東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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TokyoMassacre2020-09-007.hmos

靖国付近の駐車場が満杯だった。

秋ノ宮が総裁選を制して組閣準備中なので、右翼団体が願掛けでもやっているのだろうか。

 

少し離れたパーキングに駐める。

移動時間含め2時間くらいかかると思う、と言い置きしてエヴァンズは歩いていった。

いつもの朝鮮総連ですかね、ご安全に。

 

都内でめっきり見かけなくなった、歩く警官の姿が靖国周辺ではまだ見られる。

かれらにとって都内一安全な警邏場所はここなんじゃないか。常に大勢で群れていられるから。競争率も高いことと思う。

しかし襲撃する側だって、こんな高得点エリアをむざむざ聖域化しておきゃしない。いくつもの強豪パーティーが一番乗りを狙って準備中のはずだ。ある日突然、フル装備で襲いかかってくることだろう。

 

すぐ先に古書店を発見。行ってみる。

アジア関連のコーナーへ。まず背表紙を眺め回す。

すぐわかる傾向として、嫌韓と嫌中が大多数。そのなかで目立とうと競い合うからフォントも色使いも過激でどぎつい。

軍事に興味を持ちはじめた男の子は、多くが最初期ここに群れる。ドキドキしながら手当たり次第にトライ&エラー。才能のある奴ほど、のちのち自身を呪わずにおれなくなる文章や動画をネットの海に投げ散らかす。

どこかで壁を感じ、戻ってきても、嫌韓・嫌中はやはり少年たちには優しいホームグラウンドだ。まだまだ弱っちいけれどもあなたはじゅうぶん立派なのよとおだてすかし慰めてくれる。

安住しつづけてもいい。本物のニートになれる。なりたくなけりゃ、もがけ。這い上がれ。そこまでがセットで青春だ。そうしてこそ強くなれる。こんな試練も、嫌韓・嫌中は教えてくれる。

まさに、反面教師の鑑。

だからいつまでも安定して嫌嫌してくれてりゃいいんじゃないの、と思う。

 

台湾を扱った本は少ない。

台湾は軍隊を持ち、核施設だってつくってるんだが、そこに触れてあるものは皆無だった。

観光と美食、そして若返り産業の楽園というのが日本でイメージできる台湾のすべて。

偏りすぎだよなあ。

お見合いする前に知らされるプロフィールがこれだけで、最初から結婚前提だったらと想像してみよう。うまくいきっこない。こんな人だとは思わなかった、とマイナス点ばかり追加されていく新婚生活。破局以外の何が期待できよう。

周囲はゲラゲラ。そして弁護士と管財人がいつでも仲介できるよう爪を研いで待機しているわけだろう。

そんなシャブられるだけの人生なんてまっぴらだ。

だから強くなりたいのだが、さてどの本を買えばいいやら。

 

今の俺になら読み通せそうな一冊、という基準で朝鮮史を選んだ。

会計して、駐車場へ戻る途中だった。

背後から声をかけられる。おじいさんが立っていた。

身なりは綺麗だ。背筋も伸びているし、一流企業の管理職でもしていた人物なのだろう。マスクをしていないことに警戒心が灯ったのだが、路上はまだ暑いからな。勘弁しておいてやるか。

 

「すまないが、スマホの操作を教えてもらえないだろうか。

やっとここまで進めたんだが、このあとどうすればいいんだろう」

 

画面を見ると、アプリをダウンロードしていたところだった。規約の同意を求められているのだが、小さな文字がぎっしりで、一番下までスクロールしないとスイッチが現れない。

フム、と思ったところですぐ目の前が最大手キャリアの代理店であることに気付いた。

この店で尋ねればいいのでは?

冷房だって効いているでしょうに。

 

「順番待ちで、予約は来週末まで空いてないと言われた。高い機種を買わされてその使い方をほんの二、三教えてもらいたいだけなのにこれだ。まったくサービスというものをわかっていない。商売というものは……」

 

呪詛と説教がいくらでも噴き出しそうな臭気を感じたので、聞かなかった。

さっさとアプリを使用可能な状態までしてやり、返す。

 

「ありがとう、実にありがとう。お兄さんは頭もよさそうだし、こういうのも得意なんだろうねえ。うらやましい限りだよ。ところでこれ、どんな風に使えばいいのかな。ついでに教えてもらえないだろうか」

 

イラッとする。

道端で呼び止めた相手をちょっと褒めれば無料サービスをいくらでも提供してもらえるものだと勘違いしてないかコイツ。

そのアプリは電子マネーを使うためのものなので、コンビニで入金できるからそこで店員に尋ねてくれと説明して立ち去りかけた。

 

「店員は苦手なんだよ。愛想悪いし、日本人でも目上の先輩に対して敬意を払わないしね。なあお願いだ。ここは暑いから、近くでコーヒーの一杯もごちそうするよ。どうか助けると思って、もうちょっとだけお付き合いしてくれ。このとおりだ、たのむから」

 

俺のイライラが限界に達した。

このジジイは、俺が素人だから無料で働くと思ってやがる。

店員は仕事するためにそこにいるんだぞ。客としてわきまえていれば最も適切なサービスを提供してくれる立場なんだ。

おまえは客として不良だから相手にされないんだ。

それをまず理解しろ。

 

目上なのに敬意を払ってもらえないとも抜かしたか。

どっちが目上だ。スキルを持ってる俺の方が、持ってないおまえより格上に決まっているだろう。

おまえは俺に何をした。物乞いなら物乞いらしい口のきき方をしやがれ。

コーヒーをおごるから、だと?

