東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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TokyoMassacre2020-09-003.hmos

朝の4時起き。

予告されていたので、しっかりと目が醒めた。

駐車場へ行く。

エヴァンズと、少年たちがいた。

 

俺とウーゴは車輌点検。エヴァンズ・ヴィンツェンツォ・マッシモはエレベーターへ向かっていく。

アントーニオともう1人は別のプリウスを点検して、戻ってきた。

2人はウーゴと短い会話を数回小声で交わす。アナナスとかパスティッシュとか。イタリア語ぽい。

 

やがて、エヴァンズたちが現れる。

黒マントに包まれた物体を抱えている。

もしかして死体か。

俺たちのプリウスの後部座席に載せて、ヴィンチとマッシモで挟みこむ。

エヴァンズは助手席に。俺が運転。指示されるまま、走り出す。

 

1ヶ月くらい前に、女をふたり誘拐した。あのときと同じ現場へ向かっているようだ。

ビンゴ。

住宅街で車を停める。ヴィンチが左側から降り、黒マントを路肩に転がし、また乗りこむ。

発車。

そのまま、元麻布のアジトへと帰還。

 

4人で、車の洗浄やナンバーの付け替え。

ほどなくもう1台が帰ってきて、アントーニオたちも同様の証拠隠滅作業を開始。

エヴァンズの最終チェックをもってミッション完了。

 

今回は、フォネティックコードを割り振られるほどの仕事でもなかった。それはそれでストレスなんだが。

何が行われていたんだろう。参加しているのに、さっぱりわけがわからない。このモヤモヤは精神衛生上よろしくない。

何台も並ぶプリウスの先に、ハイエースの列。このうちの1台に、全員乗りこむ。

出発。

外はすっかり明るいが、店が開くには早いので、コンビニで朝飯を買いこんだ。エヴァンズだけは、車から出ようともしないが。

河川敷の駐車場でだらだらと休憩。

運転席の大人ふたりは黙りこんだままだ。

このあとまた悪事をはたらくんだろうな。何をやらされるかわかったもんじゃないから、しっかり英気を養っておこう。ぐう。

 

「よし!帰ろうぜ。ジョバンニ、運転を替われ。君は後ろだ」

 

戸惑いながら、席移動。

実はカフェの早朝営業開始を待っていたのだとわかる。

ドライブスルーで全員分のコーヒーを注文し、車は奥多摩へ向かい始めた。

ん?

帰るというのは、元麻布ではなく、コジモへか。

 

「おつかれさまでした、ジョバンニ。

あなたの運転はとても滑らかで、安心ができる。どこで学んだんですか?」

 

アントーニオに社交儀礼とはいえそんなことを言われて、悪い気はしない。

東北人は、あせらないんだよ。それに今でも都会はおっかない。だから安全第一を常に心がける。

そんな風に答えておいた。

 

「銃を握るときも、その心掛けですか。

相手を決して、あなどらない。あせらず確実に仕留める。

コジモには、こんな先生いないですよね」

 

新顔が目を輝かせる。

コジモの先生といったらビアジオしか知らないけど、そーなの?ガンガン攻める人ばっかなの?

俺だったら一目散に逃げるね。

そんな風に言ったら感心された。おまえら、ちょっとおかしいぞ。

ちなみに新米の名はニーノ。齢はマッシモと同じくらい。6月からアントーニオのチームに入ったらしい。

 

「あんまり喋りたがらないのも、東北人気質ですか?

貫禄あるなあ。ウーゴが、アヴァンティで気付かなかったって言ってますよ。まるでカメレオンのようだったって。

ね?」

 

変な噂をたてないでおくれよ、ウーゴ。

貫禄なら君たちの方がマジモンだよ。

いま急にこれだけ話しかけられて、俺は吐きそうになってるよ。

 

「ねえ、またコジモへ泊まりにきてくださいよ。ガチで勝負しましょう。

ジョバンニと戦ってみたいっていう奴、いっぱいいるんですよ」

 

ウーゴが無邪気に囃したてる。

ハハ、と一瞬だけ笑って我に返る。

あの、それってさ、もちろん、実弾でだよな?

 

「ええ。ダミーカートじゃ盛り上がらないでしょう?

あ、それともラブリオーラみたいにリタイアさせたら可哀想だって気遣いですか?

ジョバンニは優しいなあ。

心配いりませんよ、覚悟も無い奴はエントリーしやしません」

 

そうか。

俺は、絶対にエントリーなんてしないからな。挑発にも乗らないからな。

覚えておいてくれ。無益な殺生はやめよう。

 

「そうだよ。もっともだ。

身内の戦力減らしちゃだめだろ。

競うなら、ポリの首数で優劣つけろ」

 

最後列でタバコをふかしているヴィンツェンツォが、ハスキーヴォイスでつぶやく。

こいつ一番苦手だなあ。ガチでヤバいよ。

今朝も、黒マントにくるまれた死体を投げ捨てるのに、一切躊躇を見せなかった。

いざとなったら女でも殴れる、その性格を買われて抜擢されたなんてミッションもあったなあ。

こいつをしっかり抑制できているアントーニオがチームリーダーを務めているわけだが、トップに必要なスキルとはまさにこの支配力だということになるのだろうか。

ヴィンチは参謀向きではなかろうし、小チームでも部下に指示を出す柄ではないよなあ。単騎が似合う。でも決定的な大駒に違いないので、その戦闘力を遺憾無く発揮できる環境をつくってやる。あとは自尊心を満たしてやるとか、向いてない仕事は免除してやるといいのかな。他からの不満も出ないようにバランスをとって組織を導いてゆけるのがリーダーなのかなあ。

