東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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TokyoMassacre2020-10-005.hmos

目黒区東山へ来ていた。

コンビニで飯を買う。混んでいた。店員がハキハキしており、手つきも鮮やか。

 

猛烈な違和感。

俺のセンサーが稼働する。この店で万引きはできない。

 

ひいふうみ、制服着た店員は5人いる。全員、男。

これも非常に珍しい。

まるで柔道の団体戦チームひとつ引き抜いてきたような印象だ。

先鋒・次鋒・中堅・副将。大将はこいつかな。いや、オーナーが奥にいるはずだ。

モニターチェックも怠りなしだろう。大したものだといってよいが、なぜ、ここまでできる?

 

すぐ先に自衛隊中央病院がある。

そっちは世田谷区のはずだが。そのせいか。退職した自衛官が経営していて、客も自衛隊員が多いからとか、そんな理由かな。

なんてことを考えながら店の外で周辺を見回していたら、軽トラの運転手と目が合った。

あ、れ?

ビアジオ先生じゃないか。

 

「誰だっけ。本社へ来たことのある人?

ジョバンニ?

うーん、もうひとつヒントくれ」

 

ラブリオーラを倒しました、と答える。それで思い出してもらえた。

途端に緊張がほぐれる。

しばし、立ったまま語らう。

 

「自衛隊は関係ないよ。この店のボスが自前で防衛してるだけさ。警察なんかハナからアテにしちゃいない。

自分の店は自分で守る。

だいたい警官の万引きってのが多すぎるからな。あれだけ安月給でシゴかれてちゃあ、身も心も腐っていくのは当然だが」

 

ビアジオの相棒が店の裏口から出て、車へ戻ってきた。若い男でニキビ面。

ビアジオが、ジュース3本買ってきてくれと小銭を渡す。

俺はささやくように尋ねる。

この店、コジモの拠点なんですか?

 

「本社と言え。俺のことはアニキと呼べ。

拠点になるかな、そのうち。

いま都内は物騒だろう。毎日いくつもの店が襲撃を受けて潰されている。

さて、おまえなら、この店を狙うか?」

 

いえ、むしろ応援したくなりますね。ここでなら、きっちり料金を払って買う気になります。

 

「愚か者が外を出歩かなくなったおかげで、自然淘汰が促進中だ。ダメな奴はどんどん滅び、懸命に生き延びようとする者はその術を学ぶ。

ここのボスは我々と気が合う。

お互い何を提供できるかなと模索しているところでね。

ああごくろうさん。この中から好きなのを取れ」

 

いただきます。

アニキは営業回りもやってるんですか?

こないだアントーニオたちも都心へ来てましたが、ずいぶんお忙しそうで。

 

「めちゃくちゃ忙しいぞ、コンニャロ。

粉モン需要はうなぎのぼりだし、タタキの依頼だってひっきりなしだ。

親が自宅でリモートワークしてるもんだから、子供たちは居場所がない。その面倒だって見てやってるしよ。

まあ休めるときは休んでるし、俺は書き仕事が嫌いだからこうして運転してる方がずっと性に合ってるんだ。そこらへんはうまくやってるからさ」

 

アニキなら、そこは抜かりないでしょう。

ごちそうさまでした。お気をつけて。

 

軽トラは、颯爽と走り去っていった。

なるほど、いつ行ってもビアジオが不在だったことに納得した。

粉モンは麻薬だろ。タタキは殺しかな。ここには、武器弾薬など届けに来てたのかも。

いろいろやってんだろうな。

子供たちの面倒とは、コジモへ連れていって教育し、売人や暗殺チームに仕立て上げていくって流れでいいとして。

自然淘汰とも言っていたか。

俺が初日にラブリオーラと決闘させられたあれって、ルーティーンだったのかな。

とすると、さらってきた子供たちの何割かは源氏名をつけられる前にあの世行きしてる気がする。

それでいいのか。

懸命に生き延びようと考えて術を身につける、そんな子供しかコジモは相手にしないんだろう。

アントーニオ。ヴィンツェンツィオ。ウーゴ。かれらは今日まで生き残ってきた精鋭だ。

ビアジオなんて大先輩だ。

いやはや、おそれいりました。

 

車へ戻り新聞を読む。

このところ、つまらない。理由はなんとなくだが言える。

首相が代わったからだ。

俺の感じた印象に基づく解釈を述べる。

岸・前首相はマスコミを手懐ける達人だった。こう書けと嘘を押しつける大本営発表ではなく、報道記者たちの心を掴んで自分のファンにさせ、各紙が進んで自分たちの国と文化を誇らしく讃えたがるような空気をつくるのがうまい人だった。

おそらく彼自身も新聞をよく読んでいて、いい記事を書けば褒め、間違っていれば指摘してを繰り返すことで世論を理想的な方向へ協調させていく努力を怠らなかったのだと思う。

そんなカリスマが、おかくれになった。

カモッラは居場所をつかんでいるようだが、記者たちがその姿を見ることはない。

8年近く、御主人様に甘えながら公平に餌を分け合ってきた犬たちよ。

君たちはどう生きるか。

 

秋ノ宮首相は、新聞など読まない人じゃなかろうか。

ずっと官房長官、つまりスポークスマンを担当してきた。「私の読み上げたままが書いてあるだけだろう」と本気で思いこんでいそうだ。余計な解釈でも付け足そうものなら「なぜ言われた通りのことすらできないのか!」と露骨な軽蔑を浴びせ、「即刻すげ替えさせろ」と担当部署の長に命令して終わりだ。

俺の偏見かもしれないが、そんな性格に思える。

新聞各社は反論するか?

