新聞での、アメリカ内戦勃発の扱いは小さかった。
それよりも都知事がまた、やらかした。
福岡県への医療従事者派遣を呼びかける政府に対し「そんな余裕は無い」と拒絶。
そればかりか「コロナの脅威は去ってなどいない」とわめき散らし、やっと解除された緊急事態宣言を再開させようとしている。
ていうか、した。
「国があまりにもやる気無しだから」と、東京アラートなる独自の施策をその夜のうちに発表。東京都は本日より、不要不急の外出をゆるされないゴーストタウンへと逆戻りだ。
これには全国の道府県も反発。旅行会社や興行主は再予約の再々キャンセル対応を余儀なくされ大パニック。ババアのエゴだと敵意剥き出しに語る市長まで現れた。
ていうか新聞も、この話題ばかりに紙面を費やすなよ。
うんざりしてくるじゃないか。
エヴァンズは、俺の買ってきた新聞を見もしないで、都知事の方が正しいよと言う。
「ヤポの報道がダメなのは、全社横並びでブリーダー様の前にひざまづいているからだよ。
試験で満点をとることだけに生涯を捧げた秀才たちを登用し、それぞれの房を支配させれば、低コストで理想的な収容所がつくられる。
報道各社は忠実に都知事を叩いているんだろう?
ロボット犬にはそれ以外の挙動が求められないから、オツトメゴクロウサマで構わないんだが、covid-19は全然収束してないからね。
ここで気を引き締めなおした芦屋ユリコは、知事として都民の安全を最優先に考え行動しているだけさ。
僕からのコメントは以上だ」
不適切な比喩がゴチャゴチャ出てきたけど、要はエヴァンズって天邪鬼だから逆境のヒロインに肩入れしてやってますと。そういうことだな。
新型コロナが収束していないだなんて完全に事実と反するだろう。何言ってやがんだ。
日本は、世界でも類を見ないレベルで速やかに病魔を撃退したんだぜ。
今そこに殴りこみをかけてきているのが北朝鮮だ。その最前線が福岡県で、ここに兵力を集中しなくちゃいけないところなのに。
なんで遠く離れた東京都が、自領の安全ばっか最優先しちょるのですか、という話なわけですよ。
秀才をバカにする前に、おおもとの新聞記事をだな、ちゃんと読むことから始めなさい。その上で適切に批判をするならわかりますけどね。
ああ、なぜこの程度の基本をわからせられないのか。
奴隷の身がうらめしいぜ。
「それよりも、USの話を聞きたいなら今日はつきあってやってもいいぞ。昨日読んでいた本で、君も多少は知識をつけたみたいだからな」
おお。ま、それはありがたいかね。
戦場は今どんな風になっているんですか?
「ドナルドが軍を出動させたことについては共和党内からもブーイングが激しく、現在は撤収されている。
ブラックホークの最新型がデモ隊へ向けて低空で突っ込み、風圧で何十人か弾き飛ばしたのが一番の見どころかな」
あれ?銃撃とかも昨日の映像では流れてませんでした?
「あちこちでやっているし、それは今も続いているが、地上戦は警察隊と州兵だよ。知事の権限で出動する。
大統領が指示を出すUS国軍が出ていくのとは、意味が大きく異なるんだ」
機動隊と自衛隊みたいなものかな。
それにしてもブラックホークか。
あんなのが飛んできたら、こわいよな。
「US市民の大多数はRPGなんて持っていないから、今回の攻撃では一方的にやられた。
しかし、前例ができてしまった。
ニューヨークの中華街ではさっそく地対空兵器の見積もり交渉がはじまっているよ。
想定敵が合衆国政府ということになってしまうと、内需拡大に貢献するわけにはいかなくなるから、どうしても反対勢力からの密輸というルートが開拓されてしまう。これが内戦のパラドックスだ。
ドナルドの、ほんの一夜のあやまちがUSの未来に刻みつけた傷跡は深刻だよ」
なるほど納得。
その傷口から潜りこんでいくカモッラの立場から考えると、今回の米軍出動は商機到来の大チャンスなんじゃありませんか。
「へえ驚いた。たった一日で君がそこまで賢くなれたことは奇跡に近いね。
今後も成長してくれるなら、部屋のグレードアップも検討してあげたくなってしまうかな」
え。そんな特典アリかよ。
トレッドミル付きの1501号室にすっかり慣れてしまってたけれど、もっと上もあるのか。
え、なにか気の利いたこと言えばいいの?