生半可にゃできないぞ。

 

「おれはアヴァンティで働きたいな。

スターンの下で修行して、酒の世界をもっともっと極めたい。カムパネルラやトキオの代わりはできないけど、ジョバンニとなら入れ替わってもいい気がします。どうですか?」

 

ヴィンチの隣でラリってるみたいな目付きを漂わせていたマッシモが、妙なことをつぶやいた。なんだこいつ。

アントーニオが注釈を加える。

 

「誤解なきよう。

ジョバンニは、カムパネルラやトキオほどはアヴァンティでなにかを成し遂げようという意思を持っていないようだ。と私たちの見解は一致しているんです。

だからジョバンニさえよければ、マッシモとのトレードは全員を満足させる結果をもたらす可能性があります。

いかがですか?」

 

おいおい。カムパネルラたちと、そんな話をしていたのかよ。ひでえな。

……ところで、実は俺、トキオとは顔を合わせたことないんだけどさ。

彼はそんなに、がんばり屋なの?

どんな風に仕事してるの?

 

「トキオは積極的にお客と語らいますね。

半島や大陸で働いていたので通訳はもちろんのこと、アジア各地の文化や歴史を解説できるのがありがたい。

年齢はジョバンニと同じくらいじゃないかな。いいお兄さんですよ」

 

ふうん。さりげなく嫉妬。

俺とずいぶん違うスタイルだな。

じゃあ俺のいる日とトキオのいる日とで、店の雰囲気ってずいぶん変わるんじゃないかい?

 

「そうみたいですね。

私たちも、トキオのいる日しか行ったことないですけど、御婦人方がトキオのサービスを受けたがって、やかましい。

静かに酒をたしなみたい紳士たちにとっては、今日はジョバンニが担当だよと表示されている日のほうが、絶対にくつろげると思います」

 

……は?

急に胸が苦しくなった。ジャックナイフで心臓をえぐりぬかれたような気分だ。

要は、トキオは、女にモテると?

トキオめあてに、女が通うと?

ガボさんは、そんな雰囲気が嫌いなので、朴訥な俺をリクエストしてると。

痛烈に自尊心を傷つけられたぜ。

しかし、まあ、なんだ。

俺にも明確な存在意義があるっちゅうこったな。

これからも地味に生きてやる。誇りをもって、耐えてやる。

 

「で、どうですか?

アヴァンティを辞めてコジモに移ってこられるならエヴァンズが調整してくれるし、私たちも便宜を図ります。もっとも最低6ヶ月は園児に混じって下積みに専念してもらうことになりますが」

 

あ、ごめん。俺なりに、アヴァンティで成し遂げたいことは、それなりに実はあるんだよ。ありがたい話だが、お断りさせていただきます。

 

だんだん打ち解けてきたので、アントーニオたちが最近都心でどんな仕事をしているのかを、話せる範囲で具体的に教えてもらう。

コジモでは出張扱いになるチーム単位をパランツァと呼ぶのだが、アントーニオのパランツァはこれまでにもしばしば都心へ出てきていて、麻薬販売の護衛やら指導監督、トラブルの調査に後始末と、種々の雑務をこなしていた。

提携しているカモッラの施設や備品を使ったり貸借したりも鷹揚にやっていて、宿泊はホテルを利用するのが基本だが、元麻布のアジト内にあるゲストルームにもよく泊まる。

俺が住んでいる奴隷部屋を説明すると、びっくりされた。

エヴァンズまで笑い始めた。

「今朝黒マントの物体を取りにいった、あんな部屋ですよね」とマッシモが言う。

まさに、そうだ。

 

「信じられない。あんなところで寝起きしていたら人間じゃなくなっちゃう」

 

ああそうさ。悪かったな。

俺は半年以上そんな部屋でしか寝てねえんだよ。

コジモとカマスで過ごした合計3週間程度以外はな。

 

奥多摩到着。

少年たちに別れを告げ、エヴァンズが打ち合わせをしてくる20分程度を、なつかしい食堂でうどん食いながら過ごす。ビアジオは今日も仕事に出ていて、会えなかった。

 

エヴァンズが戻ってくる。

「これから2時間ほど運転してもらうが大丈夫だよな?」と訊かれる。

はい大丈夫ですが。その言い方だとアジトへ戻るのではなさそうだし、成田へ行くには3時間以上かかりますかね。さてどこだろう。

指示されるままに発進する。

西へ向かう。

山梨県へ入るつもりか。

なるほど、目的地はパブロさんのカルテルですね。

 

「歓談は楽しかったかい。

君は意外とコジモでは有名人なんだよ。アントーニオも、かなり気を遣ってくれていただろう。

何のつもりでかれらの誘いを断ったのかは知らないが、僕がゴステロに支払った2万USドルに見合う結果はまだ出してもらってないからね。それは肝に銘じておけ」

 

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