東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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TokyoMassacre2020-03-006.hmos

夜の出勤は、デンジャラスでダーティーだ。

一度経験すると、昼間の送迎なんて幼稚園へ通うのと大差ない。

 

ヤバい客は夜にしか買いに来ないし、だいたい徒党を組んでくる。素人は銃を見せつけて値切ってくる。

ここをどこだと思ってるんだ、奥多摩だぞ。

聞き分けの悪い客は、眠りについてもらう。

死体袋が足りなくなることもあるという。

そんな日は味方も減っている。

ドッグタグは勲章で、銃は形見だ。

誰もが明日のことなど当てにしない。

タバコくらい、喫わせてやりなよ。

 

16日、月曜日。

アントーニオから指名された。

他の車輌とは連携せず、運転手も俺ひとりでいいという。通常は大人同士でバディを組むのだが。

ビアジオと相談している。俺のウォッチ、アントーニオたちのドッグタグ及びスマホ、そして車輌の位置をタブレットでモニターし、報告書をつくっておいてくれと依頼している。

さほどイレギュラーな案件でもないらしい。

ただ、俺にとっては初の組み合わせだ。

ビアジオが見ていてくれるとはいえ、心細くはなる。

 

初日、アントーニオのとりまきが4人か5人いた。そのときの顔ぶれだ。

マッシモ。ウーゴ。ヴィンツェンツォ。

俺はジョバンニで通っているが、全員から、おじさんとしか呼ばれなかった。

構わない。

どうせ激ヤバのミッションだろうから、直接名前で呼ばれるよりはずっといい。

 

小さな町工場の、入口を見張れる位置に隠れて停車。しばし待つ。

背の高いヴィンツェンツォが降りて、柵を乗り越え、場内へ忍びこんでいった。

やがて工場から何台もの車が出ていく。

赤の軽自動車を見て、アントーニオが指さす。

 

「あれを追え」

 

ライトを点け、ゆっくり尾行。

市街地を抜け、川べりの廃屋に辿りついた。

ガレージがあり、軽は頭からそこへ入る。

俺たちの車は、それの尻を塞ぐ形で、もと来た方角へ帰る向きに停めた。

月明かりでうっすらと道路は見えるが、人も車も通る気配は感じられない。

マスク・軍手・ニット帽を完全装着して、全員車を降りる。

ダムドな空気がぷんぷんしてるぜ。

 

「ジェルソミーナだ。間違いない」

 

ヴィンツェンツォが、軽のボンネットに娘を押さえつけたまま、我々に告げる。

薄暗いガレージの中、化粧した娘の顔は仄白く輝いており、挑むような眼差しで俺たちを睨みつけてる。

ハタチそこそこに見える。ということはアントーニオたちより齢上だ。

俺とも、そんなに違わない。

工場で仕事を終えたばかりでこのルックスだとすれば、かなりのオシャレさんだろう。軽自動車のフロントもぬいぐるみでいっぱいだ。

ふむ。彼女が何をやらかしたか知らないが、いじめちゃだめだぞ諸君。なんて、口にはしないけど。

 

「ミーナ。ジェンナーロをどこへ逃がした」

 

アントーニオが娘に尋ねる。

娘は咄嗟に知らないと声を震わせたが、明らかに知っているようだった。

ゆっくりと尋問を続けるアントーニオ。

 

ジェンナーロという男はどうやらコジモの上級生で、相応の権限を持っていた。その実力に見合う待遇を要求したかなんかで所長と対立し、組織から抜ける道を選ぶ。

ふむ。

コジモ施設内は女人禁制なので、高校生以上になると外に女をつくるようになる。

ジェンナーロはつい2ヶ月ほど前、ミーナを毒牙にかけた。

ミーナにとっては運命の出会いで、たちまち熱烈な恋に落ちた。

そこはともかく、誰もがノーマークだった彼女の手引きを利用して、ジェンナーロはまんまと行方をくらましたわけである。

アントーニオ隊は目下これを追跡しているのだが、尋問を聞いているとミーナから洗いざらい白状させるつもりでもないことがわかる。

アントーニオはとっくに真相を知っており、裏付けをとるためにミーナを脅しつけているように、俺の目には映った。

だからもう、やめてあげろよ。

この娘は利用されポイ捨てされただけで、犠牲者だと思うぜ。

 

