東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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TokyoMassacre2020-05-011.hmos

アメリカは、野蛮な国なのだろうか?

 

わかりきった話じゃないか。

コロンブスが発見して以来、ヨーロッパの白人たちが大挙して押しよせ、原住民を皆殺しにしながら開拓を進めた。

アフリカからは黒人奴隷も連れてきた。

白人は、巨大な農地や工場を次々とつくり、億万長者を山ほど生んだ。

イギリスの植民地だったけど戦争をして独立。

生まれた時から軍事大国。それがアメリカという国だ。

 

第二次世界大戦では日本に原爆を落として勝利し、その後も核兵器を無節操につくりつづけてソ連と競争。ソ連が崩壊してからは世界唯一の超大国となり、ジャイアニズムをこじらせる。

世界の警察を自称してどこにでも軍隊を派遣するけど、成功例より失敗の方が多い。

 

我が日本はアメリカに戦後復興をたすけられた恩もあり、今では対等な同盟関係ではあるけれど、できれば自分たちの軍隊で国土を守りたい。

しかし、平和主義を貫くために軍隊はこれからも持つべきではないという意見も根強い。

そんな議論をしているうちに、中国や北朝鮮・ロシアなどの脅威が膨らんできた。

日本も、変わらなければいけない段階へ達しているのだ。

 

おっとっと、話がそれた。

アメリカは野蛮な国か?

イエスだ。

いなくなられては困るけど、もう少し超大国としての責任を自覚して、慎重な行動を心掛けてほしい。

腕力の強さを誇るだけでは、テロリストから銃を手放させることはできないのだよ。

岸首相も、バラクやドナルド大統領に、それをずっと説いているはずなんだけどねえ。なかなか、日本の誠意を学んでもらうのは、難しいようで。

 

これが、俺のアメリカ論だ。

最近本で読んだ知識も踏まえた最新バージョンである。

少なくとも間違っているところは無いはずなのだが、エヴァンズの前ではひけらしたくない。

正しいことと、議論に勝てることは必ずしも一致しないのだと俺はカモッラで学んでしまった。

間違っている者ほど、絶対相手に歩み寄らない。それでは対話が成立しない。言葉の暴力で蹂躙されてしまうだけだ。

岸首相も、こんな苦節をにじませているのだろうか。

ああ、愚か者を説得するという仕事は、まるで針の穴を潜り抜けろと言われるくらい、難しいものだなあ。

 

やるせない想いを抱えていたところだった。

アヴァンティの客が、アメリカの最新事情を話し始めた。

日本語なので、つい聴き耳を立てる。

 

中年男性Aと、年配の紳士B。

Bはたまに来る常連で、よく他の客から話しかけられては、落ちついた声音で長々と返答する。多言語使いで、おまけに博学のようだ。

 

A「パウダーホーンに、グリーンラインが敷かれたようです。

ただ、名目上は中立地帯なのですが、現在もここが最大の激戦区になっており、周辺の廃墟いたるところに狙撃手が潜んでいます。

町の外から来たばかりのジャーナリストが献花しようとして、まず足を射たれる。救助隊にも銃弾が浴びせられる。その弾道を見て狙撃手が狙撃手を射つ。

そういった状況らしいです」

 

B「まだそんな段階か。バグダードでは市内全域がそうだったよ。

USの内乱なら国務省が軍事請負会社に予算をばらまくこともない。長引くこともあるまいね。来年の初めには落ち着いていることだろうよ。

大統領が交代していれば尚更だ」

 

A「やはり、ドナルドの再選は無いとお考えですか」

 

B「4年も笑わせてもらったんだ。もう充分じゃないかね。いったん終わらせよう。

ただね、次の大統領をジョセフ・ロビネットがつとめるとする。彼は高齢だから、もしかすると途中でカマラ・デヴィに交代するかもしれないが。

ここから民主党支配を4年間も味わったら、有権者がドナルド・ジョンの復活を待望することは明らかだ。

この期待を背負って2025年にドナルドの2期目が開幕するというシナリオはどうかな。

彼は、より強大な力をつけて戻ってくるよ。

そんな続編を観てみたくはないかね」

 

A「そうか。これも、郵便配達夫のセオリーですね。

一度退がらせ、リベンジさせるドラマが必要なんだ。

なるほど、だったら御退場いただきましょう」

 

B「イレギュラーが発生するとしたら、ロビネットがなんらかの理由で出馬できなくなり、次点のバーナードが民主党候補に繰り上がる場合かな。

だが、あいつじゃあドナルドに勝てない。共和党が2期続くことになる。

ドナルドが党内でマイケルやビル・フロイドに椅子を譲る姿は想像しにくいから、私のシナリオは崩れるね」

 

A「ドナルド自身は、続投を大いに望んでいるんですよね。

普通に戦って、普通にロビネットを倒すという展開もありえるでしょう」

 

B「ワクチンが10月までに完成し、FDAに承認させれば、追い風にはなるだろう。

しかしドナルドには、バラク前大統領が成立させた医療制度改革法を完全に破壊した輝かしい実績がある。あれをしてなければ、covid-19で10万人以上の死者を出すような事態には陥ってなかったはずだ。

よりにもよって選挙の年にこの失点は大きすぎる。だから、ことさらCNの陰謀だと声を荒げているのだろうけどね」

 

A「哀しいですね。ジョン・フィッツジェラルド大統領の失敗を思い出しました」

 

B「古いな。ジェームズ・アール君という例だってあるよ?