あせるな。うざがられると逆効果だ。
慎重に、エヴァンズの心理を予測するんだ。
「前にも話した気がするんだが、USにおいて白人はマイノリティだ。
とくにホワイト・アングロサクソン・プロテスタントを祖先に持つ上流階級はティラノサウルス並みに絶滅危惧種扱いされている。
現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用するならば、もはや存在することさえ困難であるからだね。
とはいえ、おとなしく退場してくれる人たちでもない。
偉大な御先祖様に会わせる顔がないじゃないかと現世にとどまり、既得権益を守り抜くことに生涯のすべてを捧げる。
そんなマイノリティにとって、2016年のドナルドは救世主だった。ゴジラのように火を噴いて貧困区域を焼き尽くし、人口比率で白人が主勢を占める民主主義国家につくりかえてくれよという期待を背負わせて、彼を大統領にした。
ところがドナルドは、意外と普通の人だった。
支持者たちは失望する。
期待が大きかっただけに憎悪も深まる。
もう、用無しだよ。
今度はドナルドが焦る。白人たちへの御機嫌とりに走る。
これが、うまくいかなかったんだねえ」
疑問に感じるんですけど、民主主義が最も徹底されている国ならば、マジョリティの声のほうが、より強くなるはずでは?
ドナルド大統領は、どうしてマイノリティの声に従っているんですか。
「今日はほんとに冴えてるな。いい着眼点だ。
ヒント1。USでは開拓当初から、純粋人口なら非白人のほうがずっと多かった。
ヒント2。奴隷解放宣言は1862年で、黒人の投票権が憲法で保障されたのは1870年だ」
え?
1870年……?
だったら、150年前には黒人大統領が誕生しててもおかしくなかったことになってしまわないですか。
「これも言った気がする。
ヤポの国内でも投票権は全世帯に保障されているだろう。しかし、ある特定の層をなるべく来させないようにする方法はいくらでもあるんだよ」
はあ。なるほど?
でも、表向きは健全にやってますよ、と?
「そう。むしろ、2008年のバラク大統領当選こそが、白人たちには衝撃だった。
生まれたときから鉄壁だと思いこんでいたシステムが、とうとう破られたんだからね。
かれらは現在も、脆弱点対策へ熱心に取り組んでいるが、これを未来永劫盤石なものとするためには、もっと白人比率を上げておくことが不可欠だ。ドナルドは、それを実現させるために最もふさわしいキャラクターだと認められたわけさ。
まだ半年ちょっとある。
消されたくなければこれ以上失望させるな。
そんな忠告を、何度もされていることだろう」
民主主義ってのも、案外どす黒い世界なんですね。
手っ取り早く比率を変えるだけなら、反対側を減らしちゃえばいい理屈でしょうか。
「時間もないし、それしかないね。
もっと具体的に考えよう。
自国内のある居住区から、住民をすっきり綺麗に消し去りたい。君ならどうする」
武器の使用は避けたいですね。跡がのこる。
疫病なんて最適じゃないでしょうか。
「言っておくが、covid-19の致死率は低いよ」
それでも、自国内で新型つくってばらまいて、発生源とか感染経路とか外部に詮索されるよりは。
今だったら全世界的なパンデミックですし。
発生源も中国からなら、利用するにはベストすぎませんかね。
「では、この波に乗ろう。
その区域を都市封鎖し、医療支援を最低限に抑えこめば、ここでかなりの人口を減らせるよね。
白人たちは、そんな風に計画をめぐらせたようだ」
およ?どこかで聞いたような口ぶりですけど。
「US国内に何世代も暮らしている黒人は、大多数が劣悪な住環境に慣れさせられていて、自虐思想も植えつけられて生きてきた。
白人と黒人だけの対立ならば、1人対1000人でも黒人は白人に飛びかかることすらできないわけさ。
ところが近代になって急増するアラブ系・アジア系、それから見た目白人のヒスパニック系などに、同じ呪文は通用しない。
ドナルドはミスを犯した。かれらを黒人のコミュニティと連帯させてしまったんだ。
現在ブラック・ライヴズ・マターを主導しているのはUSの政財界にコネを持つ移民たちで、これが大多数非白人でマジョリティなんだよね。
USが国外でどれだけ住民を殺してきたかもよく知っていて、逆に国内で大事にエリートとして育てられてきた上流階級の白人ほど非力と無知をこじらせている。
ブラックホークの出撃は、もしかしたらUSの白人支配を終焉に追いこむ決定打だったと、10年後には分析されているかもしれない」