夜の出勤は、デンジャラスでダーティーだ。
一度経験すると、昼間の送迎なんて幼稚園へ通うのと大差ない。
ヤバい客は夜にしか買いに来ないし、だいたい徒党を組んでくる。素人は銃を見せつけて値切ってくる。
ここをどこだと思ってるんだ、奥多摩だぞ。
聞き分けの悪い客は、眠りについてもらう。
死体袋が足りなくなることもあるという。
そんな日は味方も減っている。
ドッグタグは勲章で、銃は形見だ。
誰もが明日のことなど当てにしない。
タバコくらい、喫わせてやりなよ。
16日、月曜日。
アントーニオから指名された。
他の車輌とは連携せず、運転手も俺ひとりでいいという。通常は大人同士でバディを組むのだが。
ビアジオと相談している。俺のウォッチ、アントーニオたちのドッグタグ及びスマホ、そして車輌の位置をタブレットでモニターし、報告書をつくっておいてくれと依頼している。
さほどイレギュラーな案件でもないらしい。
ただ、俺にとっては初の組み合わせだ。
ビアジオが見ていてくれるとはいえ、心細くはなる。
初日、アントーニオのとりまきが4人か5人いた。そのときの顔ぶれだ。
マッシモ。ウーゴ。ヴィンツェンツォ。
俺はジョバンニで通っているが、全員から、おじさんとしか呼ばれなかった。
構わない。
どうせ激ヤバのミッションだろうから、直接名前で呼ばれるよりはずっといい。
小さな町工場の、入口を見張れる位置に隠れて停車。しばし待つ。
背の高いヴィンツェンツォが降りて、柵を乗り越え、場内へ忍びこんでいった。
やがて工場から何台もの車が出ていく。
赤の軽自動車を見て、アントーニオが指さす。
「あれを追え」
ライトを点け、ゆっくり尾行。
市街地を抜け、川べりの廃屋に辿りついた。
ガレージがあり、軽は頭からそこへ入る。
俺たちの車は、それの尻を塞ぐ形で、もと来た方角へ帰る向きに停めた。
月明かりでうっすらと道路は見えるが、人も車も通る気配は感じられない。
マスク・軍手・ニット帽を完全装着して、全員車を降りる。
ダムドな空気がぷんぷんしてるぜ。
「ジェルソミーナだ。間違いない」
ヴィンツェンツォが、軽のボンネットに娘を押さえつけたまま、我々に告げる。
薄暗いガレージの中、化粧した娘の顔は仄白く輝いており、挑むような眼差しで俺たちを睨みつけてる。
ハタチそこそこに見える。ということはアントーニオたちより齢上だ。
俺とも、そんなに違わない。
工場で仕事を終えたばかりでこのルックスだとすれば、かなりのオシャレさんだろう。軽自動車のフロントもぬいぐるみでいっぱいだ。
ふむ。彼女が何をやらかしたか知らないが、いじめちゃだめだぞ諸君。なんて、口にはしないけど。
「ミーナ。ジェンナーロをどこへ逃がした」
アントーニオが娘に尋ねる。
娘は咄嗟に知らないと声を震わせたが、明らかに知っているようだった。
ゆっくりと尋問を続けるアントーニオ。
ジェンナーロという男はどうやらコジモの上級生で、相応の権限を持っていた。その実力に見合う待遇を要求したかなんかで所長と対立し、組織から抜ける道を選ぶ。
ふむ。
コジモ施設内は女人禁制なので、高校生以上になると外に女をつくるようになる。
ジェンナーロはつい2ヶ月ほど前、ミーナを毒牙にかけた。
ミーナにとっては運命の出会いで、たちまち熱烈な恋に落ちた。
そこはともかく、誰もがノーマークだった彼女の手引きを利用して、ジェンナーロはまんまと行方をくらましたわけである。
アントーニオ隊は目下これを追跡しているのだが、尋問を聞いているとミーナから洗いざらい白状させるつもりでもないことがわかる。
アントーニオはとっくに真相を知っており、裏付けをとるためにミーナを脅しつけているように、俺の目には映った。
だからもう、やめてあげろよ。
この娘は利用されポイ捨てされただけで、犠牲者だと思うぜ。
尋問は終わりかな。
アントーニオは黙考中。
ガレージの中では、ミーナのすすり泣きだけが反響している。いたたまれ……
「ペッツォ」
この合図で、空気が変わった。
ミーナの口に何かが押しこまれ、泣き声は止まる。
布を引き裂く音。
ボンネットが叩かれる音。それから……
おい、やめろ。
それだけはやめろ。
やめろったら。や……
俺は、羽交い締めにされていた。
壁に押しつけられ、後ろ手に手錠をかけられる。足にもだ。
マスクを口に押しこまれ、その上から猿轡をされる。
マッシモ。ウーゴ。こいつら、最初から、このつもりだったか。え……
注射?