この先まだつきあわせるつもりか。おまえに時間がありあまっているのは察した。だが俺のアビリティを踏み倒すコストを勝手に決めてんじゃねえ。

おまえにつきまとわれたこの数分で俺が蒙ったストレスを換金するなら10万円だ。いますぐ払え。

エヴァンズには報告できない収支だから、その辺でくたばってるホンモノの物乞いにでもめぐんでやるからよ。

ああもう、ブチギレだぜ。

 

そのときはうまく言語化できず、俺はジジイに殺気立った眼を向けて無言で立ち尽くしていたように思う。

ジジイは更にわめいていたが、聞いちゃいなかった。そしたら突然、ジジイが倒れた。

え?

 

硬直していた俺の前で10歳くらいの小僧がジジイの尻ポケットから財布を抜き取り、転がってたスマホも奪ってあっという間に駆け去り、脇の路地へと消えていく。

ヒュウ。すばやいなあ。

いまどきのガキは、こんなスキルを磨いているのか。

ジジイはもっとわめき散らしながら俺をにらみつけ、手を差し出している。つかんで起こしてくれとでも言ってるのか。

いくら払う?

払えないよな、奪われたもんな。じゃあサヨナラ。

 

俺のイライラはおさまっていた。むしろジジイに声かけられる前より清々しい気分だ。

ありがとう小僧。おかげで読書がはかどるよ。

朝鮮半島史。

南北に別れる少し手前から読みはじめることにしよう。

 

500年ほど前に半島全土の覇権を制した王朝が、統治していた。首都は現在のソウル。

大陸中央には北京を首都とする帝国が存在し、ここから正式承認されていることが国を国たらしめる根拠のひとつとされた。

 

19世紀末。この北京政権は西洋列強にむしゃぶりつくされて破綻していたが、日本も脇から殴りこみをかけて1894年に下関条約を結ばせる。

この際に朝鮮王朝は独立国であると明記した。今後は北京の了解なんてとらなくても朝鮮が独自の判断でなんでもしてよいことになった。

何百年も服従を強いてきた帝国の支配から解放してやった恩人として、日本は大量の御用商人を朝鮮へ送りこむ。まずは経済を牛耳るところから始めた。

 

10年後、日ロ戦争が始まる。

ロシアは中国東北部より鉄道網を延伸しながら南下、すでに朝鮮半島まで商圏を拡大していたのだけれど、その末端で日本と大激戦が演じられる。

ロシアは前線まで充分な補給を届けることができず、アメリカの仲介に従って日本と講和を結んだ。

中国東北部のロシア勢力圏は大部分日本人に奪われることとなってしまったが、日本から見るとそこまで行く途中の朝鮮半島が自治政府を構えているのはなにかと都合が悪い。

そこで朝鮮を併合。日本領にして、種々の煩わしさをきれいさっぱり取り払うことにした。

 

1910年8月29日、大韓帝国消滅。

日本人は、自分たちの決めた料金で朝鮮半島のどこにでも行けて、なんでも好きなものを買えるようになった。

大勢の住民が拉致され過酷な環境で働かされたり、前線で弾よけに使われて消えていった。

1945年まで、こんな時代が続く。

8月15日に日本はWW2連合軍を前に白旗を上げるのだが、全朝鮮民族にとってこの日は光復節という最大の記念日だ。

祖国解放と民族自決。

輝かしい未来へ向けて哀しい時代と訣別しよう。

サヨナラ日本。おまえらは私たちに、占領されることがどれほどの屈辱であるかを教えた。感謝してやる。

朝鮮人は今度こそ自分たちの力で財産を守り、決して他国の言いなりにならない強い国家をつくるのだ。この半島にね。

 

しかし新たな敵が上陸した。

戦勝国で、まだまだ余力を漲らせているアメリカだ。

当初は日本兵の残存部隊をいぶり出して掃討する必要などもあって、朝鮮人は進駐軍を拒絶することができなかった。

アメリカは図に乗って、他の連合国へ占領地の分譲をはじめる。

朝鮮半島は米英中ソで4分割された。

これでは植民地政策と変わらない。

 

朝鮮人の、朝鮮人による、朝鮮人のための政府が9月6日にソウルで建国宣言を行った。

しかしアメリカは承認せず、他の国々も議論するまでもなくこれに倣う。

みんな自国内の復興が最優先でそれどころではなかったという事情もあるが、それにしてもアメリカだけがやりたい放題だった。

 

ところで大戦中、祖国を離れて暮らしていた人は大勢いて、終戦とともに続々と帰郷した。キム・イルソンもその一人である。彼はずっとソ連のハバロフスクで抗日戦の指揮を執っていた。

1945年10月。ソ連解放軍を歓迎する平壌市民大会が開催され、パレードに参列して熱狂的な声援を浴びる。

彼は誓った。この身を生涯、祖国再建に捧げようと。この民衆たちの期待に応えてみせようと。

闘争はまだまだ、これからなのだ。

 

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