東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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TokyoMassacre2021-06-007.hmos

前夜たっぷり寝貯めした。

夜明け前より動き出す。

国道の南より二番町へ侵入。

手当たり次第、ビラを貼る。

 

毎日変装するのだが、今日のいでたちはクールビズ。動きやすくてありがたい。

頭にはハンチング。伊達眼鏡と、さりげない付け髭。

目立たないといえば目立たないが、同業者なら挙措で見破るだろう。何人と会えるか楽しみだ。

 

ひとり目を8時頃に見つけた。

鏡の向こう側から飛び出したかのごとく瓜二つだ。

目が合った瞬間、反射的に距離をとる。

ポケットがふくらんでるな。

何周目だい?

 

尾行をまきながらプリウスに拾われる。アイスコーヒーがうめえ。

ノルマは順調なので、たっぷり休憩がとれる。

天気予報どおり、午後から雨になる模様だ。それは少し憂鬱だが、追う側にとってもありがたくない環境変数だろう。

でもドローンが飛ばせなくなるほど強くは降らなさそうですね。

 

「映像にノイズが入るほどの雨にはならないだろうね。しかも夜にはやむってさ。

ただ、すでにUAVをデス・スターから300メートル以上は離れさせないという方針を決めたみたいだ。

降り始めたら、もっと半径を縮めるだろう。

午前中は挑発が目的だから、もっと近付いてみるか」

 

構いませんよ。そうでなくちゃ張り合いがない。

クローンたちの誰が一番コアへ接近できるか、競ってみるのも面白そうですね。

 

「そういうリスキーな煽りは身を滅ぼすもとだぜ。

クローンには今日が初舞台だって子もいるんだ。アドリブなんて求めてない。

群体としての動きを求められている時は群体になりきってもらわねば失格なんだ」

 

今日は俺も、モブのひとりにすぎないんですか?

 

「ばかもの。せっかくクローンが君になりきってくれている場面で、君が目立つことをしてどうするんだ。

オーラを殺せ、徹底的に。

ここまできて永久退場なんてしたくはないだろう」

 

うへえ。役者って、技術職なんだなあ。

ところで大使館の動きはどうですか。

 

「そこそこ慌てふためいてくれている。

昨日までは逃げ足の速い子ネズミ一匹だったのが、突如集団で押し寄せてきたんだからな。とりあえず一匹でも捕獲したいと考えるのがセオリーだろう。

うまく網にかかってくれるといいんだが」

 

アモスは、どこまでかれらに情報を流すでしょうか?

 

「知っていることは全部話すだろう。その前提で考えるんだ」

 

アモスには、ゴステロとマリエさんが味方についてます。教授だって、エヴァンズにはずいぶん手厳しい感じでしたから、もしかするとアモス派かもしれない。

すでに計画のすべてが筒抜けで、俺たち全員ただ泳がされているだけ、なんて可能性も考えておくべきでしょうか。

 

「君は僕の人徳を随分とあまりにも低く見積もってくれているんだなあ。

可能性としてなら充分ありえるんじゃないか。

僕が抗弁するのは無意味だから、君の好きなように数値化してみせてくれよ」

 

ネチネチと負けを認めまいとする、そーゆーとこだぞ、てめえ。

それはさておき、アリエルについて我々はどこまで先読みが可能なんでしょう。

あいつの性格がわかりやすいなら、それに応じて対策の検討ができようかと考えます……けど。

 

「今更そんなことを言うのかい?

とっくに手筋は解析済みだよ。君がフェダーイーとしてデビューする前からシナリオには組みこんである。

ただ、それを説明するのが困難であることと、君にそれを教えておくことはマイナス要因にしかならないので、話してない。

ブレインストーミングから参加したいんだったら、もっとスキルを上げてえらくなるんだな。以上。

さあ、休憩は終わりだ」

 

次のラウンドでは、市ヶ谷まで足を伸ばした。

イスラエル大使館から直接は監視されなかろうが、それでも何らかの動きがあった場合、諜報員がカバーしているという手懸りになる。

この界隈では防衛省の庁舎と陸自の基地が広大な敷地を専有しているが、今日は車輌の出入りも見られず、ひと気の無さが極まっていた。

自衛官も官僚も、今は大規模接種会場で国民と触れ合うのに多忙なのだろう。

イスラエル大使館がかれらと連携するなんてこと、ありえなさそうだなあ。

 

ポケットが軽くなったらエヴァンズに伝える。

近場の自販機下とか看板裏などに新しい束を置いてくれるので、すかさず向かい、入手する。

そしてまた貼りまくる。

九段から靖国まで来ると、クローンたちの貼ったビラも目につくようになる。

総人数は教えてもらってないのだが、かなり大規模な広告活動だ。

熱心に読んでいる老人や学生も増えてきた。

怒りながら剥がして回っている人物を見かけたら報告するよう指示されている。ショーウインドーを汚されて頭にきている店主でなければ、イスラエル大使館と接点を持つ民主主義者である可能性が高い。

どう料理するかはエヴァンズたちカモリスタ上位勢の一存だが、今日のところは敵も大いに浮き足立つことが想定されるので、邪魔をせず観察と追跡に徹し、フォーメーションや運用体系のデータを集めることが主眼になると思われる。

やあ愉快愉快。

中東の広大な戦場ではあなたたちは無敗だったかもしれないが、そんな神話を学校で教えてなんかいない日本人たちの街でも同じ記録がつくれるものかな?

