東京都知事選挙は7月の予定。
今月中には公示される。
しかし。
「芦屋ユリコ現都知事に栄光の勇退などゆるしてはならない。一日も早く、いな一刻でも早く、彼女のヒステリックな暴政にとどめを刺し権力を剥奪しなければ、東京都のみならず日本が破滅してしまう。
度重なる休業要請と外出制限で都民の経済活動は崖っぷちの極みにあり、今この瞬間にも禁治産者はては自殺者を続々と生み出している。
芦屋都知事よ、あなたが職を辞せば責任をとったことになるなどと思うな。
権力をふりかざして1400万都民を路頭に迷わせ死地へと突き落とした罪の重さは極刑でも足りはしない。
ただちに悔い改め、後進に座を明け渡せ。
その決意をうながすため、私たちはここに起ち上がる」
ユリコ・リコールの会という団体が結成された。
愛称はリコリコ。
都内いたるところの街路でスクラムを組み、署名を募っている。
統一ユニフォームや幟・横断幕などいつから準備していたんだろうと思う派手やかさで、猛烈なインパクトだ。駐車場に入るとすかさず駆け寄ってくる。
エヴァンズは取り合わないが、俺は断りきれないので適当な偽名を書いて渡す。
コンビニへ行って帰る間にも、何度となく捕まる。
この調子でやってたら署名は1400万人分を超えてしまうのではないか。しらんけど。
バラエティやCMでおなじみだったと記憶する錚々たる顔ぶれがリコリコの発起人に名を連ねており、大問題なのだなあという意識を高められる。
2日目、3日目と新聞での扱いもどんどん大きくなっていき、大阪府知事や名古屋市長までもがコメントを寄せている。
芦屋都知事に民主主義のなんたるかを説く、辛辣な批判だ。
都知事も堂々と返してやればいいのだが、そんな暇はないと記者を撥ねつけ、余計な怨みを買っているのが痛々しい。
たしかに政治家の器ではないかもしれないな、この人。
岸首相は、福岡県での感染が収束に向かっていることを了解し、安全宣言を出した。
財務大臣と金融特命大臣を兼ねる筑豊副総理は福岡県出身なので特別にインタビューを受けている。
「やっぱり日本という国は偉ェ、こんな民度の高い王朝は世界でただ一つだ」といういつもの炭坑節が炸裂だ。
俺も、誇らしい気持になる。
筑豊さんは暴言も多くてマスコミから嫌われているというイメージが昔は強かったらしいけど、最近はそんなことないんじゃないか。
思うに、動画でもインタビューでも、少し長めに語らせてあげれば、そんなにおかしなことは言ってないんだよ。
悪意をもって要約するから、キツいキャラクターが生まれるんだ。
このおじいちゃんは特に、要点をまとめるのが苦手のようだから、少し遠目から眺めててあげるくらいが丁度いいのじゃないかな。
みんながみんな、岸首相みたいなテクニシャンでもないんだからさ。
芦屋ユリコのような、アフリカ仕込みの魔女は特別枠の異端としても。
岸首相は先週、子供たちのためのワクチンを開発する国際医療機関への資金援助も発表した。
既に提供していた1億ドルに、追加で2億ドルという超・大盤振る舞いだ。
世界中から感謝の声が届いている。
こういう支援ができる日本は本統にすばらしい。
そろそろアメリカとは距離をとって、少し遠目から声援を送り合うくらいの関係になるのが丁度よいのではないかなあ。
アメリカという国に対して、俺はこれまで漠然とした憧れのような印象を抱いていたみたいだ。
いや、まあ、大半の日本人が普通にそう考えているものだよと思うのだが。
文明社会のトップランナーで、広大な土地と人口に支えられ、映画と軍事に天井知らずの予算を注ぎこむ超大国。
開拓者精神から生まれた自由と腕力への信頼。それにリーダーシップとグローバリズムが加わった無敵のアメリカニズムが世界を席巻していたのは、20世紀の中葉頃だけだ。
当時アメリカを中心とした西側諸国と、現在のロシアを中心とした東側諸国とが、核兵器を突きつけあって冷たい睨み合い状態にあったという。
スマホとインターネットが発明される以前の時代で、全人類が自分の国のテレビ・ラジオ・新聞からしか情報を得ることができなかった。なんたる不幸。
しかしアメリカにとっては好都合だった。
東側諸国の悪口を高らかに宣伝し続け、西側諸国はこれを信じこみ、強いアメリカに守ってもらわなくてはいけないからと、巨大な連合を形成することに成功した。
