のボディチェックも厳しいしな。

こんなジョークがある。

邪魔な部下がいたら、IL大使館へおつかいに行かせるんだ。その際、ペン型の録音機を持たせておく。そいつは二度と出てこない」

 

ペンを渡した上司も無事じゃすまないはずだから、ジョークでしょうね。

イスラエル担当のアモス周辺から聞き出すことも不可能ですか。

 

「それができたら君をアヴァンティへ行かせたりなんてしない。

とはいえ、警戒してるんだろうなあ。なかなか姿を現さないね」

 

無論、こちらの動きも敵は知りたがっているはずだ。カモッラ内だからって無闇にチームを増やせないし、裏切りにも備えておかなくちゃいけない。そこまでは理解しています。

でも、情報が欲しいですねえ。

ダビデにGPSを付けるとか、アリエルのよく行く店を特定するとかでいい。あいつを早く排除すれば、俺たちの危険はぐっと減るんだ。

そんな行動を起こせませんか。

 

「ひとつだけ忠告しておく。

どんな思いつきでもいい。実行する前に、僕に話せ。

アリエルは暗殺対象にされる回数でも経験豊富だ。今がチャンスだと思えても罠だと疑ってかかることだな」

 

いくら学んでも、冥府へ堕ちてからでは次へ活かせませんからね。心得ました。

それでは……アリエルが俺の顔を覚えていたとして、カモッラにいた運転手だぞというところまでバレちゃったとします。

カモッラに抗議して、俺を突き出させるという展開は発生しますか。

 

「なんだそりゃ。ILはそんな回りくどい外交はしないよ。

カモッラとの関係を悪くすることまでは望まないと思うから、せいぜいイタズラっ子をこの世から追い払うだけにして、それでおしまいかな。

事実まだカメラを破壊する程度のテロしかやってないだろう」

 

ええ。まだ、ね。

イスラエルにとっちゃ、俺は単なる目障りなハエだくらいの認識ですかしらん。それはそれで、ありがたいけど。

 

「そうだとしても油断していると一瞬で叩かれるから覚悟しような。

ところでIL情勢をひとつ教えておく。

組閣が早まった。次期首相のナフタリが新閣僚全員の了解をとって議会へ提出。承認を待っている段階だが、すでに実働態勢に入っている。

だからアリエルが派遣されたんだろうな。

アラブとイスラームに共鳴する若い東洋人が現れた。続けてヤポの大使館からも被害報告が届いたので、かなり重大視されている模様だ」

 

駐日大使館から……も?

あの、もしかしてカタール経由の情報も、イスラエルに伝わっていたりしますか。

 

「ああ。もちろんILはアラブ発のメディアを隈無くチェックしているからね。

君の登場は大きなニュースだった。この地域から戦士が誕生したのは半世紀ぶりなんだ。

最近では岸がすっかり評判を落として回ったからギャップの大きさも激しい。

君の肩には大勢の期待が掛けられている。

くだらない退場などゆるされないぞ」

 

はは……は、は。それもシナリオの一部ですか。ひでえな。

まあ、メダルもとらずに帰るなんてまっぴらなところは同意するけど。

 

「ダビデの装甲は堅いが、それでも表向きは乗用車だ。

ここはヤポだから、いくらILといえど戦車や重火器を持ちこむわけにはいかない。

UAVだってチビスケばかりだ。チュートリアルから始められることを感謝すべきだな」

 

そりゃそうなんでしょうけど、いざという時のために拳銃くらい持っておきたいのが本音です。

グロックなら扱えます。

今のままでは捕まった瞬間にバッドエンド直行だ。それはさすがに応援してくださってる皆様に対して申し訳が立たないでしょう。

 

「もっともなことを言う。検討しておこう。

ただ、訓練された相手に対して生兵法は却って慢心を生むので危険につながる。

余裕があれば護身術や近接格闘技を教えておきたいところだったがな。ともかく、逃げ足の速さに勝る武器は無い。

適度な臆病だって最重要スキルだぞ。

今の君なら丸腰でいる方が危機回避能力を高水準に発揮できると僕は判断しているんだがね」

 

いちいちもっともで反論できない。

ヒーローへの道は一日にして成らずか。そりゃそうだ。

所詮まだまだチュートリアル。

ここは黙って従おう。

 

「現実的には、君を護衛するサポーターの登用を考えている。

君は従来通り僕の指示に従って歩き回り、一定距離を保って護衛役が尾行する。

君はサポーターの顔を知らずにいる方が望ましいが、尾行されている気配は感じるだろう。この場合、君には追跡者が敵か味方かの区別ができない。だから徹底して無視し、僕の指示だけに従うんだ。

……できるか?」

 

理解しました。グロック持つより安心な気もします。

ところで、それを更にドローンで監視するという可能性はありますか?

ドローンの羽音も、エヴァンズの操縦機かもしれなければ、気にしない……べき?

