東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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TokyoMassacre2020-07-009.hmos

今日も、銃声が聞こえた。

 

少年たちが駆けてゆく。

その姿が見えなくなってから、警官が追いかける。

勝負になってないな。

 

報道にそれらしき話題は見当たらない。

ヤバいぞって把握はしてると思うんだが。

もう少し立ち向かえるようになってきたら書くんだろうか。

それはいったい、いつになるやら。

 

俺は奥多摩で銃を習った。

毎日持たされたが、実戦は経験しなかった。

最後の夜だけ、厭なものを見た。正確には見ていない。音だけだが、あの記憶は脳裏にこびりついている。

銃はおそろしくもあり、頼もしくもあり。

なければないで、あればあったで、どうにかせねばと考えなければならない道具だ。

 

去年までの日本は、銃社会ではなかった。少なくとも俺は、そんな世界で生きていた。

銃はゲームの中にしか存在しない架空兵器であり、リアルに持つのは警察くらいで、それでも実際に使われる機会は皆無といってよいくらいだった。俺の知る限りでは。

 

7月22日に国内旅行支援キャンペーンが開始され、東京都発着を除く全国各地で一斉に、家族や若者・老人たちが大移動を始めてる。

都民は隣接県へ出てから旅をスタートさせればよいのだが、割引の旨味が無くなる上に、行く先々で東京者というだけで汚物扱いされるなど理不尽なハンディキャップを背負わされるが故、もはや旅を話題にすること自体をタブーにしているような雰囲気がある。

都内の旅行業者はいくつもの団体を結成し、こんな状況を招いた都政あるいは芦屋ユリコ個人を提訴した。

都知事がマスコミを相手にしない態度は完全に定着してしまい、これでは裁判の風向きだって変わりようがない。

かくなる上は一刻も早く斃れてもらった方が、世のため人のためだろう。

悪あがきは負債を大きくするだけだ。

8月6日を繰り返させるな。そう新聞は吠えまくる。何があった日だっけ?これ。

 

ともかく世間は夏休みに突入した。

銃声が聞こえるようになったのは丁度そのタイミングだ。

近場のときは前後に悲鳴もプラスされる。

1時間くらいすると救急車がやってくることもある。

医療崩壊したと言われて久しいが、外科にはまだ余裕があるらしい。

 

警官の姿を見たのは、今日で2度目。

ひと頃うじゃうじゃ立ってたんだけど、浮浪者が増えていくのと対照的におまわりさんは減っていた。

パトカーでの巡回は、それなりにやってる。

最近は方針が変わったのかもしれない。蒸し暑いしな。

でも、どれほど取り締まれているのだろう。

新聞よりエヴァンズの方が把握してたりして。

戻ったら、訊いてみようか。

 

「質問のつもりなら要点を絞れ。何を知りたいって?」

 

少年たちが逃げるところを今日見たんですが、射手が後方の警官を威嚇する間に他のメンバーが別々の路地へ入りこむなど、コンビネーションが完璧でした。

銃の手さばきもこなれていて、素人とは思えなかった。

コジモの精鋭チームじゃないかなあ。

当たってますか?

 

「可能性はあるだろうね。

銃の種類は?

何ミリ弾かは音で判別つくだろう」

 

そんなスキルは持ってません。

グロックよりは大きいように見えましたが。

 

「印象でいいんだが、少年たちは警官を殺そうと思えば殺せるようだったか?

それとも威嚇で充分だった、もしくは逃げるだけで精一杯だった?」

 

印象でよければ。

殺す気なら殺せたでしょうね。警官は1人だけでしたし。

残弾数も余裕ありそうなのに、逃げました。

 

「だとしたら、少なくともパブロの手下ではないねえ」

 

パブロ。どちら様でしょうか。

 

「君にも流れ弾が飛んでくる可能性があるから教えといてやる。

コジモとは別組織だ。

最近、警官殺しに懸賞金を出し始めた。

そっちのメンバーだったら、とどめを刺すことを優先したはずだ。

そんなグループも走り回ってるから、今まで以上に警官には近づかないようにしろ」

 

はああ?

そんな連中がうろついてるんですか。

いったい何者ですか。

 

「だからその漠然とした質問の仕方をやめろと言ってるんだ。

いま僕が言ったことの中にだって、ヒントはいくつもあっただろう」

 

むぐ。

……パブロは、警官殺しを手下に命じている。

だとしたら警官から逃げるんじゃなく、追いますよね。

交番襲撃とか、すでにやっちゃってますか。

 

「そう。そんな風に、まずは自分の頭の中で推理してみるといい。続けて」

 

交番を襲う……

銃を持ってるなら、いきなり押し入って目の前の警官を撃ち殺すことも可能か。

交番には何人くらい警官がいるものなんだ。

さっきの少年たちは4~5人のグループだった。

警官が2人以上いるならば、もっと大人数で襲撃したくなるところだなあ。

 

