7月4日の東京都議会選挙。
即日開票され、残念な結果が出た。
4年前の選挙では芦屋都知事に忠誠を誓う濃緑党の候補者が最大派閥となり、定員127のうち49議席を占めた。
紫党議員はその半数以下。
芦屋ユリコが幾多の逆風にもめげず都政を司ってこれたのは、議会が味方についていたからだといってよい。
この構成が逆転した。
今回の選挙では、主勢力が紫党に戻る。33議席。
濃緑党は31議席しか獲れなかった。
残りの雑魚たちは常に強い方へ就くか、あるいは気まぐれに動く。
芦屋の任期はあと3年あるが、紫党議員たちは有終の美など飾らせまい。陰に陽に、どれほどのハラスメントを仕掛けてくることか。
軽く想像するだけでも暗澹たる絶望に苛まれる。
俺も責任の一端を感じる。
投票1週間前には復帰するはずだった芦屋ユリコの静養中に二番町の一角を粉砕したのだ。お詫びのしようもない。
民主主義国の有権者は、投票所で渡された用紙に載っている名前の中から、直前まで最も強く連呼されていた人物に○か×かをつけるものである。これを誘導するのがマスコミの使命であり、文字通りマスターベーションの得意なゴミであるところのマスコミは、自分たちに甘い汁をちゅぱちゅぱ吸わせてくれる陣営の側へ全力でなびくものだ。
現行制度がそのように規定されている以上、濃緑だって紫だってルールに準じた戦術で争わねばならないのだが、芦屋は全力を投じることが叶わなかった。
ごめんなさい。
無念でならない。
これで日本の脱・民主化は数年から数十年遅れてしまうかもしれない。
そんなことになったら、これから生まれてくる世代に怨まれちゃうよ。
今のうちになんとかしておきたかった。本統に、ごめんよ。
新聞には、都民の良識が結実したのだと称賛する各地の声が満載だ。
毎度おなじみ大阪府知事も長文のコメントを寄せているが、内容はいつもと変わらない。
変わらないといえば元TOC会長の能美ヨシロウもインタビューを受けている。セクハラのやりすぎで追放されたおじいちゃんだが、3行目以降はただひたすら、自分ほど女性を大切にしてきた政治家はいないのだと熱弁を奮うばかり。
あいかわらずだなあ。
こんな台詞、モテる男なら絶対口にしないものだぞ。
そこがわかってない時点でとっくに試合は終了している。始まってすらなかったかも。ぶざまだ。
試合といえば、オリンピック。
来日した選手団からの発症者が毎日現れていて、少なくとも日本国内向けの報道では全部が新種のデルタ株だと説明されている。だから検疫をすり抜けてしまうのだと。
弁解はさておき、出国直前になってオリンピックへの参加自体をとりやめる国もいくつか出てきた。やむをえまい。
入国した選手たちも、ホストタウンで宿舎内に隔離されたまま過ごしているケースが多いようだ。
「退屈でしょうし、せめて交流を」と地元小中学生を掻き集めだす自治体もあるとか。
アスリートや演奏家は毎日の練習が欠かさず必要なものなんだが、最低限その態勢は整えた上で、だよな?
肝腎なそこが記事では一切触れられていないので、とても不安になる。
トレッドミルさえ使えずに子供たちと握手ばかりさせられるのならば、俺だって頭がおかしくなりそうだ。いっそひと思いに銃殺してくれ。
現在7都道府県で蔓延防止等重点措置という外出・営業制限が敷かれている。
この期限が7月11日だ。
12日以降どうするか。
秋ノ宮は頭を抱えてると思う。
規制したからって守られないし、取り締まる警察官もいないのだから、全国的に撤廃してしまって民衆の自助努力にまかせれば?それでいいんじゃないのと俺は思う。雀の涙にも及ばない奨励金を制度化して役人の仕事ばかり増やすスパイラルを断ちましょう。
オリンピックはここまできたら中止もできない。やっちまいなさい。自己責任で楽しめと、観客も選手も。
政府にゃどうせ何もできない。やればやるだけ混乱のもと。能力無いならすっこんでろ。それより自分自身のダイエットに励みな。もちろん民間のカネになど一文も頼るんじゃねえぞ。
ちょっとでも社会貢献できるだけの腕力がついたら仕事でももらいにこい。相手してやらあ。
しかし実情は正反対のようで、より強い緊急事態宣言に格上げすべきだとの論調もある。
次の規制は23日開催のオリンピックに直結するから、この決定は特別重要な意味を持つのだ。
各会場での入場者を、キャパシティーの何割まで可とするか。
3月に海外客へのチケット販売を中止すると発表して払い戻しもすませたが、その分含めて日本国内ではじゃんじゃんチケットを売りさばいている。どれだけの払い戻し費用が発生するか。
それから、何割の座席が入場不可になるとしても、有効になるチケットと無効になるチケットを、どう再配分するべきか。
けっこう洒落にならないトラブルが確実に起きるというのに、秋ノ宮はたぶんギリギリを過ぎても決められないだろう。
おまえそれでも政治家なのか?