 

「二番町でカモッラがUAVを飛ばすことはありえない。

羽音が聞こえたら即回避。この原則は徹底してくれ」

 

はい。ちなみに、なぜ?

 

「確実に奪われてしまうからさ。

ジャミングをかけられてしまえば敵のゾーン内で制御不能になる。デス・スターにその設備があることは知っているからね」

 

ひゃあ。どこまでも手強い要塞だ。

 

「とはいえヤポだからその程度の防御陣地で間に合っているとも言える。

カイロやアンマンのIL大使館なんて攻撃拠点も兼ねて造られているから、首都を制圧できるだけの兵力も常駐しているんだ。それらにくらべたら二番町なんて紙の砦だね」

 

ダマスカスには?

 

「SYはILを国家承認していない。大使館どころか公式な外交官が存在しない。

どちらにも属する武装商人の連合体ならいくらでもいる。そんな都市ではどう戦うべきかなんて君には異次元の感覚だろうから、今は考えるな」

 

おっしゃる通りです。

では、あくまで今回の作戦についてで教えてください。

デス・スターを囲むビル群を一斉に破壊する。そのあとの手順は、どうなっているんでしょう。

 

「そうだな。もう間もなくだから、君も知りたいだろう。

デス・スターはむきだしの姿をさらすことになるが、ヤポじゃあるまいしその程度でマイリマシタなんて言わない。

もう少し物理的なダメージを与える必要がある。

ここで、あの本舎の構造や部屋割などの情報があればいいんだが、皆目わからない。

よって今回はそれらを探り出すところまでで一旦終了宣言を出す。

君については、デビュー戦でここまで容赦ない破壊行為を完遂しILを震え上がらせつつ逃げおおせたというイメージアップで満足してほしい。QAからの拡散でその勇姿は盛大に讃えられるだろう。

最終的にILを滅亡させPSを解放し、現地民が憎悪と無縁な社会を育めるようになるまでには、まだまだ多くのミッションを積み重ねていかねばならないのだから功を焦るな。

こんなところでどうだ。

僕としては、ありえないほど君を持ち上げて描いたつもりなんだが」

 

うーん。まあ、そうなんだろう、なあ。

まだそれ以上の活躍なんてできないから、こんな初舞台を踏ませてもらえるってだけで無上の光栄と受け止めるべきなのかな。

ここでゴネたら二度とチャンスは巡ってこまい。

家畜へ逆戻りか。それは御免だ。

一度かぎりの自爆テロまで覚悟していたんだから、なにを躊躇う。

ひとまず踏ん張ろう。この第一幕を、おしまいまで務めあげるんだ。

エヴァンズにわからないことが俺にわかるはずもないのだから、素直に従うべしだ。イスラエルを困らせる時間がより長くなると思えば小気味よいとさえ考える。

ふはは。よし、冷静冷静。

 

俺が反論しなかったので気を許したのか。エヴァンズからドローン戦術の最新事情を聞き出した。

昨年4月。俺が成田空港で武装集団に拉致されるという茶番を演じていた頃の話だ。

 

シリア西部のイドリブという都市を、トルコ軍のドローン航空隊が襲撃した。

シリアはトルコとの国境沿いに対空戦車群を布陣させていたが、ドローンは超低空飛行でレーダーを回避。シリア兵に地対空ミサイルを発射させる隙すら与えず防衛線を壊滅させてしまったという。

人間を載せた航空機ではそのぶん図体も大きくなるし、ミリ単位で足並み揃えたアクロバットなど何年もかけて訓練してたら費用対効果が悪すぎだろう。

ドローンには衝突や墜落を未然に防ぐ機能こそ備えるが、パイロットを守る安全装置はいらない。ミッションごとに自動プログラムをセッティングして出撃させ、インシデントにのみ遠隔操作で対処する。

観測機からのライヴ映像でコントロール・ルームの全員が自国チームの圧勝に歓声を上げる。この成功体験はすでにドローン先進国の軍隊では麻薬を超える中毒症状を呈して共有されているものらしい。

 

ちなみにトルコ共和国は、オスマン帝国の遺産を物質面でも精神面でも多大に継承している国のひとつではあるけれども、フランスかぶれの初代大統領が徹底して西洋至上主義を国民に植え付けながら諸制度を構築したため、イスラム諸国すべてと長年険悪な関係にある。

納豆衆への加盟だって1952年とかなり早くからなのだが、フランス人がトルコ人を同胞だと考えることはこの先1000年経っても起こらなさそうだ。

近年ではナショナリズムの勢いが強まってきたともいうけれど。建国100年近く経つと、祖父の代のアイデンティティが伝統文化扱いされてしまうから、トルコの場合はラ・マルセイエーズを合唱することこそノスタルジアで国粋主義だ、みたいな哀しいイデオロギーさえ生まれかねない。

 

余計なお世話かもしれんけど、歴史なんてすべからく反面教師の積み重ねだ。

学べば学ぶほど、同じ轍は踏みたくないと思う。

むしろ、そう思うようになるまで学ぶべしだ。

 

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