「ヒントをあげよう。

警察が記者たちに隠しているから新聞には載りようもない理屈だが、すでに何ヶ所かの小さな交番が夜中に襲撃されていて、警視庁は対策を始めている。

今日のように警官がひとりきりで犯人グループを追いかけていくなんてことは、ガイドライン無視だ。先週までならともかく今はちょっと考えにくい。

警官は頑固そうな老人だった?向こう見ずな若者だった?」

 

そう言われてみると、あの警官は、初老でした。

少年たちの姿が消えてから、おそるおそるやってきて、周辺を見渡してから、帰っていきました。

 

「そこにパブロのチームがいなくてよかったねと言うしかないな。

今頃交番へ戻って鍵をかけ、上司に報告をしているところだろう。

次からは決して一人きりになるなと、きつく叱られていると思うよ」

 

全国の警官がそんな危険にさらされているんですか?

先週から。

 

「パブロの組織はそこまで大きくない。

今のところ都内。せいぜい山梨までだろう」

 

山梨県?

奥多摩の先じゃありませんか。

コジモとはつながりがある?

 

「パブロの本拠地は山梨らしいんだが、僕は担当じゃないからそれ以上知らない。

情報を探るならコジモに動いてもらうのが最適だろうね。実際やっていると思うんだが、結果待ちだ」

 

コジモは、表向きは、産廃処分場でした。

パブロの業種とは?

 

「表向きは、なんてひどいよ。コジモは真っ当な社会貢献企業だ。

パブロの組織は、カルテルと呼ばれている。主力分野は何なんだろうねえ。

そのうち教えてあげられると思うが」

 

はい……カモッラとも、対立などはしてないんですね?

 

「パブロのカルテルとかい?

対立する理由が何かひとつでもあるかな。

むしろ提携してお互いを高め合いたい。

パブロもノンマルトが虐殺された件では激怒しているという噂だから、そっち方面から連帯が進む可能性はあるけれどね」

 

ノンマルトか……

そういえば、報復戦はその後どうなってますか。

しばらく進展を聞いてないんですが。

 

「順調に探っているところだよ。主犯は陸自の幕僚幹部だった。

10人くらいにお仕置きをしてやることになりそうだ。

喜べ。かなり大掛かりなミッションになるから、君にも出番がきっとくる」

 

陸自の、てことは、岸首相は無実ですか。

 

「あのバカは最大級の戦犯だ。とっておきの苦しみを与えて殺すよ。

ということはつまり、最後の方になるということだが」

 

ああ……そうなんですね。覚悟しておきます。

ところで気になっていたことがひとつ。

山田さんて、今はどちらに?

 

「ヤマダさん。はて、誰だ」

 

春に成田で誘拐ごっこをしたとき、俺と一緒に捕まったフリをした、カモリスタの女性です。

彼女のお父さんがカマスへ戦術教官として赴任していて、あの夜お亡くなりになられました。実家へ報告に行かれたところまでは聞いてたんですが、その後、アヴァンティへは見えられてないんですよ。

 

「マリエのことか。よくそこまで知ってるな。

スターンから聞いたのか?

……いや、彼がお客のことを君に話したりはしないか」

 

ええ。そこはスターンの方が厳しいですね。絶対に教えてはくれません。

 

「なるほどね。じゃあ僕から言える範囲で教えよう。

マリエは最愛のパパを殺された。当然、報復戦に参加する。

否。報復戦を指揮する資格とモチベーションを持つ。

彼女は実家から戻ってすぐ、防衛省へ潜入した。

主な仕事は夜にやっているようだから、それでアヴァンティへ行くことができないんだろう。他にも十数名が各方面で情報を蒐集し、これらを照合することでターゲットを特定。

この作業がそろそろ終わりそうだ。

次はアルファになりたい者がシナリオをつくり、提出する。

コンペティションでマリエのプランが採用されれば彼女がアルファになれるんだが……」

 

なれ、なさ、そうな感じですか?

 

「わからない。

すべてのシナリオが開示され審査員全員が精読した上で協議されるのが原則だが、この段階で修正が提案されたり、2つ以上をドッキングさせるストーリーが生まれるケースもあったりするからね。

それよりもマリエだったら今回、シナリオは自分のを通したいが、アルファは務めないだろうと思うんだよね」

 

ん?意味がよくわからないです。

 

「アルファは総指揮官だ。

とくに大規模作戦の場合、中枢で常に全体を見ていなくてはならない。

いわば演出家で、本番中に動き回ったりしちゃいけない、重要な存在なんだよ。

だがマリエなら、ターゲット全員を直接自分の手で殺したいはずだ。断末魔が聞こえなくなるまで、そいつの耳元で怨み節を囁きながらね。

いわば主演を自分ありきで、誰にも譲る気はないぞというわけだ。

この気迫が、すでに、もう、熱すぎててね」

 

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