東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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芦屋ユリコ。第20代東京都知事。

 

東京オリンピックの招致運動は、2005年に第15代都知事だった大手シンタロウに始まる。

そのときは、2016夏季大会の開催地として立候補した。

博徒衆の親分肌で肩いからせて歩くイメージの強い大手は13年間も都政を支配した。カウント上では14代から17代まで4期にまたがる。

だが当時のIOC委員長は規律を重んじるベルギー人の伯爵だったらしくて、任侠道が通じなかった。

巨額の活動費をつぎこんだものの、2016開催地はリオデジャネイロにとられた。

 

大手の忠実な部下だった飯山ナオキが都知事を継いだのが、2012年の暮れ。

翌年9月のIOC総会で2020夏季オリンピックの開催地が決まる。

東京は、マドリッドやイスタンブールと争って、勝利した。

 

当時は2011東日本大震災の傷痕がまだ生々しく、重苦しい閉塞感が蔓延していたから、日本中が熱狂に湧き立ったのをよく覚えている。

1964東京オリンピックの主会場だった新宿の国立競技場を建て替える以外はほとんど経費もかからない、史上最高にエコロジーでリーズナブルでドリーミングなイベントになると、飯山都知事はアピールした。

 

日本国民全員が、あのとき心をひとつにしたはずだ。

俺たちは、世界をおもてなしする。

平和で希望に溢れた東洋の楽園へ、ようこそみなさんウエルカム!とね。

 

このイベントを泥海の中へ引きずりこもうとしている最大の悪魔はもちろん、新型コロナウイルスあらため憎きチャイニーズ・ウイルスなのだが、それは今年に入ってからの話だ。

 

日本国内外に、オリンピックを妨害する輩が現れ始めたのは、いつ頃だろう。

 

すぐ思い出せるのは、たとえば公式エムブレム発表直後に、どこかの国から、そこの有名な劇場のロゴマークに似ているとイチャモンがついた。

世界中のデザインに、似てるものなんていくらでもあるだろうに。

その連中は自国の裁判所へ正式に訴えを出し、国際問題にするぞと脅してきた。

日本はもっと胸を張って突き返せばよかったと思う。

しかし、それができないのが日本人の奥ゆかしさだ。

結局、作者が謝罪までして、デザインは再公募となった。

こんなネチネチした、いやらしい妨害が、次から次へと起きたのだ。

 

新競技場の設計案も、二転三転したのじゃなかったかな。そのため、工事はどんどん遅れた。

競技場はなんとか昨年末に完成したが、晴海の選手村は開会式に間に合うかどうかもギリギリのスケジュールに追いこまれている。

これまたどこかの国の労組が「日本では現場作業員が不眠不休で過酷な労役に従事させられている」とわざわざ難癖つけてきたことで、揉めたのだ。

日本側は言下に否定したが、あたりまえのことだ。

ともあれ、大会の1年延期は工事関係者にはありがたい措置となった。ここは素直に喜ぼう。

 

もっとも今では、カモッラが手を貸せばどんなクレームでもつけ放題だろうなと思っている。

かれらは日本に寄生しているだけで、日本に貢献するどころか、破滅させたがっているゴクツブシだ。

真偽を調査し解明するのも結構だが、その際はこんなやつらの妨害とも戦ってくれ。

日本人だけがやっているなら、清廉なはずなんだ。

 

今日読んだ本は、衝撃だった。

2016リオ・オリンピックの開催直前に東京都知事となった、芦屋ユリコ。彼女こそが諸悪の根源である。日本を破滅に導くためエジプト政府の密命を受けて送りこまれた工作員であると喝破してある。

エヴァンズが車へ戻ってきたのも気付かないくらい、熱中して読みふけってしまった。

買ってきた本は帰るときエヴァンズに渡して処分されるルールなのだが、この本は最後まで読み通したいので明日も持ってきてもらえないだろうかと懇願した。

 

「ハア。よくもまあこんな本を見つけてくるものだね。

ここまでデタラメだといっそ清々しくなるよ。明日も読むのは構わないが、周囲の警戒が疎かになるのは減点だからな。

次は懲罰に処す。覚悟しておけ」

 

エヴァンズは、本をぱらぱらめくったあとブリーフケースに入れた。

お前も読んでみたらいい。曇りきった目が開かれること、まちがいなしだぞ。

そんなことも思ったが言わない。

早く明日が来ないかな。続きが気になってたまらない。

 

「2020東京招致のキーパーソンなら、大手や飯山より竹田宮じゃないかねえ。息子の方。

知ってる?」

 

タケダノミヤ?いえ、初耳ですが。

どなたですか。

 

「JOC会長。IOC委員も兼任。

はい、ここまでで気付いたことを言ってごらん」

 

は?

