東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

5 / 197
TokyoMassacre2020-02-001.hmos

1106号室のドアを開けた。

廊下側は、ホテルみたいな内装だった。

だから室内を見た瞬間、なんじゃこりゃと思考が飛んだ。

 

中へ入って、ドアを閉める。

ここでまた違和感に気付き、後ろを振り向く。

室内側へ開くドアだ。いま閉まったばかり。

把手が無い。爪を引っ掛ける出っ張りもない。

つまり、閉じ込められた。

 

もう一度振り返り、この異様な部屋を、眺めまわす。

 

広さは6畳間くらい。

壁・天井・床は全体的にクリーム色がかった無機質な白色。

プールの壁面のような防水加工でコーティングされている。堅そう。

窓は無い。

ドアのある角を頂点Aとして、時計回りにABCDとする。辺ABの床の一部に、砂場のようなスペースがある。砂ではなく、スポンジマットのような素材だった。短辺の片側だけ盛り上がっている。

ここを枕にして寝ろ、というベッドのようなもの……以外のイメージが湧かない。

 

辺BCに沿って壁から1mくらいのエリアは、床がタイル状になっていて、水がたまらないよう傾斜付き。

頂点B脇に、公園の水飲み台みたいな装置。水が溜まっている。冷たい。使っただけ、足されるようだ。

タイルの中央付近に近付くと、ヴィーンと音がして、いきなり天井から水を浴びた。ガウンが濡れる。

離れると、このシャワーは止まる。センサー式か。

半歩先の排水溝に流れていく。手首の太さくらいの横穴が開いているが、ここから外への通信が可能だったりは……しないよな。

それどころか、もし外へ出られないとしたら、トイレはここでしろということか。ウンコもこの穴へ流せというのか?

気の滅入る構造だ。

 

辺CDの中央付近、床から30cmほどの壁面に、ダストシューター投入口みたいな仕掛けがあった。

おそるおそる開けてみると、ビスケットの山が入っていた。覗き込んでみる。

これはゴミ箱ではなく、餌を受け取るボックスだ。

……餌だろうこれは。どう見ても。

怖くて、手はつけなかったが。

 

天井には、埋め込み照明。スイッチらしきものは、壁のどこにも見当たらない。

空調と覚しきスリット。微風が送られてきているのがわかる。エアコンも自動制御かな。室温は、20℃くらい。

それから、幅1mくらいのつっぱり棒みたいな横木がぶら下がっている。濡れたワゴンを、とりあえず掛けて乾かす。

 

素っ裸でスポンジベッドへ横たわる。実にシュールな光景だ。

5分ほど経つと、照明が一段階暗くなった。首を振ると、また明るくなる。よくあるセンサー式らしい。

 

牢獄?

そんな言葉が何度も脳裏を駆け巡るのだが、こんな仕打ちをされる心当たりが無い。

エヴァンズ氏と、カモなんとか社は地球を調査しに来た異星人で、自分はサンプルとして選ばれ、たった今宇宙船に乗せられたところなのだ、とか?まさかね。

 

冗談はさておき、いったい何が起きているのだろう。寝転がったまま、しばらく考えた。

そのうち真っ暗闇になるが、面倒だから放置した。

そのまま、つい、眠っていた。

 

ふと目を覚まし、手を振ると、照明がつく。

まばゆい。今は昼なのか夜なのか。

せめてスマホを返してくれ。

 

いつ出してもらえるのだろう。

叫んでみようか。誰か気付いてくれるだろうか。

ガウンは乾いていたので、それを羽織って、ふたたび横になる。

生乾きの臭いがしていたら嫌だな、なども考えたが依然嗅覚がきかない。

 

……また眠っていた。

いくらでも眠れる。じっさい、こんなにゆったり、何も考えずに眠ったのなんて、何年ぶりだろう。

どうせそのうち起こされて、何か仕事をさせられるだろう。それまで寝てればいいじゃないか。そうだそうだ。

何もできないんだから、いくらでも言い訳は立つ。

ブラーヴォー、エヴァンズ氏。そんなことを考え始めたりもしていた。

 

やがて、起こされた。

 

目をしょぼしょぼさせながら、立ち上がる。

医療用防護服で完全武装した宇宙人みたいな男が、ついてこいと言う。

ガウン姿で裸足のまま、ドアから廊下に出た。いよいよ仕事か。いったい何をさせられるのだろう。

 

ボタンや表示板の類いが何もない、あのエレベーターに乗り、別の階へ移動。

廊下がまっすぐに伸びている。両脇にいくつもの部屋。見た目はホテルだ。

ただし各ドアの部屋番号は3桁のも4桁のもあって、並びもバラバラ。

ここが何階なのか、東西南北も含めてさっぱり手懸りがつかめない。

 

ある部屋へ、宇宙人と一緒に入った。

8畳くらい。

4人の防護服が険しい目で俺を見つめる。

中央にベッドがひとつ。手術台?え、俺はこれから改造手術を受けるのか?

寝るように言われた。

てきぱきと準備をされる。胴体を固定され、ペニスと尻にバキュームを装着された。両腕にそれぞれ、チューブ付きの注射針を刺される。口もとにストローで、ヨーグルト風の飲み物。手術というよりは点滴を受ける感じだ、が……?

抵抗するタイミングは得られなかった。質問すら、できる雰囲気ではなかった。

ボス格の男が時々指示を出している。せわしない。

やがて、俺には何の説明もないまま、チューブに赤い血が流れ始める。献血……なのか?

 

これが、いつまでも終わらない。

 

献血って普通10分程度だよな。

400ml抜いたら回復まで3ヶ月かかるって聞いたことあるんだけど。

それをじゃんじゃん抜かれまくってるみたいなんだけど。いったいどんだけ搾り取るつもりなの。

右が採血で、左が点滴のように見える。もしかして、ピストン輸送で押し出してますか?

体がだるい。小便を我慢する必要はないと思って下半身の力は完全に抜いたが、指先にさえ力が入らない。

頭がずきずき痛み始めた。

意識が朦朧としてきて、そのうち昏睡した。

 

何日経ったかわからないくらい、ずっとその状態でいた。

いつ目覚めても防護服がわらわらと仕事していた。

ひどい悪夢を見ているものだ。いつになったら覚めるんだろう。こんな幻覚。

やがて俺はすっかり年老いた。このまま青白い水底で、かぷかぷ、ぶくぶく、ふるえながら、あえぎながら、やがて死ぬのか。

ただしあわせになりたいだけの人生だったのに。残念だ。ざんねんだよ。

 

 

俺は、あの牢獄で目覚める。

ひとりきりだった。

ガウンを着てスポンジベッドの上で寝ていた。

体を起こすと照明がついた。

夢……だった、のか?

 

右手に、見覚えの無い腕時計をつけていた。スマートウォッチだ。

表示は、17:53。その上に、02.02.20 Sun。

時刻と日付。に、見えるけど……

ほどなく中央の数字が、17:54に変わった。やはり時刻らしい。とすると。

ここに示されている日付は、令和2年の2月20日……だろうか?

 

もうひとつ気付いたこと。

両腕のひじ付近に注射跡があり、どちらも周囲がどす黒く青ざめていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。