新型コロナは、終熄の兆しを見せている。
アメリカ・ブラジル・インドなどでまだまだ猛威を奮ってはいるが。イタリアやイギリスなどでは、ロックダウンの解除を始めた。
我が日本は法改正までしたけれど都市封鎖には至らず、外出規制などの緊急事態宣言を全国に発布するだけで事足りた。
それも2週間前に解除され、町はおだやかに、日常を取り戻しつつある。
ここでヒャッホウ!とはしゃいだりしないのが、日本人の慎重なところだ。
飲食店ではアルコール洗浄液や仕切り板の設置が続けられ、人々はマスクを外そうともせず、ウイルスが本統に死に尽くすのを待っている。
今度の疫病は長く続く、とカモッラで何度となく聞いていた気がするけれど。かれらの予想というか期待は、完全に外れた。ざまあみろ。
さ。心を改めて、明日に向け、またこつこつと働きましょうよ。
ああお前らは犯罪者集団なのだから働いちゃダメだ。
とっとと国へ帰れ。
週刊誌の特集で、新型コロナ戦記の総括を読んでいる。
わずか半年なのに、年表だけで、かなりのボリューム。
それは武漢から始まった。
ウイルスの作者たちは、同じ国民でも平気でターゲットにするらしい。
春節という中国の一大国民行事の前にそれはばらまかれ、たちまち世界に拡散した。
経済へのダメージも大きかったことを考えると、テロのつもりだったとしても計画通りではなく、事故だったようだ。
武漢では手際のよすぎるロックダウンと即席病院の建設。
想定内ではあったみたいね。
戦争をおっぱじめちゃった場合もこんな要領でやるのかしらねえ。
物騒で猥雑、かつ秘密主義が深刻な国だから。
自由主義陣営はこれからも常に監視を徹底していかなくてはならないよね。
「その通りだね。
物騒で猥雑。なんでも秘密にしたがるくせに深刻な白痴化が手のつけようもないほど進行している国は、危険だから常に抑えつけておこう。賛成だ」
今日は素直だなエヴァンズ。
あ、ここ気になるから訊いておこうかな。
ロシアでは今月、毎日1万人以上の感染者を出すなどアメリカに迫る勢いでパンデミックが拡がっており、今も終熄には程遠いようだ。
ロシア人は酒に強いからコロナには罹りにくいって前にどこかで聞いた気がしてたんだけどな。
アヴァンティでだっけ?
「ロシア人が酒飲みだなんて、いつの時代の偏見だよ。
ボリスなら確かに酒に頼る傾向も強かったが、彼が政界から退いて20年も経つんだぞ」
そうなんですか。
でも、20年ごときで国民の体質というか、とりわけアルコール依存症が治ったり変化したりするものとは思えませんが。
「それがそもそも偏見だ。
ヤポだって武士道や学力至上主義を一夜でかなぐり捨てただろう。
エコノミック・アニマルと冷やかされていた時代もあったが、今のおまえたちは10進数すら理解できてない。
アップデートするたびに劣化していくだけなら、とっとと絶滅してしまえ」
過去にない最大級の侮蔑をくらった気もするが、早口すぎて聞き取れなかったことにしておこう。
話を戻して、
今のロシア人は、酒に強いわけでは、ない?
「西暦2000年以降、RUの国民とくに若者たちが憧れを抱くカリスマのイメージは決定的に変わった。
大統領を合計16年・首相を4年つとめた現国家元首のウラジーミルこそがクリストだ。
彼は心身を弱くさせる嗜好品を徹底的に嫌う。その姿に倣って、ロシア人は酒を飲まなくなった。
今更やめられないバーブシュカやヂェードゥシカは嗜んでいるが、それのおかげで重症化しにくかったというのも、無理のある話だ。
実際、RUでもcovid-19は大暴れしているよ」
そうか。
コロナで世界が混乱している隙にロシアが領土拡大を目論んでるみたいな噂だったと思うんだけど、そんな心配する必要も無さげですね。
「RUへの人材輸出ならゴステロの管轄だな。スヴェルドロフスクでもワクチンや治療薬を開発中だし、カモッラより遥かに大規模な研究施設でやっているから、試験体も大量に必要なはずだ。需要過剰で大変みたいだよ。
いずれにしても、酒に強けりゃcovid-19に罹らないなんてのはロシアンジョークさ。正しく消毒用アルコールを使え」
思い出したくもない名前が出てきたけど、忘れよう。
「そういえば以前、US大統領選挙は二段階式だという話をしただろう。
それとの比較でもないが、RUの大統領選挙は、有権者が候補者にそのまま投票する、直接方式だよ」
へえ。そうなんですか。
「実際にやってみればわかるが、これだと候補者は大都市への遊説しかしなくなる。
国境付近や紛争地で中央政府が対応すべき問題を抱えていても、人口が少なければ選挙期間中には見向きもされない。