そういえばフィッツジェラルドは、軍を怒らせたから消されたんだよね。ドナルドにも同じ傾向はあるな」

 

A「ほう?

ドナルドは軍を怒らせるようなことを何かやってましたか。

今年初めのガーセム司令官暗殺では、軍と密接に連携をとっている風な印象でしたが」

 

B「おお、ハッジ。とってもいいやつだったのに。USはまったくひどいことをしたよ。

だが実際のところ、ドナルドは報告を聞いても、ターゲットが誰だかよくわかっていなかった。

中東じゅうが大騒ぎになったので、急に、あれは自分がやらせたのだと自慢しはじめたんだ。

軍はドナルドの軽口にカンカンだった。今すぐこいつの口を塞げという議論も白熱したみたいだからね」

 

A「そんな内幕が。

ほかにもいろいろやらかしてそうですね。度重なる鬱積があっての、口を塞げ、なんでしょう?」

 

B「ドナルドが3年半も暗殺されずにすんでいたのは、補佐官や長官をこまめにすげ替えてきたからなんだ。

新任者は状況の見極めがつくまで前向きに尻尾を振るものだろう。その間は官僚たちがいくら計画をめぐらせても、側近を味方につけられない以上は実行に踏み切れない。

例を挙げれば昨年6月、ホルムズ海峡でUSの無人航空機が2機墜落した。

IR軍がそんな攻撃をできる可能性は低いのだが、国務省は大いにはしゃいで、IRへの報復作戦を立案する。

ドナルドは一旦、これに署名した。すぐに部隊が動き始め、IR全土に劣化ウラン弾を撒き散らす準備が整えられた。

攻撃直前、大統領が宣戦布告を発することになっていた。

ドナルドはビビって聞いてないと叫びはじめ、中止命令を出す。ホルムズ海峡に集結していたUS軍は撤収だ。

参謀たちは、そりゃもう怒ったさ。

このときも暗殺しろという声が高まったが、議論している間に国家安全保障担当補佐官が辞表を突きつけてホワイトハウスを去る。

すぐ後任が迎えられ、暗殺計画は白紙に戻されたというわけさ」

 

A「あのう。もしかしてドナルド大統領って、ピースメーカーなんじゃありませんか?」

 

B「すべての敵対勢力を駆逐すれば平和が生まれる理屈だから、大統領も参謀も、みんなピースメーカーさ。

それよりも、ドナルドは核のボタンを押す勇気を持たないチキンだと見抜かれてしまっていることが重要でね。

それを期待していた有権者層からの票は、もう集まらない。

私は彼に、充電してこいと言いたいだけなんだ。4年間、民主党に政権を預けてから、満を持してアドバンスド・ドナルドとなって戻ってこいと。

次こそ世界を焼き尽くすぞと期待させる面構えを磨いてこい。

さすがに8年は長すぎる。惰性で続けられては面白くなるはずもない」

 

A「全面核戦争を始める勇気、ですかあ。

なかなかそれは、私ら庶民には、実感の湧きにくい覚悟ですね」

 

B「無人機をピコピコ操縦してる少年少女たちはスコアを競い合うことだけに熱中するからすくすく育てておけばいいんだが、旧世代の兵器を使い切っておくことは、旧世代の人民がつとめるべき責務だからね。

それに、核兵器はアレルギー持ちが騒いでいるほど危険な代物ではない。

そのこともきちんと周知せねばならなかったんだ。私たちと、先輩たちの世代がね」

 

A「ほう。そういうものなんですか。

言われてみると、私も核兵器について、実はよく知らないんですよね」

 

B「ヤポですらこれだもの。

いいかい、ヒロシマへ行ってみたまえ。大都会だ。住民は何ひとつ悩みなく、のんべんだらりと生活している。

フクシマだってそうだ。9年前にメルトダウンを起こしたが、外国人が近付くことを徹底的に禁止する以外、ヤポは特に何もしていない。

人類は1945年以来、2000回以上の核爆発実験を行ってきたし、世界中の海で原子力潜水艦はトリチウムまみれの冷却水を垂れ流している。いまさら、いったい何を心配しろと言うのかな。

もちろん、公害のひどい土地に住みたいとは誰も思わない。自分の住んでいる地域だけは平穏かつ清らかであってほしい。だから戦争は、率先して外地で起こさせる。これが基本だ。

世界中のピースメーカーが、旧世代の負債を一日も早く無くして身軽になりたいと願っている。そのためには国際戦略と実行力、そして勇気と覚悟が必要なのさ。

たったそれだけの話なんだけれどねえ」

 

はっ。

俺は、つい、緊張しすぎて居眠りをしていた。

スターンにキッと睨まれたが、それ以上は咎められなかった。

ごめんなさい。以後、気をつけます。

 

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