この時代の米軍基地が今も日本のあちこちに存在するが、すべて撤退させるには自衛隊が祖国を守りきれるだけの力をつける必要がある。
法整備も含めて、まだまだ時間がかかりそうだ。
それはさておき。
1990年代に東側諸国は次々と倒壊し、ロシアも普通の国になる。
世界中の軍事バランスは崩れ、日本も経済危機に突入して、2020年現在もそこから脱しきれずもがいている。
アメリカはたったひとつの超大国となり、西側諸国のリーダーから、世界を主導するリーダーへと、より大きな責任を課せられる立場となった。
しかしこれは荷の重すぎる役割で、事実アメリカの迷走はここから始まる。
2001年9月。
アルカイダというイスラムのテロ組織がアメリカの民間航空機複数を同時ハイジャックし、すべて米国内のランドマークへ突撃させた。俺が5歳のときだ。
世界中が大騒ぎになり、当時のアメリカ大統領は即座に報復を宣言する。
ありったけの米軍兵力が、アルカイダとつながりを持つ都市へ派遣され、空爆やミサイル攻撃を行った。
しかしテロ組織を潰すことはできなかった。
だいたいテロリストというものは大きな軍事基地など持っておらず、マンパワー頼りで一般社会へ潜伏していることがほとんどだから、標的を見つけて都市にミサイルぶちこんだら、テロリストよりはるかに大勢の民間人が死ぬのだ。
アメリカはこの失敗を、世界中でやらかしてしまった。
俺の情報源は、こないだ読んだドナルド大統領特集雑誌と、アヴァンティやエヴァンズから断片的に聞く最近のニュースが中心なので、2016年以前については理解が充分ではない。
なので受け売りにはなるけれど、ドナルドは過去の大統領たちと比べて国際問題への興味がきわめて薄いということが言えるようだ。
バラク大統領はドローンの積極採用で軍事費削減を大幅に推進したようだけど、それでも税金を国外のテロリスト退治にばかりつぎこむ姿勢にアメリカ国民は鬱憤を溜めこんでいた。
ドナルドは、カネなら国内で回そう、俺はカジノ経営が得意なんだという演説で票を集める。
それは成功し、バラクの置き土産で安上がりにテロリストを抹殺する作戦も継続させながら、大統領4年目を迎えた。
ここにコロナがやってきて、せっかく回復させた国内経済に大打撃を与えている。
疫病についてはドナルドが悪いとも言えないと思うのだが、対応を誤った。
これまでおとなしくしていた国内の有色人種たちが、牙をむいたのだ。
日本ではリコールの署名くらいですんでるけど、アメリカは暴力の国だから、もっとエスカレートするかもしれない。
しかも、反政府軍が国外から武器や戦術を積極的に導入するようになると、内戦が終結したとて国内の産業基盤は再起不能なまでのダメージを被ってしまうのじゃなかろうか。
絶対に、外国製の方が安いだろうからね。
アメリカという国は決して住みやすそうでもないし、ましてや理想郷とも思えないなあ。
俺は最近、そんなふうに認識するようになった。
日本が日本人以外にとって理想郷になれるかと訊かれたら、俺だって言下に否定する。日本で外国人が生活することは、そりゃ大変すぎるだろう。
国民の大多数が日本語しか話せない上、土地は狭いし物価は高い。
それは、ごめん。
しかし日本へ来てみてくれたら、ここがどんなに平和で、落ち着いていて、安らげる国であることかと、理解してもらえるはずなんだよ。
俺たちは争わない。慾は無く、決して瞋らず、いつも静かにわらっている。
東に病気の子供あれば行って看病してやり、西に疲れた母あれば行って荷物を背負ってやる。南に死にそうな人あれば行って怖がらなくてもよいと慰め、北に喧嘩や訴訟があれば、つまらないからやめろと言う。
それが日本人だ。
東洋の片隅で独自の文化を築き、万世一系の天皇陛下を支えて皆が額に汗して働く。
戦うときは戦うし、これが意外に滅法強い。
自分をアピールすることが苦手すぎる弱点も国民性のうちだが、これは謙虚と理解してほしい。
それも含めて、世界の皆様に模範として見てもらえるよう、われら一同、雨にも風にも負けず、努力しているつもりだ。
突然、窓を叩かれた。
子供たちが立っている。
ああ、かっこいいユニフォームだね。
署名かい?
わかった、書くよ。
はい。ごくろうさま。
たいへんだね。転ぶんじゃないよ。
日本人は勤勉だ。子供でも、こうして礼儀正しく誠実に働く。
世界の誰もが、この姿に感動してくれる。
はず、なんだよね。