「動かないで。針が中折れすると、後々面倒だよ。大丈夫、これ179番だから。気持ちよくなるだけ」
な……おい、なんてことを……うう。
床に倒された状態で、ヴィンチがミーナを襲う光景を見る。
ガチだ、こいつら。
とうとう一線を越えやがった。この、俺の、目の前で。
ヴィンチが果てた頃、俺の意識は軟化していた。
変な気分だ。
これが麻薬か。
「さ。次はおじさんですよ。さっきのお手本通りに。はい」
きさまら!
うおう。
ズボンとパンツをずり下ろされる。
はちきれそうだ。制御がきかない。
俺の体を持ち上げて…いるのは、ヴィンチか?
やめろ。
ミーナの背後から……やめろ。たのむからやめてくれ。
マッシモとウーゴが、ミーナの体を押さえつけている。
うがあ。
うがががががあ。
だめだ頭で怒れば怒るほど、その刺激が下半身へも向かう。
激しく、前後に突き動かされ、中に、ありったけ……
ぶちまけた。
とうとう、やっちまった。
やらされてしまった。
そのあと、椅子に座らされた。
体の自由はきかない。
涙と鼻汁をとめどなくあふれさせながら、マッシモとウーゴ、そして最後にアントーニオがミーナに同じことをするのを、見ていた。
ミーナはとっくに抵抗しなくなっていた。
輪姦が一巡したあと、彼女は男たちに支えられながら、軽の運転席に座らされた。
ぐったりと、ハンドルに頭をよりかからせる。その首のうしろにタオルを掛けられ、数秒後……
鈍い銃声が3発、煌めいた。
ああ。
俺はもう驚いていない。
男たちが、ゆっくりと視線を向けてくる。なにか話し合ってる。
担ぎあげられて、表の車の、リアスペースに寝転がらされた。
手足は拘束されたまま。
パンツがぴったり穿けてなくて気持ち悪い。
ガレージの中からガタゴトと音だけ聞こえている。証拠隠滅を図っているように察せられる。
やがて……男たちが乗りこみ、廃屋全体から火の手が上がる。
最後のひとりがドアを閉めると、走り始めた。
俺は、意識だけははっきりしたまま、手足を動かせないのでじっと横たわっていた。
後部座席のマッシモとアントーニオが、時々こちらを向いて、目を合わせてくる。
「おじさん、おつかれさま。あとは帰るだけです。
手錠を外すのはそれまで待ってください。
たぶんもう体は自由に動かせると思うので、ゆっくり風呂に入って、おやすみなさい」
なんだこいつら。
あれだけの犯罪してきた直後なのに。
まるで、部活を終えてきたばかりのような清々しさで、おやすみなさいだと?
マッシモが、タバコを喫っていいかと、アントーニオに訊いた。
アントーニオは、俺をちらりと見て
「いいよ、窓を開けて喫いな」と軽く許可を出す。
猿轡を外しても、どうせ、俺は反論なんてしないだろうと見透かされているのがわかって、実に癪だった。
クールな殺人者たち。
おそるべき子供たち。
俺も逃げたらこいつらに追われるのか。
途中で助けてくれた人すべてが、巻き添えにされるのだろうな。
容赦なく。どこまでも、無慈悲に。
深く肝に銘じよう。そう、俺は覚悟した。