ええと、JOCは日本オリンピック委員会。IOCは国際オリンピック委員会。

つまり、オリンピック招致にもっとも強い権限を持つ立場なんですね。

 

「ヒント。

IOC本部はローザンヌにある。

CH。つまりスイスだ」

 

JOCの会長で、IOCの委員もしてる……

あれ?つまり、普段は日本にいる?

 

「そう。つまり110名ほどいるIOC委員の中でも、末端の涯てだ。

外野でもベンチウォーマーですらもなく、試合中に入口の案内係をしている補欠メンバーとでもいったところかな。総会で票を入れるだけの要員さ。権限なんて無い。

いくらヤポの間では持て囃されててもね」

 

日本国内では、権力者ですか?

 

「資金集めの才能だけは抜群だったと思うよ。2回戦で敗れた2016招致の費用だけでも、都から150億円くらい吐き出させたんじゃなかったかな。

2020の開催が決定してからも私腹を肥やしつつIOCへも貢ぎ、FR金融検察局の捜査対象にされたので捕まる前に円満退職したのが去年のことだ。

まだのらりくらり逃げ回っており、FRも手を焼いている。

ヤポの警察や公安がたいへん非協力的なので調査が進まないってさ」

 

FRって、フランスですか。

日本語は難しいですから大変でしょうけど。

本統に悪いことをしていたんだったら、日本の捜査員だって容赦はしないはずですよ。

 

「飯山都知事の代に2020東京開催が決まり、TOCすなわち大会組織委員会を結成する段階になってすぐ飯山は失脚する。都知事選挙での資金調達に怪しい借用書が含まれていたとバッシングされたんだ。

都庁の業務が空転しているところに岸首相が乗りこんできて、息のかかったお友達でTOC幹部を構成し、IOCへ申請。主導権を都でなく国が握る体制を整えた。

狙っていたかのようにスピーディーな動きだった。

次の八幡都知事はオリンピック事業も引き継ぐが、半年くらい経って、飯山の提出した見積もりでは開催不可能であると判断する。

会場によっては整備員の人件費がまったく計上されていなかったりなど、経費のかからなさをアピールするためにかなりの項目が意図的に削除されていたことを明らかにした。

再計算させたところ、必要経費は約3倍に膨れ上がる。

TOCはこれを承服せず、都が負担せよと突っぱねた。

八幡が辞任するまで2年間争い続けたが決着せず、時間だけが空費された。

八幡は公金を私的流用していると議会で追及され、葬られる。当時の都議会は紫党が主勢力だったから永田町並みに執拗だった。

八幡は都知事でなくなってからも1年近く、人影を恐怖して自宅から外に出られなかったという。

そして2016年に第20代都知事・芦屋ユリコの登場だ。

どうかな、だいたいこんなストーリーだったと記憶するんだが」

 

すごいですね。俺が必死で読んでた内容を何も見ずにスラスラと要約しちまいやがって。おまけにネタバレ。

悪いけど俺、あんたほど頭よくないんだよ。

そんな俺が、やっと理解できそうでこれなら勉強できるかなって本を手に入れたんだ。黙って最後まで読ませてくれよ。

茶化すのも虐めるのも、せめてその後からにしてくんないかな。

 

「芦屋ユリコは面白い経歴の持主でね。

北京オリンピックを翌年に控えていた、2007年のことだ。

第1次岸内閣で、防衛大臣をつとめたのさ。知っていたかい?」

 

知りませんけど。え?防衛省の大臣?

あのオバサンが?

それはちょっと、いやかなり、びっくり。

 

「芦屋はそれ以前にも紫党員の閣僚として環境大臣や北方領土問題担当大臣を引き受けた経験を持つんだが、そんな彼女に岸が大役を与えた。

昔からトリックプレイヤーだったからね、あの男は。そこはまったく変わってないし変える気もなさそうだ。

芦屋は岸の思考パターンを1年間、官邸で間近に見ていた。だから手の内をよく知っている。

4年間も都知事を続けてこられたのは、そのおかげさ。飯山や八幡は簡単に潰されたが、芦屋に同じ手は効かなかった」

 

ふうん。いやしかし、芦屋ユリコはエジプトの政治工作員かもしれないらしいですよ。

かつて防衛大臣をつとめた人物にそんな疑惑がかけられるなんて、由々しき国難だと危惧するんですけどね。

 

「たしかに彼女はカイロへ留学して学位を修めているからアラビア語も英語も堪能だし、ムスリムについてだって僕より理解が深いかもしれない。

何ひとつ学ぶ気すらなく国費を私的流用し、中東旅行でも恥を塗り重ねまくってきただけの岸より教養も品格も上だ。

この2人が都と国をそれぞれ代表していて、オリンピックがまともに開催できるわけがないんだよ。

しかし延期されたからなあ。

7月の都知事選挙で誰が21代目になるか、あるいは芦屋ユリコが続投するか。そして1年後どうなっているか。

僕たちはね。毎日、それらすべてのパターンを検討しているんだよ」

 

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