責任を持つ自覚があるならどっちでもいいからとっとと決めて批判を浴び尽くせ。実務作業部隊と、いちばん切実に迷ってるお客様へ能うかぎりの時間を与える以外におまえの使命なんてあるわけがねえんだアホンダラ。
マスコミも、ゴミじゃないならそこを突け。
なに一緒になって踊り騒いでるんだバカどもめが。きさまらに至っては責任とる必要もないんだろ。邪魔だから消えてろ。ああ見苦しい。
午後から紀尾井町へ来た。
二番町の近くなので、少し離れたビル地下の駐車場へ入り、エヴァンズは傘を持ってバングラデシュ大使館へ歩いていく。
さて、あの男は来るだろうか。
もし現れたら、いったいどうやって俺の居場所をサーチしているのか、訊いておこう。
……来た。
俺は周囲を警戒しつつ、窓を開ける。
保阪は前回より少し小綺麗な作業服を着ていた。
「今日も肉体労働さ。
先輩がいい人でね。行ってこいよと、買い物をついでに命じてくれた。
彼は日本人だ。名前は……言うと迷惑がかかるかもしれないから、勘弁してくれ」
現場監督みたいな感じか。
その上にゴステロみたいなカモリスタがいて、そいつはオフィス内から指示を出している……そんなところかな。
「ずっと気になってたんだが。ケンヂ、おまえはどうしてカモッラに捕まったんだ」
俺か?俺は……そうそう。去年の1月、おまえと会って、鴨肉を土産にもらったじゃないか。
あれを食ってコヴィッドに罹って、会社へ復帰する機会もなくクビにされた。
そんで派遣会社へ行ったら外資系のうまい仕事を紹介されたんだが、そのまますぐアジトへ幽閉されて、なあ。……ひどい連中だよ。
それから、いろいろな悪行に手を染めさせられて。
しかし生き延びて、今ここにいるというわけだ。
「アジトっていうのは、元麻布か」
ウンベルト。そういう固有名詞を不用意に出すんじゃない。口が軽いと生き残れないぜ。
「失敬した。しかしあのアジト、迷宮にしても手が込みすぎてるよな。いったいどんな部屋に住んでいるんだい?」
10室くらい移り替わったが、今はかなりいい待遇をいただけている。……嫌味じゃなくな。
実際、もっといい部屋に住みたいっていう欲求が、俺にとっては少なからぬモチベーションにつながっていた。
とはいえ、まだまだ奴隷の身ではあるんだよなあ。
「あの……酒場、あるよな。あそこでも働いていたと聞いてるんだが。
そこへ行けば、君に会えるか?」
おう。今も週イチ程度で雑用係をやってるぜ。
なんだ、来たことあるのか?
「俺はまだ行く権限が無い。噂でしか知らない。
そこに、トキオもいると聞いている」
……その通りだ。あいつ……は俺よりもベテランで、あれ?
今はもう……
「文三郎と呼べば、ばれないかな。
実はお願いがあるんだが。
この紙片を、文三郎に渡してもらうことはできないだろうか」
それは無理だな。文三郎はもう日本にいない。
たしか郷里へ異動になったはずだ。
「そこから戻ってきたと聞いているよ。君のいない日に当番で酒場へも行っていると。
だから、とりあえず預かっておいてくれないか」
フウン……わかった。
なんだこりゃ。何語だ?
「文三郎にしか解読できないと思う。
酒場へ行くときはシャワーを浴びて制服に着替えるんだろう。この紙片は防水だから、掌に握っておけば持ちこめる。
エアコンのスリットに隠して文三郎と文通していたことがあると聞いた。
同じようにやってみてくれないか。ただ……」
ただ?
「厨房の男に、尋ねてほしい。文三郎が今も来ているかと。
もし来ていないと答えられたら、この紙片はいったん窯に入れて燃やしてほしいんだ。証拠をのこしたくないから。
伝言は、また別の手段を考える」
エアコンを使った受け渡しを知っているなんて、案外ウンベルトも事情通だな。それにしても……誰から聞いた?
あのやりとりに介在している人物は、きわめて限定されるはずなんだが。
保阪には言わなかったが、その日アヴァンティで勤務することは決まっていたので、掌に隠した紙片をそのまま持ちこんだ。
カムパネルラにそれとなく尋ねる。トキオが帰ってきてるんだって?
知らないと言われる。
ガセネタかねえ。
じゃあ紙片よ、さようなら。ナポリの窯で灰となれ。
その夜は、博士が大学生くらいのカップルを連れて来店した。
いつもの大声で、口さがないお喋りに花を咲かせる。
ついつい聴き耳を立てる。
「岸は2回、ドナルド大統領を招いて東京案内しているんだ。2017年と19年だな。
バラク大統領には徹底して無愛想で冷淡だったのに、ドナルドにはどこまでも尽くしてみせたかったらしい。
ドナルドは4年間一貫して世界の嫌われ者で通っていたから、岸の猫撫で声に大層癒やされていたみたいだ。
だが誰かが、あいつは同性愛者ですと告げ口したので、一転して距離を置きはじめる。
一度目と二度目でドナルドの表情がこんなに違うのはそのためなんだ。
岸の表情にはそこまで変化がみられない。19年はより過剰にドナルドを喜ばせようと頑張っているけれど、せっかくデートしているのに相手の機微に気付けていないってのは最低だと思うね。ヤポじゃなかったとしても、こんなやつと交際をしちゃダメだ。彼氏くん、しっかり肝に銘じておきたまえよ。
それにしても見てごらんよ、岸のこのアヘ顔。
特にゴルフ場をエスコートしている最中のニヤつき方はモナリザも裸足で逃げ出すほど淫猥でたまらんよね。
岸はゴルフ好きも公言して憚らなかったんだが、そのプレイは徹底して相手を気持ちよく勝たせるためのテクニックに彩られていた。
別にそれがポリシーでも構わないんだが、古今東西のゴルファーに対する侮辱であることは自覚しておきたまえよと思うんだ。
接待ゴルフはスポーツじゃない。
こんな男がお膳立てしたイベントなんだから、いくらナショナリズムでデコっててもさあ、結局はUSをどれだけヨガらせるかっていう接待オリンピックにしかなりようがない道理だよ」