新政権が誕生して、1週間経った。
今日は週刊誌をまとめ買いしてきた。車内でひとまず全部のページをめくる。
これから気になる記事を読んでゆくつもりだけど、ひとまずの雑感。
マスコミの方向性がバラバラだ。
各誌がめいめいの信条を主張しているというのとはちょっと違う。政府批判なんて怖くてできないという過剰な慎重さはむしろ以前より強まっていて、見出し文を並べても勇ましさが半減しているのは明らか。
都知事批判ができなくなると中韓相手に悪口書き立てるしかないのだろうが、これにも待ったがかかっているのかなあ、という感じがする。
迷走しているのだ。つまるところ。
思えば7年9ヶ月近く続いた第2次岸政権。
しかも突然のリタイア。新首相は性格正反対の、怖ァいおじいさん。
そりゃ迂闊なことも書けまいて。
でも、ま、そのうち生贄みつけて盛大に国民の憂さ晴らしを代弁してくれることでしょう。
では記事を読むか。
おさらいから。
三代目岸信介氏は2006年9月に初めて首相になった。
当時の俺は10歳になったばかりで、なんの印象も持っちゃいない。
2012年、ふたたび首相に選ばれる。
このときカツカレーを食べて拍手される映像が話題になった。
岸氏は潰瘍性大腸炎という難病を患っていて、若い頃からずっとメサラジンやステロイド系の抗炎症薬を限界値まで服用していた。念願の首相になれたが激務と重圧にさらされ、一年で退陣。このときは病気だと打ち明けることができず、何もかもを突然放り出して勝手にサヨナラしちゃう無責任男というレッテルを貼られる。
マスコミは「ノブスケる」という流行語まで捏造して囃し立てた。
本人、どれだけ悔しかったことだろう。
しかしこのときの経験が彼を最強の男に変えるのだ。
岸氏のすぐ後を継いだ首相は、1年もたなかった。
その次が筑豊タロウ首相なのだけど、もっと早くつぶれた。
しかも党の評判まで辱めて史上2度目の政権転覆。2009年から12年まで、達磨党の天下が出来する。紫党は遠吠えとサイドビジネス以外にすることがなくなった。
のちに岸氏が語ったところによると、この雌伏時代もまた彼にとっては最高の教師だった。
人は落ち目のときほど本性があらわれる。声だけはデカく、愚痴ってばかりいる内弁慶は誰か。困ったときに頼れる実力者は。そんな彼を喜ばせる贈り物は何か。
じっくり見定め、準備した。
憎さ百倍のマスコミがトップより下へは見向きもしないことも、背後から観察した。
達磨党もまた権力の旨味を知って図に乗り始め、急速に堕落していった。
与党でいるうちはマスコミがおだてすかし庇ってくれるものだ。だがひとたび蹴躓いたが最後、手のひら返して芽むしり仔撃ち。悪党呼ばわりして抹殺する。
うらむまい。
そんな芸しかできない連中なら、そんな芸だけさせてやりつつ、手懐ければよい。
3人目の首相で力尽き息絶えた達磨党。
2012年の末だった。岸信介は勝負に出る。政権を取り戻し、計画的に追い風も煽り吹かせた。
紫党内の派閥には大臣職をなるべく大勢に与えるからと根回しして、反対勢力を抑えこむことに成功。
マスコミを最大限に利用した。大腸炎完治をアピールするためワイドショーで何杯もカツカレーを食べてみせたのがこの頃だ。かつて自分を嘲笑したアナウンサーやディレクターとは特に仲良くして、今はこっちが上なんだからね、と睨みをきかせ萎縮させる。
刃向かいさえしなければ優先的に情報を知らせてやる、という手札は効果が強すぎて報道各社を一斉に紫党の御用商人へと変えた。世論も素直に靡いたため、国民の幸福度・政府支持率・そして経済指標が爆上がりした。
なんだ臆せず最初からこうすればよかったんだ。
彼は自信をつけた。
次は何をしよう。
オリンピックね。いいんじゃない?