まだ、ひと月も経っちゃいないからな。笑顔を絶やすことなく耐え忍ぶだろう。

 

だいたいマスコミが牙を剥くのは秋ノ宮が第一線を退いてからだ。

その日まではひたすらネタの貯蓄に専念する。

そりゃそうだよね。現役首相と直接敵対したら犬死に必至だもの。チュートリアルの初日で学ぶ教訓だよ。

ともかくそんな背景を想像すると、各紙の論調がバラバラでパンチも効いていないことの説明がつく。

悪者を名指しできないから表現が回りくどく、文字数が尽きてくると煙に巻いてすぐドロン。話題選びも統一感がなく、ネットから記者が拾ってくるままに任せているようだ。

 

「国内大手通信会社が格安PCR検査の提供を開始」これは広告費もらってるぽいな。

「都内で29歳保育士が35歳女性宅へ侵入し、拉致したとみられる」中途半端に細かいけど、事件性なかったらどうすんだよ。

「政府の外食推進キャンペーンをうまく利用して錬金術しようぜ」なるほどこんな盲点があったんだね、でも周知しちゃったらヤブヘビじゃね?

「パソコンの世界出荷台数が前年比14%超の増加」はあそうですか。だから何だってんだよ。

 

フラストレーションしか湧いてこないので投げ出した。

ちなみに政府は夏の旅行支援キャンペーンが大成功だったので次々と同様の施策を打ち出しており、外食産業や地方都市商店街を対象としたクーポンを発行してコヴィッドによる国内経済のダメージを払拭しようと奮闘している。

コンサートやスポーツ観戦などのイベント事業支援も早期に始めたいようだが、さすがに興行主の方が慎重なのと、音楽祭にしろ試合にしろ企画から開催までには膨大な手間と経費、なによりも人材の確保および練習期間という難題が横たわるため、すぐにはできない。

あれ?

7年かけて東京オリンピックを準備してきたんだからそんなこと骨身に沁みてわかってますよね。

支援すべきは観客側をじゃなく、次のイベントを開催するまでの準備金をコヴィッドのせいで使い果たしてる創り手側にじゃなきゃおかしくね?と素人の俺でも気付くんだが。

新聞記者すらどうやらそれをわかってなくて、新型コロナへの勝利宣言キャンペーンの全部をたったひとつのパターンで乱発したがってるように見える。そうとしか思えない。

だから気持ちが悪くなってとても読めたものじゃないというわけなんだが。

ああ、むかつく。

 

午後から小雨が降り始めて、俺はますます塞ぎこむ。

家出少年少女たちはもっと侘びしい気分だろうけど。そんな子は、コジモに拾ってもらえ。あそこには大きな風呂と、食い放題の食堂と、安心できるねぐらがあるぞ。銃だって撃てる。そして、みんなで生き延びろ。

ん?

コジモって、男しか入れなかったよな。

クスリ売人には女もいたし、アヴァンティでも7月以降急に女性客が増えた。トキオが俺の居場所を奪ったのもそのせいだから、切実すぎる現実だ。

山梨カルテルだけじゃないとしたら、コジモの女子校版みたいな施設があるということか。

あるだろうな。

まあ……変な誤解を招きたくないからエヴァンズに尋ねてみたりはしないけど。

 

戻ってきたエヴァンズに、不機嫌そうだなと見抜かれたので、新聞を読んだせいだと答えた。

愚痴っぽくならないように、思うところをぶちまける。かくかくしかじかな理由から俺は肚を立てているのであります。

 

「成長してるってことじゃないか。半年ほど前の君はそんなヤポメディアを必死で擁護する側だったんだぜ。

ところで勝利宣言キャンペーンの連発というのが実に傑作でおかしいね。covid-19は終わってないどころか、これからますます猛威を奮うよ」

 

えっ?ま、また何かやらかすんですか。

 

「失敬だな。僕たちは自分の仕事で手一杯だ。

これから寒くなるじゃないか、北半球では。冬といったら食中毒は減るかわりに風邪やインフルエンザが活躍する季節だろう?

ほとんどの動物が体力も免疫力も低下させていくからさ。

ここに、また新型が襲いかかる」

 

げっ。

新型コロナウイルスの、更に新型ですか!

 

「厳密にはマイナーチェンジ・ヴァージョンだが。

SARS2ウイルスはこの10ヶ月で様々な環境に曝されながら、夥しい世代交代を繰り返した。

懸命に生き延びようとするかれらは、肉体改造のトライ&エラーを重ねてゆく。失敗して朽ち果てる同志も多いが、ごく稀に従来無かった超能力を手に入れる者だって現れる。

そんな新世代が一定数の勢力を築けば旧世代も勢いを取り戻して、民族全体の生存域を拡充させる効果をもたらすんだ。

2003年のSARSはその段階へはたどりつけなかったんだが、2020年のSARS2はどうやら到達した。

いまヨーロッパで革命を起こしているよ」

 

あれ?ウイルスの話でしたよね。

途中から何か混ざっていたような。

 

「具体例を出そうか。

10時間ほど前にね、FR政府は非常事態宣言を再布告したんだ」

 

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