尋問は終わりかな。

アントーニオは黙考中。

ガレージの中では、ミーナのすすり泣きだけが反響している。いたたまれ……

 

「ペッツォ」

 

この合図で、空気が変わった。

ミーナの口に何かが押しこまれ、泣き声は止まる。

布を引き裂く音。

ボンネットが叩かれる音。それから……

おい、やめろ。

それだけはやめろ。

やめろったら。や……

 

俺は、羽交い締めにされていた。

壁に押しつけられ、後ろ手に手錠をかけられる。足にもだ。

マスクを口に押しこまれ、その上から猿轡をされる。

マッシモ。ウーゴ。こいつら、最初から、このつもりだったか。え……

注射?

 

「動かないで。針が中折れすると、後々面倒だよ。大丈夫、これ179番だから。気持ちよくなるだけ」

 

な……おい、なんてことを……うう。

 

床に倒された状態で、ヴィンチがミーナを襲う光景を見る。

ガチだ、こいつら。

とうとう一線を越えやがった。この、俺の、目の前で。

 

ヴィンチが果てた頃、俺の意識は軟化していた。

変な気分だ。

これが麻薬か。

 

「さ。次はおじさんですよ。さっきのお手本通りに。はい」

 

きさまら!

うおう。

ズボンとパンツをずり下ろされる。

はちきれそうだ。制御がきかない。

俺の体を持ち上げて…いるのは、ヴィンチか?

やめろ。

ミーナの背後から……やめろ。たのむからやめてくれ。

マッシモとウーゴが、ミーナの体を押さえつけている。

うがあ。

うがががががあ。

だめだ頭で怒れば怒るほど、その刺激が下半身へも向かう。

激しく、前後に突き動かされ、中に、ありったけ……

ぶちまけた。

とうとう、やっちまった。

やらされてしまった。

 

そのあと、椅子に座らされた。

体の自由はきかない。

涙と鼻汁をとめどなくあふれさせながら、マッシモとウーゴ、そして最後にアントーニオがミーナに同じことをするのを、見ていた。

 

ミーナはとっくに抵抗しなくなっていた。

輪姦が一巡したあと、彼女は男たちに支えられながら、軽の運転席に座らされた。

ぐったりと、ハンドルに頭をよりかからせる。その首のうしろにタオルを掛けられ、数秒後……

鈍い銃声が3発、煌めいた。

ああ。

 

俺はもう驚いていない。

男たちが、ゆっくりと視線を向けてくる。なにか話し合ってる。

 

担ぎあげられて、表の車の、リアスペースに寝転がらされた。

手足は拘束されたまま。

パンツがぴったり穿けてなくて気持ち悪い。

ガレージの中からガタゴトと音だけ聞こえている。証拠隠滅を図っているように察せられる。

やがて……男たちが乗りこみ、廃屋全体から火の手が上がる。

最後のひとりがドアを閉めると、走り始めた。

 

俺は、意識だけははっきりしたまま、手足を動かせないのでじっと横たわっていた。

後部座席のマッシモとアントーニオが、時々こちらを向いて、目を合わせてくる。

 

「おじさん、おつかれさま。あとは帰るだけです。

手錠を外すのはそれまで待ってください。

たぶんもう体は自由に動かせると思うので、ゆっくり風呂に入って、おやすみなさい」

 

なんだこいつら。

あれだけの犯罪してきた直後なのに。

まるで、部活を終えてきたばかりのような清々しさで、おやすみなさいだと?

 

マッシモが、タバコを喫っていいかと、アントーニオに訊いた。

アントーニオは、俺をちらりと見て

「いいよ、窓を開けて喫いな」と軽く許可を出す。

猿轡を外しても、どうせ、俺は反論なんてしないだろうと見透かされているのがわかって、実に癪だった。

 

クールな殺人者たち。

おそるべき子供たち。

俺も逃げたらこいつらに追われるのか。

途中で助けてくれた人すべてが、巻き添えにされるのだろうな。

容赦なく。どこまでも、無慈悲に。

 

深く肝に銘じよう。そう、俺は覚悟した。

 

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