「1964年の東京オリンピック。私は吉祥寺に住んでいて、小学生だった。日の丸の小旗を手に道路の一番前で聖火ランナーが来るのを何時間も待っていた。一瞬で通り過ぎていったよ。わけがわからなかったけれども、ものすごく興奮してその夜は寝つけなかった。
大会が始まって、先生に引率されて陸上競技を見に行った。選手は豆粒みたいだったし、ちっとも面白くなくて、そのときの試合は印象にのこっていない。でも三宅選手が重量挙げで金メダルをとった瞬間は学校の体育館で、テレビで見たよ。今でもあの技のモノマネならできる。当時の男子はみんなやってたねえ。
世界中の大きな人間と競いあって日本人が勝ったという誇らしい気分は、あの世代の国民全員が共有した、かけがえのない財産なんだ。敗戦から19年。わたしたちの国は一面の焼け野原から再出発して、とうとうオリンピックを開催できるまでの復興をなしとげた。そしていま世界中の人びとが日本に集い、日本人選手がその面前で胸のすくような大活躍をしてみせる。
敗戦と占領期間中のつらさ悔しさを耐え忍んで強い精神力で生き抜いてきた世代にとっては、感動ひとしおだったに違いない。私たちは戦後生まれだからそんな苦労はしていないけれども、日本は弱小国で欧米には頭があがらないものと思いこんでいたんだ。だから日本が世界に対してこんなに存在を誇示しているという事実が新鮮だったし、驚きですらあった。
私は幼いながらも、うれしさと勇ましさで、はちきれんばかりだった。
あんな思いを今の子供たちにも与えてあげたいんですよ。
だからオリンピック、やりましょう。ってね。
国際イベントで勝つには、政府みずからが前に出て真剣に取り組まなきゃダメです。2009年のIOC総会でシカゴが立候補していたんだけど、バラク大統領は投票が終わったあとでノコノコやってきて、リオデジャネイロにとられちゃった。あんなぶざまなマネはできないと、私は次々指示を出しました。
それにね、開催国はメダルをとるのに一番有利なんですから。
渡航費がかからないので、より多くの選手を出せる。気候も時差も普段どおりの調整でいい。なにより声援の量と質が桁違い。日本人がメダルを独占できなきゃおかしいくらいです。
だから間違いなく日本の未来を盛り上げてゆくための決定的な祭典になるし、そうしなければいけない。日の丸掲揚と君が代の斉唱を、大会開催中に何度も何度も何度でも。これは選手一人ひとりが頭と体に叩きこんでおくべき戦陣訓ですよ。
私が陣頭指揮をできなくなったことはまことに残念だし、全国民の皆様にどれほどお詫びしてもしきれないが、秋ノ宮さんを信じて一日も早く療養を終わらせます」
直近のインタビューだ。
首相として、まだまだやり足りなかったこと、いっぱいあるんだろうなあとしんみりする。
仮病なんだから、カモッラの脅威さえなくなれば、きっと3期目もやるよね。すでにその準備も始めていると思う。
更に強くなって復活するんだろうか。それもまた、たのしみである。
さて秋ノ宮ヨシヒデ氏であるが、彼も7年9ヶ月にわたって、ずっと岸政権の内閣官房長官を務めた。
色とりどりの閣僚更新年表の端でずっと一直線につながっているのはこの人と、副総理兼財務大臣ひとすじの筑豊タロウ氏、ふたりだけ。代替のきかない人材であることがわかる。むしろそれ以外はロボットで構わないこともわかる。
岸政権を存続させた中核はこの、黒い三連星だ。
強い絆で結ばれているんだろうなあ。桃園の誓いだって交わしてるか。
秋ノ宮は、9月14日の総裁選で紫党の代表となった。イコール首相である。2日かけて閣僚候補を選定し、16日より内閣を正式にスタートさせた。
突然ですがここでクイズ。
日本の内閣には幾つ大臣があって、閣僚は何人必要でしょう?
俺はうまく答えることができない。
大臣という単語の付いているポストは54。
官房長官を含めないことになってしまうがこれだけは重要な気がするので55とカウント。
これを21人で分担している。
内閣総理大臣の秋ノ宮は兼任をしてないが、残り54を20人が受け持つ。
最大で6つも兼ね役してる人がいる。初入閣者だ。
必要なのか?この6つ。
重要でもなく旨味もなく、専門スキルも不要なポストだと判断するしかないじゃないか。
岸政権では重要なポジションだった官房長官が、秋ノ宮政権ではずいぶん雑な扱いをされているという例も見つかる。直前まで厚生労働大臣だった人が官房長官へ横滑りしたついでに、沖縄基地負担軽減担当大臣と拉致問題担当大臣も引き受けさせられているのだ。
じゃあやっぱり含めないで54大臣を21人で、と計算しても結果は大して変わらない。
ああもう、頭がおかしくなるぜ。
政権発足からまだ10日も経ってない。俺は官邸での会話を盗聴したりできないし、テレビのニュースもネットの動画だって見られない。たまに入手する新聞や週刊誌と、断片的にエヴァンズから聞く偏った情報から推理するしかない。
この内閣はたしかに、地味に見える。
国民に愛されたダンディでスマートなリーダーが病に伏し、側近だったおじいちゃんが代行をつとめることになった。世間に疎くて気難しそうだ。人事に不慣れすぎじゃないのか。やる気あるんだろうか。ただ首相になってみたかっただけなんじゃね?秋田の実家を一度くらい喜ばせておこうかなんつってな。
こんな世間の風評さえ聞こえる気がする。
そうかもしれんねと俺も内心思わなくもない。
しかし秋ノ宮は、頭がいいはずだ。
岸首相は党内外の愚か者を相手にしなかった。一度目の屈辱を猛研究し、リターンマッチで完全勝利を掴んだ。その内閣に最初から最後までいた人だ。
お調子者な2人と違い、寡黙にして冷徹。しかも真相を知っている。自分だって狙われるかもしれないと覚悟の上で、首相を引き受けた。
岸さんは生きている。意見交換だって密にしているはずだ。阿修羅像の向きが替わっただけ、くらいに思うべきかもしれない。
三位一体は崩れてなどいない。
しかもいちばん戦闘力高そうなんだよな。そんな秋ノ宮が組閣した布陣だ。まだスターティングメンバーにすぎない。どんな隠し球を用意しているか、知れたものではないぞ。
俺の身は安全か?
そこなんだよ。
ここは危険な最前線。それを忘れちゃいかんのだ。