だから直接選挙が必ずしも民主主義の正解ということではないんだよ」
そう……ですかねえ。
だったらどうしても不公平な地域が生まれることは避けられないように感じます。
「感覚はさておき、完全な民主主義なんて存在しえない。
現実的には、内閣府または大統領府が行動することで解決できる問題があるならば、当事者から発しやすく、為政者に届きやすい体制が整えられているほど機能的な国家だと言うことはできる。
そのためには死角が少ないほどよい。
この意味において、USのシステムはRUより優れているのじゃないかな」
機能的な国家かあ。
そんな風な考え方、したことありませんでした。
「まるでそれ以外のことなら考えたことがあるような口ぶりだ。しらじらしい。
それにしても……結局、民主主義なんだよねえ。
こんなものをありがたがるから、いつまでも問題が片付かず、箱庭は汚れていき、紐は縺れをこじらせるんだ。
そろそろ気付いてもらいたいもんだ」
はい?もしかして、民主主義までディスってますか。
カモリスタの支配する奴隷王国が理想郷だとでも言う気ですか。
あなたたちみたいな連中が根こそぎいなくなった世界こそが完全解ですよ。
それが民主主義です。なぜ、わからない。
「ジョバンニ。敢えて、聞いてやる。
民主主義とはいったい何だ。
それのどこが良いんだ。
せいぜい、面白く答えてくれ」
はん、面白いこと抜かしやがるぜ。
民主主義とは、国民ひとりひとりが清き一票を投じることでリーダーを決め、政治を任せる社会のことです。
そうじゃなかったら独裁政権だ。ファシズムだ。
民衆の声は聞き届けられませんし、軍部が独走しても戦争を止められません。
民主主義だって完璧じゃないとは思いますけど、現状もっとも公正で、暴政にブレーキをかけられる仕組みです。
面白おかしく語るような話題ではないですよ。
「つまらない答えだな。
君は23歳だったか。去年までは有権者だったと思うんだが、その清き一票とやらを投じてきたかね」
ええ。まあ……投じてきましたよ。
「候補者の中から、その人物を選ぶ基準は何か」
何って……
人柄・実績・堂々としているか・ブレがないか、等々を総合的に判断して、決めてます。
「不祥事をメディアに暴き立てられてる候補者がいたら、たとえ他の要素が満点でも、票は入れにくくなるよな?」
入れにくくなりますね。てか、選択肢から真っ先に外しますね。
「逆に、メディアがこぞって期待する人物像だと盛り上げていれば、その候補者に票が集まるのも当然だよな」
当然かな。まあ、それだけの人物なら。期待されてるんでしょうから。
「君はこれまで何度かカモッラのミッションに加わっているわけだが、僕たちがその都度チームリーダーを人気投票で選んでいると思うかね」
へ?
なんですか、いきなり。
違う話題ですか?
「組織を動かし、国家を経営する。指揮官には実務能力が必要だ。
なぜそのスキルを数値化もせず、人気投票に委ねてしまえるのかが不思議だねと言っているんだよ。
現状、ヤポの選挙ではマスメディアがすべてを決している。
メディアなんて権力とカネにとことん弱い存在だということは歴史が証明し尽くしているところなんだが、ヤポはかれらを神のごとく崇めて肥大化させるままにしているよね。
こんな国で民主主義なんて始めさせたらどうなるか。
人類史上例を見ない壮大な社会実験をありがとう。
そろそろやめていいんじゃないか。それともダイエットは明日から、かな?」
なんだ?なんの話になってるんだ?
わからなくなってきた。俺を洗脳しようとしているのかエヴァンズ。
気をしっかり持て。耳を傾けちゃダメだ。自分を信じろ。目に見えるものだけが真実だ。
だまされてたまるか。
「人類史の過程で民主主義が発明された経緯は知っている。それ自体が無意味だとは言わない。
すぐれた素質と能力を持ちながら活用されてこなかった人材を国の発展に寄与させられるようにした功績は大きいだろう。
その教訓から学ぶのであれば、現状不当に虐げられている人材をいかに発掘し成長させるかがポスト民主主義だ。
ただ支配する道具として政治利用している、おまえたち流の民主主義など人類史の汚点でしかないと僕は考えるよ」
勝手に一人で考えてろ。知るか。
「それから、さっき暴政にブレーキをかけられるのが民主主義だとか言っていたな。
民主主義勢力のトップランナーはUSだが、人類史上、USほど他国への軍事侵攻と市民殺傷・財産と尊厳の破壊を積み重ねてきた国家は他にないぞ。
わかってて言ったのか?」