試させてもらおう。

 

午後、霧雨にまといつかれながら、本日最初の銃撃戦が行われたと知らされる。

クローンの一人がビラを貼っている瞬間を目撃された。

スーツ姿の男が、いきなり拳銃を連射してきたそうだ。

さいわい弾は命中せず、クローンと男の追い駆けっこが始まる。

近隣のクローンと、異なる装束で配置されていたサポーター・チームがたちまち集結。男を包囲し、無力化後に拉致した。

この捕物劇展開中は全クローンのビラ貼りが停止させられ、俺も身を潜めているよう指示される。

我方の被害無しとのメッセージに感極まった。

蛮勇なんてほんと愚かだよなと心から思う。

功を焦った乱射男がまさにそれだが、結果ザマアだ。俺たちのドクトリンは、ずっとはるかに上品なのさ。

 

今夜花火が上がるまで、俺たちクローンは一人たりと欠けはしない。

みんなで夜空の響宴をたのしみ、笑顔でねぐらへ帰るんだ。

きっと生涯の語り草になる。それが勝利というものだ。イスラエルよ、今からでも学ぶがよい。

 

しかし敵は反省するどころかエージェント1名を生け捕りにされたことを大問題視し、より重武装の捜索隊を周辺へ繰り出してきた。

俺たちはいったん撤収し、めいめいお色直しをする。

イスラエル軍の動向を探り報告する任務へとジョブチェンジしつつ、一番町から六番町に散開する。

ダビデは目撃しなかったが、なんらかの装甲は施されているであろう大型乗用車やトラックを何台も見た。右ハンドルも左ハンドルも様々だった。

自衛隊車輌でもないのにドライバーがヘルメットを被ったまま運転しているのは露骨すぎるが、イスラエル本国では日常風景なのであろう。

それにしてもどれだけの戦闘力を日本へ持ちこんでいるのか、普段から。しかもどうせ極秘裡にだ。

これが民主主義の正体か。

新しいビラ、もっともっと書いてやんないとな。

 

俺自身も一度、危機に見舞われた。

二番町へ近付きすぎたため、羽音が聞こえたのだ。大使館の作戦室では警報が鳴り響いたことだろう。

トラックが角を回りこんできた。

信号無視、車線無視。

日本人の方が我先にと道を譲る。

俺はすかさず路地へ逃げこんだ。

急ブレーキや衝突音が前後左右から聞こえる。包囲されるぞと覚悟する。

 

突如、屋根の上から声が。

男が手を振っている。

北へ行けって?

わかった。

 

駆け抜ける。

10mほど前方に小銃を構えたコンバット・アーミーが2人。

ひるまず突進するつもりだった。

俺がスピードを上げた瞬間、

かれらの上空から閃光。

 

血飛沫と埃が舞う。

続けざま手榴弾がバラバラと落とされる。大盤ぶるまいだな。

さすがに足を止め、身をひそめた。

 

阿鼻叫喚の炸裂音。

誰か近付いてくる。

迷いが無さそうなので、味方じゃないかな。

粉塵の中から現れたのはヴィンツェンツィオだった。種類はわからないがサブマシンガンを手にしている。

最高の笑顔だ。

そりゃ楽しくてたまらんだろう。

南へ行けとジェスチャーされる。

無言で了解。

 

さっきの男がまだ屋根の上にいる。思い出した、ヴィンチに名を譲った先輩じゃなかったかな。

アントーニオやウーゴもこの一帯にいそうだな。

頼もしいこと、この上ない。

路地を抜けると、こちらも機銃掃射のあとだった。

見物人も大勢血だらけで倒れてる。こんな日はうちで動画配信でも見ていなさい。

あとはエヴァンズから誘導されて脱出。

我方の被害無し。

やったぜ、このままパーフェクト・ゲーム、いけるか?

 

日没は7時ジャスト。

雨はやんだ。イスラエルのドローンは数を増し、偵察範囲も限界まで拡げている。

俺たちは撤収のタイミングを決められるが、敵さんに安眠する機会は訪れない。

ゲームの主導権はこちら側にあるのだ。

テロとの戦いって、まさしく非対称戦争だよ。

好きこのんで相手の怒りを惹きつけたがる連中の気が知れないね。

 

クライマックス・アワーが到来する。

 

クローンたちはめいめい、ドローンを見上げて手を振った。

数秒後、二番町3番地に激震。

 

巡航ミサイルでも落とされたかと思うほどの衝撃波。ほんもの味わったこと無いけど。

炎と黒煙が噴き上がる。その中心に、イスラエル大使館の丸いドームが露わになった。

頂点に六芒星を象ったアンテナがそそり立つ。

禍々しい悪魔のしるしだ。

 

西の空からひとすじの光が飛んでくる。

きたきた、命中してくれよ。

寸分狂わず落下して、これまた大爆発。

六芒星は砕け散り、ドローンたちの動きは止まった。

さあ捕獲だ。

まるで昆虫採集だよ。

 

おや?

西からもう一発……カモッラのミサイルか?聞いてないが。

 

身を低くして、新たな衝撃に備える。

さきほどと同一の軌跡をたどり、鉄骨が痛々しく露出したドームにとどめの一撃を……

ん?

不発のようだ。

不格好に突き刺さったまま固まってる。

しまらない姿だなあ。

 

おっと、撤収撤収。

さあみんな。お土産持って、うちへ帰ろう。

 

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